凡人は天才を夢見る   作:ゆっくり霊沙

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重機

竹下さんは建設業者のお偉いさんで、戦車とお酒が好きな中年である。

 

私がここに来てからも小学校のPTAの活動として横断歩道で旗を持って安全に渡れるように見守ってくれる優しい人だ。

 

「こんにちはーなんだなー。」

 

「ほっほっ池田さんか。嬢ちゃんも一緒とは。」

 

「こんにちは。」

 

「この子が戦車の整備員希望なんだなー。ちょうど良い教材があるから重機の扱い方を教えてやって欲しいんだなー。」

 

「ほっほっ良いですよ。池田さんの頼みですし、戦車は私も好きですからな。」

 

「よろしくお願いします。」

 

「ほっほっ基礎からバッチリ詰め込みますからな。」

 

 

 

 

 

 

3号戦車はとても良い教材だった。

 

戦車道に使えるバリエーションが沢山あり、砲塔を外して砲身を前面に溶接することで3号突撃砲にもなる。

 

私は戦車の整備をしている時に快感を覚えるようになっていた。

 

どれだけ速く整備できるか、その整備によって仕上げは完璧か、塗装が剥がれてないか等々、実に勉強になる。

 

ただ、私はそれだけでは普通の整備員であると思い、戦車道経験者にどんな整備員が欲しいのか聞くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

新潟市まで電車で4駅、そこにはとある場所がある。

 

道場・・・島田流の道場がある。

 

新潟県内にも小さいながらに西住流の道場はあるが、自分の小さなプライドで西住流の所に頼りたくなかった。

 

ピンポーン

 

「はーい。あら?どうしたのかな?」

 

見知らぬ小学3年生が居たらそうなる。

 

「戦車の整備員に成りたくて勉強している。戦車に乗っている人がどんな整備員が欲しいのか聞くために来た。」

 

「あらあら。まあまあ。友紀ー、佐井ー、ちょっと来てくれない。」

 

「どうしましたか師範代。」

 

「ここにいるよ~。」

 

「ちょっとこの子の相手をしてあげてちょうだい。何でも整備科希望らしいからね。」

 

「整備科か。いいよ。私達は乗り手だったから良いアドバイスができるかわからないけど。一応自分の乗ってる戦車くらいは整備できるけど。」

 

「整備科・・・整備員じゃなくて?」

 

「整備科は戦車道の中に入っていて部活なら戦車道部整備科みたいになってるんだよ。まぁ大抵は閑職扱いだけど戦車道が上手い人や長くやってる人は大切だから差別しないけどね。」

 

(差別が有るんだ。)

 

「戦車道をしていて思うことなんだけどね・・・履帯を切られたときにすぐに直せる選手がいれば戦闘継続時間が延びて、結果的に勝利に導けるんだよね。」

 

「中学までは強襲戦車競技に出るか道場どうしの練習試合しか戦車が壊れる機会が無いから整備の大切さが伝わらないまま高校生になって、そこで脱落した子が整備科に入るからそこまで技術的な人は居ないけど。」

 

「究極的な事を言えば被弾した弾痕を即座に埋めれたり、場所によって塗装を変えることができる選手が要れば良いのにね。」

 

「プロリーグが出来れば可能性が有るけど・・・メジャークラスでもそんな選手は居ないよね。」

 

「外国と日本の島田流の本質が違うからだよ。・・・西住流は外国と似てるけど。」

 

「撃てば必中、守りは固く、進む姿は乱れ無し、鉄の掟、鋼の心・・・ね。堅い戦車でやるからそんな選手が居ても使いこなせないよね。」

 

「変幻自在の戦術的な島田こそが日本の戦車道を体現していると思うけど。」

 

(両極端。でも・・・島田は陣形変化により敵の分散撃滅、からの包囲殲滅、西住は正面戦力にドイツ戦車の堅くて高火力車両を使うことで突破、分散、殲滅を可能にしている。・・・ダメだ。私にはここから発展もしくは新しい新戦術を生み出すだけの頭がない。・・・整備科の事はわかったけど、西住を破るには島田も越える必要がある。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました。」

 

「また来なよ。今度は戦車をいじらせてあげるよ。」

 

「師範代には言っておくからさ。」

 

「・・・時間がかかる。腕を高めてからまた来る。」

 

「まってるよ~。」

 

 


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