東方夢喰録 〜 Have a sweet nightmare!! 〜   作:ODA兵士長

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第8話 代償 –– ダイショウ ––

 

 

 

 

私の世界に、またしてもユメクイが現れた。

そのユメクイは、私の索敵手段である人形を次々と撃ち落としていた。

 

それを見て私は––––嬉しかった。

 

私が会いたかった少女ではない別の少女だったが、私に新たな発見を(もたら)してくれる可能性があるからだ。

 

––––さて、今回のユメクイはどんなのかしら?

 

私はそう思いながら、彼女の元へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「案外、呆気ないのね。前みたいに、色々と楽しませてくれるかと、期待していたのだけど」

 

目の前でひどい出血量の脇腹を抱えて苦しみながらも私を睨みつけている少女––––鈴仙・優曇華院・イナバに、私は言う。

 

「やっぱり、"死なない"ってかなりのチート能力よね。何度殺しても生き返るんだもの」

「……はぁ、はぁ……はぁ」

「そろそろキツイ?大人しく喰べられてくれるなら、すぐに楽にして上げるわよ」

「…だ、誰がッ……喰べられるもんか……」

「威勢だけは良いのね。でもまあ、念には念を……かしら?」

 

私は、スピアを持った人形たちを展開する。

そして以前の妹紅のように、鈴仙を磔にした。

 

「ぁぁぁあぁぁあぁぁああぁああぁぁぁああ!!!」

「やはり喉は潰すべきね、五月蝿いわ」

 

私は喉を潰そうと、人形をもう一体具現化させた。

その時、鈴仙が呟いた。

 

 

––––幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)

 

 

 

鈴仙の目が、赤く光る。

私はそれを見つめてしまう。

 

「……ッ!?」

 

 

突如、私の四肢に激痛が走る。

立つことなど出来ないほどの痛みだ。

 

よく見ると私の四肢は、何かに食い千切られたようになくなっていた。

私は地面を背に絶叫した。

 

気づけば、鈴仙が私を見下ろすように立っていた。

まったく傷など負っていない鈴仙が。

 

「病院に来なさい」

 

私は絶叫している。

普通なら、鈴仙の声など聞こえないだろう。

しかし、私の耳は鈴仙の声を聴き漏らさなかった。

 

「悔しいけど今の私には、貴女を殺す力は残ってない。だから、病院に来なさい」

 

私には意味が分からない。

なぜ病院なのか?

なぜ私を殺せないから、病院に来させるのか?

何も分からない。

 

「ここらで1番大きな病院よ。分かるでしょう?」

 

鈴仙の言葉の意味は理解できない。

しかし、なぜか私の心にその言葉が響き、まるで使命であるかのように聞こえた。

そんな私は、いつの間にか空が割れていることに気がつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––アリス・マーガトロイドの夢は崩壊した––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「––––ッ!」

 

誰も喰べられなかった夢は、これで2度目だ。

 

「……病院」

 

私の夢の中で、あの少女は言った。

病院に来い、と。

それは私に、使命感にも近い何かを感じさせていた。

 

「行かなきゃ」

 

そして私は家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女は……」

 

私が病院に着くと、門前には2つの影があった。

その1つは先ほどの鈴仙・優曇華院・イナバだ。

そして、もう1つは––––

 

「あら、私のことを知っているのかしら?」

「当然よ。貴女は最近有名になっているじゃない。それに私は、貴女の元患者よ」

「……そう。私が忘れていたようね、ごめんなさい」

「良いわよ別に。貴女くらいになれば受け持つ患者数も多いのでしょう?私のことなんて忘れて当然だわ」

「そう言ってくれると、気が楽ね」

 

 

––––八意永琳。

"あらゆる薬を作る"医者として、近頃有名になった名医。

そして、私は3ヶ月ほど前に彼女の患者だった。

 

「それで、本題だけど……優曇華」

「はい」

 

鈴仙が私に薬を手渡した。

私は突然のことに戸惑いつつも、薬を受け取る。

 

「これを飲んで欲しいわ」

「……何の薬?」

「夢を見られるようにする薬、"ANTI-Dm-ki"。これを飲めば、ユメクイとしての空腹が消える。そして、夢に巻き込まれやすくなるの」

「つまり?」

「私や妹紅のように、ユメクイの殲滅に協力して欲しいわ」

「……何故私が?」

「貴女、結構強いじゃない」

「まあ、貴女よりは?」

「私は本気出してないわ。それに殺しきれてないでしょ?」

「なら、今ここで殺ろうかしら?お腹空いてるし」

「別にいいわよ?貴女には不利な条件になると思うけどね」

「……不利?」

「だって、今なら多分、妹紅も巻き込まれるし……ほら」

「え?」

 

鈴仙が、私の後方を指差す。

 

「うわぁ、マジで居やがるよ」

「藤原妹紅…ッ!」

 

ポケットに手を突っ込んだまま歩く少女––––藤原妹紅がそこにはいた。

妹紅は私の顔を見るやいなや、露骨に嫌そうな顔を向けた。

 

「アリス……マーガレットだっけ?」

「マーガトロイド、よ」

「なんでもいいや。それにしても、随分威勢がいいんだな。ひょっとして、まだ薬飲んでないのか?」

「ええ、飲んでないけど……どうして?」

「いやぁ、それ飲むとヤバイからさ。慰めてやろうかと思ってたんだが」

「ヤバイ?」

「……誤解を生むような言い方だったか?別に薬を飲んだら変になるとかじゃないんだ。まあ、変になるっちゃなるんだけどな。飲めば分かるさ」

「飲めば分かるって、貴女ねぇ……」

「どちらにせよ、お前には飲むしか選択肢はないだろ?」

「……あー、はいはい。飲めばいいんでしょ?別に、私が死んでも悲しむ人なんていないし、この世界に未練なんてないわよ」

 

私は半ばヤケクソ状態で薬を口に含んだ。

そういえば水くらい欲しいわね……と思ったが、言い出せる状況でもなかったので、そのまま飲み込んだ。

 

「––––ッ!!」

「お、来たか?」

「……私、人を––––ッ」

 

私は口を押さえて蹲る。

 

 

「その薬を飲むと食欲が消えて、正常な判断が戻ってくる。そんなユメクイが次に感じるのは––––」

 

 

 

人を––––喰べていた?

 

 

 

「––––強烈な罪悪感だ」

「人を……私が……嘘でしょう?」

「ユメクイによっては、捕食後にも罪悪感を感じることがあるらしいが、それは一時的なもので程度も低い」

「……嘘だ嘘だ嘘だ」

「人を食べたことのない私でさえ、その罪悪感に押しつぶされそうになったんだ。況してや、大量に食い殺したお前なら……尚更だ」

「嫌ぁぁあああ!!」

「そんなお前の気持ちが、少なからず分かるし同情もする。今のお前は、相当な苦痛を味わっているだろうからな」

 

妹紅はしゃがんで、私と視線を合わせた。

そして、私の肩に手を置いた。

 

「だから、慧音を殺そうとしたこと。実際に喰い殺しかけたこと。全部水に流してやる。その代わり––––」

 

私は泣き喚くのをやめて、顔を上げた。

 

「––––もう、お前の目の前で人を死なせるな」

「……」

「私は許すが、お前は既に人を殺しすぎた。当然の償いだろう?」

「……私の目の前で、人を……死なせない?」

「そうさ。まあ、詰まるところ、私たちと一緒にユメクイを殲滅しろってことだな」

「……分かった。私はもう、目の前で人を死なせない」

 

私の目には、もう涙はない。

その目を見て、妹紅は立ち上がる。

 

「……2人とも、これでいいか?」

「私はユメクイ殲滅の為に戦ってくれるなら、理由なんてどうでもいいわ」

「私も師匠と同じ意見よ」

「そうか。なら、改めてよろしくな。アリス・マドリード」

「……マーガトロイドよ。よろしくね、妹紅」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、人形の人」

 

私は公園に来ていた。

別に今日は"食事"の為じゃない。

そもそも、もう食欲なんてない。

 

「今日は人形を連れてないんだね」

「そうね。連れて来た方が良かったかしら?」

「……いや、連れて来なくて良かったよ。うん。連れてない方がいい」

「どうして?」

「今日の貴女はいい目をしてるから」

「……え?」

「諏訪子様〜ッ!」

「早苗、遅かったね」

「遅かったね、じゃありませんよ!突然姿が見えなくなったので心配しましたよ?」

「だって早苗、散歩中の犬っころと戯れてたし。お人形さんがいたし」

「私は人形じゃないわよ」

「うん、今は違うね」

「今も昔も人間なんだけど?」

「お久しぶりですね、アリスさん」

「私のこと、覚えてるのね」

「もちろんですよ。それにしても––––いい目になりましたね」

「……貴女も、それを言うの?」

「早苗もそう思うよね」

「はい!」

「そう……私、変わったのかしら?」

「それはもう、別人のように」

 

それから、私と諏訪子と早苗は、よく公園で会うようになった。

人と関わることを避けることは無くなったが、依然としてコミュニティがない––––ユメクイ仲間は少し別として––––私にとっては、数少ない知り合いである。

私は、この2人と共にいることが、少し心地よかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌だ、死にたくないっ!」

「逃げないでよ。そんなことしても、どうせあんたは『逃げられない』んだ」

「だ、誰か助けてっ!!」

 

男は、少女を追っていた。

少女は恐怖に震えながら、ひたすら走る。

 

––––しかし、躓いた。

何もないところで。

 

「はははっ!俺の"言葉"から逃げられないのさ!!!」

「い…いやぁ、こないでぇ……」

「このままあんたは、俺に『喰わ––––がはっ!?」

 

少女は目を見張った。

目の前の男が、喉を切り裂かれた。

 

 

––––人形によって。

 

 

「危なかったわね、貴女」

 

そして1人の少女が姿を現す。

 

「……この男の能力は、"言霊を操る程度の能力"と言ったところかしら?随分と厄介な能力だけど、その使い手が馬鹿じゃあ、仕方ないわね」

「かはっ、はぁ、はあっ!」

「喋ろうとしても無駄よ。隙だらけだったから、綺麗に喉を抉って上げたわ。自分の弱点や急所をさらけ出して高笑いするなんて、本当に馬鹿ね」

 

男は喉を押さえて蹲る。

 

 

––––空が割れ始めた。

 

 

「……私の名前は、アリス・マーガトロイド。冥土の土産に、覚えておきなさい」

 

そしてアリスの上海人形が、太く鋭いソードを振り下ろした。

 

血が飛散する。

真っ赤な鮮血だった。

 

私の後ろにいる少女は、もはや声も出せていなかった。

当たり前だろう。

人間の成せる技を超えるモノを目にしているのだ。

恐怖を感じて当然だ。

 

「今回も、誰も死なせなかった。貴女が生きていて良かったわ」

 

私は精一杯の笑顔を少女に見せた。

しかし少女の表情は硬く、目には涙を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––■■■の夢は崩壊した––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニュ––スで、先ほど殺したユメクイが速報で取り上げられていた。

結局私がしていることは、前と変わらぬ殺人だった。

 

しかし、目的が違う。

 

 

––––救うために殺す。

 

 

言わばこれは、一種の治療なのだ。

体内に異変が起こってしまった患者への唯一且つ簡潔な治療法こそが、殺すことなのだ。

私は自らにそう言い聞かせ、自らを正当化していた。

 

そしてもう1つ。

 

 

 

––––私はもう、目の前で人を死なせない。

 

 

 

この使命を果たすことを目的とすることで、私は罪悪感から逃れ、ユメクイを喰らうユメクイとして、日々戦う時を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





*キャラ設定


○藤原妹紅

14歳になる程度の年齢(2年前)
教育に熱心な両親のもとに生まれ、彼らの期待という重圧を一身に受けていた少女。
その反動からか男勝りな口調だが、中身はしっかり女の子である。

【能力 : 老いることも死ぬこともない程度の能力】
不死身の肉体(のようなもの)を持ち、"死"に相当するダメージを負うと肉体が再構築され、完全復活する。
魂を消滅させられない限り、負けはない。

武器として炎を出現させる。
出現させた炎に限り、自在に操ることが可能。
(何かに燃え移った炎などは、操ることができない)



○八意永琳
「また、やり直しましょう。私にはそれを手伝い、見届ける責任がある」

35歳になる程度の年齢(2年前)
若くして名声を獲得した医師。
色んな薬を作っている(らしい)。
彼女の人柄に惹かれて病院を訪れる者も多い。

【能力 : あらゆる薬を作る程度の能力】
簡単な材料から不思議な薬を作ることが可能。



○鈴仙・優曇華院・イナバ
「ひ、酷いです師匠!私が師匠を裏切るわけありません!!」

16歳になる程度の年齢(2年前)
永琳を師匠と慕う少女。
真面目で陽気な性格。
本来は臆病者だがユメクイ化の影響で少し強気になった。
人は力を手に入れると変わるのである()

【能力 : 波長を操る程度の能力】
光や音の波長を操ることで幻覚や幻聴を起こす。
相手の五感に干渉できる。

武器として弾丸を発射することができる。
自らの手で拳銃のような形を作り、発射する。


○アリス・マーガトロイド
「私はもう、目の前で人を死なせない」

18歳になる程度の年齢(2年前)
人形のような美しさを持つ美女。
冷静であることを心がけているが、予想外の出来事には若干弱い。
しかし、その予想外の出来事を楽しむことができる。
また、かなりの世話焼きで、子供が大好き。
子供を愛でるのは、人形を愛でるのと同じよう感覚……らしい。

【能力 : 魔法を扱う程度の能力】
主に支援・回復系魔法を使う。

【能力 : 人形を扱う程度の能力】
具現化した人形を武器として用いる。
その人形はまるで生きているかのように行動する。
爆弾を内蔵しているものや、武器を所持しているものなど用途により種類は様々。



○東風谷早苗
「––––この世界では、常識に囚われてはいけないのですよ!」

15歳になる程度の年齢(2年前)
霊夢、魔理沙と同じ学校に通う少女。
成績優秀で真面目且つ明朗快活な性格から、学級委員長を任されている。
しかしどこか抜けている。
あと、鼻に付くところもあり、敵を作ってしまうこともしばしば……

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