この凄まじい金欲者に祝福を!   作:ホイル焼き@鮭

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よろしくお願いします。
こちらは気分転換のサブ小説なので、更新は遅いです。
ご了承願います。


1.この金の亡者に次なる生を!

 

 

 

ある日。

俺様こと、御剣響夜は奇妙な所に居た。

辺り一面真っ暗で、灯りという灯りが見当たらない。もしかしたらこれが、天国とやらなのかも知れなかった。

なんとも味気ないものだ。

 

そうだ。俺様は死んだのだった。

 

どういう死に方だったかと言うと、背後からナイフで首を一切りだった。俗に言う暗殺というものだ。それも仕方ないのかも知れない。

何せ、俺様は金持ちの生まれ。いや、生まれじゃない。家自体は貧乏だったな。

俺様が稼いだおかげで金持ちになったんだった。ざっと俺様が稼いだ額というと、まぁ1兆は下らないだろう。まぁその分、使った額もなかなかだが。

 

商売で儲けたこともある。

盗みで儲けたこともある。闘いで稼いだこともある。詐欺で稼いだこともある。

 

なぜそこまでしてまで金を稼ぐのかと、俺様の友人は聞いた。

 

だって、金さえあれば何でもできるだろう。

 

金のためなら何をやってもいい。金金金金金金金金金金金金金金。金バンザイだ。

死んだみたいだが、あんなに金を稼いだ俺様のことだ。誰がどう考えたって、天国ゆきに決まってるだろう。だからここは天国だ。

ふむ。天国とはただの真っ暗闇だったという論文で、小金の一つや二つ、稼げるやもしれない。良し、急いで戻らなければ。

 

というかさすがの俺様でも、この状況はよく分からんな。ふむむ。なんか、イベント的な何かが起こらなければ、金が稼げないではないか。金が稼げない俺様など俺様ではない。なのでイベント、早くしろ。

 

「ようこそ、死後の世界へ御剣響夜さん。ついさっきあなたは死にました」

 

ふと周囲が明るくなり、水色の髪の女が現れてそう言った。

 

「遅い!いつまで待たせる!」

 

一喝してやった。

 

「え、ええ!?な、なにいきなり!?」

「いや、悪い。金が稼げない事に絶望していた所だったのでな。それで、あんたは?あれか?女神とかいうあれか?」

「ええ、そうよ?私の名はアクア。水を司る女神です」

「そうか。それでアクアよ。今から俺様はどこに行くんだ?死んだ後の世界について、人間様は詳しくなくてな。ちゃっちゃと教えろ、女神」

「……何でそんなに偉そうなのかしら。まぁいいわ。死因は分かってるみたいだしー」

 

怒りに荒れ狂っていた時は気づかなかったが、目の前の女神は美しかった。薄紫色の羽衣、美しい水色のロングヘア。そうだな、見物料として100円やってもいいくらいだ。

大事なことに気がついた。金がない。

まぁあれか。普通死後の世界に元の世界の金とか持ち込んでも意味なさそうではある。ならいい。あっちの世界で金を稼げば済む話だ。

 

「それで、御剣響夜さん。あなたには二つの選択肢があります。生まれ変わって赤ちゃんとしてやり直すか、天国的な所に行っておじいちゃん的な暮らしをするか」

「……………」

 

数多の手段で金を稼いだ俺様の眼は、目の前の女がそうして欲しいように思っているとは思えなかった。商いには、こういった心理を読むことも非常に重要な点になる。それくらい分かった。

 

「要望があるなら、ちゃっちゃとそれを話せばどうだ?建前だとか前説だとか、俺様はそういうのが大ッ嫌いなんだ」

「……流石ですね、小学生の頃から金を稼ぎ始め、数多の才覚で1兆円を稼ぎあげた資産家、御剣響夜さん」

「よせよ、照れるだろう。

とかなんだの言って道化を演じるのも、金を稼ぐには重要だ。覚えておくといい」

 

やはり本音ではなく、面倒だったのだろう。アクアは少し嬉しそうな顔で喋り始めた。

 

「まぁ頭のいいあなたならわかると思うからざっくり言うわね?」

 

アクアはどこからかフリップを取り出し、そこにマジックで書き込みを始めた。ふむ、わかりやすくて結構。お前の仕事ぶりにも100円やっていい。

 

「・魔王に攻められてる世界があって。

・そこで生まれた人が転生を拒否して

・だったら他の世界で死んだ人送ろう

・すぐ死んでもアレだし、なんか一つだけ、好きなもの持っていかせて上げよう」

 

とのことだった。

 

「なるほど、わかりやすくていいな」

「理解出来たかしら?じゃあ、さっさと持っていくもの決めてちょうだい?」

 

まだ行くとは誰も言ってない。

言っていないが…………概ね転生というのは、記憶を無くすのがセオリーだ。赤子になってやり直すのはない。かといって天国になぞ行っても、死のスリルもない世界じゃ退屈で泣きそうだ。

よって可決。

という事で、何を持っていくかを決めろ、という事だが。

 

「アクアよ。何でもいいのか?」

「えぇ。好きに決めてちょうだい?」

「ふん。アクア、あっちの世界の金の単位は?」

「………エリスよ」

 

なんだか苦虫を噛み潰したような苦悶の表情を浮かべていたアクアだったが、構わず俺様は質問を続ける。

 

「額ごとの単位は?万だとか億だとか、千だとか兆だとかは?」

「全部日本と一緒よ。…………変なこと気にするわね」

「ならアクア。俺の答えは一つだ」

「なになに?決まったなら早くして?」

 

「俺様が持っていくものは、1兆エリスだ」

 

俺様がそう答えると、アクアは一瞬惚けたような表情をして―――――可笑しそうに笑った。

 

「………………クスクス!あなた、やっぱりおかしな人だわ」

「この世は金がすべて。他の世でも同じさ」

 

俺様の元に、どでかいトランクがいくつも落ちてきた。エリスとやらは、どうにも全てコインらしい。持ち運びも少しは楽そうだ。

そして俺様の足元に、青い魔法陣が現れる。

そしてさっきまでのけだるい表情を少し楽しそうに変化させ、言葉を紡ぎ出した。

 

「御剣響夜さん。あなたをこれから異世界へと送ります。魔王を倒した暁には、神々から贈り物をさずけましょう」

 

「そう、世界を救った偉業に見合った贈り物。……たとえどんな願いでも。たった一つだけ、叶えて差し上げましょう」

「黙れ駄女神。俺様は前説が大嫌いだと言っただろうが」

 

耳を塞ぐ。

 

「え、せっかくのカッコイイ台詞なんだから、聞いてよーっ!」

 

知ったことではない。

 

「じゃあな、駄女神。お前はなかなか、変な奴で面白かったさ」

 

俺様の体が明るい光に包まれた。

 

 

 

 

 

という事で転生した。しかし見た目は変わらなかった。俺様の服はこれでも金持ちなので、まぁまぁ高めな服なのだが。この異世界においては浮いてるような気もするな。

異世界らしく、周囲は異世界だった。

まぁ俺様の場合、異世界に興味があった訳では無いのでどーでもいい。そんな事より、この持っている金をどうするかだ。

 

「良し。まずはこの金を埋めるか」

 

大量すぎて持ち運びがきかなすぎる。

誰もいない秘境に持っていって埋めることにした。

ひとまず、ざっと1千万位を持ち運びできそうだったので持って、それ以外を埋めておく。

 

「まずは宿を探すか。あと金庫。若しくは家」

 

街に戻ってきた。誰かに話を聞いて、宿らしき場所を探そう。

 

「すまない。ちょっと良いだろうか」

「はい?何ですか?私は今から出掛ける所なのですが」

 

魔法使いらしきロリっ子に声を掛けた。

 

「なに、そこまで時間は取らせない。宿を教えて欲しいのだ。……………あとは、一応ギルドもな」

「はぁ。宿ならあっち、ギルドなら私が来た方を真っ直ぐです」

「ありがとう。助かった」

 

素直に俺様が礼を言うと、何故こんなに胡散臭いのだろう。甚だ疑問だ。

 

「別に構いませんが」

 

そう言ってロリっ子は、どこかへと歩いていった。どうでもいいので、一先ず宿に寄ってみることに。

意外と現代と仕組みは変わらなかった。早めにチェックインして、部屋を借りる。

この宿には、個室に金庫がある様だ。やったぜ。

トランクから全部出せば、あらかた入りそうだ。なので1度秘境に戻り、金を引っ張り出してくる。それを再度宿に戻り、金庫へとぶち込む。後は継続的に金を払えばここで暮らせるだろう。食事も自動で出るはずだ。

という事で。これで金の安全の問題はクリア。後は…………そうだな。せっかくだ、今までやったことのない方法で稼ぐのも一興かも知れない。

 

俺様は冒険者ギルドに寄っていくことにした。

なるほどなるほど、中は酒場が併設されている様で、なんか酔った連中がわんさかいた。

ウェイトレスの勧めに従い、奥のカウンターに行く。そこで冒険者として登録出来るとのこと。

 

「いらっしゃいませ!何の御用でしょうか?」

「冒険者として登録したい」

「なるほどー。登録料として千エリスかかりますが?」

「あぁ」

 

先ほどチェックインした時に出来た小銭で、千エリス払う。

 

「承りましたー。それではこちらに身長などの必要事項をお書きください」

 

サラサラと書いて、受付嬢に差し出す。

 

「はい、ありがとうございますー。それでは、こちらのカードに手を触れて下さい。筋力や魔力など、あなたのステータスが分かりますので、それに応じて職業を選択してください」

 

言われるがままに、身分証の様な形をしたカードに手を触れる。

そしてそれを受付嬢に渡す。

 

「はい。えー、ミツルギキョウヤさん、ですね。……………はっ?はぁぁ!?むぐっ」

「声が大きいぞ、受付。俺様は目立つのは嫌いだ」

 

なんだか嫌な予感がしたが。案の定だ。

 

「す、すみません……!筋力、生命力、魔力に器用度、敏捷性、知力!どれも高水準です!幸運が普通程度ですが、これならどの職にもつけますよ!」

 

まぁ、ある種当然か。

筋力?俺様がボクシングでどれだけのファイトマネーを稼いだと思ってる?

生命力?ヘビー級のボクサーに何度どつかれたと思ってる?器用度?金を稼ぐためには、何もかもをこなさなければならないのだぞ?敏捷性?フットワークが軽くなくて、どうやってスポーツで稼ぐ?知力?頭が良くなければ、商売は出来ん!

 

まぁ魔力に関しては知らんが。何せ俺様は頭がいいが、流石に元の世界にないことには詳しくはないからな。

 

「冒険者、盗賊、プリースト、アークプリースト、クルセイダー、ナイト、ルーンナイト、ソードマスター、ウィザード、アークウィザード………か」

 

まぁあれか。アークの方が位が高く、なんかカッコイイ二つ名みたいなのが上級職なのだろう。プリーストはつまり、僧侶か。ウィザードはそのまま魔法使いだろう。

今までやった事のないこと…………。

 

初期職の冒険者はないだろう。盗賊もやった事がある。僧侶とやらはやった事がないが。回復というのもガラではないだろう。剣も、一通りの技術は既に習得している。

魔法使いなどあるはずも無い……………。

 

「よし。まぁものは試しだ。アークウィザードにしようか」

「はい!アークウィザードですね!攻撃に優れ、前線でも後衛でも戦える万能職ですよ!」

 

受付嬢は興奮した様子で、最後に締めくくった。

 

「冒険者ギルドにようこそ、キョウヤ様。今後の活躍を期待しております!」

 

 

 

 

「ふむ。買いで」

「ありがとうございます!またいらしてください!」

「あぁ、分かった」

 

「これも。買いで」

「ありがとうございまーす!」

 

「これも。これもこれもこれもこれもこれも」

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、ありがとうございまーす!」

 

いま、俺様が何をしているか気になっているだろう?教えてやる。金を払え。

とまぁそれは冗談だ。ただ中国人観光客など目ではない位の爆買いをしているだけだ。

武器屋に寄ってはその店で売っている1番いい剣を買い。

防具屋に寄っては、ベストだのレザーだの、アクセサリー等の一番いいものを買い。

雑貨屋によっては、傷薬だの解毒剤だの、その他もろもろを買い。

ローブだとか杖だとか、魔力を高めるものも買った。

そうするまでに使った総額、実に1千万。

バカみたいに使ったと思うかもしれない。しかしよく考えろ。

俺の総資産の10万分の一だろうが。お前ら、100000円持ってる時に一円なくしたからって、それを憂いたりするのか?1円が最強装備に変わったのなら、誰がどう見てもリーズナブルだ。

 

まぁ得てして武器屋で買えるものなど、一番良いものでも微妙だったりするものだが。それでも100万やそこらする武器なら、そこそこの働きが期待できるだろう。良くある、ジョブごとに装備できる武器が決まっている訳では無いらしい。まぁこの世界はゲームではないのだ。装備できないわけもあるまい。

 

「という事で。一先ず、仕事を受けてみるとするか」

 

ギルドに寄って、レベル一の雑魚な現在の俺様でもやれそうな辺りを調べてみることにした。

ジャイアントトード10匹討伐。報酬10万エリス。

繁殖したアダマンタイタイの駆除。報酬5万エリス。

野生動物の駆除。報酬10万エリス。

まぁこの辺りか………。

 

「おや、あなたは先程の」

「ん?…………」

 

誰だろうか。後ろを振り返る。

そこに居たのは、かなり前にお世話になった魔法使いロリっ子だった。

 

「あぁ、お前か。久しぶりだな」

「あなたも冒険者だったんですね」

 

と言うと彼女は、いきなり額に手を当て、中二くさいポーズを取り始めた。

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操るもの!」

 

なんだこいつ。中二か。

しかし。中二は痛い子だが、それが美少女なら、ある程度の中和反応が起こるのだ。その点も含め、美人は得だな。

ふと金持ちの男の資産をぶんどる為に、女装して近づいた思い出が頭によぎった。美人は金になるよな……。

 

「めぐみんだって?何だそれは。あだ名か何かか?」

「本名です」

「めぐみんが本名か………可哀想に。俺様はキョウヤだ。ミツルギキョウヤ」

「キョウヤですね。その姿を見るに、ナイトですか?」

 

俺様の今の装備は長剣だった。まぁそう見えても仕方ないだろうな。

 

「一応、職としてはアークウィザードだ」

「ほほう。私と同じですね」

「そうみたいだな」

 

…………しかし。この世界での常識がまだ無いのが困りどころだな………。誰か案内役のようなものがいなければ、危険なような気もする。

ふと、目の前の少女を見やる。ふむ。

ここは異世界で、ギルドだ。いわゆる『パーティ』というのが組めるはず。

 

「めぐみん…………はないか。メグでいいか、そっちの方が可愛い」

「なんか変なあだ名ですね。キョウヤがそう呼びたいならいいですが」

 

メグが変な扱い…………。まぁ、めぐみんが本名なら扱いとしてはそうかもしれんな。

 

「メグ。実は俺様は遠い遠い国から来てな。あまりこの辺りには詳しくないのだ。という事で、俺様とパーティを組んでくれると助かるのだが…………どうだろうか?」

「いいですよ。私も1人なので」

 

たらららったらー。めぐみんが仲間になった。

 

「良し。じゃあ今からコレを受けるから、一緒に来てくれ、メグ」

「えぇ。行きましょう」

 

クエスト:ジャイアントトードを10匹討伐せよ。

 

 

 

「アレがジャイアントトードか………」

 

少し遠くの方でげこげこ鳴いている蛙を見ながら、俺様はそう洩らした。

 

「えぇ。山羊や小さな子供なら丸呑みに出来る巨躯を持ち、皮膚が柔らかく、魔法の類が効きづらいです。打撃も効きづらいです」

「なるほど」

「私の魔法には詠唱に時間がかかります。キョウヤはその分の時間稼ぎをお願いします」

「分かった。よろしく頼むぞ、メグ」

「任せてください」

 

長剣を引き抜き、ジャイアントトードのいる方向へと向かう。

巨躯に見合わぬ俊敏な速度で、俺様の方へと走ってきた。そして俺様の目の前へと着くと、その口を大きく開き、俺様を丸呑みしようとしてくる。

その攻撃を半身になって躱し、がら空きの背中に回り込み、上段から袈裟斬りする。

ジャイアントトードは血を撒いて動かなくなった。

 

案外に弱い。これなら余裕か。まぁ俺様だしな。打撃に強いと言っていたが、まぁこの剣はレプリカでは無いのだ。模造刀ならまだしも、真剣で切り殺せない訳もない。

 

ジャイアントトードの群れを見つける。こちらに気づく前に近づき、1匹目の首筋を横薙ぎに切り捨てる。振りかぶった流れで回転し、左手に持ち直し、2匹目を。流石に気づかれた。

ドスドスと音を立てながら、俺様の体へと飛び乗ろうとしてくる。

 

「ふん…………たわけが!」

 

ジャイアントトードの浮いた距離の少し上を飛ぶ。そうする事で飛び乗りを躱し、落下すると同時に長剣を頭に突き刺す。三匹目。

残った1匹は果敢にも、舌で俺様の体を絡みとろうとした。後ろに衝撃を流すように剣で舌を受け流し、空中に跳び、頭をかかと落としで蹴る。怯んだスキに首筋を切り捨て、4匹目を仕留めた。

 

すると、ジャイアントトードの群れが、地面からもこりと顔を出した。四匹もいる。

倒すことは可能そうだったが、メグの魔法の準備が完了したようだったので、メグにそいつらを任せることにした。

 

「メグ!あっちの群れを狙え!」

「分かってますよ。見ててくださいキョウヤ。これが人類最強の攻撃魔法―――爆裂魔法です!」

 

メグが杖を天に掲げ、その杖先から赤色の閃光が現れる。

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

天にその閃光が吸い込まれると、雲は割れ、数々の魔法陣を作り出しながらジャイアントトードの群れへと光線を放った。

するとどうだ。カエルの巨躯は爆裂四散し、跡形もなく消えていってしまった。後には20mはゆうに超えるクレーターが作られている………。

 

「excellent。凄いもんだ」

 

金を稼ぐ事ばかり考える俺様ではあるが、それはもちろん使うために集めているのだ。そして俺様はよく金持ちが使う時計だの服だの女だのに興味はない。

なら何に興味あるか?

実はゲームとかその辺のオタク系だったりする。ソーシャルゲームにも手を出している。ほぼ全てといっても過言ではないくらいの量のゲームを極めた。

まぁ金があればこんなもんだ。

案外俗物めいてるが、まぁ同じ人間だ、趣味は大して変わるまいて。

金を稼ぐことが趣味と言ってもいいがな。

 

というか話が横道に逸れてしまったな。つまり、俺様は俺様でこういった派手なファンタジーを目の当たりにすれば、素直に賞賛の一つや二つ洩らしてしまうという事だ。

 

「っと………」

 

さっきの衝撃で起こしてしまった様で、ジャイアントトードが2匹、メグの近くの地中から顔を出した。

 

「メグ!一旦離れろ!…………ん!?」

 

メグに大声で呼びかけると、何故か彼女が地面に倒れていることに気がついた。何をやっているのだ………!

 

「はぁぁっ!」

 

1匹のジャイアントトードの背に向かって飛び乗り、頭を長剣で一刺し。全身の筋力が切れる前に足場にしてもう1匹の方に飛び移り、首筋を削ぎ落とす。2匹のジャイアントトードがドスリ、と地面に倒れる。

 

「全く。何をやっているのだ、メグ。そんな所で寝ると、喰われるぞ?」

「……………爆裂魔法は最強魔法。威力の高さに応じて、消費魔力もケタ違いに多いのです。1回撃った後は1歩も動けません」

 

ばったりと倒れ伏しながら、メグはそう言った。なんだその使い勝手の最悪な魔法は。存在する意味があるのか?

しかし、なぜメグが1人だったかの納得がついた。アークウィザードという上級職に就いていながら、なぜ誰も彼女を拾わないのか、甚だ疑問だったのだが…………。

 

なるほど。こんな奴、拾うわけがないわな。

まぁ、全能の俺様の事だ。お荷物になりかねん奴の一人や二人、抱えることくらいわけないだろう。

 

「なるほど。それは使い場所を考えねばならんな。ならメグ、一つ聞くが、他の魔法は使えるのか?」

「……………使えません」

「そうか。それは尚更考えねばならんな。良し、とりあえず行くぞメグ」

「……………私を捨てないのですか?」

「ん?なぜそんな事を聞く」

「いつもそうでしたから。最初は皆さん、歓迎してくれますが。私が爆裂魔法しか使えないと知ると、すぐに捨てていきます」

 

そう言ったメグは、少し寂しそうに見えた。

ふむ。こういった心理的弱点を突く事も、相手を脅す上ではとても大事だが…………。

まぁ、金にならん奴の弱点を突く必要もあるまいよ。

 

「そうか。残念だが、俺様は金稼ぎ以外の事には意外とものぐさでな。今更新しいパーティメンバーを見つけるのも面倒なのだ」

 

本当に1歩も動けないらしいメグを、両腕で抱き上げる。羽のように軽かった。まぁ俺様だからな。

 

「……………変な人です」クスッ

 

変な人とは失礼な事を言う。

俺様とメグは街への帰路を急ぐことにした。

その途中。

 

「おっと………ジャイアントトードか。クエスト外だが、まぁ構わんだろう。狙われている様だしな。メグ、悪いが少し降ろすぞ」

「はい。分かりました」

 

メグを降ろし、長剣を引き抜く。

そしてジャイアントトードへと走るのだが、先程よりも体が軽いことに気がついた。

ふむ?これがレベルアップとやらだろうか。

なるほど。さらに俺様のスペックは上がったらしい。

 

姿勢を低くし、足元を切りつける。足に力が入らなくなり、ジャイアントトードは思い切り前へとすっ転んだ。そうして無防備に晒されたうなじを切りつける。首をよく狙うのは急所で、1番伝達系を阻害できる場所だからだ。

 

「ふん…………こんなものか。悪いメグ、待たせたな…………って」

 

メグが元いた場所を振り返ると。

地中から這い出たらしいジャイアントトードの姿が見えた。ご丁寧にも、ぴくぴくと動く黒ブーツをのぞかせて。

 

「………何を喰われておるのだ、お前はぁぁぁぁっ!!」

 

俺様の前途は、かなり多難らしい。

ジャイアントトードをぶち殺し、粘液まみれで生臭いメグを片手で掴みながら帰ることになった。

 

 

 

 


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