俺は北上にからかわれたい。   作:LinoKa

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第4話 逆転の発想

 

自室。俺はベッドの上で寝転がり、天井を眺めながら、ふと思った。

なんつーか、情けねーな。俺。北上を好きになって約一年が過ぎている。だが、未だに自分から話しかけたことがない。これは昔から変わっていない。

学生の頃とか、モテたくて髪の毛を染めたり、筋トレをしたりとかしてたが、好きな子が出来ても告白する勇気なんかなかった。いや、告白どころか雑談する勇気すらなかった。

好きな子と話す勇気なんかない癖に、それを隠すために見栄を張り、虚勢を張り、表面だけ格好付けて来た。好きな子から話しかけて来てくれるのを待った。

 

「………けど、それじゃダメだ」

 

そういうのはもう辞めたい。何とか勇気を振り絞って、俺から北上に話し掛けられるようになりたい。

なんて話しかけたら良いのか……。そもそも、みんな全国の男子は女子にどうやって話しかけてんだ?

 

「………困った」

 

分からない。でも、そろそろこっちからアタックしていかないと、北上は大井のものになる。それだけは避けたい。好きな子を女の子、それも姉妹に取られるとか死んでも死に切れん。

………よし、とにかく自分から話しかけるんだ。なんでも良い、話しかける内容は明日の俺に任せよう。明日は明日の風が吹くんだ!

 

「サンダーファイヤー!」

 

意味不明な必殺技名(?)と共に、俺は眠った。

 

 

++++

 

 

翌日。俺は仕事をほっぽり出……中断して、北上のいそうな場所に向かった。

昨日、間宮にいたから、今日は多分いないだろう。北上だって女の子だし、体重くらいは気にするだろう。と、なると、演習場か屋根で日向ぼっこか……。

演習場から回ってみるか。そう決めて、廊下を右に曲がると、北上と大井が二人で前を歩いていた。

 

「ッ⁉︎」

 

慌てて壁に隠れた。な、何やってんだ俺……何逃げてんの?

俺は後ろから北上と大井を覗いた。

 

「それでですね、北上さん。私、こんなお洋服が北上さんに似合うと思うんですよ」

「あー、確かにかわいいねこれ。でも、私にはちょっと派手じゃない?」

「そんな事ありません!北上さんは何を着ても似合います!」

「じゃあ別にこれって選ぶ意味なくない?」

「その中でも『特に』の話ですよ」

 

………気になる。どんな服だ?大井は北上が関わらなければ超女子力高い最強の女の子だ。その大井がコーディネートした北上の私服なんて気にならないはずがない。しかし、私服の北上か………。

………って、イカンイカンイカン!話しかけるんだ、俺!何のんきに妄想を始めてんだ、俺!

なんて話しかけるべきか、あまり向こうが引かずに且つ、話が盛り上がる話題……高校の時に散々調べたろうが!勇気がなくて活かせなかったけど!

 

「そういえばさ、大井っち」

「何ですか?」

「この前、出掛けた時にあのカーディガン買ったお店ってなんだっけ?また行きたいなぁ」

「ああ。あそこですね。今度行きます?」

「うん。今度は大井っちの服も見つけないとね」

「き、ききっ、北上さんが選んでくれるんですか⁉︎」

「え?うん」

「行きましょう!さぁ行きましょう!すぐ行きましょう!」

「いや、今日は無理だよ〜。午後から雷撃演習だし」

「そ、そうでしたね……。チッ、提督め………」

「大井っちにはロングのスカートも似合うと思うんだよなぁ」

 

俺がなんて話しかけようか悩んでる間に、二人の話はさらに盛り上がって行く。

な、何か……何か話し掛けないと……。

 

「提督じゃーん!ちぃーっす」

 

後ろからドンッと背中を押された。

 

「っ⁉︎ッ⁉︎」

「あははっ、提督ビビりすぎ〜。鈴谷だよ」

「お、おおっ……脅かすなよ!」

 

ていうか、よりにもやってお前かよ!青葉に次いで、今来ちゃいけない奴ランキング堂々の2位!

 

「何してんの?壁に張り付いて。忍者ごっこ?スパイごっこ?エージェントごっこ?」

「ち、違うから!お前には関係ないから!」

「ナニナニ〜?……って、北上と大井………?ナニ、ストーカー?それ笑えないよ提督……」

「違うから!ただのナルトごっこだから!」

「え?それ忍者ごっこじゃん……。しかも一人で?歳いくつよ提督」

「……………」

 

なんて答えりゃ良かったのか、誰が模範解答を教えて下さい。

 

「ま、暇なら良いよね?鈴谷、今暇でさ〜。ちょーっと暇潰しに付き合ってよ」

「え、いや俺今忙し」

「ストーカーしてたって、憲兵さんに言っちゃおっかなー」

 

こ、このアマ……‼︎大体、俺は北上に話しかけないといけないわけで……!

どうしようか悩んでると、鈴谷の後ろからズビシッと頭にチョップが直撃した。

 

「鈴谷、提督に失礼ですのよ」

「げっ、熊野………」

「申し訳ありません、提督。ほら、鈴谷行きますわよ」

「や、全然」

「ちぇー。提督ー、鈴谷と今度遊んでよー!」

 

熊野に引き摺られる形で、鈴谷は去って行った。

俺はそれを見ながら、ホッと胸をなで下ろして、北上と大井の方を見ると、姿が無かった。

 

「いっ⁉︎」

 

慌てて後を追おうとした直後、ガッと後ろから襟首を掴まれた。大淀さんが眼鏡のレンズを光らせて立っていた。

 

「提督、何遊んでるんですか?」

「げっ……」

「仕事が溜まってるんですから。執務室に戻ってください」

「……………はい」

 

俺は執務室に連行された。

結局、午前中は話しかけられなかった。

 

 

++++

 

 

午後。昼休みに俺は昼飯を食べようと北上を誘おうとしたが、すでに大井と食べていたので、一人で食事を終えた。

さて、ここからだ。北上は演習場にいる。なんとか話し掛けなければならない。

 

「………どうしたもんか」

 

俺しかいない執務室で、椅子の背もたれに寄り掛かって、天井を見上げた。

話しかける内容もそうだが、タイミングだ。ずっと大井がくっついて来ている。絶対に邪険にされるだろうなぁ……。いや、大井が怖くて北上と付き合えるか。そこは意志を強く持て。

 

「よし、じゃあ早速………!」

「何処に行く気ですか?提督」

 

大淀さんが面白いほどタイミングぴったりで入って来た。

 

「午前の仕事の遅れを、今から取り返さないといけないんですよ?」

「や、でもッ……」

「仕事、しましょう?」

「……………」

 

大淀さんが怖くて北上に告白出来るか‼︎

俺は執務室の窓からロープを投げた。

 

「っ⁉︎」

 

大淀が動揺してる間に、ロープを握って降りた。ロープを固定するのを忘れてた。

 

「…………あっ」

 

死んだな、と、一発で分かった。ロープと一緒に下に落ちた。

 

「え、嘘?」

「え?」

 

下から間抜けな声が聞こえた。見ると、北上がいた。

 

「「ぬあああ⁉︎」」

 

俺は北上の真上に落ちた。ドッシーン、と言う漫画みたいな効果音の後に、なんとか意識を取り戻すと、目の前に北上の顔があった。

誰がどう見ても、俺が北上を押し倒してるように見える。

 

「わっ……⁉︎」

「て、提と……‼︎」

 

俺の顔が真っ赤になると、北上も一瞬だけ顔が赤くなった。

が、すぐに、いつものケロッとした笑顔になった。

 

「もー、どーしたの、提督?スーパー北上様が見えて、思わず跳んで来ちゃった?」

「え?あ、いやっ………」

 

チャンスだ。何か、何か話しかけ………!

 

「な、何やってるんですか提督………⁉︎」

 

遠くから声がした。大井がすごい形相でこっちを睨んでいた。と、思ったら猛然と走って来た。

ヤバい、狩られる。でも、北上に何か話しかけないと……‼︎わ、話題……話題……!ええぃ、話題なんか知るか!逆転の発想で行け、俺‼︎

 

「き、北上!」

「何?どしたの?助けてくれってオチ?」

「今日、仕事終わったら話あるから‼︎」

「……………えっ?」

 

予約を取っておいた。これなら問題ないだろう。

北上の返事を聞く前に、俺は大井から逃げ出した。

 

 


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