幻想狂縁起~紅~ 《完結》+α   作:触手の朔良

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真っ赤な果実

「今日からトマトを育てたいと思います……」

「わー、パチパチー」

「パチパチー……、じゃぁないですよッ! 何ですか急に、何でトマトなんですか!? どうして妹様と権兵衛さんが一緒にいるんですか!? そして私も一緒なんですか!? って、権兵衛さん元気無いですね!」

 元気なツッコミ、どうもありがとう。

 さんさんと照り付ける日差しの下、早口でノリツッコミをこなしつつも、フランが日光に晒されぬ様上手いこと日傘を操る美鈴も矢張り只者ではない。

 唐突にこんな宣言をされたら誰だって戸惑うだろう、自分とてそうだ。そんな普通の感性を美鈴が持っている事に安心を抱いた。何せ幻想郷に来てからというもの、出会う人出会う人何かしらおかしな人物ばかりで、まともに受け答えをしてくれる相手が片手ほどもいない。無邪気に笑顔を見せるフランと相まって、二人は紅魔館の癒し担当であるな、うむ。

「うんうんって、一人で納得してないで説明ぐらいしてくださいっ」

「そうねーお兄様。私も何も知らされずに連れて来られたけど、太陽の下って辛いのよ?」

 三人が居るのは美鈴の菜園。

「慌てなさんなて。ちゃんと話すからさ」

 権兵衛は手提げの中から本を取り出して二人に手渡す。

「ええと、『猿でも出来る! 初めての家庭菜園』? 権兵衛さんってもしかしてアレですか、漫画とかの影響受け易い人でしたか?」

「まぁまぁ。ちょいと聞いてくれよ」

 本をフランへと預けて興味を向かせてから、そっと美鈴へ耳打ちする。

 フランにはあまり聞かせたく無い話らしい。

「なんですかもう」

「俺がフランの教育係を任されたのは知ってるだろ? それで昨日一日中どうすればいいのかって考えてたんだが」

「初耳なんですけど。……それで、ソレとコレとがどう関係あるんですか」

「小さい子は授業なんかで朝顔やらさつまいもやら栽培させられるんだが。あれって子供の自主性やら継続性を伸ばしたり、命の大切さを教えたりって目論見の授業だろ? フランの情操教育にはぴったりかと思ってさ」

「なるほど……」

 ちらりと横目をやると、フランは楽しそうに本をかざしたりしている。日射しを気にしないフランが、いつ太陽の元に飛び出さないか美鈴にとっては気が気でならなかった。だが、そこまで子供扱いするのは流石に杞憂のようだ。

「すごくイイと思いますけど、どうして私まで連れてくるんですかっ。私にだって、門を守るという立派な仕事が与えられてるんですっ。そういうのはお二人だけでやって下さいよ」

 潜めながらも声を荒げるという器用な技を披露して、美鈴は不満を現した。

「だって勝手に使ったらまずいと思って」

「許可しますっ。許可しますから門に帰して……」

 門とは帰る場所だったろうか。帰宅して一番に通過する場所ではあろうが、彼女の言には笑ってしまう。

 しかし涙目ながらに訴える美鈴の姿には、こう男してクるものがある。つい苛めたくなるというか、そんな嗜虐心を抑えて権兵衛は言葉を続けた。

「それに、聞いたんだけど美鈴ってよくサボってる。門の前で居眠りしてるって、妖精メイドの間じゃ有名な話らしいね」

「……アハハ、マサカソンナー」

 眼を泳がせながらカタコトで話すなんて、嘘のテンプレートをしてくれる美鈴。

「それなら手伝ってくれても罰は当たらないんじゃないかな? 手伝ってくれないと罰が当たるんじゃないかな? 主にナイフとかナイフとか」

「酷っ! 脅迫ですか!?」

「ははっ、お願いだよお願い。優しくて美しい美鈴さんは、勿論手伝ってくれるよね?」

「……喜んで手伝わせて頂きますしくしく」

 昨日一昨日とお願いされる立場だったが、いざする側に立つと気持ちのいいものだ。

 肩を落とす美鈴を慰めようと二度三度と、肩を叩いてやってフランへと向き直る。

「こうなったら乗り掛かった船です。徹底的に協力させて貰いますけど、道具の方は私が使っているものがあるからいいとしても、トマトの苗なんて買ってこないとありませんよ?」

「ふふふ、そんな初歩を分からいでか。ちゃんと考えてあるさ」

 先程まで本が収まっていた手提げの中をもう一度探り、目当てのものを高々と掲げる。

「ここに取り出したるは一つのトマトでございます。そしてコイツをこう、がぶりと」

「あー! お兄様ばっかりズルイわ!」

「何で塩まで用意して……」

 だって塩を振り掛けた方が味がくっきりして美味しいじゃん。砂糖なんて邪道である。

「そして取り出したるはトマトの種でございます」

「口からですけどね」

 美味しさのあまり全部飲み込んでしまいそうになるが、ヘソからじゃ芽は出ないのだ。注意深く咀嚼して、果汁と唾液混じりの種を掌へと吐き出す。少々汚くかんじるが、埋めてしまえば皆同じことよ。

「ぶー! 私にも食べさせてよ!」

「あっ、フラン!」

 まだ一口分しか齧っていない、ほとんど原型のままのトマトを奪ってフランは齧り付いてしまった。静止も聞かずに彼女は、ぺろりと平らげてしまった。

「ふふ、ご馳走さまっ」

「あーあ、全部食べちゃったよ……」

 叱ろうにもご満悦な彼女を見ると、怒る気も削げてしまう。

「種はこんだけか……」

「十分じゃないんでしょうか。農家じゃないんですし」

「ん、そうだな」

「それでそれで、お兄様。一体何をどうすればいいのかしら?」

 フランは最早我慢も限界といった風で権兵衛に飛び付く。男の体は二日遅れの筋肉痛に苛まれているので。そんな事をされては筋肉が悲鳴をあげてしまうではないか。

「いててっ……。ふ、フランちゃん? ちょっと離してくれるかな?」

「えー」

「そ、そうですよ妹様? レディなんですから、はしたない真似は控えて下さい」

「むぅ、仕方ないわね」

 不承不承といった感じだったがフランは離れてくれて、面倒見役二人は胸を撫で下ろす。

 権兵衛は兎も角、美鈴が焦るのは「もし、こんな場面をお嬢様や咲夜さんに見られたら……」という理由からである。想像だけでも、身震いするほど恐ろしい。

 何にせよ、動かなければ始まらない。三人は本を覗きこんでページを捲ると、そう後ろでない位置にトマトの項目を見つける。

「えぇと、まずは種を植えるところからだけど。んー、直接畑に植えてもいいみたいだけど、プランターで栽培した方が簡単そうだな」

「あ。プランターなら余ってるのがあるんで。私取ってきますね」

 言うやいなや、美鈴は駈け出してすぐにも視界から消えてしまった。

 残った二人は先のページに目を通し、大体の育て方を通読する。実際していたのは権兵衛だけか。フランは二人が見ているからという理由で、仲間外れにされないように真似て、紙面に視線を滑らせているだけに過ぎない。

「ねぇ、お兄様。どうして私達がトマトなんか育てないといけないの?」

 故に飽きも早い。

「フランちゃんはトマトがどうやって実るのか知ってるかい?」

「バカにしないで。それくらい知ってるわ」

 フランはむっとした表情で周囲に溢れる植物達を指差した。

「こうやって、実をつけるんでしょ。あの忌々しい太陽と水で成長するんでしょ」

 意外と言っては失礼だが、フランはきちんとした知識を持っていた。

 そうでもないのか。程度は違えど、同じように軟禁の憂き目にあっている権兵衛だって、館内という縛りで暇を潰すのには、あの図書館は絶好である。フランも案外な読書家なのかもしれない。

 しかし、知っている事と理解している事は似て非なる物である。

「こんなの、待っていれば咲夜が調理してくれるのに。もっと他のことして遊びましょうよ。美鈴もいれて、三人で、ね? ね?」

 言動の端々にも、矢張りフランの世間知らずが垣間見えてしまう。

 だからこそ、こうして実物を育てさせようとしているのだが、フランはすっかりお遊びモードに入ってしまった。だから筋肉痛の腕を引っ張るのは止めて下さい。

「妹様っ、権兵衛さんっ。お待たせしましたっ」

「あぁ美鈴。丁度いいところ、に……?」

 どうやって説得してやろうかと考えあぐねていると美鈴が帰ってきた。

「どうしました権兵衛さん?」

 どうしたもこうしたも。

 美鈴の手にはプランターやらスコップやらが入ったバケツを吊り下げている。

 それはいい。それはいいのだが。

「あはははは! なぁに美鈴、その格好!」

「え、え? な、何かおかしいですかね……?」

 フランは美鈴を指さし、大口開けて盛大に笑った。レミリアの妹という立場なら一応は令嬢にあたるのだろうが、そんな肩書きに要される振る舞いからは掛け離れた行為だった。

 美鈴の服装は先程までのチャイナ服ではなくなっていた。上は無地の白シャツに下はスキニーパンツ。首にはタオルを巻いて頭にはつばの広い麦わら帽子を被るという、「私、農作業します!」という見た目からして実に気合の入ったものになっていたからだ。

 権兵衛の抱いた感想としては、本気過ぎて引く、とか。幻想郷にもジーンズがあるんだな、とか。いや、それも思ったのだから間違いではない。

 だが真っ先に思い抱いたのは、薄い白地に透けるブラジャーだとか、パンツにむっちりと食い込むお尻や太ももだとか。チャイナ服はチャイナ服で趣があったが、それ以上に今の美鈴の服装は、彼女の肉感的な身体のラインを見事に浮かび上がらせている。権兵衛とて男である。美女がそんな格好したら自然と性的な目を向けてしまうのも仕方ない。

「美鈴、君はぜひそのままでいてくれ」

「ええと、褒めてくれてるんですかそれ?」

「勿論だとも!」

「あ、ありがとうございます」

 おっと、感激のあまり目的を見失うところだった。

 美鈴が持ってきた道具を以って、ようやく栽培へと漕ぎ着けられる。

 気の利くことに美鈴はプランター以外にも肥料や、フランの為にもう一つの麦わら帽子を持ってきていた。流石の能力である。

 愚図るフランを、権兵衛よりも扱いに長けた美鈴が宥めて、麦わら帽子を装備したフランを権兵衛が褒めて、ようやく三人は揃って作業を開始した。

 種の数は少ない。三等分したら尚更である。

 それぞれに渡されたプランターに土を盛り、思い思いに種を埋める。

 何だかんだで文句言っていたフランも、始まってしまえば真剣そのものの表情でプランター相手に睨めっこしている。

「うーん。どんな風に埋めればいいのかしらね。纏めた方が強くなりそうね。肥料も、んー、これだけあげれば問題ないよね」

「美鈴。ちょっと、これを……。いいか?」

「――えぇ、分かりました」

 そんな彼女に気取られぬよう、内緒の企て。

「出来たわ!」

 そんな事もあり一番に終わったのはフランだった。

「あらお兄様も美鈴もまだやってるの? 遅いわねぇ、ふふん」

「別に早さを競うものでもないしなぁ」

「ですねー」

「むぅ……」

 薄い胸を逸らして自慢気にフランは語るも、二人は全然堪えた様子もない。

 面白くない。

「そうだわ! 三人の内、誰が一番トマトを収穫出来るか勝負しましょう!」

「ほう……。いいのかな、そんな事言って?」

「どうせ私の勝ちは揺るぎないもの」

 そうだ。私が負けるはずがない。

 あの時だって、弾幕ごっこなんてお遊びじゃなければ、ニンゲンなんかに遅れを取るなんてはずがないのだ。

 お兄様のことがキライな訳じゃない。ううん、あのオンナと違って沢山かまってくれるしスキだけど。ここらで一度ぎゃふんと言わせて「フランちゃんは凄いな」って立場を分からせてやりたいのだ。

 三人とも種を撒き終わり準備が出来た所で、プランターを日当たりの良い場所へと移す。勿論、一番に日の当たる場所を我先にと取ったのはフランだ。

 そして並んだプランターに、どれが誰だか分かるように名札を付けて、今日のところは終了である。

「ふむ、早ければ一週間もすれば芽を出すみたいだな」

「一週間ね! 今から楽しみだわ、うふふ」

「そうだな、楽しみだな」

「あはは……」

 この二人が言う楽しみのニュアンスが、実は違う事を知っている美鈴は苦笑を浮かべた。

 権兵衛は、妹様をよく考えてくれるが果たして吉と出るか凶と出るか。

 ただ二人がお互いに笑いながら、真っ赤に実ったトマトを食べる未来が訪れる事を。神様、どうかお願いしますと、美鈴は密かに願った。……紅魔館的にそれはまずいんでね、と思わないでもなかったが、かしこ。

 

 愕然とした。

 昨日は、そう。フランの相手にかまけていたから図書館に顔を出していなかった。だから今日はまた本の片付けでも手伝ってやろうかなと、軽い気持ちで顔を出しただけなのに。

 それがまさか、こんな事になってるなんて。

「……増えてる」

 権兵衛の呟きは隣にいるフランが聞き取る事の出来ないほど小さいものだった。

 だがその一言には、確かな驚愕と絶望に溢れていた。

 彼が目にした光景とは――察しが良ければ先の一言で全て理解する事もあろうが――事情を知らぬフランはちょっと首を傾げただけだった。

 前々日に苦労して片付けた本棚。ようやく出来た隙間が再び本で埋まっていたのだ。いや、どころか棚の前に置かれた台車に山積みにされているのだから、元の木阿弥ではない。その数が増していたのだった。

「おいパチュリー!? これ――」

「頑張ってね」

 ニコリと、彼女は笑った。初めて男に笑みらしい笑みを向けたソレは、美しい笑顔だった。白々しさと無責任を隠そうともしない、美しい笑顔だった。

「ぐえぇ……」

「頑張ってお兄様っ!」

 地獄の労働が始まった。

 本が山のように積まれた台車をひーこら、運ぶのも一苦労である。やっとのことで棚の元に辿り着いては大きく溜息を吐く。またこれを登らにゃならんのか、と。

 本を落とさぬよう腋をしっかりと締めて、不自由な状態の腕を懸命に操り、梯子を登る様は最早命掛けですらある。

 自分の苦労を嘲笑うかの如く、横目にフランはいとも容易く宙を飛んでいる。落ちる心配もなく両手もフリーとは、実に羨ましい限りである。

「……手伝ってくれない?」

「いやっ」

 これまたいい笑顔で断られた。笑顔の定義が崩壊しそうになりながらも、権兵衛は必死で本を片付けた。

 そんな一日。

「早く芽が出ないかしら」

「あはは。そんなに早くには出ませんよ」

 フランは足繁く庭へと通った。

 日に一度では足りず、朝に昼に、夕暮れ前にと、鉢植えの土を眺めていた。ちぃっとも変化が現れないのは、きっと水が足らないからだと、水をやることだって忘れない。

 そんな彼女に付き添って苦笑を零す美鈴。傍から見ればまるで二人は仲の良い姉妹の様で、ついついこちらとて微笑んでしまう。

 ふと。フランの本当の姉はどうしているのだろうか。

 我ながら薄情とは思うが、主にレミリアと顔を突き合わせるのは、呼ばれない限りは食事時しかなかった。ましてフランを連れ立ってからは、不思議と館内での遭遇を果たしていない。

 咲夜の言葉を思い出し、もしかしなくてもこの姉妹は不仲なのだろうかと思い、権兵衛は悲しくなった。

「お兄様もそんなところにいないで、コッチにおいでよ!」

「あぁ。今行く――」

 血の繋がりの持たない、種族すら異なる人間を兄と呼ぶ少女に呼ばれて、権兵衛はは腕を上げて応えた。

 ――一瞬にも満たない刹那、鋭い視線を感じた。

 顔を上げ、周囲を見回す。菜園にある人影は、フランと美鈴のもののみ。辺りに妖精メイドの影はなく、権兵衛は何気なく館を見上げた。ふと、テラスに動くモノを見たような。

 一瞬の事であり、正体は見えなかった。ただの見間違い、という線もあるのだ。

「……気のせいか」

「ねぇー、早く早く!」

 フランの沸点は低い。些か気に掛かる部分はあったものの、早急に向かわねば臍を曲げ兼ねない。権兵衛は己のの気のせいに違いないと断じて二人の元へと向かう。

 ――男の勘は正しかった。

 庭に物陰は多く身を潜める場所も多かろうが、彼女がいたのは庭ではなく、遠く離れたテラスなのだから権兵衛が勘付かぬのも無理は無い。いや、その気配を感じ取っただけでも賞賛に値しよう。

 咲夜はそっと三人の様子を伺う。

 男がこちらを見た時は少々焦ったが、結局、男に気付いた様子はない。

 更に注意深く、観察を続ける。三人は仲睦まじく話に花咲かせており、美鈴でさえこちらに気付く気配はまるでない。

 無意識の内、爪を噛んだ。

 当初の目的と著しく外れ始めた成果に、露骨に苛立ちを抑える事が出来なくなってきている。

 妹様は、自分には一度も見せたことのない屈託のない笑顔を男へと向けている。

 美鈴も美鈴で、何処ぞの馬の骨とも知れぬ男と破茶目茶な妹様に振り回されてはいるものの、一見困り果てているように見えても矢張り嬉しそうだ。

 三人のやり取りを眺めていると、苛立ちとも違う感情が胸の中で渦巻くが、咲夜にはその正体が何なのか分からなかった。

 知っての通り、咲夜は権兵衛を嫌っている。彼に対する認識は、お嬢様にたかる害虫とすら思っている。一応彼はお嬢様の正式な客人である故、悪感情をおくびにも出さず、完璧に仕事をこなしてやってると自負している。無論それは咲夜だけの認識で、権兵衛はしっかり彼女から嫌われている事を理解しているし、つまり咲夜は自身の理想の在り方を妄想しているに過ぎなかった。

「……っ!」

 正体不明の感情を探る時間は、咲夜にも無いようだ。

 テラスの背後、近付く気配を敏く感じて咲夜は能力を発動させた。時を止め、男を一睨みし少女はその場を後にした。

 急ぐ必要も無いのだが咲夜は駆け足で、気配の後ろへと回り込み何気無さを装いつつ能力を解除する。

「お嬢様。今日のお茶会は中でするとお伝えしたはずですが?」

「咲夜か。なに、吸血鬼とはいえたまには太陽の下に出ないと不健康だろう」

「……今日は日差しの強さに相まって雲も多くありません。日を改めた方がよろしいかと」

「む、そうか。残念だな」

 無理を推してでもしたかった訳でもないレミリアは従者の意見を聞き入れて素直に引き下がる。

 館内に戻ろうとする主人に悟られぬよう、咲夜はほっと肩を撫で下ろした。

 今尚三人は、庭の一角で騒いでいるのだから。

 レミリアと権兵衛と、それとフランが一様に会した事は未だ無い。

 紅魔館が幾ら広いとはいえ、限りのある建築物である。まして最近のフランは権兵衛にべったりなのだから、そんな偶然が、ある筈がない。

 ひとえに咲夜の暗躍に依るものだ。今のようにしてさり気なく主人に接触し、それとなく理由を付けて引き離していた。その対象は時に代わり、一番御しやすい者へ行われる。

 故に彼女の手は会合させたくない三人の行動を制限し、誘導し、さながらメイドの手によって山手線も真っ青のダイヤグラムを作り出していた。

 そんな行為を、事も無げに行えるのもまた、彼女の優秀さが成せる技なのだろう。

 そんな行為が、例えどれ程優秀な者だろうとも、人間一人の手には到底有り余るものだ。

 そう遠くない未来、破綻の一歩を迎える。


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