俺は北上にからかわれたい。   作:LinoKa

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なんか長くなりそうです。


第13話(前編) 温泉1日目

朝の6時過ぎに、コンコンと俺の部屋を叩く音がした。おそらく、北上だろう。これから二人で温泉旅行である。

 

「おはよー、提督ー」

「ああ、おはよう。少し待ってて」

「はーい」

 

靴下を履いて、俺は部屋を出た。部屋の前では、私服の北上が待っていた。

 

「お待たせ」

「んっ」

「行くか」

「…………それより、言う事は?」

「………えっと……私服、かっ、可愛いよ………」

「提督も照れてて可愛いよ」

「う、うるせぇ!」

「いいから、いこ?」

 

北上は俺の手を引いて歩き出した。

そのまま駅に向かい、改札を通って、俺と北上は電車に乗った。これから小一時間、電車の旅である。

 

「おおー……!私、電車乗るの初めてなんだー」

 

北上が目を輝かせて車内へ。まだ6時半頃なので、電車も空いていた。

 

「ああ、そっか。悪いな、今までバイクで」

「ううん?提督の背中にくっ付けるし、バイクも良かったよ?」

「…………そ、そうか」

「あ、やっぱ照れるんだそこで」

「う、うるせぇ!バーカバーカ!」

「はいはい、かわいいかわいい」

 

俺の頭を撫でて来る北上の手を払いのけながら、椅子に座った。本当にこいつは俺の事ばかりからかって来る。

……いや、それが北上なりの愛情表現なのかもしれないが。あ、なんかそう思うと可愛く思えて来た。

 

「北上」

「なにー?」

「かわいい」

「うえっ⁉︎な、何急に⁉︎」

「好きな子にちょっかい出す小学生みたいで可愛い」

「………あ、謝るからやめて下さい……」

 

北上は顔を赤くして俯いた。本当に受けに回ると弱いなこいつ。

 

 

++++

 

 

電車を乗り継いで、新幹線に乗った。北上は当然、新幹線に乗るのも初めてのようで、子供みたいにはしゃぎながら窓の外を眺めていた。

 

「おおー……すごい早いね……」

「まぁ、新幹線だからな」

「これどのくらい速いの?」

「普通の電車より速い」

「比較対象考えてよ」

「いや、俺も詳しくないんだよ。ちょい待ち」

 

俺はスマホを取り出した。

 

「ふーん……時速285kmだって」

「嘘っ⁉︎速くない⁉︎」

「ウルトラマンは時速450kmで走るなら、余り速いとは感じないや」

「何と比べてんの?ていうか、前々から思ってたけど、提督はウルトラマン好きなの?」

「ウルトラマンっていうか……特撮ヒーローとかアメコミが好き」

「ふーん……子供だねー」

「うるせ。アメコミは一般的だろ。仮面ライダーとかウルトラマンだって大人も見るぞ」

「じゃあ特撮ヒーローと私、どっちが好き?」

「ベクトルが違うだろ………」

「誤魔化さない」

「…………………北上」

「そのくらいで照れないのー」

「う、うるさい!良いから朝飯食うぞ!」

「おーおー、いつまで経っても提督は可愛いねぃ」

 

北上が隣でケタケタ笑うのを無視して、俺は新幹線に乗る前にニューデイズで買った食い物を取り出した。前の席の背中の机を出し、北上の方にはパン二個と午後ティーのミルクティー、俺は鮭のおにぎり二個といろ○すの炭酸水ぶどうを置いた。

北上がパンの袋を開けて、思いっきり一口噛み付いた。パンのラインナップは、チョココロネにチョコクロワッサンと、可愛らしいチョイスだった。小さい口で、ハムハムとパンを頬張る北上は何とも可愛かったが、ジッと見過ぎでた所為か、北上が俺の方を見た。

 

「…………今、そんな高カロリーなの食べて太らないの?って思ったでしょ」

「え?いや、思ってないけど⁉︎」

「ふっふっふっ、それに関しては問題ないね。私は太らない体質なのだからっ」

 

ああ、それを自慢したかったのか。俺、女子じゃないんだけどな。

 

「ああ、それは知ってる。見れば分かる」

 

シレッと答えると、北上の目付きが鋭くなった。

 

「………どういう意味?」

「え?どうって……あっ」

 

俺の目は北上の胸に吸い寄せられた。大井よりおとなしい胸。妹より控えめな胸。俺はふっと目を逸らした。

 

「………個人差だから」

「……………提督、嫌いっ」

「ッ⁉︎」

 

ぷいっとそっぽを向かれ、俺はその場でうなだれた。

 

 

++++

 

 

「き、北上ぃ……機嫌直してよ……」

「うるさいおっぱい星人」

 

俺を無視して、北上は前を歩いている。新幹線は目的地に到着し、送迎バスを待ってる状態だ。

 

「いや、俺別に巨乳に興味ないし!むしろ大き過ぎない方が……!」

「ロリコンなの?キモっ」

「ど、どうしろと……」

 

お、大井ぃ……。お前がいてくれれば……!いや、俺が狩られるだけだな。

誠意を伝えてもダメなら、物も付けるしかない。

 

「………北上」

「何?ロリコンオッパイ星人」

「この辺に美味いたい焼き屋があるらしいんだよね」

 

ぴくっと北上の耳が動いた。本当、下調べしといて良かったわ。

 

「味が5種類あるらしくて、カスタード、あんこ、チョコ、抹茶、そして密林檎らしいんだけど……これ一1個奢るから許してくれない?」

「………5個で許す」

「…………あ、はい。りょかい」

 

ちなみに、1個350円とかいうナメた価格である。合計1750円也。しかもこれ1個も食えないんだよなぁ。

北上と屋台まで歩いた。平日なだけあって誰も並んでなかった。すごく良い香りが漂って来て、嗅いだだけでも腹が減る、というのはこの事かと納得してしまった。

 

「5種類1個ずつ!」

 

北上はといえば、さっきまでの怒りはどこに行った?と聞きたくなるほどに上機嫌になって注文していた。

たい焼きを買って、北上は俺の手を引いてベンチに座った。………嗚呼、畜生。良い香りだなぁ………。

 

「……………」

 

北上は俺の事などまるで無視して、袋の中のたい焼きをひとつ取った。

すると、何を思ったか半分に割った。

 

「…………はっ?」

 

思わず間抜けな声を漏らした俺を無視して、北上はムムムッと割ったたい焼きを見比べると、小さい方を俺に渡した。

 

「はいっ」

「………え、良いの?」

「良いも何も、最初からそうするつもりだったんだけど?」

「えっ……他のも全部?」

「……………」

 

北上は少し照れたようにそっぽを向いてから頷いた。俺は「ありがと」とお礼を言うと、ありがたくたい焼きを受け取った。

で、二人揃ってあむっと一口食べた。

 

「おおっ……美味ぁ。なんだこれ」

 

なんだこれ、外サクサク中ふわふわとか本当にあるんだ世の中に………。

北上も満足してるかな、と思って横を見ると、無言で咀嚼しながら、片手をブンブンと振っていた。え、何その味わい方、可愛い。

 

「ん〜!」

「良かったなぁ、買って」

「ね、次!あんこ!」

「んっ」

 

二人でたい焼きを食べた。割った奴、全部大きい方を北上は取ったけど、別に気にしなかった。

丁度、全部食べ終えたタイミングでバスがやって来た。俺は軽く伸びをしながら立ち上がった。

 

「行きますか」

「うんっ」

 

バスに乗った。これから、いよいよ温泉である。

席に座って、バスが出発した。

 

「所で北上、お前これから行く温泉の事、どれくらい知ってる?」

「? 普通の温泉じゃないの?」

「……………」

 

こいつは一切、調べてないのか……。今思い出したけど、部屋に露天風呂付いたんだよなぁ………。いや、別に一緒に入るとは言ってないし、入っても特訓してあるし、大丈夫だろう。

 

「なんなの?」

「いや、何でもない」

 

言うのは温泉着いてからで良いか。と、思ったのだが、北上はジッと俺を睨んだ。

 

「………そう言う言い方されると気になる」

「今はまだ、気にしない方がいいよ」

「………ふーん?」

 

すると、北上は俺の脇腹に手を突き刺し、指を動かした。

 

「ふぁひょっ⁉︎ちょっ……、やめっんんひゃはははは‼︎」

「吐く?」

「吐く!吐くからやめろ!」

 

客が俺たち以外にいなくて良かった。いたら怒られてた。

 

「あー実は、さ……」

「うん?」

「これから行く、温泉なんだけど」

「うん」

「部屋に、露天風呂があるらしいんだよね」

「うん。………うん?」

 

どうやら、理解したみたいだな……。

そこから先は、お互い顔を赤くして俯いたまま、一言も話さなかった。

 

 


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