東方夢喰録 〜 Have a sweet nightmare!! 〜   作:ODA兵士長

11 / 52
第11話 再会 –– サイカイ ––

 

 

 

 

 

 

 

「––––そして、私は院長の所に養子という形で迎えられ、今に至るわ」

「へぇ……でも貴女、お母さんとは呼ばないのね」

「ふふっ、どうでしょうね?」

「どういうことよ……?」

 

咲夜は笑っていた。

 

「まあいいわ……そしてこの子が、その"お嬢様"って訳ね」

「そうよ」

 

咲夜がお嬢様と呼ぶこの少女––––レミリア・スカーレットは魔理沙と同じく、瞳を閉じて安らかに眠っていた。

 

 

「私があんたに似てるってのも、少し分かった気がする。境遇がなんとなく似ているのね。お互い、大切な人に助けられ、生き延びてしまった」

「……ええ。だからこそ、貴女にはユメクイになって欲しかったし、共に戦いたいとも思ってるの。でなければこんな話するわけがないわ」

「……ねえ、咲夜。その"闇を操る"とかいうユメクイは、もう殺したの?」

「いいえ、あれから会ってないわ。会ったら正気でいられるか、少し自信がないけど……確実に殺してやるわ。手加減なんか、絶対にしない」

「……そう」

 

咲夜は、厳しい顔つきで言った。

少しだけ、怖かった。

 

「私は暫くここにいるわ。魔理沙のところに戻っていていいわよ」

「えっと……そうね。そうするわ。それじゃあ」

 

そう言って私は、病室を後にするために扉を開けた。

 

「わっ!?」

「へっ!?」

 

するとそこにはある人物がいた。

私たちはお互いに驚いた。

 

「あらアリス。いらっしゃい」

 

後ろから咲夜の声がする。

この人が、アリス・マーガトロイドか。

確かに咲夜が話していたように、人形のような美しさがある。

 

「ごきげんよう、咲夜。今日非番だって聞いてたから」

「ええ、非番よ」

「ところで……あなたは誰?」

 

アリスは私に視線を向けた。

 

「私は博麗霊夢。ただの人間よ」

「そう。でも、事情は知ってるの?」

「ええ。貴女が咲夜と同じ種類の"存在"だってのも、ついさっき聞いたところよ」

「へぇ……咲夜、まさか昔の話もしたの?」

「ええ、霊夢には特別ね」

「なんで貴女が、ただの人間にそこまで思い入れてるのかは理解できないけど…………興味ないわね」

「ふふっ、それは良かった」

 

アリスは持ってきた手荷物から、少し大きめの箱を取り出した。

 

「咲夜、これ……つまらないものだけど」

「またなの?もういいって言ってるのに」

「やっぱり、謝っても謝りきれないわ。私が居ながら、あんなことに…………私の目の前で––––ッ」

 

アリスは心底悲しそうな表情をした。

咲夜の話では、レミリアが喰われたとき、彼女は側にいながら何もできなかったようだった。

それを未だに悔やんでいるのだろうか?

 

「本当に、もういいわ。それに私も––––」

 

咲夜は私を見た。

 

「––––謝りたくなる気持ちは分かるわ。でも貴女のせいじゃない。悪いのはユメクイよ」

 

それは自分自身に、そして私に訴えているようだった。

 

「そうだけど…………気持ちだから。受け取って頂戴」

「はぁ、分かったわ。ありがたく受け取るわね」

 

咲夜は箱を受け取る。

 

「中身はお菓子かしら?3人で食べる?」

「え、私も?」

「ああ、あれなら魔理沙のところで食べてもいいけど?」

「私が参加するのは確定なのね……」

 

咲夜が笑いながら言う。

 

「だって、大勢で食べた方が美味しいじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

結局私たちは、魔理沙の病室へ向かうことにした。

私はどちらでも良かったのだが……まあ、そりゃあ魔理沙の病室の方が良かったけど、こちらへ向かうことになったのはアリスのおかげだった。

アリスが、"夢で喰われながらも生存している"魔理沙に興味を示したのだ。

 

 

 

 

 

そして、私たちが魔理沙の病室に入ると、そこには2人の少女がいた。

 

「魔理沙!?なんで起きないのよ!!」

「あんまり揺らすのは良くないんじゃないかな?」

「揺らさないと起きないでしょ!?」

「揺らしたら一生起きないかもよ」

 

そこには馬鹿みたいに……そう、馬鹿みたいにうるさい青髪の少女と、それを面白がってる金髪の少女がいた。

2人とも、魔理沙がよく遊んでいる小学生だ。

 

「あんたら、ここは病院よ。うるさくするなら追い出すわよ、馬鹿」

「あ!霊夢が馬鹿って言った!馬鹿って言った方が馬鹿なのよ!バーカッ!」

「つまり、チルノは馬鹿なのかー?」

「だからねぇ……」

 

私は拳骨をした。

 

「うるさいって言ってんのよ、馬鹿共が」

「い、痛い……」

「なんで私まで……」

「ルーミア、あんたもチルノを止めなかったんだから同類よ」

「そ、そーなのかー」

 

ルーミアのその言葉は、私に魔理沙を思い出させた。

そういやあいつ、このセリフ気に入ってたわね。

まだ昨日のことなのに、だいぶ昔のように感じる。

 

「なんであんた達ここに居るのよ?教えたつもりないんだけど?」

「けーね先生に聞いたんだよ」

「誰よ、それ」

「私たちの担任の先生だよ。上白沢慧音。魔理沙は会ったことあるけど、霊夢はないんだね」

「霊夢はあんまり、私たちと遊んでくれないもん」

「なんで私が小学生と遊ばなきゃ行けないのよ」

「魔理沙は学校まで来て遊んでくれるよ。もちろん、放課後の校庭だけど」

「え、それって大丈夫なの?」

「けーねが、『おっけーね』って言ってたわ!」

 

チルノは右手で輪を作って頰に付け、ウインクしながら言った。

 

「……そう。まあいいわ。それで、なんでその慧音って奴は、魔理沙がここに居るって知ってるのよ?」

「黒髪の女の人が、魔理沙を抱えて病院に入るのを見たって。多分霊夢だったんだね」

「あー、あの時見られたのね」

 

私はふと、先ほどから咲夜とアリスが黙っているのに気づく。

 

「ああ、紹介するわね。この青いのがチルノ。金髪の方がルーミアよ……って、2人ともどうしたの?」

 

2人は青ざめていた。

 

「……あれー?なんか見たことある人だ」

 

ルーミアがアリスを指差し言った。

 

「なによ、あんたら知り合いなの?」

 

私はアリスに問う。

 

「…………初めましてのはずよ?ルーミア……ちゃん?」

 

アリスはやはり、酷く青ざめていた。

 

「そっか。気のせいかな?」

「ふんっ、馬鹿ねルーミア」

「馬鹿って言った方が馬鹿なんでしょ?」

「あ……あたいは天才よ!」

 

あんたらはまた……と私が2人を窘めようとしたとき、不意に後ろへ引っ張られた。

咲夜が青い顔をして、私を引っ張っていた。

そして病室を出る。アリスも一緒だった。

 

「あいつ、ユメクイよ」

「はぁ?あいつ?誰のことよ?」

「あの金髪の、えっと、ルーミア?あいつよ」

 

咲夜は早口で、普段とは違ってかなり焦っているようだった。

 

「なんで分かるのよ?現実世界じゃ見分けつかないんでしょ?」

「あいつは、お嬢様を喰ったユメクイなのよ」

「…………え?」

 

2人が青い顔をしていた理由が分かった。

 

「今から私が、夢を集めるわ」

「でも、ユメクイは集められないでしょ?」

「ええ。だから貴女に協力してほしい」

「…………なるほど、私がルーミアに触れてればいいのね?」

「そうよ。貴女に触れていれば夢に巻き込まれてしまうという性質を利用するわ」

 

咲夜は早口で続ける。

 

「もしあいつがユメクイじゃなくて、他人の空似ならそこで尋問すれば分かるわ。人間なら、傷どころか記憶すら残らないしね。とりあえず集めるから、協力しなさい」

「でも、あんたは薬を飲んでるから不利なんじゃない?」

「主な戦闘はアリスに頼むわ。私も出来る限り協力するけど」

 

少々気は進まないが、私は頷いた。

 

「ねえ、3人とも何やってんのよ」

「ああ、チルノ、今戻るわ。なんかこの2人、人見知りみたいで恥ずかしがってるのよ」

「なにそれ、馬鹿みたいね」

「……あんたそれしか悪口知らないんでしょ?」

「悪口なんて知ってても得しないわ」

「確かに。あんた、いい事言うわね。本当は頭がいいのかしら?」

「ふんっ、今更気付いても遅いのよ」

 

私とチルノは軽口を言い合いながら病室へと戻る。

 

「さて、紹介するわ。こっちが十六夜咲夜。で、こっちがアリス・マーガトロイドよ」

 

2人は軽く会釈をした。

 

「ふーん、やっぱり見たことある気がするけど……」

 

ルーミアは2人を覗き混むようにして見る。

 

「やめなさいルーミア。アリスが困ってるわ」

 

私はルーミアを牽制しようと手を出した。

その手は、ルーミアの肩に向かって伸びる。

しかし、私の手はルーミアに避けられてしまった。

 

「まあいいや、よろしくね」

 

今、ルーミアは狙って避けたのだろうか?

それとも偶然……?

 

「それと霊夢」

「な、なによ?」

「髪の毛にゴミがついてるよ」

 

ルーミアは私に手を伸ばす。

 

しかしその手は私に触れなかった。

咲夜がその手を掴んでいた。

 

「え、なに––––」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––ザワッ––––––––––

 

 

 

 

 

 

 

「––––え?」

 

––––パチンッ

 

あっという間に、咲夜がルーミアの首元にナイフを突きつけていた。

 

「え、なにこれ」

「単刀直入に問うわ。あなたはユメクイ?それとも人間?」

「痛いんだけど」

 

ルーミアの首元から血が滴る。

咲夜の手には、力が込められていたようだ。

 

「質問に答えなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「––––何してるの?」

 

 

 

不意に、背後から声がする。

咲夜の動きが止まった。

 

 

 

「何を、しようとしているの?」

 

 

 

––––ドクンッ

 

 

 

咲夜の心臓の音が、私の耳まで届いた気がした。

 

 

 

「…………お、じょ……う、さま……?」

 

 

 

咲夜の手から力が抜ける。

 

 

 

「隙あり」

 

ルーミアが咲夜の腕を振りほどいた。

そして咲夜との距離を取る。

 

「闇の展開はさせないわ!」

 

アリスが多数の人形を出現させ、ルーミアへと飛ばした。

その人形は1つ1つが武器を持っている。

 

「めんどくさいなぁ」

 

ルーミアは人形達から逃げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「咲夜?何してるのよ、こんなところで?というか私たち、何故こんな場所にいるの?私の部屋にいなかったっけ?」

 

レミリアは非常に困惑した様子だった。

当たり前だろう。

レミリアにとっては、咲夜に寝癖を直してもらっていたあの朝から、記憶がなくなっているのだ。

 

「咲夜……大丈夫?なんだか顔色が悪いわ」

 

レミリアはそう言いながら、咲夜に手を伸ばす。

 

「……いえ、お嬢様。私には、殺さなければならない奴がおりますので」

 

––––咲夜は、レミリアの手を避けた。

 

「さ、咲夜……?」

「霊夢、お嬢様をよろしく。私はアリスを援護しに行くわ」

「ええ、分かったわ」

「それではお嬢様、失礼致します」

 

咲夜は一礼した。

そして、アリス達の元へ向かった。

 

「咲夜……どうして……?」

「あんたがレミリアね」

「何?私のこと、知ってるのかしら?」

「咲夜から聞いただけよ」

「そう……それで?これはどういう状況?」

「んー、何から説明しようかしら」

「回りくどいのはいらないわ。単刀直入にお願い」

「あんたはね、一度あの金髪の幼い奴に喰われてるのよ」

「……は?」

「それで今、咲夜が仇をうちに行ってるわ」

「意味が分からないわ。私は死んでないし、あの金髪ことなんか知らないわよ」

「そうでしょうね。あなたには記憶がなくなってるもの」

「……訂正するわ、詳しく教えなさい。本当に意味が分からない」

 

私はレミリアに説明しながら、3人の戦況を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思い出したよ。2人とも私の世界で、一度会ったんだね」

 

ルーミアが逃げながら2人に言う。

 

「でもあのとき、そっちの銀髪のおねーさんは人間じゃなかったっけ?」

「人間なんて、もう辞めたわ」

「へー、そーなのかー」

「いい加減、降りてきなさい!」

「嫌だよ。降りたら殺されちゃうもん」

 

ルーミアは空を飛び、咲夜のナイフとアリスの人形を避けていた。

 

「アリス、何とかして私の届く位置まで降ろしてくれないかしら?そしたら時を止めて、一瞬で切るわ」

「体力的には大丈夫なの?無理しないくても、私がもう一度夢を集めれば……」

「駄目よ。次はきっと警戒される。さすがに現実世界で殺すわけにはいかないしね」

「……分かった、なんとかしましょう」

 

アリスはフワリと浮き上がる。

 

「でも、本当に無理はしないで。もしあいつがここに近づいてきたら、遠慮なく逃げていいわ。今の制限されたあなたじゃ、勝てるか分からないわ」

「濁さなくていいわ。多分負けるわよ」

「……だから、無理をしないでってことよ。もう私は、私の目の前で誰も死なせない––––ッ」

 

アリスは少しだけ唇を噛んでいた。

私はアリスを責めたことはない。

しかし、おそらく……アリスがアリス自身を責めたのだろう。

アリスは悔しそうな、しかし決意に満ちた表情だった。

 

「あいつの上から狙うわ。届きそうな位置に来たら、お願いね」

 

そう言ってアリスは飛び立った。

 

「なんだ。おねーさんは飛べるんだ」

「咲夜も本来は飛べるわ。今は本調子じゃないの」

「なんだかそれ、雑魚が言うセリフみたいだね」

「ふざけてると痛い目見るわよ」

「ふざけてなくても、痛い目見せるでしょ?」

「いいから落ちなさい!!」

 

アリスは、人形の軌道を変え、それらをルーミアの上に降り注ぐ。

なんとか避けるが、次第にルーミアの高度は下がっていた。

 

「本当に……面倒くさい」

 

ルーミアは心底嫌そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




*キャラ設定(追記あり)

○博麗霊夢
「私は勘で動いただけよ」

17歳になる程度の年齢。
他人に無関心なところもあるが、人との関わりを避けているわけではない。
楽しいことも美味しいものも普通に好き。
勘が鋭く、自分でも驚くほどの的中率を誇る。



○十六夜咲夜
「まあ、1番早いのは、私がユメクイを殺すことでしょうね」

19歳になる程度の年齢。
冷静沈着、才色兼備………を装っている。
実力、容姿共に十分だが、自意識過剰。
しかし結構他人想いで、世話焼きな面もある。
また家事全般を余裕でこなせる為、嫁にしたい女子No. 1である。(作者調べ)

【能力 : 時を操る程度の能力】
時間を加速、減速、停止させることができる能力。
巻き戻すことや、なかったことにする事はできない。

武器としてナイフを具現化させる。
その数に制限はない。



○レミリア・スカーレット
「すぐに貴女を消してやってもいいのよ?」

14歳になる程度の年齢。
義務教育?なにそれおいしいの?的な英才教育を受けに受けまくった天才児。
えいさいきょーいくってすげー。
『うー☆』なんて言わないカリスマ系お嬢様(のつもり)。



○アリス・マーガトロイド
「私はもう、目の前で人を死なせない」

20歳になる程度の年齢。
人形のような美しさを持つ美女。
冷静であることを心がけているが、予想外の出来事には若干弱い。
しかし、その予想外の出来事を楽しむことができる。
また、かなりの世話焼きで、子供が大好き。
子供を愛でるのは、人形を愛でるのと同じよう感覚……らしい。

【能力 : 魔法を扱う程度の能力】
主に支援・回復系魔法を使う。

【能力 : 人形を扱う程度の能力】
具現化した人形を武器として用いる。
その人形はまるで生きているかのように行動する。
爆弾を内蔵しているものや、武器を所持しているものなど用途により種類は様々。


○ルーミア
「……はぁ、わかったよ。断る方が面倒くさそうだし」

9歳になる程度の年齢。
極度の……本ッ当に、極度の面倒くさがり。
ただ、楽しい事や面白い事は普通に好き。
突拍子も無いことを言ったり考えたりするが、実は全て計算されている……かもしれない。

【能力 : 闇を操る程度の能力】
自らの周囲に闇を展開する。
その闇の中では相手も自分も視界を奪われる。
ただ、闇の中に何らかの方法で光が生まれると違和感を感じるようだ。

武器として闇を具現化させる。


○チルノ
「あたいはこの館を征服するわ!」

9歳になる程度の年齢。
自由奔放、天真爛漫、おてんば娘。
(バカ)じゃないぞ!自分に正直で、考えることが少し苦手なだけだッ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。