俺は北上にからかわれたい。   作:LinoKa

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第2話 守るべき事情

 

俺は、朝飯の時間が嫌いだ。というか、飯の時間が嫌いだ。

何故なら、色んな艦娘の話が入ってくるからだ。別に、艦娘の話を聞くのは嫌いではない。むしろ、交流を深めるのは大事だ。だが、当然聞きたくもない話も入ってくるわけで。

今は、第六駆逐のみんなと食べてるのだが、その俺達の右斜め後方、北上と大井の二人が飯を食ってる話が聞こえてくる。

 

「きったかっみさん♪、美味しそうですねー、そのオムライス」

「うん。やっぱ、間宮さんの料理は美味しいよ。……あ、良かったら一口食べる?」

「い、いいい良いんですか⁉︎」

「良いよ。はい、あーん……」

「い、いたっ、いただきます!あー……ん、」

「どう?」

「美味しいです!北上さんが食べさせてくれたから尚更♪」

「ほんと?良かったぁ、あ、大井っちの焼き魚も一口ちょうだいよ」

「は、はい!喜んで!」

「喜んで?」

 

まぁイライラする。大井も北上も人目も気にせずにイチャイチャしやがって。ていうか、北上が、誰かとイチャついてるのがイライラする。

そして、何より自分がそんな小さいことにイラついてるのにイライラする。大井の方は知らないが、北上にその気はないのは見れば分かる。だから、見方によっては、ただ姉妹間の仲がいいだけだ。そんな事を許容出来ない自分にイライラする。

 

「……かん、司令官!」

「! な、なに?どしたかみなり?」

「雷よ!もう、聞いてるの⁉︎」

「あ、ああ。結局、平子は卍解見れなくて最後までリアクション芸人だったよな」

「何の話よ!」

「全然、そんな話ししてないのです!」

 

あんま聞いてなかった。

 

「わ、悪い……」

「もー、司令官ったら。レディーとの話を聞いてないなんて、失礼よ!」

「…………何かあったのかい?」

 

響(ヴェールヌイ)がキョトンと質問してきた。

 

「いや、何もないよ。それより、何の話だっけ?」

「この前の遠征では、この暁が活躍したのよ!」

「暁は途中で電探落としてたじゃない!」

「え?ま、待って?電探落としたの?それ笑えないんだけど」

「大丈夫なのです。雷ちゃんがなんだかんだ言いながら、探すの手伝ってくれたのです」

「し、仕方ないでしょ⁉︎司令官に迷惑かけるわけにはいかないもの!」

「良くやったな、雷」

 

頭を撫でてやると、雷は気持ち良さそうな表情を浮かべた。ああ、ホントにペットっぽくて可愛いわ、駆逐艦は。

すると、隣から響が袖の裾を引っ張った。

 

「司令官、電探を見つけたのは私だよ」

「あ、ああ。響も良くやった」

「んっ……これは中々良いものだ」

「…………」

「電も探してくれたんだろ?おいで」

「じ、じゃあ……」

「ち、ちょっと!暁は⁉︎い、いや、別に撫でて欲しくなんかないけど!」

「電探を失くした張本人が何を抜かしてんだ」

 

暁は俺のことを涙目で睨みつけるが、俺は無視した。こういうとこで甘やかすと、暁自身のためにならない。

雷と響と電を交互に撫でてると、後ろからドンッと背中を押された。

 

「っ⁉︎」

「何デレデレしてんの?ロリコン」

 

北上と大井がゴミを見る目で俺を見下ろしていた。

 

「や、ロリコンじゃないから。え、なんで殴られたの?」

「バーカ」

「死ね」

「おい、大井。お前今なんつった?」

 

北上と大井はそのまま食器を持って何処かに行ってしまった。

俺はその背中をぼんやりと眺めながら、第六のガキ共と食事を続けた。

 

 

++++

 

 

食事を終え、俺は執務室に入った。

さーて、今日こそ定時で寝れるように仕事しないと。そう決めて仕事を再開する。

 

「……………」

 

飽きたー。やっぱ仕事って面倒臭いわ。楽しくないし。

………そういえば、北上は今何してるんだろ。さっき怒ってたからなぁ。

 

「はぁ………」

 

何かしたっけかなぁ。………昨日の冗談がそんなに嫌だったのかなぁ。でも、普段から俺の事からかってくる癖にそれで怒るのはどうなの……。まぁ、女の子なんてみんなワガママなものだからなぁ。

………こんなこと考えてても仕方ないか。仕事しよう。

 

「よーっす、提督ー」

「………北上」

 

え、なんで?さっきまで怒ってたじゃん。あ、もしかして殺しにきた的な?

 

「ど、どした?」

「いやー、お仕事手伝えないかなーって思って」

「や、いいよ。今日はあと書類と午後の分の演習だけだから」

「ふーん?じゃあそこの書類の山は終わった奴なのね?」

「……………」

「手伝ってあげる」

「………悪いな」

「良いって。さっき、理不尽に怒っちゃったし」

「あー、あれなんで怒ったの?」

「……………殴るよ?」

「なんで⁉︎」

「いいから。私、どれやれば良いの?」

「じゃ、この辺で」

 

書類を渡し、仕事を始めた。

まぁ、手伝ってくれるのはありがたいし、俺的に仕事が減って楽になる。だが、基本的にこういう作業は北上は苦手なわけで。

 

「そういえば、提督って彼女とかいたことあるの?」

 

すぐに雑談になった。普通なら、ここは注意して仕事させるのが正解だろう。だが、俺もこの手の作業は嫌いだった。よって、

 

「あるよ。一人だけ」

 

雑談に参加した。

 

「へぇー、意外。その時はウブじゃなかったんだ?」

「今もそんな初心じゃないから」

「いやいや、何言ってんの?」

 

北上はニヤニヤと笑うと俺の腕にしがみついた。

 

「いっ⁉︎」

「こんな風に腕にくっつかれただけで、顔真っ赤にする癖に」

「う、うるせーな!ていうか、女の子がそんな簡単に男にくっついてくるなよ!」

「ほれほれー、スーパー北上様が構ってあげよーう」

「い、いいから仕事しろよ!」

 

話に参加しといて随分と勝手な事を言ったが、北上は割とスッと離れた。だが、仕事をする気は無いようで、ニヤニヤしたまま聞いた。

 

「で、どんな子と付き合ってたの?」

「中二から高一の三年間、外見は清楚系なのに、中身はイケイケリアリアな子だったよ」

「へぇー、それはまた意外だねぇ」

「………三年間も、三年間も付き合ってたのに、高一の夏に彼女が二人目の彼氏作ってて……それで別れた」

「…………」

 

北上は気まずそうに目をそらした。俺も思い出しただけで泣きそうになったので、俯いて誤魔化した。

 

「ま、まぁでも、これからできる彼女は浮気なんてしないと思うよ」

 

お前それどういう意味で言ってんの?惚れられてるの気付いてないとはいえ、よく言えるなこのヤロー。

 

「だといいけどな」

「しないよ、絶対」

 

テキトーに流したことを言うと、やけに確信を持った返事が返って来た。

まぁ、そうだよな。俺の予定(というか願望)では、俺の次の彼女は北上だ。北上が浮気するような奴ではないのは分かりきっている。

………あれ?でもなんで北上がそんな確信してんの?俺が北上好きなことバレてる?バレてないよね?

 

「提督?どうしたの?すごい汗だけど……」

「や、なんでもない……」

 

こいつ……まさか、気付いてるなんて事はないよな?気付いててからかってるなんて事ないよな?

………一応、探りを入れてみるか。

 

「北上さ、もし誰か男に好意を向けられてるのに告られる前に気付いたら、どうする?」

「んー、どうだろ。まぁ、なるべく気付いてないフリをしてあげるんじゃない?」

「……………」

 

よし、多分バレてない。危なかった、バレてたら恥ずかしさのあまり破裂して死んでた。

 

「どしたの?急に」

「………………」

 

北上が質問して来た。うん、無視しよう、答えられるわけがない。

 

「………じゃ、仕事再開するか」

「ちょっとー!今の質問何さ?」

「えっと……次の書類は……遠征か」

「言わないと抱きつくぞー!」

「やめろ!」

 

結局、仕事は夜まで続いたが、破裂は免れた。

 

 


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