必然的にも、春というのは何かしらの出会いがあると言うものだ。
実際俺がこの子達と出会ったのも春だったし、神崎さん達が初めて家の視察に来た時も春だった。
だから毎年毎年春になると俺は思う。
ーーー今年は、誰と会うのだろう。
改めまして、私は
この度、この春からここの孤児院で働かさせて貰うことになりました。
いやーアレですね。
私の名前にも、漢字は違いますが春って名前が付いてるんですよ。
え?何が言いたいかですって?
そりゃもちろん、新たな出会いですよ!!
こんなテンションですけど、何気に私は不器用なもので、友達を作るというのがなかなか難しいのです。
しかも、ここの孤児院では、多くの
何とか、先輩の足を引っ張らないようにしなくちゃ!!
でも、改めて孤児院の前に立つと、何だかウキウキしているみたいです。
やはり、新しい出会いがあるからという、期待の想いが私自身にもあるんですね。
私の不安が勝つのか、期待が勝つのか。
これからが二重の意味で楽しみです。
「ーーーねぇ、何だかよく分からないけど熱い眼差しで家を見てるそこの貴女。何のようなの?」
突然金髪少女に話しかけられました!!霧乃さんピンチです!!
「あ、いえあの!!本日よりここで働かせていただく、遙風霧乃と申します!!よろしくお願いします!!」
ここはやはり大きな声で答えた方がいいでしょう。
フッ、決まりましたね(ドヤ顔)。さぁ、私の印象はどうなのでしょうか。
「………あ〜、うん分かったよありがとう。霧乃さん、ね。よく覚えましたよよーくね」
あれ?なんか怒りゲージ溜まってません?
おっかしいな。初対面の人にはこういうのが1番印象を持たれやすいと調べがついてるはずなのに。不思議です。(参考書 絶対初対面で会いたくない性格ランキング 20XX年版)
「じゃ、着いてきて。貴女のことは聞いたわ。脅しをかけられてるのに全く曲げずにここに来たいって言ったらしいじゃない?どーしてそう言いきれたのかしら」
門をくぐるやいな、目の前に入ってきたのは、私が小学校時代に見ていた光景でした。
広がるグランド。少し錆び付いているが、年季を感じる遊具。
男がもういないと言っても他言では無くなったこの世界で、今の最年少は、平均10歳。1桁の歳の子はいないと言っても不思議では無いのです。
彼女も、見た感じまだ10代前半でしょうか?
「えーと、簡単に言うと、自分の夢のためですかね」
「へぇ、夢の為ね。貴女、意外とロマンチックな人ね」
「そ、そうでしょうか?照れますね」
エヘヘっと照れ隠しで頭の後ろをかくと、話し込んでいる間に玄関に着いてしまいました。
フゥ、改めて緊張しますね。
「じゃあ部屋に案内するから着いてきて」
「はい。分かりました」
それから、私はこの金髪少女、イリアちゃんと他愛もない話で盛り上がり、苦手だった友好関係を進んで結ぶことに成功したのでした。
「ーーーという訳で、今日からここで働く人、遙風霧乃さんです」
「皆さん、よろしくお願いします!!」
銀髪の少女、響ちゃんに紹介してもらい、イリアちゃんの時見たく、大きな声で挨拶した。
でも周りを見ると、みんな必死に耳を抑えていた。
「アンタ、声デカすぎるのよ」
「ええっ!?そんなぁー!?」
いつの間にかイリアちゃんの私の呼び方がアンタに変わっちゃってる!!そんなあんまりだよ〜。
「えー、まぁ大体の家事は主がやっているので、聞いてるかと思いますが霧乃さんにはサポートをお願いしますね。頑張りすぎると主は倒れるのでストッパー役としてかって出てくれれば嬉しいんですけど……ね?」
最後のね?だけがなんかめちゃくちゃ重かった。
なんか、『お前はどーせ役立たずなんだから、せめて足を引っ張ること無く、サポートにでも回っとけよ?』とでも言われているような感じだった。
「わ、分かりました。引受させていただきます。あっ、後、オーナーさんにも挨拶したいのですけど、何処に見えるのでしょうか?」
「オーナー?ああ、主の事ね。今はまだ寝室に居るわよ」
え?まだ寝室ですか?
今は午前11時47分。
寝坊にしては長すぎますね。いいのでしょうか?こんなにもオーナーさんが弛んでいて。
「いいんですよ。主は今仕事をしていますからね。………あ、こっちに来ましたよ」
と、響ちゃんはリビングのドアを指さしました。
段々と声が聞こえ始めてきました。
「ーーーだから、ーーとーーなのに!!何でーーーモーーーなのよ!!」
なんか怒ってる感じがする。
何に怒ってるんだろう。この声の人がオーナーさんかな?
ーーーガチャッ。
扉が開き、そこから現れたのは、栗色の毛をした、アホ毛がチャームポイントじゃないかと思われる少女が汗だくで入ってきました。
え?何で汗だくなんでしょうか?
あ、きっと彼女がオーナーさんで、今までずっと仕事をして汗をかいてたんですね。なるほど、流石はここの子供たちに信頼されている方だ。私も見習おう。
「ーーーあ、初めまして!!今日からお世話になる遙風霧乃です!!よろしくお願いします!!」
今度こそ大丈夫でしょう。
深々と下げた頭を戻すと、なんか困り顔でこっちを見てました。
「ーーーねぇ響おねーちゃん。この人がパパの愛人さん?」
………はい?愛人?
こ、こんな小さい子がそんな言葉を使うなんて……。
と言うか、パパとは一体?
「違うわよ杏鈴。バイトさんの遙風霧乃さんって言ったじゃない。何で愛人とかそういう訳の分からないこと言うの?」
そうですよそうですよ。
大体、男女比が完全にどうかしてるこの世界で、普段の生活で男と会うなんて全くないんですから、愛人とか何小さい子に言わせてるんですか全く。
あ、アレですか?噂で聞きましたけど、男の格好して働いてる人達がいるとかいないとか。その人達がここにいるんでしょうか?
だったら、この子がパパの愛人さんと私に問いたことも頷けますね。
「全くもう。ーーー涼夜は、私のご主人様なんだから、私を捨てない限りは愛人なんか作らないわ」
「そうよ杏鈴。未だに身体の関係を持つ私達に飽きてない以上、愛人とか出来るわけないじゃない」
「そっか、うん。それもそうだね。びっくりしちゃったよ」
「全く、杏鈴ちゃんはお茶目さんですね。と言うか、どこで愛人とか言う単語を?」
「えっとね。それはーーー」
…………何を言ってるのでしょうか?
いや別に私がここのオーナーさんの愛人?疑惑は晴れたわけですけど。
えっ?何ですか?手を出してる!?
こここここ、ここのオーナーさんはなんてことをしてるのですか!?
ハレンチです!!イヤラシイです!!百合百合しいです!!どんびですぅ!!
なんてものを子供たちに教えてるんですか!?
それを見過ごす政府の方もそうですよ!!
いくら男が居ないからって、勝手に百合百合許さないでください!!
………ま、まさかこれが今まで運命に決められているかのような真っ当な道を進んでいた私に対する、天からの罰!?
「ちょっ。ちょちょちょ待ってください!!何ですか?ここの人達はそんな関係なのですか!?」
「………そんな関係って、具体的には?」
「そ、それは………」
は、恥ずかしい!!恥ずかしくて顔が真っ赤っかだよ!!
ハローワークの人が言ってたみたいに、ここでは上手く仕事が出来そうにないかも………。
「ーーーなぁ杏鈴。お菓子のゴミくらい捨てろよ。そろそろゴミ屋敷になり始めてるぞーーー」
と、突然、女性にしてはトーンが低い声がドア越しから聞こえました。
ガチャりと開けられたドアからは、ガタイが良く、短くもトゲトゲした真っ直ぐ逆だっている黒髪が特徴の、イケメンと言われたら真っ先にこの顔が浮かびそうなぐらいの、the スポーツマンとでも言えそうな感じの顔の人が、汗だくで上半身を晒し出して入ってきた。
oh......、なんという引き締まった筋肉。ガタイがいいと言いましたけど、細くもなく太くもないつき過ぎない筋肉が表面にくっきり出ているその人の身体を見ると、お腹当たりがキュンキュンします。
と言うか、この人………
「ちょっ、ちょっと涼夜!!なんて格好してるのよ!!そんな身体見たら堕ちない女子はいないでしょ!?隠してきなさいよ!!」
「ああっ!!いつ見ても凛々しいお姿。その引き締まった筋肉と、熱い肉棒で私をもっと責めたてて!!ああっ!!お仕置きされたいぃ!!」
「涼夜さん。そんな格好していては風邪ひきますわ。はい、タオルです。これで汗を拭いてください」
「じゃあ背中は私達が拭くー。藍沙ちゃん、一緒にぺろぺろしよ?」
「うん。久しぶりのパパの汗。パパニウム身体に補充したかった」
「ちょっと待てお前ら。一気に来ると暑苦しい!!」
……………何なのこの光景!?
1人を取り囲んでみんなで顔赤めたり、舌這いずり回せたり、密着使用としたりキスしようとしたり。
何なのこの光景!?※大事なことなので二回言いました。
と言うか、あの人。どう見ても女性じゃない。
体付きとか普段筋トレしてて普通につくような者じゃない。明らかに誰を殺ろうとしてアニメとかで良くある訓練を積み重ねて受けたような鋼鉄の身体だ。
女性特有の
え?私は今世紀最大の疑いを自分の目にかけてます。
この人、女じゃないとしたら…………、まさかの、男?
「ああ、ハイハイみんなストップ。そういや今日来るんだったな。初めまして。ここで一応最高責任者務めてます、黒崎涼夜です。これからよろしく、霧乃ちゃん」
手を差し出され、私はゆっくりと手を出して手を握りました。
ゴツゴツしてる。女性のぷにぷにした柔肌じゃない。
以下にも男って感じの感触。
これが、男の人の手。
産まれてこの方、自分の父親の手でさえも握ったことのなかった手を、今私は握っている。
ゴツゴツしている肌から感じるのは、温かさ。
自然と緊張していた心が落ち着いて、いつしかこの人の瞳をずっと見つめている。
何だかよく分からないけど、顔とお腹が熱い。
きっと一目惚れしてるんだ。初めての異性に。
初めて胸がズキズキ痛い。なんだろこの気持ち。
もっとこの人の事が知りたい。もっと触れたい。もっと感じたい。
自然と、両手でこの人の手を握ってしまっていた。
何故だか分からないけど、そうしたかったから。
こうして私こと、遙風霧乃と、オーナーさん改めてて黒崎涼夜さんとのfirst contactが起こった。
これからどうなるのかは私にも分からないけど、とにかくこの子のだけは言いたい。
ーーー春ってほんとに出会いがあるんだね。
「ーーーていうか、男ぉおおおおおおおお!?!?!?!?!?」