SEED×00:Extra_Contents   作:MS-Type-GUNDAM_Frame

4 / 5
現実逃避の成果の二本立て、一本目です。お確かめください。


番外編:アズラエル(魔人)の生まれた日

負けた。

一人で挑み、負けた。必勝を期して人数に恃んでも、やはりだ。

自分の家は、まあまあの金持ちだ。だから、欲しいものは大抵叶ったが、それだけに我慢ならない。自分より上の存在が。

 

10人ほど仲間を集めて畳んでしまおうとしたが、憎くきコーディネーターは歯牙にもかけないほどに一蹴し、おまけに侮蔑の目までくれていった。

強かに打ち付けた背中に痛みを感じながら、アズラエルの心中は溶岩のように赤熱していた。

 

何が悪かった?一度跳ね飛ばされた程度で方々に散っていくあの根性無しどもか?それとも僕をコーディネーターにしなかった両親か?

 

凡人よりはよく回ると確信がある頭脳は、唸りをあげて答えを探していた。そうして、一つ確信を抱く。

 

いずれにせよ

 

「このままじゃ済まさない」

 

苛立たし気に舗装された地面を叩いた。拳が少し切れて血が出るが、全身からアドレナリンを立ち昇らせるように気炎を上げるアズラエルには関係が無かった。

 

少し時間が経ち、ひとまず帰ろうと考えたアズラエルは、メインストリートのある店の前で立ち止まった。

 

「銃器店・・・」

 

思えば、なぜ自分は素手などにこだわったのだろうか?

 

勝利を確信したアズラエルの幼い顔が、狂喜に歪む。心に触れるものはあったが、これで勝てるとプライドを刺激された歓喜の前にはあまりに小さかった。

ふらふらと道の端に寄り、人よりかなり多くの額が入った財布を手に銃器店の扉を開けようとしたとき、肩を掴まれた。

 

「あー・・・驚かせて済まない。道を聞きたいんだ」

 

そこそこに年を経た人物に、アズラエルには見えた。

 

「ここに行きたいんだ。頭は良い方だからね、一度言ってくれれば分かると思う」

 

今時珍しく紙の地図を持った男が指さしていたのは、アズラエルの家にほど近い場所だった。

 

「そこは、僕の家だから案内します」

「おお!それはうれしいね!実をいうと一人は寂しかったし、道連れは欲しかったんだ」

 

まるで知らない人間を案内するというのは、アズラエルにもよいことではないと思えた。だが、だれにでも有るものではない、何かがあった。

カリスマというのか、きっとこういうものなのかとアズラエルは心の中で呟いた。

 

男はとても良く喋ったが、その話はアズラエルを飽きさせなかった。

男が打ち込んでいたスポーツ、学業、研究、そして一番行ってみたかったと言う宇宙の話。

スクールでは見たことが無いタイプの人間で、小難しそうで中身のない話を延々と続ける教師や、馬鹿のように騒ぎまわっている同級生とも違う。簡単なことしか喋らないのに、その言葉には十や二十では足りないほどの意味が籠っている・・・ような気がする。

同時に、寂しさもあるような言葉だった。

 

いつも通学する時にバスで通り抜ける通りを曲がり、アズラエル家が所有しているマンションのエントランスへ入る。

 

「どうやら君はとてもお金持ちらしいね?」

「僕じゃない、僕の親が金持ちなんだ・・・ねぇ、そろそろうちに何の用なのか話してくれませんか?」

 

はは、と男は笑った。

 

「そうだね、それを話さなくては僕はただの不審者だ・・・実はね、君の両親と商談に来たのさ」

「商談?なんの?」

 

今まで、両親が商売と名の付くものを家に持ち込んだことはなかった。おかげで何をしているのかさっぱりなのだが。

 

「そうか、君はご両親の仕事を知らないのか・・・いや、僕が言えることじゃないね。君の両親が君を驚かせ、君が今まで以上に尊敬するという機会を奪うわけにはいかないだろう?」

 

充分尊敬はしている。そう言葉が喉元までは来ていた。周りの人間と比べれば、自分の親が金持ちで、それを維持しているのだ。すごくない訳がない。

 

「いやいや、君が思っている以上にすごい事をしているはずさ。なにせ・・・ああいけないね、こんな年になっても喋りたがりという癖が抜けないなんて・・・完璧な人間なんて嘘っぱちさ」

 

最後の小さな呟きは、アズラエルにはしっかり聞こえていたが敢えて何も言わなかった。自分でも、そう思っているところはある。

 

「さて、守衛さんが風邪をひく前に入ろうじゃないか。ところで、お土産に我が人生の全てであるクルミ入りスコーンがあるんだが、君も食べるかい?」

 

両親に驚きとともに迎えられた謎の老紳士は、書類を取り出して口を開こうとして制止され、あっという間に夕食になっていた。スコーンをもらったのは寝室に戻る直前だったが、結論から言うと食べ過ぎて眠れなくなった。

 

夜半に、トイレに行こうとしたアズラエルは、客間から明かりが漏れていることに気づいた。

 

「おや、そこにいるのは・・・」

 

足音で気が付かれたのか、ドアが開き、そこにはスコーンをかじる老紳士が、ガウンを羽織って立っていた。

 

「入るかね?」

「先にトイレ行きます」

 

すぐに用を足したアズラエルは、大急ぎで客間へ戻った。

 

「ふむ、スコーンはどうだったかな?」

「あんなものは初めて食べました」

 

それは良かった、と、男は笑った。

 

「実を言うとね」

 

自分で淹れた紅茶を啜りながら、方眉を上げている味は悪くないらしい。

 

「君のことは、肩を掴む少し前から見ていたんだ」

 

写真で見て先に知っていたんだよ、と、笑った。笑っている顔は、なんだかずっと若く見えた。だが、納得がいかない。

 

「見ていたなら・・・」

「ああ、しかし、君はどうだい。最終的には君一人が何度も向かっていったが、最初は10対1だ。あれでは、助けるというよりはいじめじゃないか」

「でもっ・・・あいつは」

 

どこか、分かっていた。きっと子供っぽいとか、そういうことが当てはまるんだろうと。それでも、胸の奥に燻る火が収まらない。

 

「負けてられないんだ!あいつがいる限り僕は1番になんて・・・」

「1番がそんなに大事かい?」

「そうさ!」

 

男は、またふふっと笑った。

 

「帰りに、僕が学生時代は本気でアメフトをやっていたと言っただろう?」

 

選手時代の写真まで見せてもらった。確かに強そうだと思ったが、今それと何の関係があるのか。

 

「実は、オリンピックにも出たんだ」

 

それは、驚きだった。今度は自慢かと鼻白むが、もう一つスコーンを投げて男は続けた。

 

「まあ聞いてくれ。僕も若かった・・・僕は世界で一番だと思っていてね、当然勝てると思っていたんだが・・・」

「勝てなかった?」

「いや、良いところまではいったのさ。だが・・・あいつら、強かったなぁ・・・きっと総合でなら負けてないのかもしれないけど、一つ一つの競技では誰か一人は鬼のように強くてね」

 

銀どまりだと、紅茶を一息に飲み干して言った。

 

「君の理論で行くと、意味のないメダルだが・・・」

 

アズラエルが齧っている十個目のスコーンを指さしながら、満足そうに微笑む。

 

「そのスコーン、それはね、俺が宇宙へ行ったときにある女性に教えてもらったんだが、どうだ?」

「おじいさんが作ったんですか?」

「そう。奴ら金メダリストには負けたが、これだけは奴らの内の誰にも負けない自信がある!俺が勝てる一番が何かあれば、それでいいのさ」

 

だから、人間は他人を認められる。そう締めくくって、スコーンを一つ渡して男は立ち上がった。

 

「君は、彼を認められると思うかい?」

「分からない」

 

きっと、もう眠れということなのだとアズラエルは思った。

 

「でも、昨日までよりはまともに話しかけられると思う」

「ああ、それでこそ彼も僕も、生きる価値が有るってものさ」

 

ありがとう。アズラエルは心から頭を下げた。なにやら、心が軽くなったような気がする。

 

「君は、大きくなったらご両親のお手伝いをすると良い。きっと、人類の多くから感謝される壮大な事業になるはずだ」

 

机の上に置かれた資料には、新型コロニー増産計画書と書かれた封筒が置かれていた。それで、大体は分かってしまった。

 

「きっと、世界一の大金持ちになります」

 

そう言い切って、アズラエルは部屋を出て、考え始めた。きっと仲直りしよう。そして、いつかは部下にして世界一の企業を作るのだと。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

翌日、昼食を前に男は空港へ送られていったらしい。両親も。仕事でしばらく宇宙へ向かうと言う。

 

「大丈夫かしら?なにも困ったことはないの?」

 

母親の心配そうな顔に、アズラエルは自信満々に返した。

 

「大丈夫。今なら学校中のみんなを友達(部下)に出来そうなんだ!」

 

それを聞いた父には何か感じるものがあったらしく、頭をなでながら褒められた。

 

「それでこそアズラエル財閥次期党首!留守は任せたぞ!」

 

今なら、本当に何でもできそうな気がする。

 

デトロイトの学校が、伝説の世代を輩出するまであと数年。それまで、事態は水面下で進行していくだろう。数か月後に、知り合ったかの老紳士が死んだことを聞いたが、アズラエルの成長は全てを飲み込んで進行する。今までも、これからも。




きっと老紳士が誰かは分かりますよね。
はい、後のキャプテンGGです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。