幼女ルーデル戦記   作:com211

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6:近接制空

先程、ド・ルーゴが転生者である可能性を考えたが

よくよく考えたらその可能性は低い。

 

一つは、今回の機動戦に用いている師団編成。

報告によれば「騎兵主体だが自動車や戦車がいる」ということだった。

しかし、ド・ゴールが求めていたのは機甲師団であり、騎兵ではない。

 

仮にド・ゴールの転生者であれば、この"似て非なる世界"でもっと高い地位に立てるよう振る舞い、

完璧な根回しの下、完全な機甲師団を求めるはずである。

 

だが現実として、出てきたのは中途半端な戦車旅団付き半自動車化騎兵師団。

「機械化した歩兵及び騎兵を戦車部隊に付随させ、更に火力的な支援を行う野砲も機械化、自走化する必要がある」

と主張したのは他の誰でもないド・ゴール自身だったはずだ。

 

この主張を実現できなかった結果としてフランスは歴史的大敗に至り、

それを見届けておきながら実行していないはずがない。

 

 

 

この前提により、可能性は2つ

一つはド・ルーゴが転生者ではないパターン

発案者は不明ながら戦車を用いた機動戦を思いついた奴が居て実行されたが、

何かしらの都合で機甲師団に騎兵を混ぜる他なかった。という可能性。

 

もう一つはド・ルーゴがド・ゴールの転生者であったとしても、

機甲師団を編成するほどの立場と地位を確保できなかった場合。

結果として、どちらだったとしても現時点ではあまり脅威にはならない。

 

但し、ド・ゴールは戦後フランス大統領として核兵器の自国開発自国保有を推進した男だ。

もしド・ルーゴがド・ゴールの転生者であればその点において非常に不味い。

詳細な技術情報は持ち合わせてないだろうが、

基本的な知識があるだけでも核開発が早まることは間違いない。

 

現行の技術で可能かどうかは不明ながら、

原子爆弾自体は「ガン(Gun)バレル(Barrel)(銃身)式」構造を採用すれば簡単に作れてしまう。

――今考えても仕方がない。ただ奴はそういう点において要注意なのは間違いない。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

1923年8月24日 ロンセ郊外

 

フランソワ共和国陸軍 低地方面軍団 第三魔導大隊

大隊長 シャルル・ナンジェッセ少佐

 

大隊は地上部隊より少し先行し、更に少数の偵察を前に出していた。

敵魔導師襲来を早く感知することで地上部隊への損害を最小限に抑えるためである。

 

「大隊長から全隊へ。もうそろそろ敵の迎撃が上がってくる頃だ。

魔力感知は不完全だということを覚えておけ。目を見開いてよく探せ」

 

『第2班から大隊へ、ブリュッセル方面から敵魔導師を捕捉。数は2、低空を非常に高速で飛行しており追いつけない』

先行させていた偵察班が敵魔導師を捕捉。

 

 

『大隊本部了解』

「全隊聞いた通りだ。噂の新型宝珠の可能性がある。注意しておけ」

 

この共和国が認識している"新型宝珠"、実はエレニウム九五式のことではない。

九五式と並ぶほどの高速性能を持つ九一式装備のハンナ・ルーデルのことである。

 

ハンナは北方においてもその高速性能、上昇、高高度、高速旋回性能により敵を圧倒し一方的に蹂躙。

そこにポツダムにおける九五式開発の噂が混ざって"あれは新型宝珠を装備したテストパイロットである"と誤認されたのである。

 

それを装備しているのが初等教育を受けているはずの年齢の少女だとか、

既存の宝珠と見た目が変わってないとかいう情報は殆ど戻らなかった。

 

何せ前線でハンナを見た者がほぼ撃墜、死亡しているか

正常に記憶するだけの精神的余裕が無い状態であるか。どちらかだったからであり、

共和国の観戦武官がそこから生まれた新型宝珠に関する推測を真に受け、

情報が本国まで届いてしまった形になる。

 

「敵視認!距離8000!速力300!低空でまっすぐこちらに向かってきます!」

「よし全隊! よく狙え! あれに接近されるな!」

 

ナンジェッセ少佐は直進で突っ込んでくる敵魔導師に共和国軍魔導部隊の制式装備であるMAS-22を向け、

銃に固定されているテレスコピックサイトを覗き込んだ。

 

高速域においては長距離射撃を受けたら回避は困難。

それが既存の航空魔導師の常識。

 

ナンジェッセ少佐もその常識を信じ、銃を構えていた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

協商連合軍はあの"新型宝珠"に何度も奇襲を受け、多大なる損害を被っていた。

そしてあの"新型宝珠"を装備した魔導師は近接制空戦闘に特化しているとも聞いていた。

対策として、事前に捕捉し大隊で長距離射撃をすれば撃墜できると考えたのである。

 

実際、共和国の宝珠及び補助具は長距離射撃戦に特化して設計されている。

"騎馬"スタイルの補助具はそのためのものだ。

この構造であれば非常に高い安定性を確保できる。

さらに長距離射撃時に"馬”の頭に当たる部分にハンドガードを載せることで安定した狙撃を可能にする。

 

当然、共和国の魔導師部隊の基本的な戦闘術は長距離射撃によるものになる。

そして現在の魔導制空戦は長距離射撃を主体としたもの。

更に言えば、高い安定性ゆえに訓練期間を短くすることができるというすぐれものだ。

 

この騎馬型補助具は、"今のところ"は理に適っている。

 

欠点として、高い安定性を求めすぎたがゆえに飛行中の姿勢変更がほぼ不可能となり、

宙返りなどしようものなら補助具から外れて地面に真っ逆さま。

当然固定具を付けることもできるが、補助具が重く、逆転時制御が不可能なために、上下逆さまにした状態では飛行を維持できない。

これらの点は連合王国で主流の"箒"型にも同様のことが言える。

 

対して帝国の"前掛け"型や協商連合の"スキー"型などは射角も広く、宙返りも容易にできる。

その代償として制御が難しく、訓練期間が長くなる傾向にある。

姿勢を安定させられなければ戦場に出る前に墜落して死亡する事も珍しくない。

 

その代わり、自由な飛行姿勢、機動性、さらに小さい被弾面積という利点がある。

特に帝国の"前掛け"型は現在存在する宝珠補助具の中で最も飛行姿勢の自由度が高く、

共和国及び連合王国のものと比較して近接制空戦闘を得意とする。

 

1923年現在、魔導制空戦闘の主体は長距離射撃戦であり、殆どの魔導師がそのように訓練を受けるが、

以前から宝珠の高性能化、高速化によって次第に近接戦闘へ移行していくという予想があった。

 

1920年の段階で、

共和国と連合王国では近接制空への移行にはまだ早いと判断し前述の宝珠および補助具を開発。

一方の帝国と協商連合は接近制空への移行を考慮して新たに開発した。

 

しかし、その帝国であっても接近制空戦闘は未知の領域であり、戦術が確立されていなかったのである

1922年までの段階でも暗中模索という状態だったところに

突然、接近制空戦闘の天才が現れた。ハンナ・ルーデルである。

 

彼女は士官学校で近接制空戦闘で圧倒的な実力を見せつけ、

更に北方国境地域における研修で単独で一個中隊と交戦、近接戦闘でこれを壊滅させた。

 

それが軍令部直下の戦技教導隊の知るところとなり、人事局に圧力をかけた。

彼女の飛び方を研究すれば近接戦闘において他国を圧倒できるはずであるから、

戦技教導隊に配属させろと。

 

だが彼女は戦技教導隊への配属を拒否した。他人に教えられるものではない。不可能だと。

結果として、人事局は彼女を戦技教導隊に配属させるのではなく、

戦技教導隊から彼女の下に研修に出すという本来なら到底あり得ない選択をしたのである。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

「見つかったみたいだな。射程に入ったらすぐ撃ってくるぞ」

ハンナが高速飛行をしながら単眼鏡を覗き、敵魔導師に捕捉されたことを告げた。

――また妙な飛び方を覚えたな…

 

「どうするターニャ、減速するか?」

常識であれば、このような高速飛行中に射撃を受ければ回避運動は取れない。

エレニウム九五式でもそれは変わらない。

 

「空力制御を使えば、回避できる…んだったな」

 

「少なくとも北方では速度400でもロール回避ができた。ターニャができるかどうかは分からない」

私もハンナから教わったため、多少であれば空力制御飛行ができる。

だがまだ実戦で使ったことがない。

 

 

「…このままだ」

「分かった。速度を維持して突っ込む。

撃ってきた瞬間にそれぞれ左右に回避しあとは各自弾幕を突破。

敵の弾を全部避けるか防殻で防ぎ切り、接近したらその時点で勝ちだ」

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

照準器越しの敵魔導師は狙われているというのに全く減速せず、

むしろ加速しているように見えていた。

「私の号令で一斉射撃! 多少の精度は気にせず撃ちまくれ!」

 

30人の魔導師による全力射撃。普通なら全ては避けられないし避けきれない。

それが今までの常識。

 

「射程に入って敵が射撃したのを見てから左側にロールすれば弾の方が勝手に避ける、三回転だ。タイミングを間違えるなよ」

「了解」

 

ただし、相手が非常識である場合はどうなるか。

 

「撃てぇ!」

 

「今!」

ハンナは右にロール機動、デグレチャフは左にロールし敵の射撃は地面まですっ飛んでいった。

 

残念なことに、片方は超技術の塊を装備し、

もう片方は世界大戦で生まれた"非常識そのもの"だった。

 

「何だ今の機動!」

「怯むな撃て! 撃ち続けろ!」

空力制御によって生まれた、彼らにとって完全に未知の機動をする敵魔導師。

 

当然、そんな相手でも攻撃が当たれば落ちる。

しかしただの自動小銃では偏差射撃を補えるような弾幕を形成するには不十分。

敵魔導師が射程の半分に到達する頃には殆どの大隊員の弾倉が空になっていた。

 

「どうした! 撃て!」

大隊長はそれを理解できない。非常識を前に全ての状況が理解できない。

 

「逃げろ!」

誰かがそう言った。あれには勝てないと悟ったのかもしれない。

その一言の直後、大隊長以外の全員が総崩れになって後退し始めた。

 

「逃げ出したか。あとは鴨を撃つより簡単だ。掃討するぞ」

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

大隊全滅。それが分かったのは尋常ではない魔術攻撃によって気化爆弾のような爆炎が発生し、

それに対し他の魔導大隊から偵察班を派遣されて、報告する間もなく瞬殺された頃。

更に右側面に配置されていたはずの騎兵師団からの連絡が途絶。

 

軍団側面が敵魔導師に制圧されたため共和国軍は作戦を中止。

帝国は低地地方の支配を確固たるものとした。

 

後日、帝国軍の公式記録には次のように記録された。

 

 

 

西方方面軍司令部直轄機動打撃群

第七強襲戦闘団戦闘記録

 

8月9日 第205中隊

ターニャ・デグレチャフ 確定28 未確認0

ハンナ・ルーデル 確定6 未確認2

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

用語解説:宝珠補助具

 

アニメ版にのみ登場しているアレ。原作と漫画には無かった奴。

特に共和国のものは「おまる」にも見えるが

それが分かるのはおそらくターニャだけ。

 

各国の戦い方を反映しており、内容はほぼ本文の通り。

特に「おまる」型は近接制空戦になったらほぼほぼ間違いなく最弱。

 

xxxxxxxxxxxxxx

 

用語解説:MAS-22

 

アニメ版で使ってたのもやっぱりMAS臭いので勝手に命名。

イメージ的にはMAS-40に近いかも。




戦闘描写が相変わらず。こいつは酷い。
というか終盤書いてる間頭回ってなさすぎ

でももうこうでもしないと話が先に進まないからね
仕方ないね

文字数も7000前後を維持したかったけど残念なことに今後も4000前後が多くなりそうです
もうちっとばかし頑張らねば

そうそう、5話の用語解説をちょっとだけ増やしてます。


そして最大の問題。
アニメ未登場の連邦及び合州国の"宝珠補助具"をどうするか。
とりあえずT3485はリストラで

あとお気に入り2300超えました
未だに何故こんなにウケているのか全く分かりませんが
空飛ぶ非常識が帝国を敗北という運命を回避できるのか。
そのあたりまで書ければいいなぁと思ってます

…まあ回を追うごとに明らかにレベル下がってるのが最大の問題ですが。
このままだと終わる頃には小学生並みの文章に…
今回は特に酷いのでちょくちょく手入れして改善します

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