「さぁ、漸く街に帰ってきたぞ。メグ、取り敢えず臭いのでお風呂に行ってこい」
「はい………分かりました………」
周囲にしかめっ面をされながら、メグはとぼとぼと大衆浴場に歩いていった。
さて………。俺様は何となしに、冒険者として登録した時に貰った冒険者カードを見てみた。
ふむ。レベルが1から5に上がっていて、スキルポイント、と書かれている場所のポイントがゼロから8になっていた。
スキルポイント………か。メグが帰ってきたら聞いてみよう。
しかし、この『固有アビリティ』という欄に書かれている『金欲者(パワー・オブ・マネー)』とは何だろうか。
これも聞くべきか。
「スキルポイント?あぁはい、スキルを覚える為のポイントですね」
戻ってきたメグにその旨を聞いてみると、彼女はそう言った。
まぁ名前の通りか………と納得したので次は固有アビリティについて聞いてみる。
「スキルには二つの種類があります。通常スキルと、アビリティスキルです。通常スキルはいわゆる必殺技のようなもので、アビリティスキルは所有している本人に及ぶ補助効果の様なものです」
ふむ?まぁ、言葉の響きから何となく分かってはいたが。アビリティ、と言うくらいだからな。
「固有アビリティは、その人のみにしか使えないアビリティスキルの事です。基本的に使い方は分かりません。手探りで探すのですよ」
「ふむ、そうか。スキルポイントというのは、レベルが上がれば貰えるのだよな」
「そうですね。職業によって貰えるポイントの量は異なります。キョウヤは上級職ですから、多くのポイントを貰えているはずです」
「なるほど………スキルの覚え方は?」
「1度スキルを見れば冒険者カードにそのスキルが表示されます。そのスキルのポイントを冒険者カードから払えば、スキルを覚えられますよ。しかし、アビリティスキルの場合は見る必要は有りませんよ」
ふん…………なるほど。それに加え、ジョブごとに取得できるスキルも制限されるのだろう。カードを見ると、『爆裂魔法』もカードには記されていた。50スキルポイント要とも。
今スキルポイントが8。レベルを4つあげてこれなら、どう考えてもこれを覚えるのはバカのやる事だろう。
「メグ。お前の冒険者カードを見せてもらっても構わんか?」
「もちろんです!見てください、私の軌跡を!」
メグが手渡してくれた冒険者カードを見てみる。
レベルは6。あまり元から高くなかったのだろう。メグはあのカエルを4匹倒していたが、俺様は15匹もぶっ殺したから、レベルがほぼ同じなのだろう。
スキルポイントは6。
取得スキル一覧………。
爆裂魔法、爆裂魔法強化、魔力量増量、高速詠唱。本当に爆裂魔法しかないようだ。
まぁそれはいいとして。固有アビリティはなし、か。
魔力、知力が高い。が、それ以外のステータスはあまり良くはないようだ。いわゆる魔法使いステータスというやつだ。
しかし魔力は俺様の1.5倍ほどあり、魔法による攻撃力はかなり期待できると言っていい。
「ありがとう、メグ」
しかし。爆裂魔法は50スキルポイントだと書いていたはず。このレベルで取得できるスキルではない。
つまり、『他にスキルポイントを手に入れる方法がある』という事だ。
「メグよ。なぜ爆裂魔法を取得できるほどのスキルポイントが有ったのだ?」
「はい。キョウヤは知らないと思いますが、私は紅魔族という種族でして。生まれつき魔力が高く、優秀な魔法使いが多いのです。そんな紅魔族が住む紅魔の里には、スキルアップポーションという、飲むだけでスキルポイントが上がる飲み物が優遇して貰えるのです」
「スキルアップポーション。それは高いのか?」
「はい。非常に希少ですので。まともに買ったら、1つ100万は下らないんじゃないですかね」
「ほほう?」
それはそれは。
「まぁ、一先ず、スキルの問題は後回しにしようか。何処かで飯にしようと思うのだがメグ、お前、金はあるのか?」
「ないですけど、今回のクエストの報酬があるじゃないですか」
「む、そうだったな」
これは金稼ぎの手段なのだった。どっちかと言うとゲーム感覚でいたが。
俺とメグはギルドに向かった。
「ジャイアントトード10体の討伐、確かに確認しました。こちら、報酬の20万エリスです。お確かめ下さい」
あのカエル10匹殺すだけで20万、か。かなりお得だな。
一先ず、メグと食事の席を共にすることにした。
「まぁメグよ。お前はなかなかいいものを見せてくれたしな。俺様が6匹殺したのだから、本来なら6対4で分けるべきなのだが、半々で折半してやろうではないか」
「普通、功績に関わらず、パーティメンバーで割るのですけど」
「そんな共産主義みたいな事を言っていては、金は稼げん。覚えているといい、メグ」
「…………まぁ、構いませんが。私は爆裂魔法さえ放てられれば、無報酬でもいいと考えてますから」
「ほほう。それはいい事を聞いたな」ニヤァ
「あの、雑費とか食費とかは払ってくださいね………?」
なんだ。パーティとは、メンバーと暮らしたり、食事をしたりするのか?もっと割り切った関係だと思っていたが。
そんな事を考えながら、先ほどぶち殺したジャイアントトードの唐揚げを頬張る。
カエル肉というのは非常に淡白で、鶏肉に近い味わいを持つ。この世界でも変わらぬようで、少し硬かったが、概ねそのような味がした。
「キョウヤは先程からお金に執着しているように感じたのですが」
「あぁ。金さえあれば何でも出来るからな」
「何とも夢がないですねー。そうだ、キョウヤも爆裂魔法を覚えて、私と共に爆裂道を歩みませんか!?」
ずい、と、メグが俺様に顔を近づけながらそう言った。
「ふむ。まぁ確かに、あの破壊力にはロマンがあるな」
「そうでしょうそうでしょう!爆裂魔法以外に、覚える価値のあるスキルなんてありませんとも!」
「だが、ダメだな。スキルポイントが足らん」
「………………むー」
ふくれっ面をするメグ。鬱陶しい顔をするな、美少女が。
「しかしメグよ。安心するといい。爆裂魔法を覚える方法なら既に考え出してある」
「本当ですか!?」
「あぁ、俺様の類稀なる頭が回転した結果な。まぁ、誰でも思いつくが出来ない事だ」
キラキラと目を輝かせながらこちらを見ているメグを尻目に、俺様はカエル唐揚げを食べていた。
「まぁそれには時間が掛かるのでな。期待して待つといい」
「おお………!共に爆裂の道を歩む人間が現れるとは………!感謝するぞ、キョウヤ!」
「フハハハハ、感謝するにはまだ早いぞ、メグよ」
取りとめもない話をしながら、今日の夕食を食べ終わる。ふむ、悪くないものだ。そもそも俺様は金持ちだが、高級料理だとかそういったものは好まん。金というのは有意義に使わなくてはならんからな。だからこういった大衆食堂というのも悪くは思わない。
「そう言えばメグ。お前、住むところは?」
「ありませんね。駆け出し冒険者とは、基本的に宿無しなものですよ」
「は、なるほどな。しかしメグ。この俺様は金持ちである。お前にも住むところを提供してやってもいいぞ?」
「本当ですか?………って、そう言えば最初にあった時宿を探していましたね」
「まぁな」
その後メグを宿に連れていき、彼女の分のチェックインを済ませておいた。
流石の俺様と言えど、軽い疲労感がある。1日で良くもまぁ適応したものだ。俺様の仕事ぶりに俺様が100円をやろう。
「それでは、キョウヤ。これからよろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそ。おやすみ、メグ」
その夜。
俺様は睡眠中にパッチリと目が覚めた。
トイレに起きただとか、小腹が空いただとか、そんなマヌケな事をする俺様ではない。
「曲者が!」
「!」
そう、侵入者が現れたのだ。もはや言うまでもない。金目当ての賊だろう。
腕を引っ掴み、後ろ手に締めあげる。もう片方の腕も掌を裏返すように伸ばし、あまり使えないようにする。
全く………。なぜ睡眠を阻害されなければならんのだ。
「おい。どうやって金の匂いを嗅ぎつけたか知らんが、俺様がいる限りこの金に手を出す事はさせんぞ」
「……………そこに入っているのはお金なの?」
「知らずに盗みを働こうとしたのか?その通りだ」
暗がりでよく見えなかったが、こうして近づいた事でその姿が見えた。
銀髪のショートヘア。小柄で、胸も小さい。
口元をマスクで覆っており、如何にも盗賊といった風体をしたその女に、俺様の脳細胞があるヒラメキをよこした。
「お前………ギルドで見たことがあるな。なんだ?冒険者の盗賊ってやつは、人様の物まで盗んでいくのか?」
「……………何の事かな?」
「ふん、知らないのなら教えてやる。盗みというのは、捕まった時点で終わりなのだ。今更隠しだてなど、意味がないと心得ろ」
「……………そう。私はクリスだよ」
「ふん、そうか。おいクリス。お前がなぜここに盗みに入ったかはどうでもいいので聞かんが、人相と名は覚えた。帰してやるが、この俺様に金を払うのだな」
今さら通報だのなんだの、そんな一般じみた事はしないが。この俺様に盗みを働こうとしたのだ。相応に金を払ってもらわなければな。
俺様がそう言うと、クリスと名乗った賊はキョトンとした顔で、
「……………帰してくれるって言うの?」
「当然だ。お前を捕まえてどっかの拘置所にぶち込んだ所で、一銭の得にもならん。クリスよ、お前が俺様に謝罪料として1万エリス払うなら、無罪放免にしてやろう」
答えは聞かず、クリスの身につけていたポーチから財布を抜き出し、1万エリス抜き出した。まぁ誰だって、捕まるくらいなら金を払うだろう。俺様が同じ状況ならそうするしな。
「確かに頂いた。では、夜が更ける迄には帰るのだぞ?深夜は危ないからな」
クリスを拘束していた手を緩め、解放する。
それで話は終わりだと、俺様はベッドに寝転がった。
「……………変な人だね」
「燕雀いずくんぞ、鴻鵠の志を知らんや。得てして大物というのは、そういうものだ。覚えておくといい」
「まぁ………感謝するよ」
クリスは入ってきた時と同様、窓から帰っていった。
それを確認してから、俺様は再度、深い眠りに落ちた…………。
「メグッ!今だ、撃てッ!」
俺様に注意を集め、1箇所にモンスターを固めた俺様はメグにそう呼びかけた。
「はい!『エクスプロージョン』ッ!」
慌ただしかった初日から1週間。
俺様とメグは、モンスターを何匹も狩りながら過ごしていた。俺様はレベルが5から12に上がり、メグは6から12に上がった。
スキルポイントも22溜まったので、そろそろ何かスキルを覚えるべきかと、俺様とメグは狩りの後、ギルドで話を始める。
「そうですね。キョウヤは今のままでも随分強いですけど、何かスキルを覚えれば、もっと強くなると思いますから。しかし、今のスキルポイントでは中級魔法程度までしか覚えられませんし、もう少し待つのもアリだと思いますよ」
「ふむ。メグがそう言うのならそうなのだろう。………頃合か」
「?キョウヤ、何か用事でもあるのですか?」
「あぁ、まぁな。前に話しただろう?爆裂魔法を覚える方法だ」
「目処が立ったのですか!?」
ずずい、とメグが俺様の顔に端正な顔を近づける。そんな無邪気なメグに向けて、俺様は特に慌てることもなく、不敵に笑い返してやる。
「ふはは、まぁな。俺様はレベリングだけしかしていなかったわけではない」
「キョウヤがこそこそ何かをしていたのは知っていましたが、遂に目処が立ったのですね!というか、その方法とは一体何なのですか?」
「興味があるのなら、メグも付いてくるか?」
「いいのですか?」
「あぁ、まぁ、構わんだろう。お前の事は信用しているからな」
俺様は食事によって動ける程度に生命力を取り戻したメグを連れて、俺様は宿の自室に入った。そして備え付けの金庫をガチャリと開ける。
その中身を見て、メグが驚愕の声を上げる。
「!?な、何ですかこれ!?」
「9999億9001万2030エリス……、まぁそんな所だ」
やはり、あまり稼げてはいないな………。宿代等の雑費がかさんでいる。メグの分まで面倒を見るとなると、日がなの稼ぎで漸くそれらを賄える程度になってしまうのだ。
まぁ、今はそれはいいだろう。
俺様はその金庫から金を少し取り出し、メグを引き連れてある場所へと向かう。
「キョウヤはなぜそんなにお金を持っているのですか?王族だって、あそこまでの資産は持っていないと思います」
「ふむ。ある人からさずけられてな………まぁ、メグよ。あまり触れないでくれると助かる」
「はぁ。しかしですねキョウヤ、あなたが何をしたいか、大体分かった気がしますよ」
「ほう?」
そう言えば、メグは魔力だけでなく、知力も高かったか。まぁ、魔力と違い、聡明なこの俺様には及ばなかったがな。
暫く歩いていると、目的地に着いた。町外れの森である。
「森、ですか?ここに何か用でも?」
「あぁ。ここで待ち合わせをしていてな」
「待ち合わせ?この森にはあの『初心者殺し』も含め、強力なモンスターや群れが多く生息しています。その待ち合わせをしている人は大丈夫なのですか?」
メグは少し心配気にそう言った。
初心者殺し。虎のような姿をしたモンスターだ。ゴブリンなど、群れを作る雑魚モンスターを狙って捕食する。相当高い知能を持っていて、自分の獲物を倒そうとする冒険者(雑魚狙いの、いわゆる冒険初心者だ)を積極的に狙う。
だから、初心者殺しという訳だ。
俺様とメグは、ゴブリン殺しのクエストでコイツに出くわした事がある。エクスプロージョンでゴブリンの群れをぶち殺し、メグの魔法はこういう時は便利だなと話しながら帰路についていた時だった。まぁ普通に考えて、レベル10未満(その時はな)の俺様と、魔法を使った後の役立たずのメグで勝てる相手ではなかった。
しかしだ。俺様は仕事柄、世界各地を回っていた事がある。アフリカの地方で、虎の1匹や2匹、出くわした事も一度や二度ではない。猛獣の一匹や二匹、対処するなどワケないことである。
1度手足の骨を峰打ちでへし折り、動けなくなった初心者殺しの口内に剣を差し込んで、そのまま中の器官をぐちゃぐちゃにかき混ぜてやった。
毛皮を一切傷つけなかった理由は、言うに及ばず、金のためである。売却額100万で売れた。素晴らしい。
「なに、心配することは無い。なぜなら―――――」
俺様がメグに説明しようとした、その時。
ガサガサと草むらが動き始めた。
「あ、居たっす居たっす!いやー、すみません、お待たせしましたっす!途中でっすね?誰かが呼び出したのか、それとも魔王軍から追い出されたのか知んないっすけど、デーモンに遭遇しちゃったんすよー!そいつぶち殺すのに時間掛かっちゃいまして!」
そう陽気に声を掛けてきた、その男は。
全身が血でまみれていた。
「きゃ、きゃあああああっ!?」
「……………すみません、取り乱しました」
「なに、構わん。この俺様だからこそ平静で居られたものの、普通の人間は血まみれの人間を見かけたら悲鳴の1つや2つあげるだろう」
「いやー、驚かせちゃったっすか?面目ないっす!」
「お前。大丈夫なのか?」
血まみれの男に俺様は問いかける。
「だーいじょうぶっす!これ殆ど返り血っす!」
「そうか。まぁ、そうだろうな」
ひと段落ついた所で、メグにその男を紹介してやる。
「メグ。こいつはロート。この街、アクセルに家を持つ商売人だ。商売人とは言っても、1箇所で販売しない、いわゆる『行商人』というヤツだ」
「初めましてっす!めぐみんさんっすね?ロートっす!」
「私の事は、既に聞いているのですね。しかし一応自己紹介しておきましょう」
すっかり調子を取り戻したメグは、バサッ、と身につけたローブを翻し、額に手を当てるポーズをとった。
「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を愛するもの!」
ドヤァ。そんな擬音が聞こえそうな表情のメグに対して、ロートは朗らかな顔を崩さず、
「カッコイイっすねぇ!紅魔族の人は面白い人が多いっす!」
「ふふ………分かっているじゃないですか」
ちょろいぞ、メグ。面白い(笑)であることに気づかなくてはいけない。
自己紹介も終わった所で。俺様は本題に入ることにした。
「それで、ロートよ。例の物はちゃんと持ってきたか?」
「もちろんっすよ!ミツルギさんこそ、ちゃんと持ってきてるっすよね?」
「ふっ、金稼ぎが絡むならともかく、俺様は取引には忠実だぞ?」
「それなら良かったっす。いやぁ、コレを守りながら倒すの、大変だったんすよー?」
そう言ってロートは、背負っていた特大なリュックサックを降ろして爽やかに笑う。
「ちょ、ちょっと待ってくださいキョウヤ。そのリュックに何が入っているかは大体察しがつくのですが。デーモンなんて強力なモンスター、どうやって撃退したのですか?冒険者でもないのに………」
「うん?あぁ、説明しそびれていたな…………」
初対面のショックが強すぎた。
「行商人とは、様々な街を渡り歩く職業だ。商品が売れて馬車を使えれば良いが、売れなくては、街と街のモンスターがひしめく道中すらも切り開かなくてはならない。冒険者カードこそ持っていないが、こいつはかなりの手練だぞ?」
「いやぁ、照れるっす」
「………は、はぁ……。そうなんですか」
「あぁ。そんなコイツに頼んでいたのは、様々な街を渡り歩き、ある物を各街から買い集めて貰うことだ」
チラッと、ロートに目配せする。
ロートはリュックサックから、どでかいトランクを持ち出し、それを開けた。
「なるほど……………やはりその『ある物』というのが…………スキルアップポーションなのですね?」
スキルアップポーション100個。
大量の青い瓶が、ロートの持つトランクには敷き詰められていた。
「……………ゴクリ」
そーっと、メグがスキルアップポーションに手を伸ばす。
「あっ、ダメっすよ、めぐみんさん。まだミツルギさんとの取引は終わってませんからー」
「そもそもメグよ。それは俺様のものであって、お前のものではないしな」
「……あ、あぅぅ………わ、分かってますよ」
「ならいいがな。…………ほら、ロート。約束の金だ」
懐から、金庫から取り出した金を入れた袋を取り出した。
それをロートに手渡す。
「スキルアップポーション代1億、移動費1千万、報酬1千万―――合わせて1億2千万。確認してくれ」
「――――――――確かに。頂いたっす」
ロートは中身をチエックしてからそう言った。
俺様がなぜ、自分の足でスキルアップポーションを集めなかったのか。それには理由がある。
馬車というのがこの世界での一般的な長距離移動方法なのだが、それでは時間がかかり過ぎる。
大体、1つの街でそういったものを売っているのは10つほど。アクセルの街の分を合わせて10個の街を渡らなければならない。かなりの時間がかかるの確かだった。
しかし――――流石は魔法のある世界。
『テレポート』。それで移動を担ってくれる業者があったのだ。
1度使うのに100万と高額だったが。
しかしよく知らん街で、そういった特定の業者を探すのは難しい。
そこで、様々な街を訪れており、人脈も広い行商人のロートの出番だったという訳だ。
「なら、コレで取引は成立っす。いやぁ、いい取引だったっすねぇ」
ロートはそれ以上やることは無いとばかりに、そそくさと帰って行こうとした。
「あぁ。ロート。俺様は建前や前説は嫌いだが。しかし、狡猾な所を好青年の仮面で覆い隠すお前のやり方は、嫌いではないぞ」
「……はは。言いがかりはよして欲しいっす、と言いたいけど。僕は正しい事は否定したくないんだよねぇ」
「はははっ!また会えると良いな、ロートよ」
「はっはー、僕もそう思うっす!それじゃあ、また会いましょうっす、ミツルギさん!」
ニッコリ、と笑って、ロートは歩いて行った。
大枚をはたいてしまったがまぁ、メグの反応を見るに、あのスキルアップポーションは本物だろう。問題はなさそうだ。
さて………これで残額9998億7000万2030エリス、か。流石の俺様と言えど、ここまで一気に金を手に入れたことは無いからか知らないが、金を安易に使いすぎているようにも感じるな。
一兆円を稼いだこの俺様と言えど、6歳頃から18歳までの、12年間の間に稼いだ金額というだけだ。一挙に手に入れた訳では無い。
「キョウヤ?どうかしたので?」
「あぁ、いや、何でもない。帰るぞ、メグ」
「?あぁ、はい。分かりました」
メグを引き連れ、1度宿へと戻る。
さてさて…………ま、1度遊んでみようか。
バカ火力、しかし1度使ったら動けなくなる。
そんな燃費最悪のネタ魔法………習得してみるのも一興だろう。
そして俺様は再度、森に立っていた。
目の前には、ガルル、と唸る初心者殺し。
近くの平原から来たのだろうか。近くにジャイアントトードが群れをなしているから、それ目当てだろう。そもそもまずはそれに撃ってみようと思っていたのだが、まぁコイツでもいいだろう。
さぁ―――――試しだ。
「『エクスプロージョン』――――!」
轟音。それが鳴り響くと、木の上で囀る小鳥達は慌ててバサバサと飛びさり、木々は衝撃波で枝をざわざわ震わせた。強い風が髪を靡かせ、気を抜けば吹き飛ばされそうだ。
漸くそれが収まると、後にはただ破壊の爪痕が残されているだけだった。
「――――――ふふっ。どうです?キョウヤ。あなたにも爆裂魔法の魅力、分かったんじゃないですか?」
ニヤリと笑いながら、メグは言う。
圧倒的な破壊。ゆらゆらと舞う土煙が、それを証明しているように見えた。それを自分が生み出した事に、筆舌に尽くし難い感動を、不覚にも覚えてしまう。
爆裂魔法。人類最強の攻撃手段、か。
ふん。
なかなか悪くないじゃないか。
「なるほど。メグが入れ込むのも、分からないでもない――――な……?」
「キョウヤ?」
メグに歩み寄ろうとすると、体が急激に重くなり、体に力が殆ど入らなくないことに気付いた。
くそ………やばいな、これは………。
余りの辛さに耐えかね、片膝をつく。
「ちょっとキョウヤ!だ、大丈夫ですか!?」
そんな心配の声にすら、返すことが億劫だった。
やれやれ―――――柄にもなく、ロマンの追求など、するものでは無かったか………?