また気分転換に書き終えたら、ここで掲載したいと思います。
新たにユウが加わり、前にもましてクエストをクリアしていった俺様達だったが、肝心のヴリトラへの対策は全くと言っていいほど決まっていなかった。
流石にそれもどうかな、と思ってはいたのだが、まぁまだ来ているわけでもなし。
そもそもそこまで強力なモンスターであるなら、こんな矮小な街など見向きもしないと思うのだ。得てしてそういうものだ。強い者は弱い者に対して、微塵も興味はない。
「ふんっ……!」
最後のモンスターを蹴散らし、クエストをクリア。レベルアップの感覚を覚える。
「ふぅ。これで、レベル20か……」
冒険者カードを見ながら洩らす。
しばらく何にもスキルポイントは使っていなかったので、16のスキルポイントが計上されている。何か新しく覚えてもいいかもしれない。
「凄いです、キョウヤさんたちといると、凄い勢いでレベルが上がります」
「さすがはキョウヤ、と言ったところか?」
「ふはは、あまり俺様を持ち上げるなよ。あまり褒められると、逆のことをしたくなってしまうのでな」
レベルも20まで来ると、なかなか上がらなくなってくる。ジャイアントトードを数十匹単位で蹴散らしてようやく、という所だ。
その分どんどんと強くなっていくのは感じ取れる。というか俺様も、自分がアレ以上強くなれるとは思ってもいなかった。プロフィールを不正にいじくり、ヘビー級に混ざり込んでトップを貰ったこともあるほどだったのだがな。
魔法も併用するようになってから、俺様が強すぎて引けるほどである。
「まぁ、それはいい。いいのだが、一応はヴリトラの対策も考えて―――――――ッ!」
ウーウーウー!!ウーウー!
突如街のサイレンが赤く輝き、甲高い音が響き渡った。
『緊急!緊急!冒険者の皆さんは、速やかにギルドに集まってください!繰り返します!冒険者の皆さんは、速やかに――――――』
物凄く嫌な予感が渦巻く。というか、俺の想像しているもの以外、ありえないだろう。
このタイミングで、だからな………。
「まぁ。戻るか…………メグ、ユウ」
「ええ」
「はい」
とても憂鬱な気分だったが、仕方が無いのでギルドに向かう。
そうこうしてギルド内に着くと、大量の冒険者で溢れかえっていた。
揃いも揃って、憂鬱な顔をしている。
何の用で呼ばれたか、既に分かりきっているからである。
ギルドの職員が、何人か中央に現れる。
「………皆さん、お集まり頂けたようですね。既にお気づきの方もいらっしゃると思いますが、凶報です」
職員が言うには、悪龍ヴリトラが街すぐの森で寝ていることを確認されたらしい。
その現場は凄惨なものだったそうだ。
普段は群れをなさないモンスター、ブラッドファング(赤黒い狼のようなモンスター。体格は2mと大柄で、高度な知能を持つ。とても賢いため、火属性の上級魔法を理解し、使用する)が数匹、ありとあらゆる骨をべきべきとおられた状態で確認されている。
ブラッドファングは並大抵の敵ではない。
2匹討伐で100万と、割のいい報酬目当てで、こいつを相手にしたことがある。
俺様ひとりで、1度に相手できそうなのは2匹まで、と言ったところだった。それも彼奴等が連携を取らないことを前提に、だ。
連携をとる狩人ほど、恐ろしいものはない。
前の世界でヒトという種が狩人として最強種であるのはそれが主な理由だ。知能があり、お互いに連携をとり、作戦を練られる。
人間は動物としては弱い。二足歩行であることは、動物としては致命的な弱点だ。
同じ体格の犬とヒト、どちらが強いか。誰が考えても明らかだろう。それでもヒトが狩猟者最強である。知能とは、それだけで力だ。
だというのにそれをあしらう、か。
まぁ話に聞いていたとおり、強力すぎるほどに強力である。
辺りは静まり返る。
この中の人間の殆どは、ブラッドファングなぞ相手にしたことはない。王都の腕利きパーティでも2匹以上相手にすることは難しい程の強敵である。
恐怖は計り知れないものだろう。話が進まん。
「それで?その龍は寝てるとのことだが、そこに巣でも作っているのか?寝る以外の行動は確認されているのか?」
「…………いえ。特には………」
そう言って職員(金髪の女だ。肩から服がずり落ちて、胸が露出されかけている。確か名前はルナ)は目を伏せる。
「おい。俺様でなくともそのような態度では騙せないぞ。何を隠している」
「…………っ、実は………」
そしてルナは話した。
森で狩りをしていたパーティが、森で寝ているヴリトラを見つけた。
よほど自信があったのだろう。
勇敢にも、そのパーティはヴリトラへと攻撃を仕掛けた。
全く歯が立たず、これは無理だとパーティは考えた。
しかし逆上したリーダー格のルーンナイト(上級職だ)が1人でヴリトラに攻撃を仕掛けたのだ。
………その上級職の男は、ヴリトラに一瞬で噛みちぎられた、らしい。
畏怖に立ち竦んでいた他の面々に、ヴリトラは話したそうだ。
それは、忠告―――――いや、警告か。
――――――――下らぬ民であっても、私は見逃すつもりなどはない。私は、民の絶望を喰らい、糧とする悪龍……………力あるものの絶望は、誠に美味である!フハハハハハハハハハハハハッッ!
「………………なるほどな」
その話を聞くなり、冒険者達は青ざめた。
そのルーンナイトは、アクセルでも有名な冒険者だったらしい。その冒険者が一瞬でやられた事は、かなりのショックなのだろう。
重い雰囲気の中、メグが口を開く。
「………そ、その冒険者の方は?………そ、蘇生させたのですよね?」
蘇生魔法。
ゲーム的なこの世界では、それが実在するらしい。お世話になったことはないが、その男を蘇生する事はたやすいはずだ。
「………」
しかし、ルナは口を閉ざす。
「ど、どうしたのですか?蘇生………したんですよね?」
「………」
「………まぁ、蘇生できなかったのだろう」
「………ッ」
「キョウヤ?蘇生できないって………どうして」
「さっきその女は、『噛みちぎられた』と言ったな?蘇生魔法は、心臓の機能を無理やり元に戻し、伝達系を戻す魔法だ。つまり、1度壊れたものを元に戻せる訳では無い」
つまり。
死体も何もなく。
全てを噛み砕かれ、野の汚泥と化した、ということだ。
上級職。しかも近接職の。
それがいとも簡単に命の花を散らした。
その事は、初心者ばかりのこの街の冒険者にはあまりにも衝撃的だった――――――今まで我慢していたものが、溢れ出る。
「じょ………冗談じゃねぇ!そんなヤツに立ち向かえってのか!?」
「そんなこと、出来るわけないじゃない!?」
「その通りだ!大体――――――」
ギャーギャーと騒ぎ出す。まぁ、無理もない事であるが――――。
それとは別に、俺様はうるさいことは嫌いだ。ざわざわうるさい集団というのは、大体衆愚である。
なんだか誰かにその中の一部扱いされている気がして、段々腹が立ってきた。
ええい凡愚め、やかましいのだ…!
どうでもいいが、なんか腹が立つので止めることにした。
「……………うるさい」
少し声量が小さかったが、一瞬で静寂が訪れた。
それもそのはず。全力で殺気を放っているからな。この連中も冒険者、殺気くらいは読める。
人にここまでの殺気を向けるのも、俺様くらいなものだろう。
「………あまり騒ぐんじゃない。別に、そのヴリトラと戦うだけが冒険者の役目ではあるまい?それに、やりたくないならやらなければいい。無駄に命を散らすのはバカのやることだ、その殺された男も含めてな」
「っ!ちょっとあんた、死んだ人をなんだと思って―――――」
そう言って激高しようとした女の言葉を、俺様は遮る。
「生きていようが死んでいようが、弱かろうが強かろうが、バカはバカだ。何しようが否定できん。実力差を理解せず、仲間の言葉も耳に入れず。バカ以外の何者とも言えん」
「―――――っ、だからって、死んだ人を侮辱していいわけじゃない!」
「………まぁ、それもそうだろうな。少し軽率に過ぎたかもしれん。それについては謝るが―――――少なくとも、今ここでガタガタ抜かしているお前らは間違いなく凡愚。生産性というものをドブに捨てている」
ハッ、と俺様は目の前の
くだらない――――実にくだらない。
いらいらして仕方が無いのだ。もとより、こういう空気、こういう人間が嫌いなのもあるが。
折角異世界に来てまで、こんなものを見せられるとは―――――全く、夢のない話だ。
「…………っ。じゃあ、どうしろって言うのよ―――――私たちは、あいつの為に―――何をすればいいの……?」
―――――ふむ。どうやらこの女、死んだルーンナイトとは既知の仲のようだな。
察するに、パーティーメンバーのうちの1人というわけだ。
何をなせばいい、と来たか。
「そんな事、俺様の知ったことか。まぁ、いいんじゃないのか?そうしてここでビクビクしているのも。俺様はごめんだが」
そうとだけ言って俺様は踵を返す。
言うまでもなく、外に出るためである。
これ以上こんな所にいると、次第に頭が悪くなる気がする。そんな事は人類の損失だ、回避せねばなるまい?ふははははっ!
「まぁ、引越しでもすれば良いのではないか?ここでビクビクするよりかは、建設的だぞ?ふははははっ」
ゲラゲラと笑い飛ばすと、俺様はギルドを出た。後ろから慌てた声で、「ちょ、ちょっと待ってくださいよキョウヤっ!」等と焦る声が響く。メグらしき声だ。
あぁ、イライラした。しかしスッキリした。
「どうするつもりなんですかっ?あんな事言っちゃって……」
「どうするつもりもない」
「もうアレですよ?溝、埋まりませんよ?」
「かもしれんな。しかし埋めようと思えば埋められる程度の溝だと思うが」
「何を言ってるんですか……はぁ。で、どこに向かってるんですか」
「ん?森だよ森」
「はぁ!?」
そう、俺様が向かおうと思っているのは森だった。
ヴリトラだとか言う龍を1発拝見に行こうという訳だ。まずは見てみなければ話になるまいて。
「バカですか!?何の対策もなしに挑もうだなんてっ」
「誰も挑むなどと言ってないだろうが。見てみるだけだ」
そうこうするうちに、件の森へとたどり着いた。ふむ、鬱蒼としている。前に立ち寄った時と変わりはないように見えた。
しかし、なんだろうか―――――邪な気配。
強いそれが、森を支配しているかのように見える――――それに、静かすぎた。
鳥や、モンスター達の気配がないのである。
森などというものは、生物の宝庫―――そんな事はありえないだろう。
「メグ。杖はあるか」
「あぁ、ありますよ……冒険帰りですから。それが?」
「少し貸してくれ」
メグから杖を受け取り、俺様は上級魔法を唱える。
「『エネミーサーチ』」
一時的に敵感知のスキルを付与させる中級魔法、『エネミーサーチ』を発動。
本職の盗賊職ほどの精度はないし、時間もそう持たない―――――が、持ち主の魔力に応じて時間も伸びるし範囲も広がる。
もちろん俺様が使えば、そんじょそこらの連中のものよりは比べられないほどのものにはなる。流石俺様だ、賞賛してやろう。
「もう一つ。『マジックサーチ』」
ここら一帯の魔力を感知する中級魔法、『マジックサーチ』も発動させる。
すると、一際大きな――――いや、一際なんてレベルではないだろうか。
俺様やメグは、アークウィザードという魔法使いの上級職だ。当然、魔力の値は凄まじく高い―――――しかし、そんな俺達を。
数倍上回る魔力の気配を―――――この森の一角で、放つものがいた。
無論、それが誰かなどというのは分かりきった話だ――――――――悪龍。
ヴリトラ―――――――――――――――
「ふむ。思った以上に酷いな」
「キョウヤ?何かありましたか?」
「いや――――何も無いさ」
ひとまずそう誤魔化して、その魔力の源に向かう。メグもグダグダ言いながらも、俺様の後に続いた。
歩きにくい森という地形、それにモンスターとの戦闘を鑑みた上での敵感知付与だったが―――――拍子抜けするほどに道中、モンスターと遭遇することはなかった。
遭遇したとしても、極度に敵意が見られないヤツらばかりだった。
何者かに怯えるかのごとく―――――この森の生物は、物音すら立てずに、ひっそりと過ごしているように思われた。
「(ふむ――――極度に強い者の存在は、周囲に多大なる影響を与える――――か。生態のバランスが崩れかけている)そう言えば、メグ」
「はい?」
「お前、ユウはどうしたんだ」
「あぁ……さぁ?多分まだギルドに残っているのでは?」
「阿呆。あんな状態で俺様が出ていったのだぞ。そんな所にユウを残せば、俺様への文句の矛先は全部、ユウに向くだろうが」
「……あー……なるほど。それもそうですね。すみません、考えが足りませんでしたね」
「ふむ。まぁ謝るなら良いだろう。寛大な俺様に感謝するのだな」
「えぇ。いやはや、流石キョウヤ、細かいことは気にしない、器の大きな男ですね」
「ふはははは、あまり褒めるな!さすがの俺様でも照れてしまうぞ?」
「「あーはっはっは!」」
「きょ、キョウヤさーんっ!!めぐみーんっ!助けてーーーっ!」
何かユウの悲鳴が聞こえた気がした。
間違いなく気のせいだ、聞こえるわけなし。
暫く歩き、目的地の近くまでやってきた。
魔力の発生地にたどり着いた俺達が見たのは――――――巨大な龍だった。
巨大な大樹に寄りかかるようにして、真っ黒な鱗のその龍は、眠りこけていた。
これがヴリトラ………なるほど、確かに邪悪そうなナリをしている。
全身真っ黒。双角、全長より長そうな翼。
太くたくましい四肢に、並大抵の幹より太そうな長い尻尾。
なるほどな―――――――分かった。
敵は―――――コレか。こんな事を言うタイプではないのは重々承知だが、敢えて言うとすれば。
帰ってもいいだろうか…………?
「メグよ」
「なんでしょう」
「これはやめといた方が良くないか」
「奇遇ですね、私もそう思いました」
敵の外見の把握というものは、案外に大事だ。
外見を知らない上で聞く情報と、知った上で聞く情報には、多少の差異が生じる。
敵を把握し己を把握せしば、百戦危うべからず。正しく把握するために、外見の確認はほぼ必須とも言える。
しかし、これはないだろうこれは。
俺様だって人の子だ、多少の恐怖心というものはある。でかいってのはそれだけで恐怖心を煽るものだ。
「まぁ、いい……。コレだな?コレが悪龍で間違いないのだな?」
「えぇ………多分」
「なるほどな…………コレか」
仕方がないので、もう少し悪龍を観察することにした。
まず気になったのが、その身に刻まれた数多くの傷だ。
中にはかなり深手そうなものもあり、完全に治癒されていないように見える。
ブラッドファングや、ルーンナイトのパーティーのものではないだろう。
アレは、その程度の存在に傷つけられるステージにいない。だとすれば、それはもちろん腕利きの冒険者達によるもののはず。
つまるところ。高レベル冒険者が十数人がかりで悪龍を討伐したという―――その時の傷だろうと思う。
しかし―――そもそもの謎。
ユウ曰く、悪龍ヴリトラは既に『倒されている』のだ―――――それならば。
この龍は―――――本当に、『ヴリトラなのか………?』
そんなことに思いを巡らせていると、不意に。
―――――――何か用でもあるのか、下賎なる人の子よ。
そんな声が―――――目の前の龍から発せられる。
閉じられていた目は見開き、真っ赤な紅眼をのぞかせていた。
「―――――ッ!メグ、逃げるぞ―――」
――――――まぁ待て。老齢の龍の言うことは聞くものだぞ、人の子。
そう、目の前の龍は続けた。
俺様の脳内で、二つの選択がよぎる―――――待つか待たざるか。
逃げる場合、逃げおおせる勝算はあるか。待った場合、この龍は敵対行為をしないのか。
全てを鑑みて―――――俺様は、その場に留まる事にした。
「キョウヤ―――っ!?」
「ここで逃げるメリットは、あまりない―――ならば、この龍の話を聞く方が身のためだ」
――――――ほう?賢しらぶった小僧だ―――――逃げ惑う所を見るのも一興かと思うたが。まぁよいわ――――それで。何しに来たのかと問うたが、答えんのか?
「別に、何をしようという気もない――――敵情視察というヤツだ」
―――――――ほほう、それはまた。そんな事の為に、我が前に来たというか!くく―――世紀の天才か、はたまた大馬鹿か―――――貴様らは、どちらなのか!
カカカッ!
悪龍はさぞかし愉快そうに哄笑し、その巨体を起こした。
否が応でもわからされる――――その巨体を、その実力を。
―――――気に入った。貴様らを糧にし、我が傷ついた体を癒すことを宣言しよう!
我は悪龍!我を癒せしは、人の憎しみをおいて他ならぬ!
「―――――ッ、なんだ?結局、お前は俺様達を食う気なのか!?」
――――――応。しかし、今はその時ではあるまいて―――――そうだな。3日待とう。3日後の夜、我はお前らの街を襲う。止めたくば、それまでに我を倒すことだな。ここから動く気もない。
3日――――それはタイムリミットとしては短すぎた。タダでさえ薄い勝算が更に薄くなる。
「待ってくれ―――――せめて、5日。5日間、待ってくれないだろうか?」
――――――ふむ―――3日も5日も変わらんと思うが。人間という種族は相変わらずせせこましいものだな――――まぁよい。ならば5日だ――――帰って他の冒険者達にも告げるがいい。我はもう眠いのだよ………全く、そこそこの魔力だと思ったらタダの視察とは。片腹痛くて仕方がないな――――かかっ!
そうとだけ言い残して、かの龍は再度眠りについた。
5日。
それまでに俺様たちは、この龍を倒さなくてはならない。
……………無理じゃないか………?
「とりあえず、だ。帰るぞ、メグ」
「…………えぇ」
俺様たちは一旦ギルドに戻り、ヴリトラの言の一切を凡愚どもに伝えた。
案の定、混乱が再来した―――――俺様はこんな連中と戦わなくてはならないのか……と、一瞬辟易する。
しかし、まぁ――――大きな災害の前には、天才も凡愚も同じこと。
どちらも放っておけば、大きな災害の前には呑み込まれるだけだ。
しかしヴリトラが襲撃に来ることは確定事項となってしまった今、なんの対策も練らないというわけにもいかない。
それはさしもの凡愚どもでも分かっているらしく―――――俺様たちは明日、作戦会議をする事になった。
その事が議決された後、俺様とメグとユウは一旦、止まっている宿に集まることにした。
「さて。困ったことになったな」
「困ったこと、なんてもんじゃないですけどね……どうしたものか」
「話聞く限り、めぐみんとキョウヤさんが焚き付けたみたいな感じになってましたけどね………」
まぁ、俺様が森に向かわなければもう少しの猶予はあったかもしれない。
まぁそれも大した差異ではないだろうが―――ギルドの連中にとっては心象が悪いかもしれない。
「まぁ、神器なんてもんがない以上。俺様たちがあの龍を倒すには魔法しかないわけだが」
「それにしたって、魔法障壁もあるのですよ?たとえ上級魔法でも、障壁には傷一つつきません」
「まぁ、そうかもしれない――――が。俺達には、『上級魔法より強い魔法』があると思うが――――如何か?」
「まさか―――――」
「爆裂魔法――――ですか!?」
そう。
俺様がまず思いついたのが、その方法だ―――俺様とメグで爆裂魔法を2発撃ち込み、障壁に風穴を開けるという策。
障壁があるからと言って、魔法を全く意識の外に置くわけにはいかないだろうという事だ。
あの魔法の威力ならば、直撃させれば障壁を破壊できる公算は低くはない―――まして、2発分ともなれば。
決して分の悪いギャンブルではない。
「な、なるほど――――確かに爆裂魔法なら、障壁を壊せる確率はあります。けど―――仮に壊せたとしても、あの龍を倒すほどの火力は、この街にはないと思いますよ?」
と、ユウは箴言してきた。
実際にその通りだ――――この街はなにせ、冒険初心者の街。上級職など数えるほどにしかいない。そしてアークウィザードというのは実は希少な存在で、遠近両用の万能職。
ひとりやふたり、いるかいないかみたいな話である。もちろん、俺様とメグ、ユウを除外してだが。
「まぁ、俺様もただ、レベリングしていた訳では無い――――一応はだが、当てはないこともない」
「本当ですか!」
「まぁ――――あんまり借りたくはないんだがな。この街に、もう1人。俺様とメグ以外にも――――爆裂魔法を習得している人物がいる」
「「爆裂魔法――――!?」」
俺様は苦虫を噛み潰したような顔で、それに答える―――――――当てにしたくないというのはかなりの本音だ。
「だからだ、メグ、ユウ。今からその人物の店に行く―――――ついてきてくれ」
そして数刻後。
俺様たちは、ある魔道具店の前に立っていた。
「ウィズ魔道具店………ですか」
「聞いたことがありますね。なんでも、凄腕のアークウィザードが店主をやっているだとか」
「まぁ、そう間違ってはいないが―――一応は訂正を入れておこう。あいつはアークウィザードではない」
「アークウィザードでない?ならなんだと言うのですか?」
「ある意味で、アークウィザードよりも上位の存在だよ――――奴は」
リッチーなのだから。
俺様はそうとだけ言って、ウィズ魔道具店の扉を開ける。
中には紫のローブを着て、茶の長髪を垂らした美女が居た。
「いらっしゃいませ――――あ、キョウヤさん!何かご入用ですか?」
「………久しぶりだなリッチー。今日は買い物ではない。君に折り入って頼みがあるのだ」
「頼み?別に構いませんが――――リッチーはやめてくださいって。何度も言ってるじゃないですか。ちゃんとウィズって呼んでほしいです……」
ちょっとしょんぼりした顔でウィズは言う。
特に理由はないが、こいつはどこか苦手だ。
偉ぶらない強者は、あまり得意ではない―――――下手に出るのが演技なら好きなのだが。ロートのようにな。
今まで黙っていたメグが口を開く。
「ちょっと待ってください、キョウヤ。今、リッチーと言いましたか?」
「あぁ」
「もう、バレちゃったじゃないですかー……」
「リッチーといえば、アンデッドの中での最強の魔法使いではないですか!そんな存在がなぜ、こんな街の中に……っ!」
そう言ってメグは、杖を構え始めた。
おいおい。こんな所で爆裂魔法を放つつもりか?まぁ、それも仕方ない――俺様も初対面の時は似たような行動をとった。
俺様はメグを制する。
「まぁ落ち着けメグ。お前もバカではないのだから、少しは考えて行動しろ」
「ですが――――」
「あ、あの!私はその、アレでして……。決して悪いことをする気はないのです!」
もう少しましな弁明があるだろうという感じの弁明をウィズはする。
兎にも角にも、このままでは話が進まない。
そんな無駄なことをしている暇はないのだ。
「ひとまずだ。ここは俺様が間に立とう」
ウィズの方を指さす。
「こいつはウィズ。さっきも言った通りリッチーだ。その上、魔王軍の幹部でもある」
「魔王軍の幹部っ!?」
「あ、あの。そんなに大した事はなくて、魔王軍の城の結界を維持してるだけのなんちゃって幹部と言いますか………」
俺様がウィズに会ったのは、ある魔道具を探している時だった。
この街には複数の魔道具店があるが、人に聞いたところ、このウィズ魔道具店を紹介されたのだ。
その時必要だったのは、広範囲に浄化魔法『ターンアンデット』を掛けるスクロールだった………因みに、非常に高額である。
普通にウィズはそのスクロールを見つけて、売ってくれようとしたのだが―――何をどうしたのか、そのスクロールの印を解いてしまったのである。
その時の俺様は知る由もなかったが、ウィズはリッチーであるので――――当然のように消えかかった。
その時はすぐに元に戻ったが、流石に俺様も理解が出来なかった(メグのように、攻撃を仕掛けようともした)ので――――ウィズも、誤魔化せるとは思っていなかったらしく。
彼女から、自分についての説明を受けたのだ――――彼女が爆裂魔法を使えるというのも、その時に聞いた話だ。
「まぁ、こいつは危害を加えるタイプではないよ。味方とも言えないが、敵ではない。まぁ、倒せば魔王軍に打撃は与えられるがな」
「キョウヤさんっ!?」
ウィズが俺様から離れる。
「まぁ、今は良いだろう。今はな」
「やだなぁキョウヤさん、そんなに『今は』って連呼して。後でならいいみたいじゃないですかー…………違いますよねっ!?」
そもそもウィズの実力ならば、俺様たち程度では敵わないだろうが、な。
話を聞く際、彼女の身の上話も聞いたのだが―――――彼女は生前、魔王軍の幹部をことごとく殺戮して魔王の城へとたどり着いた、唯一のアークウィザードだったらしい。
それはそれは凄まじい実力者である。
目の前でオロオロしている姿を見ると、全くそうは思えないがな………。
「そして、こっちがメグとユウ………一応本名も言うか、めぐみんとゆんゆんだ」
「めぐみんさんと、ゆんゆんさん……紅魔族の方ですね?」
「あぁ」
紅魔族の珍名は知れ渡っているらしいな。
兎に角、メグとユウも少しは落ち着いてきたので本題に入る。
問題の件……ヴリトラについてだ。
「ヴリトラさん……ですか。魔王さんの番竜を務めていた方ですね」
「あぁ。その龍を倒すことに協力してほしいのだ」
そう俺様が言うと、彼女は少し気まずそうに言った。
「………すみません、確かに私はなんちゃって幹部ですが――――その立場にいることには、条件があるのです」
「条件……とは?」
「魔王軍には協力しませんが………その代わり、魔王軍に与する者に危害は加えないことになっています。ヴリトラさん討伐には――――
「ふむ…………それは、絶対か?」
「はい。
「ならば良い。君がそう言うのだ、それは決定事項なのだろう」
「………すみません。…………しかし今、ヴリトラさんと言いましたよね……あの方は、前に王都の大規模作戦で討伐されたと聞きましたが?」
「俺様もそう聞いている。だが―――かの悪龍が存在しているのは、間違いない」
俺様はウィズに、森で会ったヴリトラのことについて話す。それと一緒に、五日後、ヴリトラがこの街を襲いに来る件についても。
「………外見を聞く限り、それはヴリトラさんで間違いないです。そうですか―――生きてたんですね。五日後――――ですか」
「あぁ。この街を襲う、と言っていた」
「………そうですか。キョウヤさんは……どうするつもりで?」
俺様は宿で話した内容をかいつまんで話す。
「爆裂魔法――――なるほど。確かにあの魔法ならば、ヴリトラさんの魔法障壁は破れるでしょうね」
「そうか」
ウィズが言うからには、その確率は高いだろう。これで一つ目の心配事、『そもそも破れるのか』という問題はクリアというわけだ。
少しだけ安堵する。
「しかし、ですね……。あなたがたの魔力値では、爆裂魔法を放った後は動けないのでは?」
「まぁ、その通りだ」
「正直に申しますと………この街の冒険者で、ヴリトラさんを倒しうるほどの火力はないです。あなたがたなしでは………おそらく」
「やはり、君もそう思うか――――」
本来ならそれをどうにかしてもらおうと、ここに来たのだが―――――やはり魔王軍の者に力を借りることは難しいか。
一応、第二プランも無いことはないが―――――ウィズに力を借りるよりも、確実さは薄れる。
「…………一応」
「ん?」
「私は中立な立場でありますが―――私が中立でいる相手は、
だから。
ウィズは続けた。
「仮にヴリトラさんが、この街に攻め込んで人を殺したなら――――私は、ヴリトラさんと戦うでしょう」
「ふむ――――しかしだ、リッチー。それは裏返して言えば、奴が無関係の人間を殺さぬ限り――――お前は敵対行為を取らないという事だろう」
「はい」
仮に。
俺様たちが及ばず、ヴリトラを倒すことが出来なくとも――――この街は、彼女が守ってくれるらしい。俺様たちの作戦で、彼女の力は借りられないが―――――少しは、安心できる。
「助かった、リッチー。また何か買いに来る」
「はい。というか、またリッチーって……。ウィズって呼んでくださいってば!」
「まぁ気が向いたらな。あぁ、そうだ―――もう一つ」
「はい?」
「前に、超高品質のマナタイトを間違えて入荷した、と言っていたな?」
「えぇ……まぁ。そのマナタイトがどうかしましたか?」
「俺様が買ってやる――――あるだけ出せ」
俺様はウィズから商品を受け取ってから、メグやユウとともにウィズ魔道具店を出た。
作戦は五日後―――――勝てるのだろうか。そもそもの話、明日の会議は上手く行くのか。
どれもこれも不確定で、不安なことこの上ないのだが――――まぁ、やるしかあるまい。