東方夢喰録 〜 Have a sweet nightmare!! 〜 作:ODA兵士長
私は扉を開け、部屋に入る。
そして人形をいつものように置いた。
「今日は食べられなかった……」
先ほどのゲームに失敗した私は、まだ"食事"を摂っていなかった。
「……でも今は、アレを楽しむ気分じゃ––––」
––––––––––ザワッ––––––––––
「––––ッ!」
また、ここへ来てしまった。
確かに空腹感を感じては居たが……
今は食べる気分じゃなかった。
しかし……
「……お腹、空いたわね」
ここへ来た途端に空腹感が膨れ上がった。
それは、自分ではどうにもならないほどに。
「食べましょうか。今回は楽しむつもりはないから、さっさとね」
私は人形達を使い、索敵を行う。
木にぶら下げられた人形達が見た情報が事細かに伝えられる。
その膨大な情報量を、私は全て制御し、理解する事ができた。
先ほどの少女––––藤原妹紅は、そこに居なかった。
「……1番近いのはあそこね」
そして私は、"食事"を摂ることにした。
––––アリス・マーガトロイドの夢は崩壊した––––
「……ッ!」
満腹感と、底知れぬ満足感を得た私は元の世界へと戻って来た。
私の捕食方法は、至ってシンプルだ。
まず、獲物に近付き人形を展開する。
突然現れた私に驚く者や、逆に藁にもすがる思いで私と関わろうとする者など、獲物達はいろいろな反応を見せる。
しかし、私が人形を展開した途端、獲物達は皆同じ反応をする。
それは、逃走だ。
––––彼らは何故逃げるのだろうか?
多くの者は次のように考えるだろう。
目の前で起こった不可解な現象に、恐れをなして逃げているのだ、と。
或いは、その人形達が武器を所持していることや、明らかに私が好意的でない目を向けているのも理由になるだろう、と。
––––違う。
彼らが逃げる理由はそんな事ではない。
もっと根本的な理由がある。
では、彼らはなぜ逃げるのか?
それは––––
––––そこに足があるからよ。
私は展開した人形で即座に足を狙う。
逃走手段を奪うのだ。
あとは喉を潰して声を奪う。
五月蝿い悲鳴など、聞きたくない。
それから私は、"食事"を摂るのだ。
そして、今回食べたのは合計5人。
私と同い年くらいの男性と小学生くらいの女の子。
ちょっと化粧の濃いオバさんに、サラリーマン風の中年男性が2人。
どれも、現実に居そうな、ごく普通の人間だった。
会ったこともない人を、よくもまああんなに再現できるものだ。
私の想像力は凄いのかもしれない。
もしかしたら、人と関わらなすぎて編み出した能力かも知れないわね。
そんな冗談を思いながら、私はテレビをつけ、昼食の支度を始めた。
今度は人間としての食事だ。
生憎、あの空想世界での食事では、本当にお腹を満たすことは出来ないのよね……
––––それにしても、人と関わらなさ過ぎるのも、良くないかもしれないわね。
空想世界で、そのことに気付かされるなんて思ってもいなかったけど。
もちろん、諏訪子と早苗のおかげで気付けたと言っても良いと思うけどね。
「……関わると言っても、そんな人いないわね」
そう。
これが現実だ。
ご近所付き合いなど皆無だし、友達は作らないようにしてきた。
今更関わろうとしても、誰も––––
《臨時ニュ––スです。またしても"窒息死"が発生しました》
「……窒息?」
《近頃増加の一途を辿るこの窒息死ですが、先ほど午前8時14分頃都内にて、ほぼ同時刻に5名が倒れ救急搬送されましたが、搬送中に死亡が確認されました》
「……ぐ、偶然……よね?」
《いずれも通勤、通学途中に突然倒れた模様です》
気付けば私は、テレビに釘付けだった。
《死亡したのは以下の5名です》
テロップで5人の名前が表示される。
男性名と思われるものが3つと、女性名と思われるものが2つ。
《現在警察では原因の究明を急ぐ方針です。では、次のニュ––スです》
「……嘘でしょう?」
私は、捕食の前に必ず名を告げる。
そして、相手の名を聞くのも欠かさなかった。
もちろん恐怖で答えられない者もいるが、ほとんどの者が、その恐怖から答えざるを得なかった。
そして今回も、5人とも名前を聞いている。
––––そして、5人とも合致している。
「わ、私が……喰い殺したというの?」
––––この世界の主はお前ということだな?
––––お前、ユメクイだろ?
あの白髪の少女––––藤原妹紅が言った事だ。
彼女は、私の世界の創造物ではないということ?
現実に、存在する?
もちろん彼女だけでなく、他の者も全て。
私は––––人形?
私は––––人殺し?
私は––––ユメクイ?
私は––––私は––––
––––いったい何?
「……どうして、展開してくれないのよ!?」
私はもう一度、あの少女に会わなければならない。
そしてあの少女に会うために、もう一度あの世界を創造しなくてはならない。
––––しかし、出来ない。
意図的に生み出すことは出来ないのだろうか?
確かにアレは、いつも突発的で、多少の猶予––––公園に移動する間などの短い猶予––––を持たせることはできるものの、自由自在に制御できるものではなかった。
––––アレが展開するとき、私はいつもお腹が空いていた。
酷い空腹感に襲われていた。
それをつい先ほど、満たしてしまったのだ。
私は、その空腹感が再び訪れるのを待つしかなかった––––
《––––5名が倒れ救急搬送されましたが、搬送中に死亡が確認されました》
「怖いな……何かのウイルスかもしれない。妹紅、手洗いうがいはしっかりするんだぞ?」
テレビを見ながら、慧音は私に言った。
「そんなので防げるなら苦労はしないよ」
「そんなのとはなんだ。手洗いは大事だぞ?」
「病気ならね」
「……どういうことだ?」
「なんでもない。慧音、のんびりテレビなんか見てないで支度したらどうだ?」
「私は準備を終えているぞ?」
「……パジャマで行くつもり?」
「あ……そ、そうだな。今日はパジャマで出勤だ」
「馬鹿なこと言ってないで着替えな」
「……うむ」
そう言うと、慧音は着替えの為に自室へと向かった。
私達はいつも、着替える前に朝食などを済ませる。
着替えてからだと、食事や洗顔等で汚す可能性があるからだ。
まあ、私は別にどちらが先でもいいと思うが。
着替え終えた慧音が戻ってきた。
「じゃあそろそろ行こうか」
私たちはいつも、同じタイミングで家を出る。
慧音の小学校はかなり近く、私の高校は若干離れているのだが、お互いに出る時間が大体同じだ。
「待て妹紅」
「なに?」
「お弁当を忘れてるぞ」
「あぁ、サンキュ––」
慧音は毎朝、自分と私の分の弁当を作ってくれる。
いつも自分のを作るついでだと言ってくれるのだが、明らかに私のことを想って作ってくれている。
嫌でもわかるほどに。
だって……弁当箱開けたら" I ♡ MOCO "って書いてあったんだぞ?
恥ずかしすぎて、そっと蓋を閉じることしかできなかったわ。
本気で便所飯を考えたね、あの時は。
流石に今はそんなことないし、やめろって言ったから普通の弁当––––少し、可愛らしい気はするが––––になっているけど。
「他に忘れ物はないか?」
「たぶん平気」
「なら出よう」
そして私たちは、家を出た。
あれから2日が経った。
私はまだ、あの世界を展開することができていなかった。
空腹を感じる間隔は不定だった。
しかし今回は、少し長かった。
私は、次の空腹が待ち遠しい––––
私が、恐らく"ユメクイ"と呼ばれる殺人鬼であることを知った時はショックだった。
しかしその後、どこからともなく、"誇り"を感じるようになった。
あの後、ニュースで取り上げられているのを目にする機会が増えた"窒息死"事件。
それは私のような者が他にも多く存在することを示していた。
そしてあるキャスターが言った。
––––これは悪い病気だ、と。
それが喰い殺された人たちに向けられた言葉であることは明らかだ。
しかし、私は思う。
病気にかかったのは他でもない、私達だ。
––––つまり、選ばれたのが私達なんだ。
弱肉強食の、分かりやすく残酷な世界。
そんな世界を創造し強者になることができる選ばれた存在––––ユメクイ。
「……お腹が空いてきたわ––––やっとね」
––––––––––ザワッ––––––––––
「……ッ」
気付けば、また巻き込まれていた。
何度目だろうか?
もう……慣れたものだ。
私はユメクイを殺してここから出る。
いつも通りだ。
––––さて、今回のユメクイはどんなのかしら?
辺りを見渡す。
そこは一見すると、普通の森に見えた。
ただ一点を除いて––––
「……人形?」
木々にぶら下げられた人形と目があった。
酷く気持ちが悪い。
たくさんの人形がぶら下げられているが、私の目に入る人形はどれも私を見ているようだった。
「そんなに見ないで欲しいわ」
撃ち落とす。
気持ちが悪い。
そして、また撃ち落とす。
「……あ。これってもしかして、索敵手段?」
もしそうなのだとしたら、そのユメクイはここに来ないかもしれない。
判断を誤ったかもしれない。
警戒されては、"狩り"がしにくくなってしまう。
だが––––
「……貴女も、ユメクイなの?」
後ろから声がする。
私は振り返った。
見るとそこには、先ほどの人形を大きくしたかのような少女がいた。
「貴女……ユメクイを知っているの?」
ユメクイに関しては、私たちがそう呼んでいるだけで、世間的に広まっている物ではない。
それを知っているということは、関係者?
少なくとも私は知らないが。
「ええ。ついこの間聞いたばかりだけど」
「……へぇ、妹紅にでも聞いたの?」
「そうよ。よく分かったわね」
「……妹紅のことも知ってるのね。貴女、何者?」
「私は、アリス・マーガトロイド。貴女は?」
「名乗れと言ったわけじゃないわよ」
「でも私は名乗ったわ。貴女も名乗るべきじゃないかしら?」
「はぁ……鈴仙・優曇華院・イナバよ。それと、1つ言っておくけど」
「何かしら?」
「……私をユメクイなんかと一緒にしないで欲しいわ!」
私は発砲する。
たった1発。
それは、心臓目掛けて飛んでいく。
しかし、アリスには届かなかった。
アリスは自身の正面に魔法陣を展開し、私の銃弾を受け止めた。
銃弾は勢いを殺され、地面に落ちる。
「……へぇ、魔法使いか何か?」
「ええ。まあ、攻撃のメインはこっちだけど」
アリスは十数体の人形を展開した。
人形たちは鋭いスピアや長いソード、或いは爆弾などを手にしていた。
それらは全てまるで自我があるように動き、私に向かって来る。
私はマシンガンの如く乱射した。
あまりこの形は好きではない。
確かに不可避となり、また今回のように数が多い相手には有効なのだが、破壊力が落ちるのだ。
「馬鹿ね、貴女」
アリスが言う。
何が言いたいのだろうか?
確かに破壊力は落ちているものの、人形たちを戦闘不能にすることくらいは出来ている。
ほら、もうすぐ人形も全滅––––
––––ドォンッ
人形は、爆弾を持っていた。
それに私の銃弾が着弾し爆発した。
そこまで距離があったわけじゃない。
私は吹き飛ばされてしまった。
「いったぁ……結構な火力ね」
しかし、ただ爆風に巻き込まれただけだ。
少し擦り傷はあるが、大したことはない。
私は立ち上がり、顔を上げる。
そこには爆煙が立ち込め、視界を遮っていた。
アリスの姿は確認できない。
やばいか……?と思ったが、それはアリスも同じことだろう。
お互いに姿が確認できない今、爆煙が消えるのをただ待つのは馬鹿馬鹿しい。
一旦姿を隠すか?
隙をついてゼロ距離から発弾できれば、魔法陣も無効に––––
「––––あ」
木にぶら下げられた人形が、そこにはあった。
そして、こちらを見ている。
––––目が、合った。
突如、煙の中から人形が現れた。
手にはスピアを持っている。
咄嗟のことに、私は避けきることができなかった。
そのスピアは、私の脇腹を抉った。
「ぐぁっ!?」
激痛が走る。
私がここまで重傷を負ったのは、これが初めてだった。
「1つ聞いていいかしら?」
爆煙の中から少女が現れる。
「……貴女は、死ねるユメクイ?」
私の目の前にいる、その少女は……笑っていた。
*キャラ設定
○藤原妹紅
14歳になる程度の年齢(2年前)
教育に熱心な両親のもとに生まれ、彼らの期待という重圧を一身に受けていた少女。
その反動からか男勝りな口調だが、中身はしっかり女の子である。
【能力 : 老いることも死ぬこともない程度の能力】
不死身の肉体(のようなもの)を持ち、"死"に相当するダメージを負うと肉体が再構築され、完全復活する。
魂を消滅させられない限り、負けはない。
武器として炎を出現させる。
出現させた炎に限り、自在に操ることが可能。
(何かに燃え移った炎などは、操ることができない)
○上白沢慧音
24歳になる程度の年齢(2年前)
小学校教諭を目指し、見事にその夢を叶えた女性。
正義感が強く、とても頼りになる存在である。
幼い頃から知っている妹紅を妹のように想っている。
○鈴仙・優曇華院・イナバ
「ひ、酷いです師匠!私が師匠を裏切るわけありません!!」
16歳になる程度の年齢(2年前)
永琳を師匠と慕う少女。
真面目で陽気な性格。
本来は臆病者だがユメクイ化の影響で少し強気になった。
人は力を手に入れると変わるのである()
【能力 : 波長を操る程度の能力】
光や音の波長を操ることで幻覚や幻聴を起こす。
相手の五感に干渉できる。
武器として弾丸を発射することができる。
自らの手で拳銃のような形を作り、発射する。
○アリス・マーガトロイド
「私はもう、目の前で人を死なせない」
18歳になる程度の年齢(2年前)
人形のような美しさを持つ美女。
冷静であることを心がけているが、予想外の出来事には若干弱い。
しかし、その予想外の出来事を楽しむことができる。
また、かなりの世話焼きで、子供が大好き。
子供を愛でるのは、人形を愛でるのと同じよう感覚……らしい。
【能力 : 魔法を扱う程度の能力】
主に支援・回復系魔法を使う。
【能力 : 人形を扱う程度の能力】
具現化した人形を武器として用いる。
その人形はまるで生きているかのように行動する。
爆弾を内蔵しているものや、武器を所持しているものなど用途により種類は様々。