俺は北上にからかわれたい。   作:LinoKa

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第13話(後編) 温泉1日目

温泉に到着し、部屋に案内された。それまでの間、俺も北上も一言も話さなかった。ただ、顔を赤くして俯いていた。

 

「……………」

「……………」

 

なんだこれ、どうすりゃ良いのこれ。やはり言うべきではなかったか?………いや、でも言わずに連れて来たら騙してラブホに連れて来たみたくなるよな。それに、一回も北上は「嫌」とは言わなかったし、大丈夫だよね?ね?

俺は荷物を床に置いて、畳に座り込んだ。いかん、何か話さなくては。

 

「へ、部屋広いなー。枕投げとかできっかなー」

 

何を言ってんだ俺は⁉︎狂ったかマジで!

 

「え?あ、う、うん!枕投げってあれだよねー、私の姉二人がたまにやってる奴」

 

い、意外と乗ってきたぁああああ⁉︎

ていうかあいつら何してんだよ……。

 

「そ、それよりどうする?三日間あるわけだし、今日はのんびりするか?」

「そう、だね。せっかくだから、のんびりと温……!」

 

そこまで言って、顔を真っ赤にする北上。うん、その気持ち、痛いほど分かるぜ!気持ちが分かるから、俺の対応も早かった。空欠伸をして、「聞こえませんでしたよ?」とアピールする。

 

「ふぁ……え、何?」

「な、何でもない何でもない!のんびりしよっか!」

「そうだな」

 

どうやら、上手くいったようだ。俺は畳の上で寝転がり、北上はその俺の隣にゴロンと寝転がった。

…………近い。

 

「にひひ」

「なんだよ」

「いや、今照れたなーって」

「うるせっ。お前だって顔赤いぞ」

「う、嘘⁉︎」

「嘘」

「むー!提督の癖に私をからかったなー」

「提督の癖にってなんだよ……」

 

北上は体を横にして、俺の頬をぷにぷにと突く。よくアニメとかで、「やめろ」とか言って払い除けるけどわけわからんな。女の子に頬突かれるのってすごく気持ち良い。

 

「北上さぁ」

「んっ?」

「なんでOKしたん?」

「何が?」

「告白」

「ああ……や、私も提督の事好きだったし」

「そういうんじゃなくて。何が良かったの?俺の。………あっ、俺が照れない程度でお願いしますわ

「じゃあ思いっきり照れさせてあげる」

 

え?なんでそうなるの?おかしくない?

 

「んー、なんかね。最初から顔が好みだったんだよね」

「…………は?」

「二十歳超えてるくせに幼い顔が。後はー……その、何。艦娘が大破して進撃出来なくなっても絶対怒らなかったり、仕事とか全然できなかったり、軍人の癖に随分ユルい人だなーって思って。あれ?この人、外見も中身もドストライクなんじゃない?って」

「…………そこまででいいです」

「で、好きになってちょっかい出してたらかなりウブで可愛くて。もうこれは」

「……………やめてください」

「攻略するしかないなーって。だけど、提督って優しいから色んな艦娘と仲良くしてて、すごい嫉妬してた」

「………いた頃から?」

「私が来てから一ヶ月くらい」

「一年弱も……なんかごめん」

「ううん。私もからかうのに夢中であまりアタックしてなかったし」

「俺ってもしかして鈍感だった?」

「うん。それは確定してる」

 

マジか……。まぁ、人の気持ちなんてそんな簡単に察せるもんじゃないよな。

 

「ま、結局私はこうして提督と付き合えてるわけなんだけどね」

 

にししっと笑って、北上は起き上がった。

 

「なーんか、気分良くなって来ちゃったなー。ていうか、すごく恥ずかしい事暴露した気がする」

 

んーっと伸びをすると、北上はにひっと微笑んだまま、俺に言った。

 

「入ろっか?お風呂」

「ああ、お先にどうぞ」

「ぶっ殺がすよ」

 

ぶ、ぶっ殺がす………?

 

「…………マジ?」

「私の気が変わる前に返事した方がいいよ」

 

確かに………。段々、顔赤くなってるし。

 

「……………じゃあ、入るか」

「んっ」

「浴衣、どこにあるかな」

「あの中じゃない?」

 

北上の指差すクローゼットの中を開けると、浴衣が入っていた。

 

「あ、本当だ。サイズは?」

「………提督ってさ、たまにマジでデリカシー無いよね」

「……え、あ、ごめん。いやでもこれからどうせ」

「どうせ、何?」

「何でもない」

「続き言ってたら殴ってたから」

 

…………これからは言動に気を付けよう。

北上は自分のサイズの浴衣と体洗うタオルとバスタオルをを取り、俺も同じようにその三つを持った。

 

「………提督、ここ更衣室はないの?」

「あー……そういえば、ベランダに風呂あるな」

「………どうしよっか」

「ここで脱ぐしかないか……」

「こ、こっち見ないでよね……」

 

後でどうせ見るのに?とは言えなかった。脱ぐところを見られるのが恥ずかしいのは分かるからな。

 

「お、おう」

 

俺は温泉の方を見て、北上はその反対側を向いて、それぞれ脱ぎ始めた。俺はさっさと脱いで、腰にタオルを巻いて深呼吸した。

…………後ろで、北上が着替えてる。イカンイカンイカン!想像するな!AV見まくって修行しただろ!大丈夫、女の子の裸は慣れたはずだ。落ち着け、女の股間を見たろ。もんじゃ焼きよりエゲツなかっただろうが。あのグロイのに毛が生えてんだぞ。もはや斬新なデザインのモンスターだろ!イソギンチャクがモンスターになったようなもんだ!

…………よし、落ち着いて来た。

 

「て、提督。良いよ」

 

北上に言われ、振り返ると、天使がいた。違った、北上だった。

髪を下ろして、体にタオルを巻いてる北上。AV女優と自分の好きな女の子の裸では、例えタオルが有ろうと無かろうと超えられない壁というものがあった。いや、胸的な意味ではなく、性的興奮的な意味。

思わずマジマジ見てると、北上は恥ずかしそうに両手で肩を抱いた。

 

「………あ、あまり、見ないでよ…………」

 

おい、そのポーズは反則だろ。勃つからやめてマジで。ていうか、もう半勃ち状態なんだよ。

俺は股間の膨らみを誤魔化そうと、さっさと風呂に入る事にした。

 

「あっ、わ、悪いっ。行くか」

「………うん」

 

二人で外に出た。室外で裸になるのは変な感じだったが、腰にタオルなんて格好は海パンとほとんど変わらないので余り気にならなかった。

 

「………シャワー付いてないのかな」

「あ、本当だ。本当は、大浴場の方で入ってからこっちに来るべきだったのかもね」

「………大浴場なんてあんの?」

「さっき、提督がチェックインしてる時に『天然温泉』って矢印付きで書いてあったけど」

「………マジかよ」

 

後で分かったけど、部屋に別のユニットバスがあって、ちゃんとそこにシャワーがありました。

俺と北上は湯船のお湯を、桶で身体に掛けてから浸かった。タオルは身体とか洗ったわけじゃないし、別に汚いわけではないと思った、という言い訳の元、着けたまま入浴した。

 

「…………ふぅ」

「んーっ、露天風呂って初めてだけど良いねぇ」

「だな。後、あまり伸びはやめてね」

「? なんで?」

「…………察して」

「……あっ、ご、ごめん」

 

北上は自分の胸を隠すように抱えた。

 

「いや、別に謝らなくても良いよ」

「…………提督も、やっぱり私の胸とかに興味あるの?」

「は、はぁ⁉︎そんなわけ……!…………少しある」

「て、提督も男の子、だもんね……」

「…………悪かったな」

「別に、悪くないよ。少し安心したから」

 

どういう意味だよ。ホモだとでも思ったか?

北上は顔を赤らめたまま、おそるおそるといった感じで聞いて来た。

 

「………………タオル、取ろうか?」

「…………………は?」

「見たい、んでしょ?」

「見たい。………あ、いや見たいけど」

「…………じ、じゃあ」

 

北上は自分のタオルに手を掛けた。おいマジか。バカ俺、マジマジ見るな。何凝視してんだよ!………だめだ、目がッ……!吸い寄せられる………‼︎

と、思ったら、北上はタオルから手を離した。

 

「…………ごめん、もう少し覚悟する時間を下さい」

「…………正直、俺も少しホッとしてる」

「「………はぁ」」

 

二人揃って、ため息が漏れた。

 

 

++++

 

 

露天風呂から出て、俺と髪下ろし北上は食事を済ませ、大浴場で身体を洗ってから部屋に戻った。

まだ19時頃なのに、随分と長く感じた。結局、露天風呂で北上も俺もタオルを外すことは無かった。「明日!明日外すから!」と北上は言ってたが、それフラグって言うんじゃねぇの?まぁ、こういうのは北上のペースに任せよう。

 

「この後、どうしよっか?」

「そうだなぁ……。まぁ、お菓子でも食べながらのんびりすりゃ良いんじゃねぇの?」

「お菓子あるの?」

「ああ」

 

俺は鞄からサワーとビーフジャーキーとポテチとその他諸々のお菓子を取り出した。

 

「おおー………」

「北上は飲んだ事あるか?」

「サワーはないなぁ。姉二人にビール飲まされた事はあるよ」

「ま、飲みたかったらあげるよ」

「じゃ、少し」

「紙コップ持って来て良かったわ」

「よ、用意良いね……」

「そりゃ、高校の時とか彼女が出来た時のイメトレしまくってたから………お、あった。はい」

「ありがと。……提督もそういう時あったんだ」

「まぁ、彼女なんてほとんど出来なかったけどな。好きな子いても話しかける勇気出なくて」

「ああ、それ想像できる」

「だから、北上が彼女になってくれて、すごく嬉しい」

「…………は、恥ずかしいこと言うの禁止」

「…………うん、俺もつい本音出たけどすごく恥ずかしい」

「ーッ!だ、だからそういう事言わないでってば!次言ったらぶつから!」

「ご、ごめん……」

 

今のは恥ずかしい事だったのだろうか……。釈然としながったが、謝りながら紙コップにほろ○いを注いだ。半分くらいで止めて、北上に渡した。

 

「乾杯」

「何に対して?」

「何でも良いんだよ」

「えー、ちゃんと決めようよー」

「………じ、じゃあ……その、新婚旅行、とか………」

「……〜〜〜っ!」

「い、痛い!悪かったから無言で叩くな‼︎」

「………ま、まだ結婚してないし」

「今、練度いくつ?」

「98」

「…………次はどこ行きたい?」

「提督と一緒なら、どこでも良いよ」

「………だな」

 

二人で乾杯した。

飲んで、北上は紙コップを机に置いた。

 

「どうだ?」

「ジュースと変わんないね。本当にお酒?」

「お前、酒強いのかもなぁ」

「もう一口」

「飲みすぎるなよ」

「んっ」

 

北上にもう一口分注いでから、ポテチとビーフジャーキーを開けた。割り箸を北上に渡して、摘んだ。

 

「提督はさ、」

「ん、なに?」

「何で私のこと好きになったの?」

「はっ?」

「さっき、私しか喋ってなかったじゃん。だから、気になって」

「あー…………」

 

そういやそうだったか。

 

「なんだかんだだよ」

「うわっ、女の子には喋らせて自分は言わないんだ?」

「………冗談だよ。まぁ、特に理由はわからないからなぁ。気が付いたら好きになってたんだよ」

「えーなにそれ」

「なんていうか、のらりくらりとした雰囲気とか、やる気ないように見えて任務は人一倍真面目なとことか、ウザがってる駆逐艦の事もブツブツ言いながらちゃんと面倒見るとことか、いろんな所が見えて来て、いつのまにか好きになってたんだよ」

「………ふーん。意外とよく見てるんだね」

「まぁな。でも、好きだって自覚するのは割と早かったなぁ。男ってのは、単純な生き物だから」

「確かに、提督って単純そうだよねー」

「うるせ」

「でも、そんな提督を好きになっちゃった私も、単純なのかなー」

 

紙コップの中の酒を飲みながらそんな事を呟く北上の肩に、俺は手を乗せた。

 

「? 何?」

「…………一発」

「は?」

「恥ずかしいこと言ったら、一発良いんだっけ?」

「えっ、私今恥ずかしい事言った?」

「言った」

「………いや、待って?私、女の子だよ?か弱い女の子に提督、暴力振るえるの?」

「…………か弱いのは俺の方だろ」

「分かった。いや別にビビってるわけじゃないけど。でも、ほら?加減は必要だからね?だから少し落ち着いて………」

 

北上の言葉を無視して、俺は拳を振り上げた。反射的にビクッとして北上は目を閉じた。その北上の唇に、俺は唇を押し当てた。

 

「ッ⁉︎」

「…………い、一発」

「…………〜〜〜ッッ‼︎」

「いだっ!ちょっ!だ、だから無言で蹴るのやめろって!」

「う、うるさいうるさいうるさい!バカバカバカブァ〜カ!」

「お、怒るなよ!悪かったって!」

「ッ!」

「痛い!い、今のは効いたぞ………!」

 

お腹を抑えて蹲る俺を真っ赤な顔で睨みながら、北上はつぶやいた。

 

「……わ、悪かったわけ、ないじゃん…………‼︎」

 

北上は恥ずかしくなったのか、一人で布団を敷いて、毛布の中に潜り込んだ。

 

「…………ちゃんと歯磨きして寝ろよ」

 

余った摘みと酒を全部食べてから、俺も歯磨きした。今日はもう寝るか………。

歯磨きをしながら、布団をもう一枚敷こうと思ったのだが、見当たらない。

 

「…………一枚しかねぇのかよ」

 

困った………。ま、俺はソファーでも良いか。そう思って、とりあえず歯磨きしてると、突然布団から北上が飛び出て来た。俺の目の前まで歩くと、胸ぐらを掴んで来た。

 

「…………一緒の布団で寝ても良いから」

 

そう北上は言うと、洗面所に向かった。おそらく、歯磨きしに行ったのだろう。

 

「……………素直な奴だなぁ」

「何か言った⁉︎」

「別に」

 

ちなみに、一緒の布団で寝てる緊張感の所為で、朝まで眠れなかったのは言うまでもない。

 

 


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