第11話 子供は甘やかすな、厳しくしろ。
と、いうわけで、北上と付き合い始めたわけだが、しばらくは連続出撃によるみんなの疲労と資材の減少により休暇にする事にした。
もちろん、哨戒任務に当たる子達もいるが、その子達には間宮アイスで労うことになってるので、一応は問題ない。
で、今は執務室でのんびりしている。俺の膝に上に北上がいなければ、もっとのんびり出来るんですけどね。
「あの、北上」
「あっはは……えっ?」
でんじゃ○すじーさんを読みながら、北上はこっちを見た。てかそれ読んで笑うなよ、良い年して……。俺が小学生の時に読んでた漫画だぞ。
「あの、なんで俺の上に座ってんの?」
「良いじゃーん。提督の上、暖かくて好きなんだもん」
「はいはい……」
「好きなのは提督もだけどねー」
「……………」
「あ、照れた?今照れた?」
「う、うるさい!」
「相変わらず可愛いねー、提督は」
「う、うるさいって!お前に可愛いとか言われたくない!お前の方が可愛いだろ!」
「かわっ……⁉︎ぅ、うううるさいのは提督だから!何いきなり褒めてんの⁉︎」
「褒めちゃいけないのかよ自分の彼女を!」
「い、いけない事、ないけどさ……‼︎」
北上は視線を逸らして、頬を赤く染めながら呟いた。
「し、心臓に悪いからっ、やめてよ……」
「っ」
お、俺の方が心臓に悪いんだけど………!
「………それよりさ、提督」
「な、なんでしょう」
「彼女が膝の上に座ってたら、後ろから抱きしめてよ」
「…………マジ?」
「早く」
俺は少し照れ気味に後ろから抱きしめた。すると北上は若干、嬉しそうに微笑んで、鼻歌を歌いながら漫画読むのを再開した。
………畜生、可愛いなぁ。ほんとはずっとこのまま居たいんだけど、この後に間宮さんにお使い頼まれてんだよな。
「悪い、北上」
「んー?」
「ちと、買い物行くからさ。ごめん」
「何買いに行くの?」
「間宮さんに頼まれたお使い」
間宮さん、という単語が出た直後、北上のさっきまでのメチャクチャゆるゆるダラダラふわふわした可愛い顔が、一気にシンッとした真顔になった。
「…………提督」
「え、何」
「彼女と二人きりの時に他の女の人の名前出す?」
「……………ごめん」
「私もその買い物、行くからね」
「よ、よろしくお願いします………」
すごく怒られた。
++++
早速、支度をして鎮守府を出た。万が一の時の指揮に関しては長門さん(うちのナンバーワン戦艦)に任せて、とりあえずスーパーへ歩いた。ていうか、別に気にしてないけど、提督をお使いに向かわせる間宮さんの図太さな。
買う物は板チョコを二箱である。バイクで行こうとしたら、北上に「歩け」と怒られたので歩いてます。
「………箱買いとか、小学生の時のデュエマ以来だなぁ」
あの時は周りの友達があまりにもデュエマの箱買いをするもんだから、羨ましくて親にねだったっけか。ボルベルグ当たって満足しました。
北上が隣から聞いて来た。てか、なんで腕組んでんの?緊張するんだけど。嫌じゃないけど。
「デュエマって何?」
「昔流行ったカードゲーム。今にして思えば、デッキ作るのに、中身がランダムで、当たるか当たらないか分からないパックを何度も買うなんて馬鹿げてるよなぁ。博打も良いとこだ」
「ふぅーん……あ、ユーギオーって奴?」
「まぁ、そんな感じ」
「でも、少し私はカードゲームとか楽しそうだなーとは思うよ。アニメとか駆逐達が見てるのをたまーに後ろから見えたりするんだけどさー」
ああ、談話室な。艦娘増えたから談話室6ヶ所くらいあるけど。
「『俺のターン、ドロオオオオ‼︎』とかいい歳した人達が大声で叫んでるって事は、相当面白いんでしょ?」
モノマネ北上かわいい。
「いや、あれはアニメを面白く見せるために、多少大袈裟に演出してるだけだよ。『ファイナルフラッシュ』よりも、『セルーッ‼︎いくら貴様が完全体になったといっても、こいつをまともに受け止める勇気があるかーッ‼︎ははーッ‼︎無理だろうなー‼︎貴様はただの臆病者だーッ‼︎ファイナルフラーッシュ‼︎』の方が強そうでしょ」
「いや、それ台詞変わってんじゃん。てか誰の真似?かなり煽ってるし」
「ベジータ様。ドラゴンボールなら部屋に全巻あるよ。読む?」
「読む」
あ、墓穴掘った。ドラゴンボールなんて読ませたら、しばらく夢中になって構ってくれなさそう。
「ちなみに、提督はカードゲームやらないの?」
「俺はもういい。飽きたし金かかるし」
「ふーん……。あ、ゲームといえばモンハンやらないの?」
「あっ………」
忘れてたわ。
「帰ったらやるか」
「ん」
そんな話をしてる間にスーパーに到着。今更だけど、板チョコの箱買いなんて出来んのかよ。
そもそもそういうのって、発注とかするんじゃねぇの?その辺の事務作業は大淀さんに任せてるからわからんけど。
「店員さんになんて聞けばいいんだろうなぁ」
「ね、提督。あれ何?」
北上の指差す先には、福引きのテントがあった。
「ああ、あれな。何円以上お買い上げで引けるんだよ。大当たりとかは大体温泉旅行とかだな」
「へぇ〜……何円以上?」
「引きたいの?」
「雪風じゃないし、多分当たらないよ」
「引きたいのね……」
「いや、引きたいというより、あのガラガラ回したい」
「それすっごい気持ちわかる。帰りに引くか」
「良いの?」
「どうせああいうのは700円以上に付き1回くらいだから、2、3回くらい引けんじゃね?」
「やったね」
とりあえず、スーパーで買い物を済ませることにした。
チョコの箱ある?と店員さんに聞いた時の引きつった顔と言ったらもうね。「板チョコを20枚集めても願いが叶うとか、そんなん無いからね?」って言われて殺したくなったわ。
籠にチョコを入れて、レジに向かった。………なんか、今持ってる籠にズシッと重みが………。籠の中を見ると、1.5リットルのコーラが三本入っていた。
「あっ」
棒アイスの箱を抱えた北上が俺を見ていた。
「………何やってんの」
「いやー、せっかく福引きできるんだし、せっかくならたくさんやらないと!」
「子供みたいなことしてんなよ………」
「…………だめ?」
「今回だけな」
「ひひっ、やったね」
少し前まで、電車の中で子どもが暴れるたびに「親は何やってんだよちゃんも躾けろゴミカスがあの子絶対将来ヤンキーになるな」とか思ってたけど、これじゃ人な事言えないな………。
そのまま、北上はレジに向かうまでの間に籠にたくさん物を入れた。「今回だけ、今回だけだからな」「わーかってるってぇ」なんてやり取りしてたけど、多分、わかってねーなこいつ……。
「10038円でございます」
「……………へっ?」
い、いつの間にこんな……。北上を睨むと、サッと目を逸らされた。
「…………マジで今回だけだからな」
「うん、ごめん」
買い物を済ませて、袋に商品を詰める。
両手いっぱいに荷物を持って、スーパーの外に出た。
「半分持とうか?」
「大丈夫、それより福引きやってきな」
「うんっ」
レシートを持って、北上は福引きの方に走った。1回、750円以上のお買い上げらしい。10038円ってことは、えーっと……何回だろうか。7500円で10回で……残り2538円で………。
計算してると、ガランガランと音がした。
「一等、温泉旅行〜‼︎」
見ると、北上が固まっていた。ていうか俺も固まっていた。
「…………マジ?」
ボンヤリしてると、残りの分を北上が引き始めた。さらに松坂牛、自転車、掃除機と2、3、4等を根こそぎ奪い、すごい目で福引の人と逆にすごく睨まれたが、北上は気にせずに景品を持って来た。
「提督ー!すごい、すごいよ!福引きチョロい!」
「うん、そういう事大声で言わないでね。みんな写輪眼に開眼しそうなくらい睨んでるから」
とは言っても、北上はすごく嬉しそうな微笑みを浮かべていた。
………この笑顔だけでも金払った価値はあるなぁ。いや、お釣りが出るレベルまである。
北上はニヤニヤしながら褒めて欲しそうな顔をしてたので、俺は軽く頭を撫でて、北上の手から折り畳み自転車の箱を取った。
組み立てて、ハンドルの両側に買ったものを引っ掛けて北上に自転車を渡した。
「ニケツは無理だから、北上がこれ押してって」
「えー、そういうのは提督の役目でしょー」
「掃除機と枕を抱えるのとどっちが良い?」
「自転車押すわ」
実際、重さは自転車と袋のが上だけど、手に持つ必要がないのでそっちのが楽だろう。
さて、帰るか。このまま北上と帰りに遊ぶってのは無理だし。
帰宅の途中、北上がご機嫌に聞いて来た。
「ね、提督」
「んー?」
「行けるかな、温泉旅行」
「行けるでしょ、多分」
「楽しみにしてるね」
「んっ」
正直、温泉なんて全く興味ないが、北上と出掛けられるってだけですごく内心舞い上がってる辺り、俺ってやっぱ単純なんだなぁ、と思わざるを得なかった。
++++
鎮守府に到着し、俺と北上は執務室で大井に正座させられていた。
「……で、福引のために一万いくらも買い物したと?」
「は、はい……」
「馬鹿なんですか?提督。たまたま当たったから良いものの、外れたら大赤字ですよ?分かってます?」
「はい……。重々承知しています」
「いくら彼女だからってそういうとこ甘やかすのは良くないんですよ?分かってます?」
「はい……。北上が余りにも楽しそうだったので、今回だけ………」
「麻薬も煙草も競馬もパチンコも『今回だけ』がスタートなんです。分かってます?その辺」
「はい……」
「北上さんも、いくら提督が優しいからってそこに漬け込むような真似はやめてください」
「えー、別に提督が良いって言ってるんだから……」
「お二人が結婚したら、将来とても苦労しますよ?その辺もわかってるんですか?」
「「け、結婚………」」
「話を聞け」
夜まで説教は続いた。