チートによる自動股   作:さよならデータさん

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ch-1-1-a 意図せぬ接触

━━━ポチャン

 

そんな音をたて、四方円形の機械は海中へと沈んだ。

 

目的は資源、及び情報媒体の入手であり、自分と同じ機体が何機も地上に撒かれ、同じように活動していた。

…。

どうやら大きめの資源が近くにあるようだ。

発見した、これならば自分たちの創造主も喜ぶだろう。

特殊ワイヤーネットを使い、対象を鹵獲、直ぐ様主に献上する為、海上に上がり浮遊する。

主はこの回収品に喜んでくれるだろうか? 私を褒めてくれるだろうか?

半ば期待と共に主の前に帰還する。

 

 

そして主はこの資源を回収した私にこう言った。

 

『この海にまともな魚はいねーのか』と。

 

 

 

あの機械達との戦闘後に大規模な爆発があった。

直ぐ様状況の確認の為に量子変換して所持していたドローンを向かわせ、現地に近づく。

どうやらあの戦闘機とブリキ野郎どもはお互いに戦争でもしているようで先程の爆発はその戦闘の余波なんだろう。

 

見た感じ工場だった場所の橋場が崩れている事から結構近くでドンパチやっていたらしい。

というか崩れた橋場に日本刀らしき物が刺さっているので間違いないだろう。

 

「ふむ、工場に海か…。さっきの戦闘機も沈んでるかも知れんな」

 

 

他にも海底にもなにか沈んだ情報媒体でもあるかもしれない。

早速数機のドローンを追加で展開して、工場と海底に回収に向かわせる。

 

そこまではよかった。

 

なぜかシルエットでわかってしまうドローンの回収物。

なぜに魚? なぜ魚? だがよくよく見てみればそれは魚ではなかった。

 

 

ビタン、と落とされたそれはビタビタ、ガシャガシャと暴れて地面を荒らし回る。

あぁ、多分また自分の目は死んでいるだろう。

何に突っ込めばいいのか、いやそもそもこれはなんなのか?

俺は目の前にある機械のサメに途方にくれた。

 

 

ただ言えることは一つ、この世界はやっぱりおかしい。

 

━━━あれから大体3時間位過ぎたところで工場側のドローンが廃材以外の何かを見つけてきた。

 

 

 

正直、もう精神的に疲れてきてあの戦闘機から奪った情報でも閲覧しようかと思っていたのだが、丁度良かった。

 

詳細な回収内容を指示しなかったからかガラクタしか拾ってこないし。

が、その回収品。

それはシルエットからして明らかに人型、しかも肉付きからして女性である。

今度は別な意味で目が死んだ。

というか血の気が引いた。

 

ドローン達が持ってきて積み上がっていたガラクタを急いで退かし、医療準備を開始する。

 

が、副官も言っていた通りにここには人間がいないらしい。

その女性は機械だった。

人造人間、人型機械、アンドロイド…。

 

「どうすればいいかな、これは━━━」

 

 

見る限り戦闘で破損したのだろう裂傷に陥没が見た感じいたるところにあった。

 

 

「だ…、だれ?…お、ね…が、たす、け━━━」

 

 

 

「…チッ」

 

 

助けを求める声を聞き、思わず舌打ちした。

コイツ、生きてるのか。

どうやら自閉モードかなにかで自分を保護していたらしい。

 

 

普段なら助けても良いかも知れないが今はあまり状況も良くない。

面倒な事になる、確実に。

だが━━━

 

 

【あの時もそうやって助けられた筈のあの娘を見殺しにしてしまったのだったか━━━】

 

 

 

嫌な記憶が甦る。

終わった筈の過去、それに似たこの状況が自身を蝕む。

 

合間合間に何故か副官の顔がちらつく。

ここに来るまで色々な体験があった。

陰謀、裏切り、犠牲、安堵━━━。

一緒にいた自動人形ももはや初期ロットは彼女しかいない。

自分の想いの結晶、最高傑作として産み出した自動人形達。

それこそ最初機の機体にはみな大切に名前をつけた。

そう大切に━━━

 

だがそんなあの娘達はもはや存在しない。

自分の愚かしさが彼女達を殺してしまった。

そうだ、そう言えば副官にも名前をつけていたのだったか?

どんな名前だっただろうか?

 

それももはや思い出せない。

愛着が湧けば別れが辛くなる。

だから俺はあの娘を名前ではなく役職で呼び初めたのだから━━━。

 

 

思考を止める。

この考えは余計だ、いらない考えだ。

 

余計な考えをさせてくれたこの人形に視線を向ける。

解体して情報を抜くべきだ。

それが正しい、無駄のない作業だ。

なのに━━━。

 

 

 

「ごめ……、6………D…」

 

 

誰かへの謝罪、そしてどこからか流れた水の雫石が脳裏を刺激した。

ちらつく、頭にノイズが走る。

━━━この不快感を早く黙らせたい。

あぁ、こんなのデメリットの方が大きいのに……。

 

「今回は、いや、今回だけだ。

次はない、絶対に……」

 

 

 

不快感を表しながらそのアンドロイドの修復を始めた。

後から何体か増えたが関係ない。

もう始めたものは仕方ない、あと数体くらい誤差だ。

作業に没頭すればこの不快感も気にならなくなるだろう。

対価は勿論いただく、記憶という名の情報を。

これはギブアンドテイク、ただそれだけ。

 

 

そんな事を考えながら思わぬ形で訪れた廃工場でただただ静かに時が過ぎていく。

何故だかこの間はあの不快感は感じず、不思議な達成感とよく分からない、悪くないと思える感情がその時にはあった。

 

 

だからこそこれが大きなミスになるとは考えられなかった。

 

よりにもよってこのタイミングで何らかの二足歩行兵器が急接近しているとは。

修復は何とか終えたが情報の引き抜きと痕跡の抹消。

これらが間に合わないのは確実だった。

 

 

 

とあるヨルハ部隊員に依頼され、やって来た廃工場跡地の入り口。

内容は件の部隊員の先輩にあたる11Bの捜索、またはその関係品の回収である。

投棄された自分たちの装備の回収の次いでではあるが依頼された以上断る理由もないために受けたのだが━━━。

 

 

「疑問:複数のブラックボックス反応を検知。

目標のブラックボックス反応も確認」

 

「……9S、これは罠だと思う?」

 

「分かりません、ですが確認の為に行くしかないと思いますよ2B」

 

ポッドの言葉に警戒しつつ、アクセスポイントの隣にある階段を登る。

 

そこで見たのは修復されたヨルハ部隊員の姿。

 

 

「降下作戦時にいた人員、全員の義体が修復されているみたいです」

 

 

9Sがスキャナーモデルの性能に違わぬ精密検査を各義体に走らせる。

そして驚嘆の声をあげた。

 

 

「す、凄い。

義体の性能が全体的に20%上がってる!

回路も見たことのないパーツが使われて━━━」

 

 

「9S!」

 

 

このままだと暫くは語り終わるまでは止まらないだろう。

そう考えた2Bは9Sを叱責する。

 

 

「あっ、すみません。

でも本当に凄いんですよ2B!

この義体を解析出来ればヨルハ部隊の戦力の底上げにも━━━」

 

 

「それは私たちじゃなくてもいい。

とりあえずわかったことだけでも教えて」

 

 

「分かりました、どうやら彼女たちは僕たちが来る前に何者かに修復を受けていたようです」

 

 

でもいったい誰がやったんだろう。

そう呟く9S、

その言葉に2Bはあり得ないと思った。

ましてや最新型のヨルハ部隊戦闘モデルの義体、それをバンカーは距離的に無理だとして、レジスタンスキャンプならその手の技術を持ったアンドロイドはいるかもしれないがこの数の修復する為の資材といった物資がこんなところにあるはずもない。ましてやこの数だ。

そこに改良となれば絶対に有り得ない。

するとポットから2Bに提案が行われる。

 

 

「提案:支援ポッドの情報提供による情報の開示。

それには9Sによる支援が必要と推測」

 

 

「どういうこと?」

 

 

支援ポッドたちにはポッド間でのネットワークによる情報共有があった筈である。

それを使えば直ぐ様情報を得られるはずだが、

 

「開示:何者かに内部機能を閉鎖され、通信機能といった一部機能が回復できていない」

 

 

どうやら相手はかなりの腕を持っていたらしい。

ここまで出来るとなると先程のレジスタンスの話も消える。

機械生命体ではない、筈だ。

敵であるアンドロイドを修復する意味がわからない。

早速9Sは了承するとポッドに対してハッキングによる修復を開始した。

 

 

だが9Sモデルですら簡単にはプロテクトが外せないよう改良されていたらしく、大分時間がかかってしまった。

 

 

「くそっ、なんて防衛コードだ。

本当にいったい誰がこんなものを━━━。

2B、一部だけ解除に成功しました。

中身はどうやらポッドによる映像つきの記録データみたいです。

どうします?」

 

 

その言葉に2Bは即答で答えた。

開示して、と。

 

 

中身はどうやら彼女たちを修復中のアンドロイドの映像だった。

しかし、これはなんだ?

 

空間から波紋を出して出てきた4本のアームに見たことのない機械部品、量子変換の技術。

どう考えても現地の、ヨルハ部隊のアンドロイドではあり得ない。

 

 

ならば決まっている。

 

 

(この男があのポットの━━━)

 

 

そしてどうやら自分たちの来る前後にまで映像が来たのだろう。

男は頭を振るとポッドに向かって『もう怪我はするなとでも言っておいてくれ』と一言残し、離脱した。

 

 

周囲の景色に同調して。

染み込むように消えた男の存在、光学迷彩だ。

更に此方の索敵に掛からないところ見るとかなりのステルス系技術を持っている。

 

「「……。」」

 

 

なんということだろう。

司令官の考えは的中していた。

しかも此方の言葉も理解している。

 

 

「9S、バンカーにいる司令官に緊急報告を!

対象の━━━」

 

 

「報告:緊急性あり」

 

 

突如ポッドから緊急の報告に指示を出そうとした2Bも了承しようとした9Sも動きを止める。

 

 

そして紡ぎだされた言葉は彼らの思考を染め上げ、停止させるには十分だった。

 

「報告:接触したポッドによる精査結果、対象は二足歩行による有機生命体である可能性が高い。

司令部からサーバーを通して類似情報を回覧、照合した結果━━━」

 

 

 

 

 

『恐らく対象は人間、または人類種に属する生命体である可能性が極めて高い』

 

 

 

その言葉を聞き、二人のアンドロイドは時間が止まったように感じた。

 

 

 




皆様感想ありがとうございます。
まさか意外に見てくれる人がいるとは……。
そのうち感想返したいと思います。
しかしアジはトラップ過ぎた、やってた2時間のデータが飛ぶとは━━━。
この私の目をもってしても(以下略、同様のエンド被害多数で何度もやり直している模様)

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