チートによる自動股   作:さよならデータさん

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ch-1-3 パスカルの村の来訪者

 森に入った少し先に簡素な造りの桟橋がある。

 

 その奥に争いを好まず、戦いを捨て平和を愛する機械生命体たちの村が存在した。

 のどかでありながらどこか優しさに満ち溢れたそこは今、一人の来訪者を迎えていた。

 

 「これで良かったのでしょうか……」

 

 不安そうに呟くロボット。

 彼の名はパスカル、この機械生命体の村の村長だ。

 彼はつい今しがた村の入り口で奇声を上げながら、まるで動力でも切れたように倒れた男を自分の家に寝かせていた。

 本来は白旗を作るために用意した布を急いで加工し、簡易のシーツと掛布として使用したが正直に言えばこれでいいのか疑問に尽きない。

 だが、それはそれとしてとてつもなく高揚している自分がいることをパスカルは自覚していた。

 まさか人類がこの星に生きていて、自分たちの村に来てくれるとは夢にも思わなかったからだ。

 彼はこの村についてどう思うだろうか?

 私たちの事をどう思うだろうか?

 危害を加えられるかも知れない、だがそれでも━━━。

 

 

 見て欲しかった、信じて欲しかった。

 自分たちが作り上げたこの村を、そして自分たち平和を愛する機械生命体がいることを。

 

 

「人間さん。 ようこそ、私たちの村へ」

 

 

 先程から気になって覗いてくる子供たちの相手と村の雑用もしなければならない。

 彼は出来れば目覚めた時に言いたかったなと思いながらゆっくりと家を後にした。

 イビキをかきながら眠る来訪者を残して。

 

 

 

 

 

 ふとむせかえるような濃い緑の匂いを感じ、目を覚ました。

 自分は今、どうしていたんだったか。

 

 ゆっくりと重たい瞼を開け、状況を確認する。

 異様に狭い、木材で作られた小屋━━━の中でどうやら眠っていたらしい。

 

 

 (くそっ、これだから生身の肉体は面倒なんだ、久しぶりに使ったせいか感覚が掴めん!

 まさか眠気に負けたのか? ……なら今は捕虜にでもなって━━━)

 

 

 身体を起き上がらせるとハラリと何かが自分の身体から落ちた。

 

 それは白い布だ。

 これを見て、どうやら自分は介抱されていたのだと気づいた。

 一体誰が? そう考えているとふとなにか明かりが点いている。

 なんだ? そうして視線を向けると━━━目があった。

 明かりだと思ったそれは丸くてかわいらしい、黄色のカメラアイのライトだったらしい。

 

 「オッ、オジチャン 人間サンガオキターッ!」

 

 そう叫んでガッチャンガッチャンと音をたてながらそれは覗いていた窓から視界の外へと消えていく。

 

 そうか、確か遊園地とロボットの村を発見して叫んだのはいいが予想以上に体力を使っていたようだ。

 

 まさかそのまま倒れたとは……。

 

 

 「あぁ、良かった。 気分はいかがですか?」

 

 

 

 そう心配そうに聞こえてくる女性の声、これにどこか安心感を覚えながら返事を返す。

 

 

 「いえ、こちらこそありがとうございました。

 まさか助けて頂けるなんて━━━」

 

 

 「いえいえ、困ったときは御互い様ですよ

 それに敬語なんて必要ありません。

 気軽にパスカルと呼んでいただければ━━━」

 

 

 あまり気負わないで楽に話してほしい。

 そういう彼に従い、お互いの事を話した。

 自分たちの事、世間話、そしてこの世界の人類について━━━。

 

 「人類が月に逃げ延びて、地上奪還の為にアンドロイドを戦わせている……。

 機械生命体側でもそういう認識なんだな……」

 

 

 「はい、私が製造された頃には人類は一人もいませんでした。

 私も機械生命体のネットワークで知った情報なので確証はないのですが……」

 

 

 

 いや、ありがとう。そう返答すると二人で話し込んでいた足場の縁からゆっくりと立ち上がり、身体を伸ばした。

 

 バキバキと鈍い音を鳴らすとパスカルはそれを不思議そうに観察している。

 彼ら機械生命体はこの星に来た異星人によって製造され、人類の為に戦うアンドロイドたちと殺しあってきたらしい。

 聞けば聞く程にどちらが正しい事を言っているのか分からなくなる。

 ようやく纏まった時間が出来たので会話しながら調査した今までの情報を纏めていたが不審な箇所が幾つも浮かび上がる。

 自我をもった機械生命体、攻撃されないアンドロイド基地、同素材で出来た両者のコアユニット、消えた人類と逃げ延びた筈の人類。

 

 (異星人といい、新しい情報は入ったがこれでは何がなんだか分からんな)

 

 

 時期が来たのかもしれない。

 いい加減、アンドロイド達の組織からも情報を手に入れる時が……。

 

 

 でもその前に━━━。

 

 「礼は返すよ、パスカル。

 何か必要な物はないか?」

 

 

 その言葉に数分悩んだ後、彼は答えた。

 貴方の知識をあの子たちにも教えてあげてはくれませんか?、と。

 

 

 後にパスカルはこの選択を後悔する事になる。

 世の中には知らなくて良いこともあるのだと。

 

 

 

 

 

 

 「人間サン、サルトルガマタビデオオトッター」 

 

 

 「あのポンコツめ!! 今日という今日は許さんぞ!」

 

 

 哲学じゃなくて鉄屑という名のスクラップにしてくれるわ!?

 

 そう怒鳴りながらスパナを手に駆け込んでいく俺は思えば大分この村に馴染んだものだ。

 

 そう考え、言い訳を並べ立てるサルトルを達磨にして放置しながら子供たちに映像機器をセットし直してやる。

 

 パスカルに頼まれた教育、それは多岐に渡り先ずは先入観による苦手意識といった物をなくす為に特撮といった娯楽物を見せていたのだがいきなり問題が発生した。

 

 

 ヒーローごっこをした子供たちの一部、怪人役の子たちが自爆したのだ。

 自分が修理出来たから良かったもののパスカルの取り乱し方には慌てた。

 パスカル以外には一部しか生死の概念が理解できていないらしく、あの時の、

 

 

 「お願いします、子供たちにこれ以上余計な情報を与えないでください!!」

 

 

 と絶叫混じりで叫ばれたことは心を抉られた。

 しかし、このままではよくない。

 

 彼は子供たちに感情しか教えていない。

 死による喪失感といった事も教えなければ取り返しのつかない事になる。

 そう話したときパスカルは沈黙した後に少しずつ口を開いた。

 

 

 「私も子供たちと一緒にそれを受けます。

 それと事前にその情報を私に確認させて下さい。」

 

 

 もうあの様なことはさせたくありません。

 そういったパスカルに自分は既視感を抱いた。

 

 

 

 それからは自爆は禁止を言いつけて、暴走するサルトルを仕置きしつつ、何故か置いてあるアンドロイド達のアクセスポイントを弄っていた。

 

 このアクセスポイントも偽装に何故自販機なんだと問いかけたいがあえてスルー。

 

 内部を弄り、次々とパーツをセットしていく。

 よし、何とかパスカルの信頼を取り戻さねばな。

 そう決意し、最後のパーツを繋ぐ。

 最初に居た地球で自身の作ったそれ、出来たはいいが色々と思い出があるけどあまり多様はしたくないそれ。

 

 

 付属の接続機器を取り付け、パスカルを呼び、それを起動させる。

 その作製した機材はかつて彼の地球で爆発的な人気と景気上昇を引き起こし、様々な社会問題にまで発展した。

 彼曰く人類の夢にして到達点、仮想空間による体験型仮想現実、そうVRである。

 

 

 これを用いた教育プログラムを使い、彼等に様々なことを知ってもらうのだ。

 

 

 「ふむ、これが仮想現実ですか。

 すごいですね、正直驚きの連続で思考が追いつきません」

 

 

 

 パスカルはこの世界に接続した際、そう口にした。

 人間体験型体感プログラム、これは昔居た人間以外の種族に人間を知って貰おうと作製し、今は使うことなくお蔵入りした教育プログラムだ。

 味覚プログラム、触感プログラム、とにかく人としての感覚を知る為のプログラムだが子供たちに教育をさせる為のプログラムも入っている。

 

 一応教育プログラムなので過去にVRで起きたレズリアンVSホモデター戦争のようなことは絶対に起きない筈である。

 

 それは置いといて、実はパスカルにはこのプログラムを体感させる際に、少しイタズラで女性アバターを用意していたのだが全く堪えた様子がない。

 むしろそちらの方が似合っているのではないか?とさえ思わされる位だった。

 

 

 「あの、どうかしましたか?」

 

 「いや、なんでも━━━」

 

 

 やっぱりその声でおじいちゃんは無理があるよパスカル……。

 俺はその言葉をそっと呑み込んだ。

 

 

 

 正直言う、誤算だった。

 

 

 パスカルの承認を得て運用した当プログラム、これは子供たちに想定以上の思想進化をもたらしてしまった。

 というか想像以上にプログラムの方がおかしかった。

 

 最初は初めての人間の身体を体感し、驚いて喜んでいた子供たち。

 初めての食事に美味しい美味しいと言っていた子供たち。

 仮想人格の友達と学び、遊び、成長していく姿にパスカルも喜んでいた。

 

 

 

 

 が、

 

 

 

 

 事態は急変する。

 

 

 

 

 仮想人格の子供が突然、交通事故で亡くなったのだ。

 この時点でおかしいなと気づいて止めておけば良かったのだがまぁこんなこともあるだろうと続行したのがいけなかった。

 子供たちに平等に教育する為かこのプログラムは接続した子供たちから平等に大事な誰かを奪い始めた。

 それは祖母といった大事な家族であったり、大事な友人であったり、苦楽を共にする愛犬だったりした。

 

 

 要するにこのプログラム、設定次第で余計な事をやらかす欠陥品だったのだ……。

 プログラムが終わった頃には子供たちの笑顔は消えていた。

 

 

 「人間さん、後でお話しがあります」

 

 

 「ハイ……」

 

 

 パスカルの震える声を聞いた俺はこれは終わったと思った。

 

 

 

 

 「人間という生き物はどうしてあんなにも直ぐ死んでしまうのですか?」

 

 

 

 パスカルにはそれが不思議だった。

 そういう生き物、で答えられれば終わりだが何故か無性に納得がいかなかった。

 先程のプログラムで言いたい事もあったがそれよりもこの結果に感情が昂る。

 

 仮想人格の子供が交通事故であっさりと死んだ。

 即死だった。

 もしこれが接続している子供たちだったらと思うと寒気がする。

 他にも老衰による寿命、パーツを取り替えるだけで済む自分たちには理解できない突然の死による別れ。

 

 あれほど生きて暖かかった手が水の様に冷たい。

 

 

 自分たち機械生命体の様に頑丈ではないのだと知ってしまった。

 

 

 生き物というのはこんなにも脆いのだと……。

 

 だからこそ聞きたい、そんな別れは辛くなかったのかを。

 

 「人間ってのは個体差で様々な対応になるけど自殺するのもいれば忘れる奴もいるし、自分みたいに慣れるやつもいる。

 気にしてもしょうがないさ」

 

 

 その言葉にパスカルはそうですかと返答を返し、彼に向き直った。

 やはり自分たちには理解できないのだろうか、そう考えて━━━

 

 

 

 「それはそうとしてあのプログラムのことは別です。

 これからその事についてお話しがあります、いいですか━━━」

 

 

 因みにこの説教は2時間程続いた。

 

 

 

 

 

 レジスタンスキャンプを少し歩いた橋の下にいつの間にか置かれていたアクセスポイントを発見した二人。

 そんな報告は受けていないがとりあえず利用する事にした。

 

 

 「こんな所にアクセスポイントがありますよ、2B。

 一応記録を残していきましょう」

 

 

 「わかった、早く済ませよう」

 

 

 

 そうして利用した二人だったが片方が接続すると同時にもう片方にも強制接続され、二人は謎の空間に取り込まれた。

 

 

 「すみません、迂闊でした。

 まさかアクセスポイントを模範したトラップだなんて━━━」

 

 

 「話は後、9S。 とにかく何とかこの状況を━━━」

 

 

 そこで二人はハッと気付いた。

 二人の服は別なものに変わっていたのだ。

 ポッドさえ、いれば制服と答えたであろうそれもアンドロイドにはわからない。

 おまけに知らない知識が頭の中にあり、知らない母親を名乗る人物に急かされて朝食を食べ、とある施設へと行かされた。

 

 

 「どうやらこの施設になにかあるようですね……」

 

 

 「探索してみよう、何か手掛かりがあるかもしれない」

 

 

 

 帰還しよう、二人で絶対に。

 そう二人は決意し、この探索を開始する。

 

 舞台として用意された校舎の中を━━━。

 

 ゲーム名『LOVEドキッ!学園生活』と呼ばれたこの世界の中で━━━。

 

 勿論これはある男がパスカルに怒られた際に、アンドロイドにも同じことが起こるのか、その反応のデータ取りの為に用意した物で他の場所にも複数設置しており、何人かのアンドロイドが同じように罠にかかった。

 外に居たポッド達の救援要請で駆けつけたアンドロイド達も強制接続の対象となり、様々なLOVEロマンスを繰り広げながらどうにか脱出したが中で何があったのか彼女たちは黙して語らず、少しの間妙な空気が漂ったそうだ。

 

 




なんなのこれ?

 いや、正直驚いてます。ランキングのるは感想いっぱい来るは━━━。
 今回は感想返すのちょっと難しそう……。
それはそれで皆様ありがとうございます。
 本当に正直ここまでになるとは思わなかったなぁ。

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