あまり考えた事が無かった。
自分で何で、どんな存在なのか。
他者とは違う、そんな存在だとは自覚していた。
それが自分にとって、必要な考えだったのかと言われると、正直分からない。
でも今なら言える。
そんな存在だったと言うことに、感謝を。
あの人と巡り合わせてくれたことに、心より感謝を。
神は信じないけど、神様、ありがとうーーー。
フッと朝食を食べ終え、当番制にしておいて俺だけしかやってない片付けを終わらせ、冷蔵庫を開けた。
「……あちゃー、もう一週間経ったのか。歳はとりたくないもんだな」
冷蔵庫内は蛻けの殻と言っていいほど食材が乏しかった。
朝冷蔵庫を開いた時はあまり気にしなかったが、改めて見ると危機感を感じる。
俺は冷蔵庫を閉じると、時間を確認。只今午前9時。大体の店は営業し始める頃だろう。
俺はそそくさと玄関へ向かい、財布とエコバッグを装着。
特に着飾ることもないので、風呂入ってからずっとそのままの黒いパーカー付きの、どちらかと言うとスポーツしやすそうなヒマラヤ山脈店で売っている服装で扉を開けた。
「ーーーあれ〜?お買い物?」
何とも眠そうな声で止められる。
俺は振り向くと、何故か俺の目線の下に声の主がいた。
「あ、ああ。そうだけど、何で俺の真下にいんの?」
声の主。
長い髪をツーサイドアップで括り、その透き通る青い髪は光に反射して男を虜にしそうな雰囲気を。その美貌は髪の毛ですらも飾り物になってしまうような整った顔立ち。大体俺の顎くらいの高身長は、そのくりくりとした目を上目遣いで見ていた。
「そりゃあ、アンタのスメルを嗅ぎたいからに決まってるじゃん」
「……スメルってお前、せめて匂いって言おうよ。なんかイヤらしく感じる」
「あ〜、何想像してんだよ〜」
「このこの〜」と俺の横腹を肘で突っついてくる少女こと、奈々美(ナナミ)。
俺は頭に手をおいて、若干強く撫でる。
撫でられると奈々美は突っつきを止め、嬉しそうに頭を撫でられている。
猫みたいだよ本当。
「じゃあ俺は行ってくるから、食ったら自分で洗っとけよ」
「ああっ、待ってよ〜」
再び出ようとしたところを、再び止められる。
かまってちゃんかこいつは。
「なんだよ」
「私も行く〜」
「お前も?どーせあれ買ってだのこれ買ってだの駄々こねるんだろ?」
「うぐっ、……そ、そんな事ないよ〜」
「それだったら俺の顔見てから言えよ」
顔を逸らす奈々美。
奈々美の顔を捕まえて、こっちを向かせようとするも、首に力を入れて一向にこっちを向かない。
まぁ奈々美だけに限った話では無いのだけど、買い物に行くと殆どの子がせがんでくる。
俺としても、政府に貰ってる金じゃわがままを全部が全部聞くことが出来ないから、自重して欲しいものだ。
この前は、藍沙に「ママが欲しい」と散々泣かれたが、流石に人は金で買うことは出来んよ。
でも何故かそこからみんなが身体を使ったお色気アピールをしてくるようになったな。
一体何がしたいんだろうか。←とんだ鈍感男である。
「じゃあ着替えてくるから待ってて」
「一分だけ待ってやる」
俺の手から逃げ、とたとたと廊下をかけていく奈々美。
仕方ないと、俺は誰がポストから出してくれたチラシを見た。
おっ、俺は奈々美に引き止めてもらえたことに感謝しよう。
今日はチラシに商店街の割引券がついていた。
しかも特売するらしい。お一人様卵3箱150円とメチャ得安だ。
奈々美入れたら6箱も買えるぞ。しかしもう少し欲しいところだ。
でも卵6箱では1週間は家では足りない。なんせ俺も入れて約15人。
しかも朝昼晩3食で相当消費する。
そんなだけでは絶対足りない。
卵は特に使うから、もっと欲しい。
しかし、そう考えると、俺の金はどこから出てるの?って言いたいやつがいるだろう。特に職もしてないニート同然の俺。金を稼ぐことなんて早々できない。
言っておこう。この世界に生きる男達は、各国から毎月金が支給されている。と言うか、日本には男は5人しかいない。完全なるハーレム状態である。
何故か日本には男は少ないのだ。2:8とか言う男女比なのにこれはどーかと思うのだけど。
もちろんお金は税金から出ている。でも俺の場合だと、更に金を貰っている。
国公認の児童施設である。運営費、食費、水道代、電気代とお金は全て国持ちである。
もちろん俺が嘘をついているって言う可能性もあるため、年に2回アポなし訪問をしてくる。まぁ見られても悪いものはないのだが。
「お待たせぇー、待った〜?」
ちょうど奈々美がやって来た。
はい?何でそんなにもお洒落してんの?まるでデート気分じゃん。
正直俺にはよく女の子の格好が分からん。何故にそんなにも力を入れる必要があるのだろうか?
まぁ確かに可愛く見えることは無いわけでもないと言う訳でもない。
でもここでは金は無駄遣い出来ん。
ちょこちょこお小遣いを渡しているけど、みんなお金貯めて買っているのだろう。節約上手になるのはいいのだけど、ケチケチした大人にはなって欲しくないな。
「おうめちゃくちゃ待った」
「ブー、そこは『ううん。全然待ってないよ。俺もちょうど来たところ』って言うとこじゃん」
「御生憎様俺はここでお前と別れた後ずっとチラシ見て考え事してただけだよ。ていうか、何でそんなにも着飾ってんの?」
「……相変わらず乙女心が分かってないね〜。まぁそういう所もいいんだけど」
「ん?相変わらず何だって?」
「なんでも無いよ。それより早く行こ。店しまっちゃう」
「いや全く閉店時間じゃないんだけど」
「いいから早く〜」
そう急かす奈々美に背中を押されていく。
全く何でこんなにも急かすのかと疑問になる俺氏。
玄関の外は広い運動場みたいな所になっており、大体中学年齢の子達が朝からトラック描いて走っている。
朝からいい汗をかいておりますのぉ。(ジジイ感)
滴り落ちる汗とまだまだ未成熟ながらもたわわに実る双丘が揺れている。
全員後ろで束ているので何処かのスクワットしながらプール覗いている少年が興奮しそうだ。
お、響走ってるじゃん。手振っとこ。笑顔でふりかえされたわ、あーしてると可愛いのにな。
ちょっ、痛い痛い抓らないで。みんなにも手振るから。あ、みんな手振ってくれた。
えっ?違うの?何?手を繋げ?別に構わないけど……。視線が痛いよ。
そんなこんなで俺は奈々美と何故か手を繋いでグランドを歩いていくのだった。
吾輩は変態である。息子を何処かの鞘(意味深)に収めたい。