東方夢喰録 〜 Have a sweet nightmare!! 〜   作:ODA兵士長

39 / 52
第9話 破約 –– ハヤク ––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、永琳。薬をもらいに来たぞ」

 

院長室の扉をノックもせずに開けながらそう言うのは、藤原妹紅だ。

その院長室にはには、シックな濃い茶色のデスクの奥で、大きな黒い椅子に座る女がいる。

しかしそれは、八意永琳ではなかった。

 

「あら妹紅、いらっしゃい」

「……アリス?なんでお前が?」

 

その座っている女とは、私––––アリス・マーガトロイドだ。

 

「ちょうど私も薬をもらいにね。にしても貴女、ノックをしないのは、どうかと思うわよ?」

「自分の部屋でもないのに、そんなところに座って"いらっしゃい"とか言っちゃう方も、どうかと思うぞ?」

「これは……座ってみたかったのよ。そもそも、ノックをしてくれれば急いで立っていたわ」

「まあ、座りたいのは分かる……てか、私も座りたい」

「ふふっ、どうぞ」

「……何やってるのよ、貴女達」

 

私が立ち上がり、妹紅が座ろうとしたところで永琳が部屋に入って来た。

 

「おい永琳。ノックしろよ」

「なんで自分の部屋に入るのに、ノックか必要なのかしら?」

「確かに」

「はぁ……それで、薬を貰いに来たの?」

「ええ。私も妹紅も、それが目的よ」

「少し待ってなさい。取りに行ってくるわ」

「……ん?取りに行く?」

「だって貴女達、アポなしで来るんだもの。貴女達の薬をいつでも携帯してるわけじゃないのよ?」

「いやいや、そうじゃなくてさ。鈴仙はどうしたんだ?いつもならあいつに取りに行かせるだろ?」

「あぁ……あの子なら、突然1人暮らしがしたいとか言って、出て行っちゃったわ」

「出て行った?」

「別に、ユメクイ殲滅の仕事を辞めたわけじゃないし、あの子ももう高校2年になったから、1人暮らししても問題はないでしょう」

「女子高生の1人暮らしなんて、結構危ない気がするけど」

「まあ、そんなことより、薬を取ってくるから、2人で大人しく待ってなさい」

「うぃー」

「分かったわ」

 

永琳は部屋を出て、扉を閉めた。

それを確認すると、妹紅は椅子に座った。

その様子を見て、私はクスッと笑った。

 

「な、なんだよ?」

「いいえ、なんでもないわよ」

 

妹紅は、ちょっと恥ずかしそうだ。

 

「にしても、鈴仙はもう高2かぁ……」

「貴女は中学生かしら?」

「ああ。鈴仙より2つ下だからな」

「なら受験期じゃない」

「まあ、そうだな」

「それにしては、随分余裕そうね」

「まだ5月だし……それに私は、そこまでレベルの高いところに行くつもりもないしな。もう、受験勉強は懲り懲りだ」

「貴女、中学受験でもしたの?」

「……さあな。忘れちまったよ、そんな昔の話」

「まあ、察しておくわ」

「そういや、アリスも一人暮らしだよな?」

「ええ、そうよ」

「大学生か?」

「いや、学生はもう辞めたわ」

「そうか。仕事してるのか?」

「ええ。人形を作って売ってるわ」

「え、お前、現実でも人形遣いなのか?」

「うーん、人形売りと言った方が正しいかも」

「へぇ……売れるのか?」

「ぼちぼちよ。私1人がやっと生活できる程度かしらね」

 

そんな下らない話をしていると、部屋の扉が開く。

 

「お待たせ。持って来たわよ」

「おお、サンキュー」

「ちなみに妹紅」

「なんだ、永琳?」

「アリスの人形、海外で人気なのよ」

「へ?」

「割と稼いでるわよ、この子」

「本当か!?」

「……まあ、それなりに人気があるわよ。けど貴女が知ってるとは思わなかったわ」

「私に知らないことなんてないもの」

 

なぜか得意げな永琳。

 

「まあ、そんなことどうでもいいでしょ?」

「ふふっ、そうね。じゃあ、今月の報告をしてもらってもいいかしら?」

「ええ、私の討伐数は5よ」

「私は7だ」

「そう……また増えたわね」

「そうだな。夢に巻き込まれる機会が増えてるからな」

「……まあいいわ。また、1ヶ月後に会いましょう。引き続き頼むわよ、2人とも」

「おう」

「ごきげんよう」

 

私は妹紅とともに院長室、そして病院を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、アリス」

「どうしたの?」

「––––まさかお前と、こんな風に並んで歩くことがあるとはなぁ」

「……」

「私たち、本気でお互いを殺そうとしてたのに。まあ、私は実際に何度か殺されたけど……。愛情と憎悪は紙一重ってよく言うが、これもそーゆーことなのかな」

「分からないわ。分からない––––けど、人と話すのは……なんだか楽しいわね」

「なんだよ突然。今の話の主旨とズレてないか?」

「いいのよ。これが貴女との出会いで分かったことなのだから」

「お前が何を考えてるのか、私にはさっぱりだよ」

「別に、分かって欲しいだなんて思ってないもの」

 

そう言う私の顔には、自然と笑顔が溢れていた––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––ザワッ––––––––––

 

 

 

 

 

 

「––––ッ!」

 

私は夢の中へと引き込まれていた。

それはいつも通り何の脈絡もなく、突然だった。

 

「……私だけなのね」

 

隣に居たはずの妹紅の姿はない。

現実世界と同じ位置関係で成り立つ世界であるが故に、それは妹紅が巻き込まれていないことを意味していた。

 

「それにしても––––明るすぎるわね、ここ」

 

私が足をつけているこれが地面なのかも、そもそも地面が存在しているかも分からない程度には、光で埋め尽くされている。

しかし、眩しさはあまり感じない。

そんな不思議なこの世界には––––影ができない。

まるで全ての闇が消え去っているように––––いや、闇が消えているのではない。

何者かが、全ての闇が操り、集めている……?

 

 

そんなことを考えていると、一気に辺りが暗くなった。

その"何者か"が、闇を展開したのだろうか?

先ほどとは一転して、何も見えなくなった。

 

私は魔法を使う。

暗闇でも"視える"ように。

 

この暗闇で視るには、集中力が必要だった。

五感全てを使っては、集中力が保てない。

私は全神経を視覚に集中させた。

 

 

––––これで、なんとか視えるわね。

 

 

この闇の魔力––––本当にこの表現が正しいかは分からないが、私にはそう表現するしかない力––––はそこまで高くない。

ある程度の距離までなら見渡せた。

 

しかし、私は"視る"ことに集中しすぎていた。

私は、背後から近づいて来る足音に気がつかなかった。

 

「きゃっ!?」

「痛っ!?」

 

私は慌てて振り返る。

体制を即座に立て直し、臨戦体制をとる。

しかしそれは無意味だと、すぐに悟った。

 

「いきなり後ろからぶつかるなんて……貴女たちは人間のようね。2人でいるみたいだし」

「貴女、この闇の中で見えるの?」

「ええ、見えるわよ、私は魔法が使えるから。この程度の闇なら"視る"ことができるわ。それに……」

 

私は指先から光を放つ。

しかし魔力の消費が大きく、長時間や、高光力を保てるものではなかった。

 

「少しくらいなら、光も出せるわ。この闇の魔力はそこまで高くないけど……流石にこの程度の光が限界ね」

 

光で2人の少女の顔が照らされた。

1人はまだ小学生か中学生ほどの女の子だ。

しかしその目は既に大人びており、服装からも高貴な者であることが分かる。

もう1人は、私と同い年くらいだろうか?

服装からメイドであることが伺える。

おそらくこちらの少女の付き人であるのだろう。

 

「私はアリス・マーガトロイド。魔法使いみたいなものよ。この闇の主を殺しに来たわ」

 

私は前から、自己紹介をするのが自分の中での礼儀だった。

そして今回も、しっかりと自己紹介をする。

メイドの方が、私に怪訝な顔を向けてきた。

私は何かマズイことでも行ったのだろうか?

 

「私はレミリア・スカーレット。この子は私の自慢のメイド、十六夜咲夜よ」

「ご丁寧にありがとう。ところで、貴女たちは逃げて来たようだけど、その先にこの闇を操ってる者が居るのかしら?」

「ええ。おそらく移動してるでしょうけどね」

「でも、重要な手がかりにはなるわ」

 

私は笑顔を作り、感謝の意を示す。

そして明かりを消した。

 

「これ以上光らせてると、見つかっちゃうかもしれないから消させてもらうわ」

「もう遅いよ、見つけちゃった」

 

突然、声がした。

全く気配に気がつかなかった。

そして私は即座に対応出来なかった。

 

普段、索敵に人形を使っている私は、知らず知らずのうちに、人形に頼りすぎていたのかもしれない。

索敵に関して、今回はいつもより圧倒的に情報量が少なすぎる。

 

「咲夜!後ろ!!!」

「いただきまーす」

 

私は一部始終を視た。

 

 

レミリアが、咲夜を突き飛ばす。

 

 

そして咲夜はそのまま倒れこむ。

 

 

レミリアは突き飛ばした反動で後ろへと倒れようとする。

 

 

しかし咲夜は、レミリアと繋がれた手を離さない。

 

 

そのためレミリアは、咲夜の方へと引っ張られた。

 

 

 

 

 

 

 

そしてレミリアが、咲夜の元いた場所へと––––大きな口の中へと吸い込まれてしまった。

 

「…え?」

 

咲夜には血が降り注ぎ、レミリアの体の一部が飛んでいるようだった。

 

「……あれ?間違えちゃった?まあいいや、美味しかったし」

「よくも……私の目の前でッ!」

 

 

 

––––もう、お前の目の前で人を死なせるな。

 

 

この妹紅の言葉が私の中を渦巻いていた。

 

 

 

「本当はもっと食べたいけど……面倒くさいな、お前」

 

私は少女と目が合う。

しかし少女の目が私を捉えてるのかは分からなかった。

 

「……お嬢様?どこにいらっしゃるのですか?」

 

咲夜が、いるはずのない"お嬢様"へと呼びかけていた。

繋がれたその手を抱きしめながら。

 

––––その手を離していれば、レミリアは食べられずに済んだかもしれないのだが。

 

そして、空が割れた。

いや、闇が割れたと言った方が正しいだろう––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––ルーミアの集めた夢は崩壊した––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ!」

「分かって欲しくないだなんて、酷いこと言うな。それって私を拒否してるってことだろ?」

「わ、私は……人を……」

「……アリス?どうした?もしかして、集められたのか?」

「……め、目の前で……………貴女と約束したのにッ!」

 

私は蹲る。

 

「おいっ、アリス!?どうしたんだ!?」

「人を……死なせちゃった」

「……!」

「私、貴女と約束したのに。私の償いだったのに……ッ」

「落ち着け、アリス。お前の所為じゃない。悪いのはユメクイなんだ」

「……」

「お前がここで項垂れてしまったら、その殺された奴も浮かばれないぞ?」

「……」

「その、目の前で死なせてしまった奴へのせめてもの手向けとして、これからも戦うんだ。そしてもう、死なせるな」

「……それで、私の償いは達成されるの?」

「はっきり言うが、お前の償いなんてどうでもいい。そんなものは、お前自身の自己満足でしかない」

「ッ……」

「お前が仇を討ち、少しでもこれからの被害を減らす。これが私たちに課せられた使命なんだ」

「……」

「既にユメクイになってしまった私たちが生きていくには、それしか許されない。そうだろ?」

「……そうね、分かったわ。でも、もう誰も死なせない。それが自己満足の償いでも、私は償いたい」

「そうか。それなら私は止めないよ」

「ええ。でも……本当に、許されないわ。被害者を出した上に、ユメクイを逃してしまうなんて……」

「……逃しちまったのか?お前が?……そんなに強かったのか?」

「いえ、強くは……ないと思うわ。ただ、厄介な能力よ」

「厄介な能力?」

「おそらくあれは……"闇を操る程度の能力"といったところかしら?」

「闇……ねぇ。そいつは随分と面倒臭そうな奴だな」

 

 

 

 

 

––––そんな話をしている間、妹紅の背後を銀髪の少女が走り抜けたことに、2人とも気がつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





*キャラ設定


○藤原妹紅

15歳になる程度の年齢(1年前)
教育に熱心な両親のもとに生まれ、彼らの期待という重圧を一身に受けていた少女。
その反動からか男勝りな口調だが、中身はしっかり女の子である。

【能力 : 老いることも死ぬこともない程度の能力】
不死身の肉体(のようなもの)を持ち、"死"に相当するダメージを負うと肉体が再構築され、完全復活する。
魂を消滅させられない限り、負けはない。

武器として炎を出現させる。
出現させた炎に限り、自在に操ることが可能。
(何かに燃え移った炎などは、操ることができない)



○八意永琳
「また、やり直しましょう。私にはそれを手伝い、見届ける責任がある」

36歳になる程度の年齢(1年前)
若くして名声を獲得した医師。
色んな薬を作っている(らしい)。
彼女の人柄に惹かれて病院を訪れる者も多い。

【能力 : あらゆる薬を作る程度の能力】
簡単な材料から不思議な薬を作ることが可能。



○鈴仙・優曇華院・イナバ
「ひ、酷いです師匠!私が師匠を裏切るわけありません!!」

17歳になる程度の年齢(1年前)
永琳を師匠と慕う少女。
真面目で陽気な性格。
本来は臆病者だがユメクイ化の影響で少し強気になった。
人は力を手に入れると変わるのである()

【能力 : 波長を操る程度の能力】
光や音の波長を操ることで幻覚や幻聴を起こす。
相手の五感に干渉できる。

武器として弾丸を発射することができる。
自らの手で拳銃のような形を作り、発射する。


○アリス・マーガトロイド
「私はもう、目の前で人を死なせない」

19歳になる程度の年齢(1年前)
人形のような美しさを持つ美女。
冷静であることを心がけているが、予想外の出来事には若干弱い。
しかし、その予想外の出来事を楽しむことができる。
また、かなりの世話焼きで、子供が大好き。
子供を愛でるのは、人形を愛でるのと同じよう感覚……らしい。

【能力 : 魔法を扱う程度の能力】
主に支援・回復系魔法を使う。

【能力 : 人形を扱う程度の能力】
具現化した人形を武器として用いる。
その人形はまるで生きているかのように行動する。
爆弾を内蔵しているものや、武器を所持しているものなど用途により種類は様々。



○十六夜咲夜
「まあ、1番早いのは、私がユメクイを殺すことでしょうね」

18歳になる程度の年齢(1年前)
冷静沈着、才色兼備………を装っている。
実力、容姿共に十分だが、自意識過剰。
しかし結構他人想いで、世話焼きな面もある。
また家事全般を余裕でこなせる為、嫁にしたい女子No. 1である。(作者調べ)

【能力 : 時を操る程度の能力】
時間を加速、減速、停止させることができる能力。
巻き戻すことや、なかったことにする事はできない。

武器としてナイフを具現化させる。
その数に制限はない。


○レミリア・スカーレット
「すぐに貴女を消してやってもいいのよ?」

13歳になる程度の年齢(1年前)
義務教育?なにそれおいしいの?的な英才教育を受けに受けまくった天才児。
えいさいきょーいくってすげー。
『うー☆』なんて言わないカリスマ系お嬢様(のつもり)。


○ルーミア
「……はぁ、わかったよ。断る方が面倒くさそうだし」

8歳になる程度の年齢(1年前)
極度の……本ッ当に、極度の面倒くさがり。
ただ、楽しい事や面白い事は普通に好き。
突拍子も無いことを言ったり考えたりするが、実は全て計算されている……かもしれない。

【能力 : 闇を操る程度の能力】
自らの周囲に闇を展開する。
その闇の中では相手も自分も視界を奪われる。
ただ、闇の中に何らかの方法で光が生まれると違和感を感じるようだ。

武器として闇を具現化させる。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。