第七十四層迷宮区の安全地帯。
モンスターも出現しない文字通り安全な場所。プレイヤーの休憩地帯だ。
安全地帯といっても絶対というわけではない。
悪事を働くオレンジ、レッドプレイヤーが潜んでいることもある。
集団で行動していれば遭遇しても対処できるが相手の数が多すぎると三人パーティーでは不利になることがあるのだ。
そんな安全地帯で四人の男女のプレイヤーが岩壁にもたれていた。
「な、なんてむちゃくちゃなことをするのよ!」
荒い息を吐きながら怒るのは血盟騎士団副団長を務めている女性プレイヤー、閃光のアスナだ。
「別にいつものことだよ?」
「まぁ、主にキリトとユウキが無茶をするんだけどね」
肩をすくめるノビタニアン。
彼も息を整えようと壁にもたれている。
「もう信じられない!少数でボスに挑もうとするなんて!!」
事の始まりは数十分ほど前。
半日で迷宮区のほとんどを踏破した四人は運よく……ボスの部屋を見つけた。
重苦しい威圧感を放つ扉を前にしてキリトとユウキ、ノビタニアンが中へ入る。
アスナが止めることも聞かず三人は中へ、仕方なく後に続いた。
そこにいたのは巨大な悪魔とでもいうべき存在。
部屋の中に設置されている松明に次々と火が灯る。
巨大な影が四人を見下ろす。
筋骨隆々の逞しい体に山羊の頭の悪魔。大型剣を携えているその頭には四本のHPバーと名前が表示されていた。
――『TheGleameyes』
第七十四層のフロアボスは獲物たちを見つけた途端、咆哮を放つ。
威圧感と雄叫びを前にしてアスナとノビタニアンは回れ右をし二人を捕まえ全速力で逃げ出した。
「別に本格的な戦闘をするつもりはなかったさ。回避しながら攻撃パターンを見極めるつもりだった」
「いつものことだね?」
「ボスの姿を見たらすぐに撤退するのが普通です!それなのに、二人とも意気揚々と挑もうとするんだから!」
「いつものことです」
ぐったりとした表情で盾に体を預けているノビタニアン。
前は進んで飛び込んでいたがキリトやユウキと接してきたことでいつの間にかストッパーになっていた。
何よりあのモンスターは怖い。
ママの額に角が生えているレベルと同じくらいの恐怖だ。
「それにしてもあのボスは苦労しそうね」
「タンクで攻撃を防いでじりじりとHPを削っていくことになりそうだな、タンクの数がたくさんいるなぁ」
「タンク……ねぇ」
アスナがジト目でキリトを見る。
正確にはキリトが背負うエリュシデータを見ていた。
「キミ、片手剣を使っているけれど、盾を使っていないわよね?そもそもリズが与えた剣も使っていないみたいだし」
「え、それはまぁ、ノビタニアンが盾を」
「ユウキは俊敏性を重視しているから盾は不要だけれど、キミの場合、少し違うような気がするのよねぇ」
「あぁ、それは」
「もう」
探るようなアスナの目にキリトは視線を泳がす。
何かを話そうとするユウキの口をノビタニアンがふさぐ。
しかし、アスナはすぐに探ることをやめた。
「スキルの詮索はマナー違反だったわね……もう三時……遅くなったけど、そろそろお昼にしましょうか」
アスナはそう言うとアイテムを取り出す。
出てきたのは小ぶりのバスケット。
「はい、どうぞ」
バスケットの中から出てきたのはおいしそうなサンドイッチ。
それを見た三人のお腹が同時に鳴り出す。
「いただきます!」
「僕もう腹ペコだよ~」
「ボクもボクも!」
ぱくりと同時にサンドイッチにかじりついた。
キリトが驚きで目を丸くする。
「これって……マヨネーズ?」
「フフ、凄いでしょ?」
「嘘!?すごいなぁ」
「え、どうやったの!?」
「一年の研鑽の結果よ。アインクラッドで手に入る百種類以上の調味料、その味覚再生エンジンに与えるパラメータを全部解析して作ったの」
アスナが広げたのはアイテムの詳細。
合成材料には食材以外に解毒ポーションの原料も用いたらしい。醤油の他にマヨネーズまで作ったという。
「凄いや。僕、こんなことしたら頭がパンクしちゃうよ」
「そうだな」
「気に入ってもらえたなら、また作ってあげるわよ?」
「本当か!?」
「やったぁ~!」
「アスナさん、僕にも教えてくれる?」
「いいわよ、ノビタニアン君に後でデータを送ってあげるわね」
「これで、ノビタニアンの料理にも楽しみが出てくるよ!」
「ユウキ……それって、僕の料理にケチをつけているってことだよね?」
「そ、そんなことないよ」
「僕の目を見てよ」
「!」
索敵スキルに反応があることに気付いたキリトが立ち上がり警戒する。
キリトが立ち上がったことでノビタニアン、ユウキも身構えた。
安全圏へぞろぞろと集団が現れる。
似たような装備を纏った彼ら。
装備を見たキリトは警戒を解く。
「キリト!久しぶりじゃねぇか」
「クライン、お前たちも来たのか」
面識のあるプレイヤー集団、ギルド、風林火山のメンバーだ。
「やぁ、クラインさん」
「おう、ノビタニアン。相変わらず三人で組んでいるみたいだな」
「……まぁ、今回はプラス一名いるんだけど」
ノビタニアンの言葉にクラインは後ろを見る。
キリトの傍にいるアスナ。
彼女を見てクライン達は動きを止める。
「攻略会議で見知っていると思うけれど、血盟騎士団の副団長のアスナだ。今回は一緒に行動させて……おい、聞いているのか?」
動きを止めたクラインへキリトは近づいた。
その瞬間、クラインはものすごい速度でアスナの前に立つと手を差し出す。
「こここ、こんにちは!クライン、二十四歳!独身です!恋人募集――」
「はいはい、落ち着いてね。クラインさん。アスナ、彼の後ろにいる六人のメンバーが」
ユウキの横をすり抜けて風林火山のメンバーがアスナへ話しかけていく。
眼を白黒しているノビタニアンとキリト。
「それにしてもよぉ、どうしてお前とアスナさんがパーティーを組んでいるんだよ」
「よぉく見ろ。俺達とアスナがパーティーを組んでいるんだ」
「実はしばらく、この人とパーティーを組むことになったのでよろしく」
アスナの発言にクライン達は驚く。
「驚きだな。ノビ公やユウキとしかパーティーを組まないお前がなぁ」
「なんだよ。俺だってなぁ、他の奴とだって――」
反論しようとしたキリトの索敵レーダーにヒットするものがあった。
安全地帯へぞろぞろと集団が現れる。
黒鉄色の鎧に濃緑色の戦闘服を纏った十二人の男性プレイヤー。
前線の盾持ち六人の武装には特徴的な印が施されている。
SAO攻略組に属しているものなら知っている、軍と呼ばれるギルドのものだ。
「軍の連中がなんでこんな場所に?」
「確か、二十五層攻略の時に多大な被害をこうむってからは姿を消していたよね?」
「内部の強化に努めているという話だよ」
少し前に被害を受けたことから各層の主街区に拠点を設けて、犯罪者ギルドを取り締まっているらしい。
らしいというのはキリト達が軍と関わることが少なく、詳しいことを知らないということだ。
「そういえば、アルゴさんが教えてくれたんだけど、軍は近々、前線復帰を企んでいて、攻略へ参加すると聞いているよ?」
「だが、動き出すのが早すぎないか?」
ノビタニアンの言葉にクラインが反発する。
「軍は長いこと前線を退いていたからな。いざ、参加したとしても隅へ追いやられるかもしれない。先遣隊を使って有用な情報を用いて、攻略でトップに立つことを目的としているんだろうな」
「……どゆこと?」
首を傾げるユウキ。
ノビタニアンは口を開けて笑うしかなかった。
「私はアインクラッド解放軍所属、コーバッツ中佐だ」
部隊を指揮している人間がやってくる。
他の連中と異なり鎧の装飾が異なっていた。
「キリト、ソロだ」
「キミ達はもうこの先も攻略しているのか?」
「まぁな」
「そうか、ならばマッピングデータを提供してもらいたい」
コーバッツの言葉に異を唱えたのはクラインだ。
「提供だぁ!?お前、マッピングの苦労がわかって言っているのか!?」
「我々は!このゲームに閉じ込められた人たちを開放するために日夜、奮闘している!解放のために協力することは諸君の義務である!」
クラインの叫びを遮るようにコーバッツは叫ぶ。
「ちょっとおじさん!乱暴すぎるよ!」
上からの物言いに流石のユウキも我慢ができないようで文句を言う。
「別にデータくらい提供するさ」
空気がより悪くなる前にキリトがコーバッツへデータを差し出す。
「ふむ、感謝する」
「感謝していないでしょ」
「まぁまぁ」
ユウキの悪態にノビタニアンが小さく止める。
「おい、キリト」
「街に戻れば提供するつもりだったからいいよ。そもそもマップデータで商売をするつもりはないから」
「全く、お前というやつは」
「進軍するぞ!!」
コーバッツの叫びでふらふらと起き上がる軍のメンバーたち。
「アンタ達、この先に進軍するつもりか?」
「そうだが?」
「ボスに挑むならやめておいた方がいい」
「我々の部隊はそこまでヤワではない!!」
キリトの言葉にコーバッツが噛み付く。
攻略組として長い戦闘を行っているキリト達はコーバッツの部隊が疲労していることに気付いていた。
このゲームでは肉体的な疲労はない。しかし、頭など精神的な疲労は休まなければ回復することはない。
目の前のプレイヤー達は慣れない連戦によって消耗していることは明らかだ。
ボスと挑むとなれば、危険だとキリトは意見した。
しかし、彼は話を聞かず、部下を無理やり立たせるとそのまま進軍していく。
「キリト、どうする?」
「少し、連中が気になる」
「じゃあ、後を追う?」
「悪い、アスナは主街区へ」
「何を言っているの?今日は一日パーティーを組んでいるんだから、私も行きます!」
「あぁもう!俺も行くぜ!」
動き出した四人を見てクラインとギルドのメンバーも後を追いかける。
数十分後。
続々と現れるモンスターをキリト達は狩っていた。
一度、通った道だがリポップする時間になったようでところどころで足止めを受けている。
「これだけ進んで誰もいないなら軍の連中、帰ったんじゃねぇか?」
「それならいいけれど……でも、キリトの予感ってこういう場合」
――うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
「当たるんだよねぇ」
聞こえてきた悲鳴に全員が走り出す。
駆け出した四人の後にクラインが続こうとするが目の前にモンスターが現れる。
キリト、アスナ、ノビタニアン、ユウキがたどり着いたとき。
「開いている!?」
「くそっ」
扉の中へ四人は踏み込む。
青い炎に照らされている部屋の中央、巨大な剣を手にして暴れるフロアボス、ザ・グリームアイズ。
周囲には行進していった軍のプレイヤー達が倒れている。
HPは既にイエローやレッドに達しているものばかり。
凄惨な状況だがキリトは人数を数える。
「二人、足りない」
戦闘が開始されて数分しか過ぎていない筈なのに、命を落としているプレイヤーがいることにキリトは顔を歪める。
ザ・グリームアイズが剣をふるう。
それだけで多くのプレイヤーが吹きとばされた。
「転移結晶を使うんだ!」
キリトは叫ぶ。
扉まで逃げることができなければ、転移結晶を使ってこのフロアから脱出すればいい。
しかし。
「駄目だ!転移結晶が使えないんだ!」
「転移結晶無効化エリア!?」
驚いている中で再びザ・グリームアイズが剣を振り上げた。
「っ!!」
見ているだけしかしなかった中で最初に動き出したのはノビタニアン。
続いて、アスナが細剣を抜いて駆け出す。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
叫びと共に振り下ろされる剣を盾で受け止める。
派手な音を立てて火花を散らす盾。
かろうじて攻撃を防ぎ、後ろの軍のプレイヤーを守る。
がら空きになった胴体にアスナのソードスキルがさく裂した。
「早く、今の内に扉の方に、逃げて!」
グリームアイズの標的となったノビタニアンの叫びでふらふらと軍のプレイヤー達は扉の方へ向かう。
そんな中。
「恥を晒すことは許さん!我々、解放軍に撤退の二文字は許されない!!」
剣を構えて叫ぶコーバッツ。
彼の言葉で武器を構えるプレイヤーの姿もいた。
「あぁ、もう!」
我慢できなくなったのかユウキがコーバッツの襟首をつかみ、自身の筋力全開で彼を扉の向こうまで投げ飛ばす。
「おい、どうなって、うぉ!?」
クライン達が到着すると扉の方へ投げ飛ばされたコーバッツの姿を見て驚きの声を漏らす。
「クラインさん、軍の人をよろしく。行くよ!キリト」
「あぁ」
出遅れながらもユウキとキリトがザ・グリームアイズへ突撃する。
「ノビタニアン、スイッチだ!」
「うん」
ザ・グリームアイズの攻撃を一人で防いでいたノビタニアンのHPはそこそこ減っていた。
最初に“プロテクションシール”を使ってこの程度で済んでいる。
何もなしで攻撃を受けていたら彼のHPはレッドゾーンに達していた。
入れ替わってキリトとユウキがソードスキルを繰り出す。
攻撃を受けたグリームアイズのHPが削られるが反撃とばかりに猛攻が襲い掛かる。
軍を避難させている風林火山のメンバーに任せて、クラインも参加した。
しかし、HPをすべて削り取ることはできない。
後一手足りない。
ポーションを飲んでHPを回復しているノビタニアンも戦線へ復帰する。
入れ替わる形で後ろへ下がり、キリトが叫ぶ。
「三分でいい!少しだけ時間を稼いでくれ!」
「オッケー!行くよ!」
「わかったわ!」
ユウキがソードスキル“メテオ・ブレイク”を繰り出す。
大技を受けながらもグリームアイズは大剣を繰り出した。
ダメージカットとシールドコーティングを発動させたノビタニアンがシールドで受け止める。
「ぐっ!くぅう!」
完全に攻撃を殺しきれず、少し後退しつつも防ぐことに成功する。
キリトはメニューを開いて、ある武器を取り出す。
「(使うしかない!)」
覚悟を決めたキリトは背中に現れた深緑の剣、ダークリパルサーを手に取る。
「スイッチ!!」
後退したメンバーと代わり前へ出るキリトは同時に二つの剣を振り下ろす。
攻撃の手を緩めずにキリトは次々と剣を振るう。
「スターバースト・ストリーム!」
キリトが繰り出すのは自身の持つスキルの中で上位の技。
星屑のごとき奔流の十六連撃は、残りわずかとなっていくボスの命を奪っていく。
「(手を緩めるな!もっと、もっと早く!!)」
手を緩めず、反撃を与えず、キリトは攻撃を続ける。
残り少ないHPがゼロになるまで攻撃の手を止めなかった。
ザ・グリームアイズが咆哮をあげる。
音を立ててザ・グリームアイズのHPが0になる。
消滅したことを確認してキリトは意識を手放す。
再びキリトが目を開けると心配そうにこちらを見ているアスナの姿があった。
「え?」
「よかった、キリト君が目を開けてくれて」
「これは……」
「お、果報者め。目を覚ましたか」
クラインがこちらへやってくる。
キリトは体を起こす。
「あれからどのくらいの時間が?」
「一時間くらいだ」
周りを見る。
「それよりも、さっきのあれは一体なんなんだよ?」
「……教えないと、ダメか?」
困惑しているキリトへクライン頷く。
「そりゃ、少しくらいは知りたいと思うだろ」
「エクストラスキル、二刀流だよ」
キリトの言葉にクライン達は目を見開く。
「し、取得条件は?」
「わからない、気が付いたら入っていたんだ」
「マジかよ。まさにユニークスキルじゃねぇか」
驚くクライン。
しかし、ノビタニアンやユウキは驚いた様子を見せない。
「もしかして、お前達は知っていたのか?」
「知っていたというか」
「……キリトのスキル熟練を上げているのをボクらが手伝っていたんだけど」
「なるほど……まぁ、あんなものを見た後だと、納得だよなぁ」
クラインの言葉に風林火山のメンバーもうんうんと頷いた。
彼らの視線は傍にいるノビタニアンへ向けられている。
何やら様子がおかしい。
「何か……あったのか?」
「あぁ、実はよぉ」
「ノビタニアン君とコーバッツが決闘をしたの」
「え!?」
時間は少し巻き戻る。
キリトがボスを倒したことでそのフロアは安全となり、クライン達によって軍の手当がなされていた。
倒れたキリトをアスナが介抱していた時、ずんずんとやって来るものがいる。
「貴様ら!我らの手柄を横取りするとは何事だ!!」
コーバッツは近づこうとしたクラインを押しのける。
「お前、何を言っているんだ!キリト達が助けに入らなかったら全滅していたんだぞ!?」
「うるさい!我々の部隊だけであのモンスターを討伐することができたのだ!それを、貴様はぁぁあああ!」
激怒しているコーバッツはクラインを押しのける。
彼の前にユウキが立ちはだかった。
「どけ、貴様は」
「本当にキリトやみんなの厚意を無下にするって信じられないよ」
笑顔を浮かべているユウキだが目は笑っていない。
怒っていることをクライン達は理解したが、頭に血が上っているコーバッツは気づいていなかった。
ユウキが鞘から剣を引き抜いてデュエル申請を行おうとした。
「待って」
声をかけたのはノビタニアンだった。
「僕がやる」
共に行動しているユウキですら聞いたことのない低い声に動きを止めた。
その隙をつくようにノビタニアンがデュエル申請を出す。
申請された相手はコーバッツ。
「僕が勝ったらさっきの無礼は謝罪してください。仮にそちらが勝ったら今回の討伐は軍が行ったということにします」
「ほう」
驚きの声を上げてコーバッツはノビタニアンを見る。
頭の中で自分のメリットについて考えている様子だ。
「よいだろう。デュエルを受けてやろう」
コーバッツはデュエル申請を受諾する。
「お、おい、ノビタニアン!」
「ストップ」
騒ぎを止めようとするクラインだがユウキに止められる。
一定の距離を開けてノビタニアンが盾を背中に回して剣を構えた。
「だ、大丈夫なのかよ!?」
「あの程度の人にノビタニアンは負けないよ。そもそも」
デュエル開始のブザーが鳴り響く。
「ノビタニアンの強さはキリトやボクにないものだからね。あれだけはどうしても勝てないよ」
「お前たちにない強さ?」
「ソードスキルの熟練度や攻撃はキリトやボクが上だよ。でも、ノビタニアンは剣の扱い方や動きがまるで違う……何度も剣を使って戦ったみたいな動きをしている。それだけじゃないよ。ノビタニアンは心が強い」
胸元に手を当ててユウキは言う。
ノビタニアンの上位ソードスキル“メテオ・ブレイク”がコーバッツの体を貫く。
HPが減損していくコーバッツが驚く前でとどめの一撃が振り下ろされた。
勝者はノビタニアン。
「ノビタニアン君が怒ったらあそこまで怖いんだね。知らなかったよ」
ぶるりと小さく震えるアスナ。
キリト自身もノビタニアンが激怒したところを数回しか見たことがないが妹共々、怒らせないように注意している。
気絶している間にそんなことが起こっていたなんてとキリトは驚いた。
「キリの字。七十五層のアクティベートしにいくがどうする?」
「俺はもう少しだけ休むよ」
「じゃあ、僕はついていこうかな」
「ボクも行くよ!」
「アスナさん、キリトのことをよろしくね」
手を振ってノビタニアンとユウキはクライン達に続いていく。
残されたアスナとキリトは話をする。
「心配、したよ。キリト君」
「ごめん」
「決めた、私ギルドをしばらく休む」
「へ?」
「それでキリト君と一緒にパーティーを組む」
「あ、いや、どうして!?」
「だって、キリト君、無茶ばっかりして見ていられないもの。それにユウキと一緒になるともっと危ないことをしていそうだし……ノビタニアン君だけじゃ止められないし、ストッパーは多い方がよさそうだもの」
「えっと、それは」
「あ、二人には許可を取ってあるから」
既に包囲網ができあがっていたことにキリトは戦慄した。
翌日。
街中に第七十四層攻略の情報が広まっていた。
加えて。
「どこでばれた!?」
「さぁ?」
「ボク知らない~」
エギルの店の二階。
そこでキリトは愕然としていた。
――黒の剣士、二刀流による十六連撃でモンスターを撃破!
どういうわけかキリトが秘匿していたスキル情報が広まっていた。
「どこで漏れたんだろうねぇ?」
「まぁ、宿屋に集まっただけだし、あの家にやってこないだけましじゃない?」
ノビタニアンの言葉でキリトは頷いた。
キリトが手に入れた二刀流の情報を手に入れようと、利用していた宿屋の前にたくさんの情報屋が集まっていたのだ。
そこでエギルの店へ避難していた。
「まー、あの場で使うことは仕方なかったにしても隠れる必要はないんじゃないの?堂々としていればいいと思うんだけどなぁ」
「ユウキは気にしないだろうからいいけど、キリトはそういうところが苦手だからね」
「あぁ、とにかく、しばらくは」
「キリト君!!」
階段の方から現れた一人の少女。
純白の衣装をまとった血盟騎士団副団長のアスナだ。
慌てた様子にただ事ではないとキリトは立ち上がる。
「どうしよう!大変なことになっちゃった!」