SEED×00:Extra_Contents 作:MS-Type-GUNDAM_Frame
それは、大きな揺れだった。刹那の頭に響く残響は、焼かれる人々の悲鳴だった。
「どうか、救助の手伝いをお願いします。モビルスーツを救助に使えば、重機を入れるよりも余程良い」
深く頭を下げるアズラエルに、刹那は分かったと短く返事をして、走りエレベータへと向かった。それに茫然としていたキラが気付き、アズラエルに行ってきますと宣言して後を追った。小隊のメンバーは、敬礼をして後を追う。
キラは、漠然と惨劇を想像しながら加速度に体を揺らした。
◇◇◇◇◇◇
第三層でモビルスーツを起動した一行は、急ぎ二層へと向かった。昇降口付近は悲鳴と熱気で溢れていたが、モビルスーツが救助に来たと大きな声で誰かが叫び道が開けた。
入り口は延焼を防ぐために閉じられ、仄暗い炎に照らされた第二層が地獄の入り口のようにキラを出迎えていた。
カメラを通して目の前に広がるそれは、キラの今までの人生で、最も凄惨な光景だった。テレビドラマのようにとくとくと止まらない血が床を浸しているわけではない。人は焼かれ、赤い肉を剥き出しにしたものも、深い切り傷の奥に白いものを晒す者も、一様に大小様々なうめき声を上げて助けを呼んでいる。
それとも、命があるだけにまだ良いと言えるだろうか?大きな瓦礫の周囲に足や手、毛のついた破片が散らばってもいたのだから。
床に散らばる赤く色づいた形を知っている何かを、キラは必死に無視して生存者を探した。
始め、キラは手当たり次第に息のあるらしい人を集め、ストライクの掴んだ冷えたコンクリート板で負傷者を運んだ。
しかし二回目に臨時救護所へ人を運んで来た時、先ほど運んできた負傷兵の一人が袋に入れられるのを見た。
三回目には袋が幾つか増え、そして何より自分に礼を述べて涙を流す負傷者たちが辛かった。
四回目に、刹那が運んできた人間は殆ど袋に入れられていないことに気が付いた。それが意味することは・・・
キラは刹那に尋ねた。
「ソランさん」
『どうした』
「傷が重い人たちは、運ばない方が良いんでしょうか」
『・・・俺は、少なくとも救える可能性が高い人間以外も救いたい。だが、それだけが正解じゃない』
周囲には火がじわじわと燃え広がり、モビルスーツのハッチを開ければきっと人の焼ける匂いが漂っているのだろう。
『俺が運んだ人間が死んでいないのは、単純に運だ。俺も手当たり次第に・・・・いや、急ごう。少しでも多く助けたい』
救出作業に戻ろうとした刹那は、キラにもう一言付け加えた。
『全ての人間を救おうとすることも、決して間違いではない。生と死は決して等価ではないが、死ぬ人間に救いが無くても良いわけではない』
「そう・・・ですか」
◇◇◇◇◇◇
その後の何度かの往復で、見付かったほぼ全員と運よく瓦礫の中から見つかった数名を回収し、モビルスーツ部隊は洗浄されてドックへ戻された。
半強制的に休憩を命じられ、宛がわれた士官の部屋で座って床を見つめるキラに、刹那は何も言わなかった。
どう話しかければいいのか。そう思案する刹那に、キラは俯いたまま話しかけた。
「皆を助けたいと思いました。でも・・・それは傲慢だったんでしょうか?」
「そうかもしれないな。俺も、強くなれば世界から争いを無くせると、本気で思っている時期があった」
「ソランさんにですか?」
言われてみれば、想像を絶する生身の強さや精神の強さは、尋常ではない。それは、世界を救うとかそんなレベルの無茶で培われたのだろうかとキラは想像して諦めた。そして何より、間違っていると思った。
「考えてみれば分かることだが、そんなことは不可能だと・・・お前も、今日実感しただろう?」
今日、キラは誰よりも強かった。それでも、あの惨状だ。
「キラ、俺たちは神ではない。救えるものには限りがある。それでも、俺たちは努力することをやめてはならない」
悪意をもって人が事を為すとき、形振り構わぬ人間は体裁など気にしない。恨みなど気にしない。卑怯などと思いもしない。特に、自分が正しいと確信している人間ほどそうだ。
「何もしない事と何かして失敗したこと・・・結果を見れば同じことだが・・・」
「僕は・・・死んでほしくなかった・・・それを叶えるためには何でもしたいと思った・・・思ったのに」
医学を学んでいれば救えただろうか?いや、いや、きっと手が足りない。手から零れ墜ちるものはどうやっても存在する。
「だから・・・仲間を頼れ。どんなに強くても、個人には不可能な事がある」
そう言った刹那の脳裏に浮かんでいたのは、かつて決闘を挑まれたユニオンのエース、刹那に道を作り消えたあの男だった。
「かつての敵が、俺のために命を投げ打った事すらあった。立場の違いから対立することがあっても、人間は・・・分り合えるのかもしれない」
「今度命を狙わない敵がいたら思い出しますよ」
くすりと笑ったキラを見て、これなら大丈夫だろうと刹那は心の中で一息をついた。
おりしもそこへ、図ったかのようなタイミングでコール音が響いた。
『お二人とも、アークエンジェルの無事が確認できました』
二人は顔を見合わせると、急いで指令室へと向かった。
どちらにしろ44話につながる形になります。
負傷者の描写は昔聞かされた原爆の話を参考にしました。