東方夢喰録 〜 Have a sweet nightmare!! 〜   作:ODA兵士長

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第13話 選択 –– センタク ––

 

 

 

 

 

 

「わはー、つよいのだー」

 

ルーミアは地面に横たわり、大の字になって寝そべっていた。

 

「やっと観念したわね」

 

アリスが地面に降り立つ。

その横には咲夜もいた。

 

「……殺していいよ。もう逃げるのも面倒くさい」

「ええ、もちろんそうさせてもらうわ。じゃないと私の気が触れちゃいそうだもの」

「既に触れてると思うぞー」

 

咲夜は出現させたナイフを逆手に持つ。

そして躊躇なく、ルーミアの喉に突き刺す––––

 

 

 

 

「やめなさい、咲夜!!!」

 

 

––––つもりだったが、その声に咲夜の体は反応した。

 

「お嬢様……?何故ですか?」

 

刺してはないが、ルーミアの喉元で牽制していた。

元より、ルーミアに逃亡の意思など既に無かったが。

 

「悪いのはその子じゃないわ。ユメクイでしょ?」

「お嬢様、失礼ながらお言葉を返させていただきます。この少女こそが、そのユメクイなのです」

「霊夢から聞いたわ。生まれながらのユメクイなんていないって。その子も、誰かにユメクイにされてしまっただけ。同じ被害者でしょう?」

「ですがお嬢様。既にこの者が、多くのものを喰い殺しているのは事実でございます。そしてお嬢様も––––」

「…………そうね。それは事実なのかもしれない。でもそれは、貴女も同じなのよ。咲夜」

「……え?」

「ユメクイが新たに人を殺さないために、貴女はユメクイを殺している。それは理解できるし、責められることではないと、私は思うわ」

「ならば……」

 

レミリアは語尾を強めて言った。

 

「でも結局は、同じ人殺しなのよ」

 

咲夜は、以前魔理沙が同じようなことを霊夢に言っていたことを思い出す。

その時の咲夜は、その言葉に何も思うことは無かった。

だが、今この発言をしたのは他でもない、レミリアである。

咲夜には、あの時とは違い、響くモノがあった。

 

「……そのことに関しては私も十分に承知しております。私のこの手は多くの者の血で汚れている。お嬢様に触れることなど、もはや許されないほどに」

「咲夜……」

 

咲夜は視線をレミリアから逸らした。

 

「ですが私は、もう後には引けません。来るところまで来てしまったのです。私にはもう、この者を殺すことしか出来ないのです」

 

ナイフを握る手に力が入る。

 

「……その子を、貴女と同じ種類のユメクイにすることはできないの?」

「わ、私達の同胞に……ということですか?」

 

咲夜は、驚きの色が映った瞳でレミリアを見た。

 

「ええ、そうよ。霊夢が言っていたわ。1人、ユメクイを仲間にしたって」

「咲夜。私からもお願いするわ。交渉だけでもいいから、してくれないかしら?もしルーミアが断ったら、その時の判断は貴女に任せるから」

「霊夢……貴女はこの子に思い入れでもあるの?」

「そうね、無いことはないわ。私の知り合いだし、それ以上に……魔理沙が可愛がってた子の1人だから」

「……そう。分かったわ」

 

咲夜はルーミアに視線を落とす。

 

「もし貴女が"イエス"と言えば、私はこの夢を崩壊させる。もし貴女が"ノー"と言えば、私はこのナイフを突き刺すわ」

 

咲夜が宣言した。

おそらく咲夜は、躊躇わないだろう。

 

「貴女、私達の同胞になる気はないかしら」

 

咲夜は淡々と続ける。

それは冷たく感情が無かった。

自分の感情を押し殺しているようだった。

 

「私達は、ユメクイを喰らうユメクイよ。ユメクイがユメクイの世界に入るために、夢を見る薬を飲んでもらうわ。そして他のユメクイが夢を集める度に、命がけで戦ってもらう。ユメクイを殲滅するまで、ずっとね」

 

咲夜はナイフに力を込める。

 

「––––貴女の回答は?」

 

ルーミアは少し考えて、こう言った。

 

「面倒くさそうだね」

 

咲夜のナイフが、少し食い込む。

ルーミアの首からは血が滴る。

 

「それは"ノー"と言うことかしら?」

 

ルーミアは笑った。

 

「違うよ。面倒くさいけど、面白そうだから……"イエス"だよ」

 

はぁ……と呆れたようにため息をつきながら、咲夜はナイフを引いた。

 

「貴女の回答の方が面倒くさいわ」

「そーなのかー」

 

スッと立ち上がる咲夜。

咲夜はルーミアを睨みつけていた。

そんな咲夜の手を、小さな手が包み込む。

 

「……お嬢様?」

「咲夜の手は汚れてなんかないわ。こんなに綺麗だもの」

「ですがお嬢様、私は既に––––」

「咲夜」

 

レミリアは、俯く咲夜の顔を覗き込んでいた。

 

「貴女最近、泣いてないでしょ?」

「……はい」

「もし貴女自身が、貴女の手を穢れていると思うなら、泣けばいいのよ」

「……涙は、穢れも……洗い流してくれるでしょうか?」

 

咲夜の目には、涙が浮かんでいた。

 

「ええ、きっとね」

 

レミリアの笑顔を見た咲夜は涙を堪えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––十六夜咲夜の夢は崩壊した––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ咲夜、なんでルーミアの腕を掴んでるのよ?」

 

チルノが咲夜に問う。

 

「……ああ、ごめんなさいね。少し汚れていたみたいだから」

 

咲夜が苦笑いで言った。

 

「霊夢にはゴミが付いてて、ルーミアには汚れがついてるの?2人とも汚いのね」

「そうね、2人とも汚いわ」

「何よ咲夜、喧嘩売ってんの?」

「買ってくれるなら喜んで売るけど?」

「いや、やめとく。勝てそうにないし」

「随分と弱気ね」

「そりゃ……あそこに連れ込まれたら……」

 

私は小声で言った。

 

「そんなことよりも、お菓子を食べましょうか。アリスが持って来てくれたのよ」

「おお!お菓子!あたい甘いやつがいい!!」

「チョコレートクッキーだから、甘いのとほろ苦いのがあるわ。好きなのを選んで食べてね」

 

ニコッと笑ったアリスが言った。

青ざめていたのが嘘のような微笑みだった。

 

「私はチルノより大人だから、少し苦いのにしようかな」

「なっ!?じゃあ私もそれにする!!」

「別に食べ物で大人かなんて判断つかないわよ。好きなのを食べて?」

 

アリスが微笑みながら言う。

そんなアリスはとても楽しそうだった。

アリスはこういう、子供の相手が好きなのかもしれない。

 

「食べる前に、ルーミアは少し来てくれるかしら?」

 

咲夜がルーミアに言う。

 

「あー、そうだね。分かったよ」

 

2人は病室を出て、扉の傍に来た。

 

「これが夢を見る薬。これによってユメクイとしての空腹も抑えられるわ」

「ふーん。分かった。飲めばいいんだよね?」

「ええ、今目の前で飲みなさい」

「はーい。別に監視されなくても飲むけど」

 

ルーミアは一気に薬を飲む。

 

「これでいい?」

「ええ。これで貴女は夢を見るようになったわ。近くのユメクイが夢を集めたとき、かなりの確率で巻き込まれるでしょう」

「へぇ。それで、そのユメクイを殺せばいいの?」

「ええ、そうよ」

「面倒くさいなぁ」

 

そういう彼女は、少し楽しそうだった。

そのとき、廊下の向こうから走ってくる人影が見えた。

 

「ルーミア。貴女は室内に戻ってなさい」

「はーい」

 

ルーミアが部屋に戻った。

 

走ってきたナースは息を切らしながら咲夜に言う。

 

「はぁはぁ、さ、咲夜さん!」

「どうしたの、そんなに慌てて……?」

「た、大変なんです!実は––––」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私も食べたい」

 

病室に戻ってきたルーミアがアリスに言う。

 

「まだいっぱいあるわ。よかったらどうぞ?」

 

先ほどまで敵対していたルーミアに対して、かなり打ち溶けている様子のアリスを、私は若干不可解に思った。

 

「わーい」

 

ルーミアのその言葉は、やけに棒読みだった。

 

 

すると不意に、勢いよく扉が開く。

その扉を開けたのは、咲夜だった。

 

「ちょっと咲夜、いきなり何よ?びっくりしたじゃない」

「……霊夢、落ち着いて聞きなさい––––」

 

咲夜は私の肩を掴み、まるで私に言い聞かせるように言った。

 

 

 

 

 

「––––八雲紫が倒れたわ」

 

私は驚きが隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紫!?」

 

霊夢は病室のドアを勢いよく開ける。

 

「SAT、基準値到達しました!」

「……よし、これで安心ね。下がっていいわ、あとは私が」

「はい、失礼します」

 

助手をしていたと思われるナースは私の横を通り、病室を後にした。

 

「ねえ、永琳。もしかして紫も……?」

 

永琳は振り返る。

私を憐れむような、悲しい目をしていた。

 

「ええ……おそらくね。突然倒れたのよ」

 

永琳は私の目を見ていた。

 

「…………本当に?」

「私が嘘をついてるとでも?」

「貴女は……色々嗅ぎ回る紫が……鬱陶しくて……だから……だから、ゆかりを……」

 

私の目には涙が浮かんでいた。

普段、私は紫に対して素っ気ない態度を取っている。

それは自分でも自覚してる。

だからと言って、紫をどうでもいいと思ってるわけではなかった。

それがどんなに胡散臭いババァであっても……

紫は、私の親代わりだったのだ。

 

––––普段なら、ババァだなんて思った時点で、飛び起きてでも私を殴るのに。

 

紫の目は閉じたままだった。

 

「私が八雲紫を喰ったとでも言いたいのかしら?」

 

永琳の目は冷たく私を見据えていた。

 

「……ええ、そうよ。だって、偶然にしては出来すぎてるわ!貴女と話をしている最中に突然喰われるなんて!!!」

 

私は声を荒げていた。

 

「落ち着きなさい、霊夢。院長には不可能よ」

 

私は咲夜に肩を掴まれ牽制された。

 

「そもそも、院長はユメクイじゃないわ。院長と2人でいるときに喰われたのは、本当に偶然なのでしょう」

「私は撒き夢よ!どうして私が巻き込まれずに、紫が巻き込まれるのよ!?」

「おそらく、私と同時に夢を集めたのよ。貴女の夢は私が集めてしまったから、そのユメクイには集められなかったのよ」

「……ッ」

「それに、いくら撒き夢とは言っても、全ての夢に巻き込まれるわけじゃない。集められる夢の範囲や量にも制限があるし……何より、貴女が同じ世界に入ったからって、どうにか出来るとも思えないけど?」

「で、でも……じゃあ……」

「これ以上院長を––––母を悪く言うなら、たとえ貴女でも容赦しないわよ?」

「…………」

 

私は咲夜の凄みに黙るしかなかった。

 

「咲夜、貴女も落ち着きなさい」

 

永琳が咲夜の手を取り、私の肩から外す。

 

「貴女からすれば信じられないかもしれないけど、これは本当に偶然よ。私にはこんなこと出来ないし、しようとも思わないわ」

 

永琳の目はとても嘘をついてるようには見えなかった。

しかし疑う私もいる。

私の勘は何も言ってくれなかった。

 

「……分かったわ。ひとまず、紫は助かったのよね?」

「ええ。今は安定してるわ」

「…………今回は礼を言えそうにないわ」

「貴女に礼を言われるために助けたわけじゃないわ。医者として当然の職務だからよ」

「そうね」

 

私は紫を見た。

魔理沙やレミリアと同様に、本当に安らかな表情だ。

 

 

 

 

「ねえ、ルーミア。さっきから食われたとかなんとか……意味がわからないのは私が馬鹿だからじゃないわよね?」

「黙ってなよ、馬鹿」

 

部屋に置いてきたつもりだったのだが、チルノとルーミアも付いてきてしまっていたようだ。

それに私たち3人が気付かず話していたのは、少なからず3人ともに焦りがあったからなのだろうか。

 

ルーミアとチルノの後ろでアリスが申し訳なさそうにしていた。

 

「チルノ。あの人はね、悪い病気に喰べられちゃったのよ」

 

咲夜が屈んでチルノに説明する。

 

「チルノは喰べられたくないでしょう?」

「うん!あたいを食べても美味しくないだろうしね!」

「ふふっ、なら喰べられなくなる取っておきの方法があるわ」

「何それ!教えて!!」

 

咲夜は人差し指を立てて、笑みを浮かべる。

 

「大人の言うことは、ちゃんと聞く」

「えー、なにそれー」

「そんなこと言ってると、喰べられちゃうわよ」

「えっ!?」

 

そこでアリスが手を差し出す。

 

「戻りましょう、チルノ。おいしいチョコクッキーが待ってるわ」

「うん!言うことは聞かないとね!」

 

チルノはアリスと手を繋いだ。

 

「私も戻ろうかな。"喰"べられたくないし」

ニヤッと悪そうな顔をして咲夜を見ていた。

咲夜はそれを睨みつける。

 

「うわぁ、言うこと聞かないと、本当に喰べられちゃうね」

 

ルーミアは笑って、アリスとチルノの後ろをついて歩いた。

 

 

「はぁ……チルノが純粋でよかったわ」

 

咲夜がこちらに向き直り、私たちに見せびらかすようにため息を吐く。

 

「まあ、馬鹿とも言うわよね」

「あら、私がオブラートに包んだのに。それを無駄にするのね」

「包む必要なんてないわよ」

 

少し間を置いて、私は呟いた。

 

「……ごめんね、咲夜」

「あら?いきなりどうしたの?」

「ルーミアの事よ。貴女、本当は殺したかったでしょう?」

「ええ、そうね。たとえ刺し違えてでも殺したかったわ」

「ごめんなさい」

「はぁ……」

 

咲夜は私の頭をグシャグシャっと撫でた。

 

「謝らないで。私はあの選択に納得しているし、満足すらしているわ。そもそも私は、自分が納得できないことはしないのよ」

「でも、今殺したかったって……」

「私が殺したかったのは、お嬢様の為よ。なのにそのお嬢様から殺すなって言われちゃったもの。もう殺すことなんて、どうでもよくなっちゃったわ」

「咲夜……」

「それにお嬢様だけじゃない。他でもない貴女からの頼みだから、私は納得したのよ」

「え……?それってどういう?」

「さあ、なんでしょうね」

 

私は訳が分からず咲夜を見る。

咲夜は、まるで馬鹿を見るような目で、笑っていた。

気づくと永琳も、私たちを見てクスクスと笑っていた。

 

「……なによ2人とも。ムカつくわね」

 

私は悪態をつき、2人を睨んだ。




*キャラ設定(追記なし)

○博麗霊夢
「私は勘で動いただけよ」

17歳になる程度の年齢。
他人に無関心なところもあるが、人との関わりを避けているわけではない。
楽しいことも美味しいものも普通に好き。
勘が鋭く、自分でも驚くほどの的中率を誇る。



○十六夜咲夜
「まあ、1番早いのは、私がユメクイを殺すことでしょうね」

19歳になる程度の年齢。
冷静沈着、才色兼備………を装っている。
実力、容姿共に十分だが、自意識過剰。
しかし結構他人想いで、世話焼きな面もある。
また家事全般を余裕でこなせる為、嫁にしたい女子No. 1である。(作者調べ)

【能力 : 時を操る程度の能力】
時間を加速、減速、停止させることができる能力。
巻き戻すことや、なかったことにする事はできない。

武器としてナイフを具現化させる。
その数に制限はない。



○八意永琳
「また、やり直しましょう。私にはそれを手伝い、見届ける責任がある」

37歳になる程度の年齢。
若くして名声を獲得した医師。
色んな薬を作っている(らしい)。
彼女の人柄に惹かれて病院を訪れる者も多い。



○アリス・マーガトロイド
「私はもう、目の前で人を死なせない」

20歳になる程度の年齢。
人形のような美しさを持つ美女。
冷静であることを心がけているが、予想外の出来事には若干弱い。
しかし、その予想外の出来事を楽しむことができる。
また、かなりの世話焼きで、子供が大好き。
子供を愛でるのは、人形を愛でるのと同じよう感覚……らしい。

【能力 : 魔法を扱う程度の能力】
主に支援・回復系魔法を使う。

【能力 : 人形を扱う程度の能力】
具現化した人形を武器として用いる。
その人形はまるで生きているかのように行動する。
爆弾を内蔵しているものや、武器を所持しているものなど用途により種類は様々。


○ルーミア
「……はぁ、わかったよ。断る方が面倒くさそうだし」

9歳になる程度の年齢。
極度の……本ッ当に、極度の面倒くさがり。
ただ、楽しい事や面白い事は普通に好き。
突拍子も無いことを言ったり考えたりするが、実は全て計算されている……かもしれない。

【能力 : 闇を操る程度の能力】
自らの周囲に闇を展開する。
その闇の中では相手も自分も視界を奪われる。
ただ、闇の中に何らかの方法で光が生まれると違和感を感じるようだ。

武器として闇を具現化させる。


○チルノ
「あたいはこの館を征服するわ!」

9歳になる程度の年齢。
自由奔放、天真爛漫、おてんば娘。
(バカ)じゃないぞ!自分に正直で、考えることが少し苦手なだけだッ!

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