俺は、朝飯の時間が嫌いだ。というか、飯の時間が嫌いだ。
何故なら、色んな艦娘の話が入ってくるからだ。別に、艦娘の話を聞くのは嫌いではない。むしろ、交流を深めるのは大事だ。だが、当然聞きたくもない話も入ってくるわけで。
今は、第六駆逐のみんなと食べてるのだが、その俺達の右斜め後方、北上と大井の二人が飯を食ってる話が聞こえてくる。
「きったかっみさん♪、美味しそうですねー、そのオムライス」
「うん。やっぱ、間宮さんの料理は美味しいよ。……あ、良かったら一口食べる?」
「い、いいい良いんですか⁉︎」
「良いよ。はい、あーん……」
「い、いたっ、いただきます!あー……ん、」
「どう?」
「美味しいです!北上さんが食べさせてくれたから尚更♪」
「ほんと?良かったぁ、あ、大井っちの焼き魚も一口ちょうだいよ」
「は、はい!喜んで!」
「喜んで?」
まぁイライラする。大井も北上も人目も気にせずにイチャイチャしやがって。ていうか、北上が、誰かとイチャついてるのがイライラする。
そして、何より自分がそんな小さいことにイラついてるのにイライラする。大井の方は知らないが、北上にその気はないのは見れば分かる。だから、見方によっては、ただ姉妹間の仲がいいだけだ。そんな事を許容出来ない自分にイライラする。
「……かん、司令官!」
「! な、なに?どしたかみなり?」
「雷よ!もう、聞いてるの⁉︎」
「あ、ああ。結局、平子は卍解見れなくて最後までリアクション芸人だったよな」
「何の話よ!」
「全然、そんな話ししてないのです!」
あんま聞いてなかった。
「わ、悪い……」
「もー、司令官ったら。レディーとの話を聞いてないなんて、失礼よ!」
「…………何かあったのかい?」
響(ヴェールヌイ)がキョトンと質問してきた。
「いや、何もないよ。それより、何の話だっけ?」
「この前の遠征では、この暁が活躍したのよ!」
「暁は途中で電探落としてたじゃない!」
「え?ま、待って?電探落としたの?それ笑えないんだけど」
「大丈夫なのです。雷ちゃんがなんだかんだ言いながら、探すの手伝ってくれたのです」
「し、仕方ないでしょ⁉︎司令官に迷惑かけるわけにはいかないもの!」
「良くやったな、雷」
頭を撫でてやると、雷は気持ち良さそうな表情を浮かべた。ああ、ホントにペットっぽくて可愛いわ、駆逐艦は。
すると、隣から響が袖の裾を引っ張った。
「司令官、電探を見つけたのは私だよ」
「あ、ああ。響も良くやった」
「んっ……これは中々良いものだ」
「…………」
「電も探してくれたんだろ?おいで」
「じ、じゃあ……」
「ち、ちょっと!暁は⁉︎い、いや、別に撫でて欲しくなんかないけど!」
「電探を失くした張本人が何を抜かしてんだ」
暁は俺のことを涙目で睨みつけるが、俺は無視した。こういうとこで甘やかすと、暁自身のためにならない。
雷と響と電を交互に撫でてると、後ろからドンッと背中を押された。
「っ⁉︎」
「何デレデレしてんの?ロリコン」
北上と大井がゴミを見る目で俺を見下ろしていた。
「や、ロリコンじゃないから。え、なんで殴られたの?」
「バーカ」
「死ね」
「おい、大井。お前今なんつった?」
北上と大井はそのまま食器を持って何処かに行ってしまった。
俺はその背中をぼんやりと眺めながら、第六のガキ共と食事を続けた。
++++
食事を終え、俺は執務室に入った。
さーて、今日こそ定時で寝れるように仕事しないと。そう決めて仕事を再開する。
「……………」
飽きたー。やっぱ仕事って面倒臭いわ。楽しくないし。
………そういえば、北上は今何してるんだろ。さっき怒ってたからなぁ。
「はぁ………」
何かしたっけかなぁ。………昨日の冗談がそんなに嫌だったのかなぁ。でも、普段から俺の事からかってくる癖にそれで怒るのはどうなの……。まぁ、女の子なんてみんなワガママなものだからなぁ。
………こんなこと考えてても仕方ないか。仕事しよう。
「よーっす、提督ー」
「………北上」
え、なんで?さっきまで怒ってたじゃん。あ、もしかして殺しにきた的な?
「ど、どした?」
「いやー、お仕事手伝えないかなーって思って」
「や、いいよ。今日はあと書類と午後の分の演習だけだから」
「ふーん?じゃあそこの書類の山は終わった奴なのね?」
「……………」
「手伝ってあげる」
「………悪いな」
「良いって。さっき、理不尽に怒っちゃったし」
「あー、あれなんで怒ったの?」
「……………殴るよ?」
「なんで⁉︎」
「いいから。私、どれやれば良いの?」
「じゃ、この辺で」
書類を渡し、仕事を始めた。
まぁ、手伝ってくれるのはありがたいし、俺的に仕事が減って楽になる。だが、基本的にこういう作業は北上は苦手なわけで。
「そういえば、提督って彼女とかいたことあるの?」
すぐに雑談になった。普通なら、ここは注意して仕事させるのが正解だろう。だが、俺もこの手の作業は嫌いだった。よって、
「あるよ。一人だけ」
雑談に参加した。
「へぇー、意外。その時はウブじゃなかったんだ?」
「今もそんな初心じゃないから」
「いやいや、何言ってんの?」
北上はニヤニヤと笑うと俺の腕にしがみついた。
「いっ⁉︎」
「こんな風に腕にくっつかれただけで、顔真っ赤にする癖に」
「う、うるせーな!ていうか、女の子がそんな簡単に男にくっついてくるなよ!」
「ほれほれー、スーパー北上様が構ってあげよーう」
「い、いいから仕事しろよ!」
話に参加しといて随分と勝手な事を言ったが、北上は割とスッと離れた。だが、仕事をする気は無いようで、ニヤニヤしたまま聞いた。
「で、どんな子と付き合ってたの?」
「中二から高一の三年間、外見は清楚系なのに、中身はイケイケリアリアな子だったよ」
「へぇー、それはまた意外だねぇ」
「………三年間も、三年間も付き合ってたのに、高一の夏に彼女が二人目の彼氏作ってて……それで別れた」
「…………」
北上は気まずそうに目をそらした。俺も思い出しただけで泣きそうになったので、俯いて誤魔化した。
「ま、まぁでも、これからできる彼女は浮気なんてしないと思うよ」
お前それどういう意味で言ってんの?惚れられてるの気付いてないとはいえ、よく言えるなこのヤロー。
「だといいけどな」
「しないよ、絶対」
テキトーに流したことを言うと、やけに確信を持った返事が返って来た。
まぁ、そうだよな。俺の予定(というか願望)では、俺の次の彼女は北上だ。北上が浮気するような奴ではないのは分かりきっている。
………あれ?でもなんで北上がそんな確信してんの?俺が北上好きなことバレてる?バレてないよね?
「提督?どうしたの?すごい汗だけど……」
「や、なんでもない……」
こいつ……まさか、気付いてるなんて事はないよな?気付いててからかってるなんて事ないよな?
………一応、探りを入れてみるか。
「北上さ、もし誰か男に好意を向けられてるのに告られる前に気付いたら、どうする?」
「んー、どうだろ。まぁ、なるべく気付いてないフリをしてあげるんじゃない?」
「……………」
よし、多分バレてない。危なかった、バレてたら恥ずかしさのあまり破裂して死んでた。
「どしたの?急に」
「………………」
北上が質問して来た。うん、無視しよう、答えられるわけがない。
「………じゃ、仕事再開するか」
「ちょっとー!今の質問何さ?」
「えっと……次の書類は……遠征か」
「言わないと抱きつくぞー!」
「やめろ!」
結局、仕事は夜まで続いたが、破裂は免れた。