東方夢喰録 〜 Have a sweet nightmare!! 〜 作:ODA兵士長
「よう、永琳。薬をもらいに来たぞ」
院長室の扉をノックもせずに開けながらそう言うのは、藤原妹紅だ。
その院長室にはには、シックな濃い茶色のデスクの奥で、大きな黒い椅子に座る女がいる。
しかしそれは、八意永琳ではなかった。
「あら妹紅、いらっしゃい」
「……アリス?なんでお前が?」
その座っている女とは、私––––アリス・マーガトロイドだ。
「ちょうど私も薬をもらいにね。にしても貴女、ノックをしないのは、どうかと思うわよ?」
「自分の部屋でもないのに、そんなところに座って"いらっしゃい"とか言っちゃう方も、どうかと思うぞ?」
「これは……座ってみたかったのよ。そもそも、ノックをしてくれれば急いで立っていたわ」
「まあ、座りたいのは分かる……てか、私も座りたい」
「ふふっ、どうぞ」
「……何やってるのよ、貴女達」
私が立ち上がり、妹紅が座ろうとしたところで永琳が部屋に入って来た。
「おい永琳。ノックしろよ」
「なんで自分の部屋に入るのに、ノックか必要なのかしら?」
「確かに」
「はぁ……それで、薬を貰いに来たの?」
「ええ。私も妹紅も、それが目的よ」
「少し待ってなさい。取りに行ってくるわ」
「……ん?取りに行く?」
「だって貴女達、アポなしで来るんだもの。貴女達の薬をいつでも携帯してるわけじゃないのよ?」
「いやいや、そうじゃなくてさ。鈴仙はどうしたんだ?いつもならあいつに取りに行かせるだろ?」
「あぁ……あの子なら、突然1人暮らしがしたいとか言って、出て行っちゃったわ」
「出て行った?」
「別に、ユメクイ殲滅の仕事を辞めたわけじゃないし、あの子ももう高校2年になったから、1人暮らししても問題はないでしょう」
「女子高生の1人暮らしなんて、結構危ない気がするけど」
「まあ、そんなことより、薬を取ってくるから、2人で大人しく待ってなさい」
「うぃー」
「分かったわ」
永琳は部屋を出て、扉を閉めた。
それを確認すると、妹紅は椅子に座った。
その様子を見て、私はクスッと笑った。
「な、なんだよ?」
「いいえ、なんでもないわよ」
妹紅は、ちょっと恥ずかしそうだ。
「にしても、鈴仙はもう高2かぁ……」
「貴女は中学生かしら?」
「ああ。鈴仙より2つ下だからな」
「なら受験期じゃない」
「まあ、そうだな」
「それにしては、随分余裕そうね」
「まだ5月だし……それに私は、そこまでレベルの高いところに行くつもりもないしな。もう、受験勉強は懲り懲りだ」
「貴女、中学受験でもしたの?」
「……さあな。忘れちまったよ、そんな昔の話」
「まあ、察しておくわ」
「そういや、アリスも一人暮らしだよな?」
「ええ、そうよ」
「大学生か?」
「いや、学生はもう辞めたわ」
「そうか。仕事してるのか?」
「ええ。人形を作って売ってるわ」
「え、お前、現実でも人形遣いなのか?」
「うーん、人形売りと言った方が正しいかも」
「へぇ……売れるのか?」
「ぼちぼちよ。私1人がやっと生活できる程度かしらね」
そんな下らない話をしていると、部屋の扉が開く。
「お待たせ。持って来たわよ」
「おお、サンキュー」
「ちなみに妹紅」
「なんだ、永琳?」
「アリスの人形、海外で人気なのよ」
「へ?」
「割と稼いでるわよ、この子」
「本当か!?」
「……まあ、それなりに人気があるわよ。けど貴女が知ってるとは思わなかったわ」
「私に知らないことなんてないもの」
なぜか得意げな永琳。
「まあ、そんなことどうでもいいでしょ?」
「ふふっ、そうね。じゃあ、今月の報告をしてもらってもいいかしら?」
「ええ、私の討伐数は5よ」
「私は7だ」
「そう……また増えたわね」
「そうだな。夢に巻き込まれる機会が増えてるからな」
「……まあいいわ。また、1ヶ月後に会いましょう。引き続き頼むわよ、2人とも」
「おう」
「ごきげんよう」
私は妹紅とともに院長室、そして病院を出た。
「それにしても、アリス」
「どうしたの?」
「––––まさかお前と、こんな風に並んで歩くことがあるとはなぁ」
「……」
「私たち、本気でお互いを殺そうとしてたのに。まあ、私は実際に何度か殺されたけど……。愛情と憎悪は紙一重ってよく言うが、これもそーゆーことなのかな」
「分からないわ。分からない––––けど、人と話すのは……なんだか楽しいわね」
「なんだよ突然。今の話の主旨とズレてないか?」
「いいのよ。これが貴女との出会いで分かったことなのだから」
「お前が何を考えてるのか、私にはさっぱりだよ」
「別に、分かって欲しいだなんて思ってないもの」
そう言う私の顔には、自然と笑顔が溢れていた––––
––––––––––ザワッ––––––––––
「––––ッ!」
私は夢の中へと引き込まれていた。
それはいつも通り何の脈絡もなく、突然だった。
「……私だけなのね」
隣に居たはずの妹紅の姿はない。
現実世界と同じ位置関係で成り立つ世界であるが故に、それは妹紅が巻き込まれていないことを意味していた。
「それにしても––––明るすぎるわね、ここ」
私が足をつけているこれが地面なのかも、そもそも地面が存在しているかも分からない程度には、光で埋め尽くされている。
しかし、眩しさはあまり感じない。
そんな不思議なこの世界には––––影ができない。
まるで全ての闇が消え去っているように––––いや、闇が消えているのではない。
何者かが、全ての闇が操り、集めている……?
そんなことを考えていると、一気に辺りが暗くなった。
その"何者か"が、闇を展開したのだろうか?
先ほどとは一転して、何も見えなくなった。
私は魔法を使う。
暗闇でも"視える"ように。
この暗闇で視るには、集中力が必要だった。
五感全てを使っては、集中力が保てない。
私は全神経を視覚に集中させた。
––––これで、なんとか視えるわね。
この闇の魔力––––本当にこの表現が正しいかは分からないが、私にはそう表現するしかない力––––はそこまで高くない。
ある程度の距離までなら見渡せた。
しかし、私は"視る"ことに集中しすぎていた。
私は、背後から近づいて来る足音に気がつかなかった。
「きゃっ!?」
「痛っ!?」
私は慌てて振り返る。
体制を即座に立て直し、臨戦体制をとる。
しかしそれは無意味だと、すぐに悟った。
「いきなり後ろからぶつかるなんて……貴女たちは人間のようね。2人でいるみたいだし」
「貴女、この闇の中で見えるの?」
「ええ、見えるわよ、私は魔法が使えるから。この程度の闇なら"視る"ことができるわ。それに……」
私は指先から光を放つ。
しかし魔力の消費が大きく、長時間や、高光力を保てるものではなかった。
「少しくらいなら、光も出せるわ。この闇の魔力はそこまで高くないけど……流石にこの程度の光が限界ね」
光で2人の少女の顔が照らされた。
1人はまだ小学生か中学生ほどの女の子だ。
しかしその目は既に大人びており、服装からも高貴な者であることが分かる。
もう1人は、私と同い年くらいだろうか?
服装からメイドであることが伺える。
おそらくこちらの少女の付き人であるのだろう。
「私はアリス・マーガトロイド。魔法使いみたいなものよ。この闇の主を殺しに来たわ」
私は前から、自己紹介をするのが自分の中での礼儀だった。
そして今回も、しっかりと自己紹介をする。
メイドの方が、私に怪訝な顔を向けてきた。
私は何かマズイことでも行ったのだろうか?
「私はレミリア・スカーレット。この子は私の自慢のメイド、十六夜咲夜よ」
「ご丁寧にありがとう。ところで、貴女たちは逃げて来たようだけど、その先にこの闇を操ってる者が居るのかしら?」
「ええ。おそらく移動してるでしょうけどね」
「でも、重要な手がかりにはなるわ」
私は笑顔を作り、感謝の意を示す。
そして明かりを消した。
「これ以上光らせてると、見つかっちゃうかもしれないから消させてもらうわ」
「もう遅いよ、見つけちゃった」
突然、声がした。
全く気配に気がつかなかった。
そして私は即座に対応出来なかった。
普段、索敵に人形を使っている私は、知らず知らずのうちに、人形に頼りすぎていたのかもしれない。
索敵に関して、今回はいつもより圧倒的に情報量が少なすぎる。
「咲夜!後ろ!!!」
「いただきまーす」
私は一部始終を視た。
レミリアが、咲夜を突き飛ばす。
そして咲夜はそのまま倒れこむ。
レミリアは突き飛ばした反動で後ろへと倒れようとする。
しかし咲夜は、レミリアと繋がれた手を離さない。
そのためレミリアは、咲夜の方へと引っ張られた。
そしてレミリアが、咲夜の元いた場所へと––––大きな口の中へと吸い込まれてしまった。
「…え?」
咲夜には血が降り注ぎ、レミリアの体の一部が飛んでいるようだった。
「……あれ?間違えちゃった?まあいいや、美味しかったし」
「よくも……私の目の前でッ!」
––––もう、お前の目の前で人を死なせるな。
この妹紅の言葉が私の中を渦巻いていた。
「本当はもっと食べたいけど……面倒くさいな、お前」
私は少女と目が合う。
しかし少女の目が私を捉えてるのかは分からなかった。
「……お嬢様?どこにいらっしゃるのですか?」
咲夜が、いるはずのない"お嬢様"へと呼びかけていた。
繋がれたその手を抱きしめながら。
––––その手を離していれば、レミリアは食べられずに済んだかもしれないのだが。
そして、空が割れた。
いや、闇が割れたと言った方が正しいだろう––––
––––ルーミアの集めた夢は崩壊した––––
「……ッ!」
「分かって欲しくないだなんて、酷いこと言うな。それって私を拒否してるってことだろ?」
「わ、私は……人を……」
「……アリス?どうした?もしかして、集められたのか?」
「……め、目の前で……………貴女と約束したのにッ!」
私は蹲る。
「おいっ、アリス!?どうしたんだ!?」
「人を……死なせちゃった」
「……!」
「私、貴女と約束したのに。私の償いだったのに……ッ」
「落ち着け、アリス。お前の所為じゃない。悪いのはユメクイなんだ」
「……」
「お前がここで項垂れてしまったら、その殺された奴も浮かばれないぞ?」
「……」
「その、目の前で死なせてしまった奴へのせめてもの手向けとして、これからも戦うんだ。そしてもう、死なせるな」
「……それで、私の償いは達成されるの?」
「はっきり言うが、お前の償いなんてどうでもいい。そんなものは、お前自身の自己満足でしかない」
「ッ……」
「お前が仇を討ち、少しでもこれからの被害を減らす。これが私たちに課せられた使命なんだ」
「……」
「既にユメクイになってしまった私たちが生きていくには、それしか許されない。そうだろ?」
「……そうね、分かったわ。でも、もう誰も死なせない。それが自己満足の償いでも、私は償いたい」
「そうか。それなら私は止めないよ」
「ええ。でも……本当に、許されないわ。被害者を出した上に、ユメクイを逃してしまうなんて……」
「……逃しちまったのか?お前が?……そんなに強かったのか?」
「いえ、強くは……ないと思うわ。ただ、厄介な能力よ」
「厄介な能力?」
「おそらくあれは……"闇を操る程度の能力"といったところかしら?」
「闇……ねぇ。そいつは随分と面倒臭そうな奴だな」
––––そんな話をしている間、妹紅の背後を銀髪の少女が走り抜けたことに、2人とも気がつかなかった。
*キャラ設定
○藤原妹紅
15歳になる程度の年齢(1年前)
教育に熱心な両親のもとに生まれ、彼らの期待という重圧を一身に受けていた少女。
その反動からか男勝りな口調だが、中身はしっかり女の子である。
【能力 : 老いることも死ぬこともない程度の能力】
不死身の肉体(のようなもの)を持ち、"死"に相当するダメージを負うと肉体が再構築され、完全復活する。
魂を消滅させられない限り、負けはない。
武器として炎を出現させる。
出現させた炎に限り、自在に操ることが可能。
(何かに燃え移った炎などは、操ることができない)
○八意永琳
「また、やり直しましょう。私にはそれを手伝い、見届ける責任がある」
36歳になる程度の年齢(1年前)
若くして名声を獲得した医師。
色んな薬を作っている(らしい)。
彼女の人柄に惹かれて病院を訪れる者も多い。
【能力 : あらゆる薬を作る程度の能力】
簡単な材料から不思議な薬を作ることが可能。
○鈴仙・優曇華院・イナバ
「ひ、酷いです師匠!私が師匠を裏切るわけありません!!」
17歳になる程度の年齢(1年前)
永琳を師匠と慕う少女。
真面目で陽気な性格。
本来は臆病者だがユメクイ化の影響で少し強気になった。
人は力を手に入れると変わるのである()
【能力 : 波長を操る程度の能力】
光や音の波長を操ることで幻覚や幻聴を起こす。
相手の五感に干渉できる。
武器として弾丸を発射することができる。
自らの手で拳銃のような形を作り、発射する。
○アリス・マーガトロイド
「私はもう、目の前で人を死なせない」
19歳になる程度の年齢(1年前)
人形のような美しさを持つ美女。
冷静であることを心がけているが、予想外の出来事には若干弱い。
しかし、その予想外の出来事を楽しむことができる。
また、かなりの世話焼きで、子供が大好き。
子供を愛でるのは、人形を愛でるのと同じよう感覚……らしい。
【能力 : 魔法を扱う程度の能力】
主に支援・回復系魔法を使う。
【能力 : 人形を扱う程度の能力】
具現化した人形を武器として用いる。
その人形はまるで生きているかのように行動する。
爆弾を内蔵しているものや、武器を所持しているものなど用途により種類は様々。
○十六夜咲夜
「まあ、1番早いのは、私がユメクイを殺すことでしょうね」
18歳になる程度の年齢(1年前)
冷静沈着、才色兼備………を装っている。
実力、容姿共に十分だが、自意識過剰。
しかし結構他人想いで、世話焼きな面もある。
また家事全般を余裕でこなせる為、嫁にしたい女子No. 1である。(作者調べ)
【能力 : 時を操る程度の能力】
時間を加速、減速、停止させることができる能力。
巻き戻すことや、なかったことにする事はできない。
武器としてナイフを具現化させる。
その数に制限はない。
○レミリア・スカーレット
「すぐに貴女を消してやってもいいのよ?」
13歳になる程度の年齢(1年前)
義務教育?なにそれおいしいの?的な英才教育を受けに受けまくった天才児。
えいさいきょーいくってすげー。
『うー☆』なんて言わないカリスマ系お嬢様(のつもり)。
○ルーミア
「……はぁ、わかったよ。断る方が面倒くさそうだし」
8歳になる程度の年齢(1年前)
極度の……本ッ当に、極度の面倒くさがり。
ただ、楽しい事や面白い事は普通に好き。
突拍子も無いことを言ったり考えたりするが、実は全て計算されている……かもしれない。
【能力 : 闇を操る程度の能力】
自らの周囲に闇を展開する。
その闇の中では相手も自分も視界を奪われる。
ただ、闇の中に何らかの方法で光が生まれると違和感を感じるようだ。
武器として闇を具現化させる。