ダンジョンに勇者がいるのは間違っているだろうか   作:とぅいか

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第5話【終わりの始まり】

「それじゃあ、ナツは冒険者になるためにオラリオ(ここ)に来たんだ」

「そっ、俺の目的を果たすためにはここで冒険者をやるのが一番近そうだからな」

 

目の前に山のように積み重なっているジャガ丸くんを頬張りながらベルとの会話に花を咲かせる。あの後ここに来た目的である食事をするために席につき豪華な食事と称し目の前に出されたジャガ丸くんの山々を見た時は唖然としたが食べてみるとこれがなかなか美味しい。

それに、ベルとも同性で歳が近いという事もあり呼び捨てで呼び合う程仲が良くなった。最初の印象である騙されやすそうな少年というのはこうして喋ったあとでも変わらなかった。

 

「目的を果たすためにオラリオに来たってことですか?なんかカッコイイですね!」

「お、おう。そうか?」

 

前言撤回。騙されやすそうに加えかなり子供っぽいやつらしい。流石に少年と青年を抜けかけのこの年でその言動はかなり幼稚と言わざるを得ないだろう。

 

「そういうお前はなんで冒険者やってんだ?」

「え?…えっと僕は」

「ベル君はダンジョンに出会いを求めてやってきたのさ」

 

ベルが少し言いづらそうに言い淀んでいると正面に座るヘスティアが少し不機嫌そうにベルの目的を話す。

 

「出会い?…すまんが。意味がわからん。ああ、いや意味はわかる。がやっぱり意味がわからん。そんなのあるのか?」

 

この言葉がベルの何かに触れたのかそこからは先ほどの様子が嘘のように言葉をどんどん発していく。

 

長かったからかなり聞き逃している気がするがベル曰く男ならハーレムを目指せだの。ダンジョンで女の子のピンチを救い惚れられる等の所謂英雄譚のようなものに彼は憧れているらしい。そして、それは彼の祖父が彼に教え込んだことでベルはその目的を果たすために冒険者をやっているとの事だ。

何とも微笑ましいというか、なんというか。

 

「ベル君!いつも言っているけどダンジョンに君が望むような小娘がいるわけないだろう?そんな出会いよりもっと身近な出会いを探すべきだよ」

「うぅ。酷いですよ神様」

 

ベルの夢をざっくばらんと切り捨てるヘスティア。確かに少し酷い。

今までこの2人を観察してきたがヘスティアはベルに好意のようなものを持っているのだろう。そして、ベルはそれに気づかず出会いを求めている…と。

ヘスティアもヘスティアだがベルもベルだな。

と言うか、神様と人間のカップルなんてありなのだろうか?

 

「ところで、ナツは冒険者になるって言ってたけどもうどのファミリアに入るかは決めたの?」

 

【ヘスティア・ファミリア】の恋愛事情について思いを馳せているとベルが話題を変えるように話しかけてきた。

ファミリアか。この街についてまださほど時間はたっておらずどんなファミリアがあるかすら知らない。

そのような事をジャガ丸くんを食べながらゆっくり話すと2人、特にヘスティアの雰囲気が少し変わる。

何事かと2人を見つめているとこちらに身を乗り出し一気に捲し立てる。

 

「ナツは冒険者になるためにオラリオに来たんでしょ?なら、うちのファミリアに入りませんか!?」

「僕もそれを言おうと思っていたんだよ!どうだい?ナツ君!僕のファミリアに入らないかい!?」

「え?あ、いや」

 

一気にまくし立てられたせいで反射的にいや、と言ってしまった。その言葉を聞いた瞬間2人がこの世の終わりのような表情をした後部屋の隅に体操座りをしてブツブツと呟く。

 

「あ〜。いや、別に入るのが嫌だってわけじゃないんだ。取り敢えず話を聞かせてくれないか?」

 

入りたくない訳では無いという意思を示すと部屋の隅からふたりが戻ってきて先程の様子を少し恥じらっているかのような表情をしている。

話を聞かせてくれと言ったが大体の事情は想像できる。恐らくこのファミリアは零細ファミリアなのだろう。

こんな廃墟のような場所を家としていること、ジャガ丸くんを豪華な食事と称し食べている事、そして【ヘスティア・ファミリア】の団員がベルしかいないこと。生活水準が良くないことは誰の目にも明らか。

 

「僕のファミリアは所謂零細ファミリアって奴なんだよ。他のファミリアと比べてもかなり、厳しい生活をしているんだ。だから、ここより他のところに行った方が楽はできる。それを承知でお願いだ!僕のファミリアにはいってほしい!」

 

やはり、か。ヘスティアがここまで必死になる理由は分からない。だが、ヘスティアには食べ物を恵んでもらった恩がある。食べ物の恨みは恐ろしいというがなら、食べ物の恩義もかなりあるはずだ。少なくとも俺はそう思う。

それに、完全な善意だけだったかは分からない。もしかしたら下心があって食べ物を恵んでくれたのかもしれない。それでも、助けてくれたのはこのファミリアでヘスティアなのだ。ならば、その恩を返したいと思うのは自然な事だろう。

 

「うちに入るより他のところに行った方が楽な生活はできるはず、」

「頼む!俺を【ヘスティア・ファミリア】に入れてくれ」

 

ヘスティアの言葉を遮るように言葉をはっする。

 

「ほ、本当に!?いいのかい?さっきも言ったけど零細ファミリアだから、楽な生活ではないんだよ?」

「構わん。じゃ、これからよろしく頼むなヘスティ…いや神様」

「うん!宜しく!ナツ君!」

「やりましたね!神様!これから宜しくねナツ!」

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

こうして出会ったふたり。

 

これは、ある少年の【英雄譚】の始まり。

 

そして、ある少年の【英雄譚】の終わりの始まり

 

この出会いは神の導きか。

 




ナツが勇者として活動していた時はどれぐらい強いのか。
まあ、オッタルよりは圧倒的に強いと言っておきます。

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