夜中。俺は一人で部屋でゴロゴロしていた。
しかし、温泉旅行か……。前々から思ってたけど、温泉旅行って意味分からないんだよな。なんていうか……同性の友達と行くのなら分かるけど、異性と二人で行っても温泉の前で男女別れるし、後は部屋でのんびりするだけでしょ?温泉の場所によっては観光も出来ないだろうし、本気でただのんびりするだけのイベントになりそうだ。
まぁ、北上が行きたいなら、俺は付き合うだけだけども。
「………温泉の場所調べるかぁ」
どうせなら、北上に楽しんでもらわないと。高校の時にデートのイメトレをしてたから大丈夫だ。女の子を誘う勇気がなかったから本当にイメトレだけだったけど。
チケットに書いてある文字を読んだ。○○温泉……露天風呂付き客室とかいうイカれた客室か。すごいな。
近くに川があって釣りも出来て、バスに乗れば遊園地がある。中々すごくね?
北上はなんだかんだ、プリクラとか好きだし、悪くないかもしれない。
………けど、デートをしたことがない奴がデートプランを確定しても、それは俺の自己満足になるだけで、向こうが楽しめるかは別だ。最終決定は北上に決めてもらうべきだな。
「……………」
つーか、さっきから予定決めてるけど、北上と行こうなんて約束してねーな。正確な日にちとか。まぁ、近いうちに行くのが正解なんだろうけどね。最近はたくさん出撃したから、しばらく休みだし。
………つーか、明日からで良いか。一応、北上に連絡しよう。俺は床に落ちてる充電中のスマホを拾った。
午後T督『起きてる?明日から3日間暇?』
寝てたら、仕方ないから明後日から行こう……と、思ったらもう既読が付いた。はえーよ。
スーパー北上様『暇だよー。ていうか休暇くれたの提督じゃん』
午後T督『じゃ、明日から温泉な』
スーパー北上様『は?』
スーパー北上様『本気で言ってんの?』
午後T督『え、暇なんじゃないの』
スーパー北上様『あのさ、ちょっと急過ぎるよ』
スーパー北上様『そういう事は、せめて夕方に言ってくれないと』
ふむ、なるほど。そういうもんか。
スーパー北上様『と、いうわけで明後日からね』
明後日からなら良かったのかよ。いや、まぁ1日あるだけで大分違うかもしれないけどね。
午後T督『把握』
スーパー北上様『じゃ、おやすみー』
午後T督『おやすみ』
よし、じゃあ寝るか。明後日楽しみだわ。
俺はパソコンをシャットダウンして寝た。………待てよ?部屋に露天風呂付きって………混浴って事ですか?
「…………」
エロ本読みまくって精神でも鍛えるか。←錯乱気味
++++
翌日。エロ本、と言ってもどんなものを読めば良いのか分からん。←まだ錯乱してる。
………そういえば、そういうのに詳しそうな人がいたな。俺はスマホで電話した。
「………もしもし?」
『ああ、どしたん?』
「お前、飛龍さんとヤッたんでしょ?」
『バッカお前、そういう事大声で言うなよ……。飛龍さん、エロスイッチ入ってない状態でそういう話するの超嫌いでさ、ガチでキレられるから』
「バレなきゃダイジョーブ。………それでさ、」
『え、何。お前北上とそういう事したいの?』
「いや、そうじゃなくて、その……北上と温泉行くことになったんだけど、部屋に露天風呂があるっていうイカれた構造なんだよね」
『ああ、一緒に入りたいんだ?』
「違っ……!いや、違くないけど、万が一、入る事になった時に、興奮して鼻血出るなんて事になりたくないじゃん?」
『そうだな』
「だから、精神鍛えるためにオススメのエロ本無い?」
『何でそうなるんだよ。何で俺に聞くんだよ』
「だってヤッたんでしょ?」
『ヤッてる奴全員エロ本持ってるみたいな言い方すんな。大体、飛龍さんとヤッたんだからエロ本なんて必要ないからね』
「………確かに?そういうもん?」
『そりゃな。いやぁ、ヤッてる時の飛龍さんマジエロいのな。もう激しくするたびにあんあんと』
「おいやめろ、聞きたくねーんだよそんな話」
『良いじゃん、今飛龍さんいないからこういう時に発散させろよ。それで飛龍さんって実はドMで……』
『提督?何話してるの?』
『あっ……やべっ』
『もうっ!人にそういうこと話すのやめてって言ってるじゃん‼︎』
『や、待っ……‼︎』
『今日という今日は許さないから‼︎友永隊‼︎』
『待て待て待て待て!かわいい奥さんくらい自慢して良いだろ‼︎』
『かっ、かわっ……⁉︎』
『だ、だから怒らないで………今夜、激しくするから』
『…………こ、今回だけですからね』
『ふぅ……で、なんの話だっ』
俺は通話を切った。すっごいイライラして来た。何だこいつら、死ねば良いのに。しかし、こうなると誰に相談すれば良いのか………。
とりあえず、ネカフェにでも行くか。ネカフェならアダルトコーナーとかあるだろ。
俺は原チャリに跨って出かけた。
〜二時間後〜
ネカフェから出た。
俺は今の二時間、何をしていたんだろうか……。←正気に戻った
ていうか、AVって頭おかしいだろ……。女の性器ってあんな風になってたのか………。なんかもう……カルチャーショックだよこれ………。異国の異文化よりビックリだ。
………いや、でもこれで女の全裸への耐性は出来た。それに、温泉に入るだけで、性器の中に性器を突っ込む性器のマトリョーシカみたいな事をするわけではない。
後は明日の荷物を整えるだけ、と俺は鎮守府に戻った。
「たでーまー」
特に誰に言ったわけでもないが、テキトーな挨拶と共に鎮守府に帰って、執務室に入った。大井が待っていた。
「………えっ、何」
思わず後退りしてしまった。
「あ、帰って来た。どこに行ってたんですか?」
「ネカフェ」
「ふーん……明日、北上さんと温泉行くみたいですね」
ブフォッと吹き出した。何で知ってるんですか。
「こ、殺す気………?」
「別に殺しませんよ、殺したいけど。それで、どんな服で行くんですか?」
「ほっ……え?殺したいの?」
「どんな服で行くんですか?」
この女やっぱ怖ぇ………。
「服って……普通のだよ。タンスの中入ってるのテキトーに選んで」
「銀河の彼方まで殴り飛ばしますよ。なんですかテキトーって」
「ぎ、銀河の彼方……?」
なんか発言がバカっぽいのに怖いんだけど……。北上のためならマジで出来そうで怖い。
「とりあえず、提督のお部屋を見せてもらっても良いですか?」
「それは良いですけど。なんで?」
「明日以降の服は私が決めます。北上さんとお泊りなんですから、それなりの格好をしていただきます」
「それなりって……何、タキシードとか?」
「頭の悪いこと言うのやめてくれませんか?」
銀河の彼方に言われたくない。
大井と自室に入った。そこそこ綺麗な部屋なので、ここで怒られはしないだろう。
大井さんは部屋の中を見回したあと、タンスとクローゼットを開けた。中の服をジロジロと見た後、ホッとした様子で呟いた。
「なかなか良いじゃない。見直したわ」
お、おお……。なんか厳しい母ちゃんに褒められたみたいで嬉しかったんだけど………。
まぁ、前々から外見には気を使ってたからな。ただ、告る勇気がなかっただけで。
「これなら、私が口出すことはないですね。明日、頑張って下さいね」
大井は出て行った。
なんか、あいつ母ちゃんっつーより姉ちゃんみたいだな。