短くてすいません。
19:30を過ぎた。俺が書類をする横で、北上が立ったまま片手を机の上に置いてすごい形相で睨んで来ていた。
「ねぇ、仕事終わる時間に私呼び出したの提督だよね?」
「はい、その通りです……」
「なんでまだ仕事終わってないの?」
「いえ、別に遊んでたわけじゃ」
「わかってるよ。別にTwitter巡回するのは遊んでるとは言わないもんね?」
「はい、仰る通りです……」
嘘をついた。本当は北上と話す内容ずっと考えていたなんて言えなかった。
俺の返答に、北上は不愉快そうな片眉を上げた。
「仰る通りじゃないから。あと五分以内に終わらせないと私帰るから」
「せめて十分にして下さい!」
「何?三分?」
「五分でやります!」
素直に返事をすると、北上は「まったく……」と息をついて腕を組んだ。
「……楽しみにしてた私がバカみたいじゃん………」
「え?楽しみにしてたの?」
思わず振り返って聞き返すと、真っ赤になった顔を隠すように、俺の頭を掴んで机の上に叩き付けた。
「い、いいから仕事しろ!」
「手を離してくれませんか」
北上は不愉快そうに歩いて、ソファーの上に寝転がった。
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「終わったぁー!」
「ん、お疲れ〜」
背もたれに寄り掛かった。時計を見ると1分過ぎていたが、北上は特に攻めてくる様子はない。
「で、話って何?」
「……………」
忘れてた……。そうだよ。話ってなんだよ。何の話だよ。
「あー……えっ……とぉ………」
目を逸らして、必死に何を話すか考えた。
………なんだ、女子ってどんな話が好きなんだ?アクセサリー?服?いや、違うな……。恋バナか!そうだ!女子が好きなのは恋バナだ!
「き、北上!」
「な、何……?」
「好きな人、いない?」
「……………へっ?」
何を聞いてんだ俺は。北上困ってんじゃん。
ていうか、うんって答えたらどうするつもりだよ。死にたいのか俺は。
「ご、ごめん!何でもない!今のナシ!」
「へ?あ、そ、そう……」
「そうじゃなくて、えっと……」
電ってよく「はわわわ!」って言うけど、その気持ちがよく分かるわ。マジで今、はわわわ!
一人でテンパってると、北上が俺の横まで来て、肩に手を置いた。
「なに、どしたの?落ち着いて?」
「い、いや……えっと……」
「はいはい、深呼吸してー」
「すぅーはぁー……」
「私に合わせて呼吸してー。ひっひっふー」
「ひっひっふ……や、違うだろ!てかそれ女がやるとブラックジョークにも程があるから!」
「よし、いつもの調子に戻ったね。何?」
戻ってねえよ。さっきまでとは確かに違うけども。普段の俺って一体どんな風に見えてるの?
ああもうっ、結局何話したら良いかわからんし。こんなことならやっぱ呼び出さなければ良かった。
とりあえず何か、何か話さないと……北上が退屈しないような、話を………!
「き、北上!」
「それ3回目」
慣れた様子で「はいはいなんですか?」みたいな感じで言う北上の肩を掴んだ。
「俺と、付き合って下さい」
「………………はっ?」
余裕の態度から一転、北上は超動揺した。
「はっ……は、はぁぁぁ⁉︎い、いきなりっ……にゃっ何を………⁉︎」
「あ、いやっ……えっと……!」
や、ヤバイ!ドン引きされる!気がする⁉︎
「や、あのっ……あれだ!実は、あれ……も、モンハン買おうと思って!だけど一人でやってもつまんないから!ていうか、良い大人が一人でゲーム買うの痛い(気がする)から!そのっ……色々と付き合って下さい!」
「………………」
北上はしばらくぽかんとした後、烈火の如くブチギレたラージャンのように髪を逆立て……たかと思ったら、急に照れたようにそっぽを向いて、頬をポリポリと掻き、今度は「ん?待てよ?」みたいに何か思いついた顔になったかと思ったら、いつもの飄々とした笑みを浮かべた後、ニヤリとイタズラっぽく微笑んで言った。
「何、遠回しにデートのお誘い?」
「はっ?」
…………確かに。二人で買い物の約束じゃん。しかも、デートで買いに行くものがゲームって………。
「デートに誘っておいて買いに行くのがゲームってどうなの?」
「お、俺が今思ったことを反復するな!」
「ま、付き合ってあげるよー。その代わり、私の分のゲームも買ってよね」
「わーってるよ」
「じゃ、来週の日曜ね」
「りょかい」
「じゃ、また」
「んっ。おやすみ」
北上は執務室から出て行った。
「………………えっ、日曜?」
日曜って確か、第一艦隊の出撃予定があったような……。ま、いっか。