東方夢喰録 〜 Have a sweet nightmare!! 〜   作:ODA兵士長

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第12話 宵闇 –– ヨイヤミ ––

 

 

 

 

 

「えー、面倒くさい」

 

いつからだろうか?

私はこれが口癖になっていた。

 

「なんでよルーミア!あたい達、"友達"でしょ!?」

「む、無理強いはダメだよ、チルノちゃん」

「でもこいつ、絶対面倒くさいだけだよ!」

「いやだからさ、さっきからそう言ってるじゃん」

 

こいつはバカだ。 いや、本当に。

そしてこの隣に居る、緑髪の……えっと、名前なんだっけ?思い出すのも面倒だ。

とりあえず、みんなから『大ちゃん』と呼ばれてるこの子は、何故かいつもチルノと一緒にいる。

 

「でも、よかったら協力してくれないかな?」

 

大ちゃんは私の目を見て、真剣にお願いしている。

チルノのことを想うが故に、この子は真剣なんだ。

誰かの為に自分を犠牲にするなんざ、馬鹿のすることだ。

みたいなこと、何処かの誰かが言ってた気がする。

そして私もそう思う。

 

「……はぁ、わかったよ。断る方が面倒くさそうだし」

 

私は本気で……本ッ気で嫌そうな顔をしながら答えた。

 

「よし、じゃあ家に帰って、パンとか牛乳とか持って、いつものとこに集合ね!」

 

チルノがそう言うと、私たちは解散した。

 

 

 

 

 

 

 

––––それにしても、"友達"かぁ……

 

 

 

 

面倒くさい関係だ。

自己犠牲をしあう関係。

互いに傷を舐め合いながら、時に傷つけ合いもする関係。

そんなの、本当に面倒くさいだけだ。

 

でも……引き受けてしまった手前、すっぽかしたり、何も持っていかなければ、後々さらに面倒な事になる。

そう考えた私は、家の冷蔵庫にあったハムを取り出す。

パンとかあるかな……

いいや、探すの面倒だし。

私はハムだけ持って家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が集合場所である、"いつもの公園"に着くと2人は既に待っていた。

 

「遅いぞルーミア!」

「ルーミアちゃんは手伝ってくれてるんだから、そんな言い方は良くないよ」

「ごめんね。急いだんだけど、探すのに手間取っちゃって」

 

嘘。

探すのも面倒で、急ぐのも面倒だった。

 

「ううん、良いんだよルーミアちゃん。ありがとう」

 

そんなことを知らずに、大ちゃんは私の目を見て笑顔でお礼を言った。

そんな顔されたら、私だって少しくらい罪悪感が湧く。

だからその顔は面倒で嫌いだ。

私には眩しすぎる。

 

「別に良いよ。はいこれ、ハムしかなかったけど」

「ハムかー、食べるかな?」

「きっと食べるよ!あげてみよう!」

「あたいがあげたい!ルーミア、そのハムかして!」

「良いよ。ほら」

 

チルノは袋を開け、ハムを一枚取り出す。

そして、ダンボールの中に入れられた猫にあげた。

 

2人は今日、この猫の為に食料を持ってきてやりたかったのだ。

飼うことはできないから、せめて……と。

おそらく2人はなんの悪気もなくやっている。

 

 

 

––––だが私は考えてしまう。

 

毎日あげるならともかく、おそらくこの2人が毎日あげることはない。

たとえ毎日あげてたとしても、いずれ保健所に連れて行かれるのだろう。

そんな僅かな間に、幸せを覚えさせることが、果たしてこの猫にとって良いことなのだろうか?

 

––––むしろ残酷なのでは?

 

 

 

「見てよ大ちゃん!ルーミア!たくさん食べてるわ!」

「うん!やったね、チルノちゃん!」

 

私はこの問いに答えを出すつもりはない。

それは面倒だから。

だが不意に頭によぎったこの疑問のせいで、私は猫がハムを食べたことに喜びを感じられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分、つまらなそうな顔してるのね」

 

暗い夜道だった。

私はこうして、夜の闇に包まれて散歩するのが好きなのだ。

もちろん、親にバレたら面倒だから、こっそりと。

隠れて行動するのも面倒なのだが、この散歩だけはやめられなかった。

 

「そんな顔してたら、幸せが逃げるわよ?」

 

そんな至福の散歩中に一人の女が話しかけて来た。

 

「逃げるほどの幸せなんて持ち合わせてないよ」

「外見だけじゃなくて中身もつまらないのね」

「外見も、一番外側の中身だからじゃない?」

 

声とシルエットから、長身の女であることは分かるが、顔までは分からなかった。

 

「眠れなくて夜道を歩いてる、といったところかしら?」

「んん……まあ、そんなところ」

 

嘘。

私はここを歩くのが好きだから歩いてる。

説明するのが面倒なだけ。

 

「そう。なら、この薬をあげるわ」

「……は?」

 

女はポケットから薬を取り出し、近づいてきた。

そして私にそれを手渡した。

なんとなく、受け取ってしまった。

 

「その薬は、夢を見られなくする為の薬よ」

「夢を?」

「人は常日頃から、夢を見ているの」

 

女は語り出す。

聞くのも面倒だが、スルーするのもそれはそれで面倒だ。

することないし、聞いてやることにした。

 

「その多くを人間は自覚できない。実は今も夢を見ているかもしれないのにね」

「……へぇ」

「そしてその薬は、そんな夢を見られなくする薬」

「これを飲んで、夢を見られなくなれば、眠れるようになるってことなの?」

「……さぁ?どうかしら?」

「なにそれ」

「とにかく渡しておくわ、飲むも捨てるも、好きにしなさい」

 

女の顔は、不自然なほど、よく見えなかった。

 

「知らない人からもらった薬なんて、飲む人いないと思うんだけど」

「あら、私のこと知らないの?珍しいわね」

「そんなに有名人なの?」

「そりゃあね。ここらで知らない人は居ないくらいよ」

「ふーん」

「興味ないのね。まあいいわ、ごきげんよう」

 

女は立ち去った。

なんか色々腑に落ちないし、聞きたいこともあったが、追いかけるのが面倒だ。

 

「……そろそろかーえろ」

 

 

 

私は自宅へ戻ってきた。

カギを開けておいた窓から家の中へと侵入する。

電気はつけず、部屋に戻り、そそくさとベッドへ入る。

時計は5:41を指していた。

 

「あ、そういえば……」

 

私はポケットに入れた薬を取り出した。

何処かで捨てようと思ってて……忘れてた。

もうベッドに入ってしまった。

何処かに置きに行くのも面倒だ。

 

「……飲んじゃおうかな」

 

私は軽い気持ちで薬を口に含んだ。

もしこれでおかしくなっても、別に気にしない。

それはそれで面白そうだし。

 

「……ん?」

 

体に変化が現れた。

見た目の変化は全くない。

しかしなんだろう、この感覚は––––

 

 

 

 

「––––お腹空いた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––ザワッ––––––––––

 

 

 

 

 

 

「……??」

 

そこは、光で埋め尽くされたような場所だった。

私には眩しすぎる。

 

 

––––暗くなればいいのに。

 

 

私はそう思った。

その瞬間、私は"闇を展開"していた。

 

「……え?」

 

驚いた。

先ほどまで明るかった場所が、一瞬にして暗くなる。

全く周りが見えなかった。

そして同時に心地よく、ここが私の世界なんだと実感した。

 

 

 

私は闇の中を歩いていた。

時々、声が聞こえた。

私以外にも人がいたのだ。

その人たちは皆、闇に怯え、震え、叫び……精神がおかしくなってしまっていた。

 

うるさいな……と思いつつ、私は近寄って––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––気付けば私の口は、肉を屠り、骨を齧っていた。

でもそれは、私の口とは違う、別の大きな口だった気がする。

 

「……美味しい」

 

私は満腹感で満たされていた。

そして完全に満腹になったとき、空が––––あるいは地面が––––割れる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

––––ルーミアの集めた夢は崩壊した––––

 

 

 

 

 

 

 

いつの間にか、私は自室に戻っていた。

あれは夢だったのだろうか?

あの薬、効かなかったじゃないか。

寧ろ夢見たし。

そんなことを思いつつ時計を見る。

 

時計は5:41を指していた––––

 

 

 

 

 

 

 

あれから何度か、空腹感に襲われたとき、私は我慢せずに自分の世界に入った。

あの場所は本当に心地が良かった。

 

 

 

そして、ある日の学校帰り。

私はチルノと2人で歩いていた。

私たちの家は、結構近くにあるのだ。

 

「ねぇ、ルーミア。あんた最近、なんだか明るくなったわね」

「そうかな?チルノほどじゃないと思うけど」

「そりゃあ、あたいには敵わないわよ。なんたってあたいは––––」

「はいはい、天才でしょ?」

「違うわ!違くないけど、最強よ!」

「あー、そっちだったかー」

「ふふんっ、ルーミアもまだまだね!」

 

こいつは本当に、脳内快適な奴だ。

別に嫌いじゃないけど。

 

「ねぇ、ルーミア。あんたに、あたいの計画を教えてあげるわ」

「突然すぎると思うんだけど」

「見なさい、この大きな館を!」

「あー……この無駄にでかい真っ赤な屋敷でしょ?趣味悪いよね」

「あたいはこの館を征服するわ!」

「頑張ってー」

「あんたにも協力してもらうからね!」

「えー……」

 

そのとき私は不意に、空腹感に襲われた。

この空腹感は、本当に突然やってくる。

そういえば最近、この感じ来てなかったなー。

私はもちろん我慢しなかった。面倒くさいから。

 

 

 

 

 

––––––––––ザワッ––––––––––

 

 

 

 

 

私は自分の世界に入った。

辺りを見渡す。

やはりそこは明るかった。

 

そして、何度かこの世界に来て学習したことがある。

人を見つけるまで、闇を展開するべきではない。

この闇は全ての光を遮る。

当然、私の視界も遮られる。

そうなると、人間を見つけるのが面倒くさいのだ。

だから私は、早くこの眩しさをどうにかしたいとは思うが、すぐに闇を展開することは避けていた。

 

 

––––しかし、今回は違った。

すぐに人を見つけることができたのだ。

 

 

 

 

 

それから私は見つけた人間と追いかけっこをして遊んでいた。

でも、見つからないし足音もうまく消している。

わたしには探す術が無かった。

 

「まったく……面倒だなぁ」

 

そんなことを呟いたとき、ある場所に違和感が生じた。

 

 

––––私の闇が、壊されている……?

 

 

よく分からない違和感の下へと飛んでいくと、そこには何やら光るものがあった。

弱い光だが、わたしには眩しかった。

だが、その光のおかげで目視できた。

さっきの2人ともう1人。

あれだけ喰べれば満腹かな?どうだろう?

とりあえず、喰べれば分かるよね。

 

そう思って私は1人目を喰べた。

なんだか思っていたのと違うのを食べてしまったようだが……

まあ別に、そこはどうでも良かった。

しかし、さっきの光を出していた女と目があった。

この暗闇で、目があったのだ。

私にすらよく見えていないし、本当は目があっているかもよく分からない。

しかし、向こうは完全に私を捉えていた、と思う。

 

 

「––––面倒くさいね、あんた」

 

 

 

 

 

 

 

––––ルーミアの集めた夢は崩壊した––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、ルーミア!聞いてんの?」

「え、あ、なんだっけ」

「あたいがこの館を征服するって話よ!協力してくれるのよね!?」

「えー、面倒くさい」

 

 

そんなことを言う私とチルノのすぐそばを、少女を抱きかかえた銀髪の女が駆けていった––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




*キャラ設定(追記あり)

○ルーミア
「……はぁ、わかったよ。断る方が面倒くさそうだし」

9歳になる程度の年齢。
極度の……本ッ当に、極度の面倒くさがり。
ただ、楽しい事や面白い事は普通に好き。
突拍子も無いことを言ったり考えたりするが、実は全て計算されている……かもしれない。

【能力 : 闇を操る程度の能力】
自らの周囲に闇を展開する。
その闇の中では相手も自分も視界を奪われる。
ただ、闇の中に何らかの方法で光が生まれると違和感を感じるようだ。

武器として闇を具現化させる。


○チルノ
「あたいはこの館を征服するわ!」

9歳になる程度の年齢。
自由奔放、天真爛漫、おてんば娘。
(バカ)じゃないぞ!自分に正直で、考えることが少し苦手なだけだッ!


○大ちゃん
「で、でも……迷惑だよね?」

9歳になる程度の年齢。
友達想い(チルノ想い)の心優しい少女。
本名は………何だろうね?

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