俺は北上にからかわれたい。   作:LinoKa

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第10話 ミスしても良い、それを活かせとか言うけど、絶対にミスできない時もあるもんだ。

 

 

一週間が経過した。はい、私は未だに告白していません。いや待て、違うんだよ。言い訳があるんだ。

今まで、艦娘のレベリングの為に同じ海域を繰り返してたんだけど、大本営から「良い加減、先に進めろ」と怒られて、今週までに北方海域抜けろと命令を出された。まぁ、練度90オーバーの艦娘が67人もいるのに未だに北方海域から抜けようとしてないんだもん、そりゃ怒られるわ。

だが、それも今日で終わりだ。北方領域は余裕でクリアし、明日は休みにする。

北上も北上で、ちゃんと仕事をしていたし、告白はこれからで良いだろう。俺は、そう思っていた。

だが、甘かった。そこから先は一週間分の書類地獄である。

 

「畜生おおおおおお‼︎報告書とかマジふざけんなああああああ‼︎」

 

泣きながら仕事していた。艦娘達はお疲れ様って事で全員、休暇中。北上に告白するどころか、寝る時間も食事の時間もなかった。

手をバリバリ動かし、お腹が空くか喉乾いたら赤飯おにぎりとコーヒーを飲む。眠くなったら壁に頭突きする。そんな感じで、もう半日以上ぶっ通しで仕事していた。

やらなきゃ、仕事。頑張らないと。じゃないといつまで経っても俺に自由はない。

そう心で反復して(78回目)、仕事を続けてると、コンコンとノックの音が聞こえた。

 

「仕事中だ!」

「失礼するわ!」

 

俺の言うことをまるで無視して、第六駆逐のみんなが入って来た。

 

「おい、話聞いてたか。俺は仕事中だ」

「だからこそさ。疲れてる時には甘い物だと聞いてね」

「私達がクッキー焼いて来てあげたわ!」

「一人前のレディは料理だってできるんだから!」

「あ、暁ちゃんは型抜きしかしてなかったのです!」

「よ、余計なことは言わなくて良いのよ!」

「ハラショー」

 

そんな彼女達を見て、俺は不覚にも涙が溢れた。そして、席を一度立つと、四人まとめて抱き締めた。

 

「…………ありがとう、四人とも」

「「「「ーっ!」」」」

 

四人はすごく嬉しそうな表情ではにかむと、俺にクッキーを渡して出て行った。俺はクッキーを一枚齧った。

…………ああ、癒される。良い子達に恵まれたなぁ……。元気が湧いて来る。よっしゃ。いっちょ仕事やってやるか!

俺はむんっと気合を入れて、机に向かった。

 

 

〜二時間後〜

 

 

「…………死ぬー」

 

なんだよこれ、仕事無限にあるんじゃねーか?永遠に湧き出る書類の泉にいる気分だ。どんな泉だよそれ。

しかし、もう嫌だな仕事。ふざけてるよ、こんなの。クッキー食べる度に元気出てたけど、そのクッキーももう切らしたし………。

うん、少し仮眠取ろう!良いよね少しくらい!そう思って、机に伏せようとした時、コンコンとノックの音がした。

 

「………………どーぞ」

 

思わずドンヨリした声で返すと、瑞鶴が入って来た。

 

「提督さん?」

「何、どしたの?」

「いや、第六のみんなに聞いたけど、仕事大変なんでしょ?」

「かなりな」

「だから、はい、これ。差し入れ」

 

瑞鶴は間宮さんのミルクプリンを持って来てくれた。いや、母乳的な意味じゃなくて。

 

「おお……マジか」

「あとこっちが間宮さんから。コーヒーゼリーだって」

「悪いな……わざわざ」

「もしキツイなら手伝うけど………」

「良いよ。頑張ってくれたお前らには休暇あげてるんだし。このくらいで俺が踏ん張らないでどうする」

「うーん……まぁ、提督さんがそう言うなら。無理しないでね」

「ああ……。あ、瑞鶴」

「ん?」

「これ」

 

俺は500円玉を二枚、財布から出して指で弾いて瑞鶴に渡した。

 

「確かボスルートに最初に入った時、お前と翔鶴さんが制空権取ってくれて助かった。とりあえず、今はそれでなんか甘いものでも食ってくれ」

「良いの⁉︎」

「ああ」

「さーんきゅ♪じゃ、頑張ってね!」

 

瑞鶴は元気よく出て行った。さて、頑張ってね!と言われてしまったからには仕方ない。頑張るか。

俺はまずはミルクプリンを食べると、仕事を再開した。

 

 

〜一時間半後〜

 

 

これ死ぬわ。間違いなく死ぬ。もう無理だよ………俺のライフはゼロどころかマイナスに振り切ってる。書類の山がまだ四分の三は残ってるもん。

どんなに倒してもウルトロンの数減らないんだけど。誰でも良いからアベンジャーズ呼んでくれ。

 

「……………ちょっと休憩するか」

 

俺は息抜きにゲームでもしようと、スマホを取り出した。その直後、コンコンとノックの音がした。

 

「またかよ……どうぞ」

 

ボヤきながら答えると、鈴谷と熊野がやって来た。

 

「ちぃーっす、提督」

「お疲れ様ですわ」

「本当にな。何、どうした?」

「いやー、提督ここにずっとここに篭ってるからさー」

「少し、息抜きにでもと思って、CDを持って来ましたわ」

「おお……それって、鈴谷とか熊野が聴いてる曲?」

「そだよー。このCD貸したげるから、仕事頑張って」

「悪いな」

「いえいえ。それでは、御機嫌よう」

 

熊野が俺の机の上にCDを置くと、二人は部屋から出て行った。

…………せっかくだし、CD掛けながら仕事するか。

 

 

〜20分後〜

 

 

…………おい、ふざけんなよ。なんでJポップとクラシックを交互に入れてんだよ、このCD。ギャップありすぎて集中できねえよ。切ろう。

いや、まぁ悪気ないのは分かってるんだけどね。むしろ、俺のためにやってくれた事だし。

………ああ、でもなんかもう疲れたわ。俺は立ち上がって、とりあえず音楽を切ると、コンコンとノックの音がした。入って来たのは、大井と球磨だった。

 

「失礼するクマー」

「大丈夫ですか?仕事」

「ああ、いや、あんまり大丈夫ではないかな」

「だろうなクマ」

「そう思って、手伝いに来ましたよ」

「いいよ別に。これは俺の仕事だし」

「でも、提督に倒れられたらクマは心配だクマ」

「倒れない倒れない。1日2日無理したって平気だよ」

「そうですか………?」

「というか、二人ともこの前の作戦でめちゃくちゃ仕事させちゃったし、休んでてくれよ」

「…………そこまで言われたら仕方ないクマ」

「キツい時はキチンと言ってくださいね」

「………………」

「な、なんですか?」

「お前、北上が絡んでなきゃ普通に良い子なんだな」

「んなっ……⁉︎私は普通に良い子です!魚雷撃ちますよ⁉︎」

「ほら見ろ、そういうところクマ」

「ね、姉さんまで………!」

「あ、そうだ。二人とも待った」

 

俺は立ち上がって冷蔵庫を開けた。中にはビ○ードパパの箱が入っていた。

 

「これ、球磨型で食っていいぞ」

「ひゃっほー!ラッキークマ!」

「すみません、ありがとうございます」

「いいって。じゃあな」

 

二人は部屋を出て行った。ふぅ……なんか二人と話してたら若干元気出て来た気がする。よし、やってやりますか!

 

 

++++

 

 

それから、十時間経過した。それからも、色んな艦娘が途中で部屋に入って来てくれて、卵焼きだの紅茶だの健康ケーキだなと言った食品、踊りだのライブだのといったなんかよう分からんけど、とりあえずみんな元気付けてくれようとしてくれた。

まぁ、それで実際元気付いて、仕事も残り少し。俺のHPもみんなが来てくれる度にゼロになったり、赤点滅になったりしている。あれ?これ瀕死の所を遊ばれてる感じもするな……。

 

「……………でも、疲れた」

 

俺は背もたれに寄りかかった。

…………そういえば、一番来て欲しい奴はまだ来てくれていない。まぁ、仕方ないか。俺とあいつは、今はあまり良い関係とは言えないし。

つーか、あれ以来話してないな。いや、命令したりはしたけど話したりはしてない。向こうからも話しかけて来てないし。

まぁ、今はゴチャゴチャと考えないで、仕事を終わらせるか。何かあるにしてもないにしても、仕事が終わらない限りは進まないのだ。

俺はそう決めて、仕事を続けた。すると、コンコンとノックの音が聞こえた。

 

「どうぞ」

 

返すと、カチャッ……と、控えめにドアが開けられた。入って来たのは、北上だった。

 

「………おお」

「んっ」

「お疲れ」

「疲れてるのは提督じゃん」

「………だな」

 

…………まさか、来るとは。内心かなり焦っていた。仕事どころじゃないんだけど。ていうか何?北上も応援しに来てくれたの?

と、思ったら北上はソファーの上で寝転がった。

 

「…………仕事、どう?」

「もう少しかかる」

「じゃ、終わるまで待ってるね」

「んっ。あ、コーヒー飲む?」

「いいから。自分の仕事して」

 

北上は自分のコーヒーを淹れると、足をパタパタさせながらソファーでダラけた。

俺はその様子を見ながら、仕事を続けた。周りの艦娘と違って、頑張れとも言われてないし、何か差し入れをもらったわけでもないのに、何故か落ち着いて集中できた。何故か、ペンが進んだ。

 

「………………」

「………………」

 

北上が来てから30分ちょっと経過。ようやく、仕事が終わった。時刻は23:30を回っている。

 

「…………終わった」

「んっ、お疲れ」

 

北上はそう返してソファーから立ち上がると、執務室の扉に向かって歩き出した。

 

「待って」

 

その北上に、俺は思わず声を掛けてしまった。足を止める北上。

多分俺は、これから告白する。それなのに、何故か心臓がうるさくなかった。落ち着いていた。告白しろ、と大井に言われた時は、すごく緊張していた癖に。

 

「何?」

 

北上は気だるそうに答えた。俺は椅子から立ち上がると、北上の前に立った。

 

「北上」

「ん?」

 

あれから、作戦の合間とかに色々考えた。北上のこと、自分のこと。過去に、なんで俺が暁型のみんなの頭を撫でると不機嫌になったのか、なんでデートの前に謝られたのか、なんでこの前、真っ白な灰になったのか。そして、俺なりの回答を見つけた。

その答え合せの時間だ。

俺は、北上に言った。

 

「…………好きだ、北上」

 

ストレートに。シンプルに。スパッと言った。

 

「この前、大井にした恋愛相談。対象はお前だ、北上」

 

今更になって心臓の鼓動が加速し始めたが、俺はそれを黙らせて、口を開いた。

 

「俺と、付き合っぇくれ」

 

…………心臓は黙ってくれなかった。

噛んだ、一番噛んじゃいけないところで。多分、俺今顔真っ赤。北上も目をパチパチしてキョトンとしてるもん。

 

「………………」

「………………………」

 

それ以上、俺から言葉は出なかった。ああ……死んだなこれ…………。

そう思った直後、「プッ」と北上が噴き出した。

 

「あっははは!そこで噛まないでよ!」

「わ、笑うなよ!すっごい恥ずかしいんだから!」

「いやっ……笑うなって言う方が無理………!普通そこで噛む?だって………プふふ!」

「う、うるせぇな!………だぁ〜、畜生………」

 

俺はしゃがみ込んで顔を両手で覆った。これは死ねる。恥ずかしいどころの騒ぎじゃない。穴があったら減り込みたいとはこの事か。

超後悔してると、俺の肩に手が乗せられ、「提督」と声が掛かった。反射的に顔を上げた直後、俺の目の前に北上の顔があり、口に柔らかい感触があった。

 

「っ」

「………っふぅ」

 

三秒くらい押し付けられた後、離れた。今になって、キスされたんだと自覚した。自分の頬が熱くなるのを感じる中、北上も少し照れたように顔を赤くしながら、微笑んだ。

 

「こちらこそ。よろしくね」

「っ…………」

 

その答え方は卑怯だろ………!

思わず目を逸らすと、北上はいたずらっぽい口調で言った。

 

「………あ、今照れた?照れたでしょ?」

「う、うるせぇ!」

「相変わらずウブだねぇ……。可愛いよー、提督」

「お、お前なぁ!」

 

頭をペシペシと叩かれ、北上の方を向くと、北上はそっぽを向いていた。その理由は一発でわかった。

 

「いやぁ、キスくらいで真っ赤にしてるようじゃ、これから先が思いやられ……」

 

立ち上がって、そう言う北上の顔をこっちに無理矢理向けると、顔が超真っ赤だった。

 

「あっ………」

「ぷっ……お前も真っ赤じゃん」

「っ!て、提督に言われたくないし!」

「いやいやいや、俺だって北上に言われたくないね」

「ぐぬぬっ………!」

 

悔しそうに奥歯を噛む北上。ああ、これがからかう側か………。悪くないな。

 

「これからは、俺がからかう側になるかもしれませんなー」

「ち、調子に乗るなぁ〜!」

 

ぽかぽかと俺の胸を叩く北上の拳を胸で受け止めながら、俺は北上を抱き寄せた。

 

「………北上」

「…………何さ」

「これから、俺はお前を幸せにすると誓う」

「…………うん」

「だから、頼む」

 

俺はそこで言葉を切ると、言った。

 

「…………さっきの告白、やり直させてくれない?」

「この雰囲気でそういう事言うなよ!」

 

そんなわけで、俺たちは付き合い始めた。

 

 




なんで深夜にゴールさせるんだろう………。
北上は番外とかなかったので短くなりましたが、大和さんと同じでそこそこ続きます。

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