ドラえもん のび太と仮想世界   作:断空我

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この話も今回で終わりです。

ザ・ドラえもんズにあった漫画の内容ですが、いくつか修正を加えています。




61.盗まれた記憶(後編)

 

警視庁特命係。

 

 そこで杉下右京は紅茶を飲んでいる。

 

 カイトはタブレットでゲームをしているが落ち着いていない。

 

「ルパンから挑戦状、来ませんね」

 

「おそらくですが、相手も残り二つの記憶を奪われないように念入りな準備をしているのでしょう。おそらく、まとめての挑戦になるのでしょう」

 

「のび太君、大丈夫ですか?」

 

 カイトは記憶を盗まれたのび太の身を案じる。

 

「のび太君の身を案じることもそうですが、我々はもう一つの謎を解かなければなりません」

 

「謎?」

 

「えぇ。なぜ、旅の霊夫と名乗る人物はのび太君を標的にしたのか、どうして、我々へ挑戦状などというものを送ってきたのか」

 

「それは……」

 

「もし、野比のび太君へ恨みがあるというのなら記憶を盗んだまま、隠し続けばいい。そうすれば……彼は大事な四人の記憶を失って取り戻すこともない苦痛を味わうことになる。ですが、あえて挑戦状という形で我々へ送ってきたことには何か意味があるのではないでしょうか?」

 

「意味って」

 

 その時、特命係の固定電話が鳴り出す。

 

「はい、特命係……はい、わかりました」

 

 杉下は受話器を机へ置いた。

 

「のび太君からです。挑戦状が届いたようです」

 

「行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

挑戦状

 

残りの思い出を返してほしくば、今夜、ドリームランドへ来い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「困りましたねぇ」

 

 のび太達に見せられた内容に杉下は唸る。

 

「杉下さん?」

 

「このドリームランド、夜は閉園しています。夜に行けば不法侵入になってしまいますねぇ」

 

「あぁ」

 

「それなら……あまり使いたくないけれど、これで行こう」

 

 ドラえもんがポケットから取り出したのは定期券のようなもの。

 

「これは?」

 

「オールマイティーパス!有効期限がついているけれど、どこの施設でも入場可能な道具だよ」

 

「成程、それならば不法侵入にならないと?」

 

「あまり使いたくない道具なんですけど」

 

 杉下とカイトは今回、緊急時ということでオールマイティーパスを使用することを決めた。

 

 ドリームランド、それは街のはずれにある遊園地。

 

 ファンタジーランド、アドベンチャーランドと複数のランドが展開されている大規模遊園地である。

 

 噂では未来のドリーマーズランドのひな型ではないかと未来の歴史評論家は考えている。

 

「やはりというべきか、真っ暗ですねぇ」

 

「ギリギリに職員へパスを見せて入りましたけれど、人がいないのは――」

 

 当然、とカイトが言おうとした時、施設の明りが一斉に灯り、メリーゴーランドなども動き始める。

 

「う、動き出したぞ!?」

 

 戸惑う和人達。

 

 メリーゴーランドがくるくる回る中でピエロが現れる。

 

「ようこそ、諸君」

 

「お前、誰だ!」

 

 和人が警戒するように叫ぶ。

 

 ドリームランドに人はいない。そのはずなのにピエロがいることに警戒するのは当然だろう。

 

「ルパンですね?」

 

 杉下の言葉にピエロは笑いだす。

 

「その通り!流石は杉下右京だ!」

 

「この野郎!捕まえてやる!」

 

 カイトがルパンへとびかかる。

 

 しかし、ルパンは袖口から射出したワイヤーで空へ逃げた。

 

「ルパン!のび太の記憶をどこへ隠した!」

 

「木と土の間に一つ、隠されている!見つけられるといいな!」

 

 情報を告げるとルパンはタイムホールの中へ逃げ込んだ。

 

「逃げられた」

 

「木と土の間に隠してあるってどういうことだろう?」

 

「もしかして、木の根っことかに隠しているという意味かな?」

 

「時間がないから、手あたり次第に掘り起こそう!」

 

 ドラえもんはポケットからシャベルを取り出して皆へ渡す。

 

 その中で杉下は思案する。

 

 別々に分かれて一時間後。

 

「駄目だ、見つからない」

 

 のび太が周りを見る。

 

「これだけ探しても見つからないなんて……」

 

「おそらくですが、木と土の間というのはそのままの意味ではないのでしょう。しかし、情報が少なすぎます……」

 

「あれ、使えないかな?」

 

 のび太はドリームランドのファンタジーランドに設置されている大きな巨人を指さす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「未来っていうのは、何でもありか?」

 

 数分後、魂ステッキと呼ばれるアイテムで巨人こと、ガリバーに命を吹き込んでファンタジーランドの一角、小人の国の町中を歩いていた。

 

 ガリバーの掌に乗っているカイトはぽつりと呟く。

 

 すぐ隣では興奮したような上司の姿がある。

 

「何なんだ、まるで遊園地へ来ている……いや、来ていたか」

 

 呆れているカイト。

 

 頭上で魂を吹き込まれたガリバーがアナウンスをする。

 

 調べるためにドラえもんが魂ステッキでガリバーに命を吹き込んだ。

 

「私はガリバー、このファンタジーワールドは私が訪れた小人の国を再現している。その奥にはロビンソン・クルーソーのいるアドベンチャーワールドがある」

 

「それって、ロビンソンが無人島に漂着して大活躍する冒険小説だね!」

 

 ガリバーの説明にドラえもんが尋ねる。

 

「そういえば、ロビンソン・クルーソーにはフライデーという名の従者がいると聞きました」

 

「金曜日に出会ったから英語でフライデーなんて、安直というような気もしますけど」

 

 杉下の言葉にカイトが呆れていた時、異変が起こる。

 

 ガリバーが体を震わせて、のび太達を投げ飛ばしたのであった。

 

 咄嗟にドラえもんが全員へタケコプターを装着したことで大けがを負うことはない。

 

 しかし。

 

「おいおい、どうなってんだ!ガリバーが暴れだしたぞ!?」

 

「もしかして、魂ステッキが壊れちゃったのかな!?」

 

 ドラえもんがポケットから取り出した魂ステッキを見る。

 

「おい!あれ、止めないと鍵まで壊されるんじゃないか!」

 

「仕方ない……空気砲!」

 

 ドラえもんが空気砲を取り出して手短に説明する。

 

 カイトが装着して撃つ。

 

 しかし、空気砲はガリバーの頭部を吹き飛ばすだけで止まらない。

 

「くそっ!これよりパワーのある奴は?」

 

「そんな道具、僕持っていないよ!」

 

 騒ぐ中、杉下はある方向を見てのび太に叫ぶ。

 

「のび太君!アドベンチャーワールドへ向かってください!」

 

「え?」

 

「急いで!そこにキミの記憶の鍵があります」

 

 のび太はおろおろしながら目的の場所へ向かう。

 

 そんなのび太に気付いたのか、暴走の向きが偶然だったのか、狙う様に追いかけていく。

 

「何か、何か……」

 

 カイトはあるものに気付いた。

 

 息も切れきれなのび太はアドベンチャーランドの入口にたどり着く。

 

 しかし、ガリバーも追いついた。

 

 足がのび太を踏みつけようとする。

 

「やめろ!」

 

「カイト君!」

 

 ガリバーの後ろからジェットコースターに乗ったカイトの姿があった。

 

 彼の腕には空気砲が装着されている。

 

「無理だよ!空気砲じゃ、パワー不足」

 

「いや、いける!」

 

 カイトの叫びと共に放たれる空気砲。

 

 轟音と共にガリバーの体に大穴を開けた。

 

 うめき声を漏らしながらのび太の目の前でガリバーが崩れ落ちる。

 

「え、どうゆうこと?」

 

「おそらくですが、ジェットコースターの加速を利用して空気砲のパワー不足をおぎなったのでは?」

 

「成程!」

 

「うわぁああああああああああああ!?」

 

 杉下とドラえもんが感心している中、安全シートも装着せずにジェットコースターに乗っていたカイトの悲鳴が聞こえていたが二人に届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のび太、カイト、ドラえもん、杉下、和人のメンバーはアドベンチャーワールドの入口に集まる。

 

 杉下は入り口に立つ二体の人形を指さす。

 

「ルパンが告げた木と土の間の金、それは木曜日と土曜日の間、つまりは金曜日のことを指します。金曜日はフライデーと英語でいいます」

 

「もしかして……」

 

「このフライデーはロビンソン・クルーソーの従者フライデーの事を指すと考えられます」

 

「ここに思い出を蘇らせるカギが!」

 

 のび太がフライデーのポケットを探る。

 

 中から出てきたのは二つのもの。

 

 一つは鈴。

 

「これって……」

 

 バチンとのび太の記憶に衝撃が走る。

 

 ドラえもんがやって着た翌日。

 

 町を案内している最中にドラえもんの首元の鈴を落としてしまった。

 

 大事な鈴ということでのび太は必死に探した。体がくたくたになっても、手足が泥だらけになった末に見つけたドラえもんの鈴。

 

 その時にドラえもんがのび太の手を握り締める。

 

「キミは勉強もスポーツもダメだけれど、素晴らしいものを持っているよ……って、ドラえもんが僕に言ってくれたっけ!」

 

「思い出したんだね!僕との思い出!」

 

 喜ぶドラえもんはのび太を抱きしめる。

 

 頷いたのび太はもう一つの思い出の鍵を見ようとした。

 

 瞬間。

 

「え?」

 

 バチンと衝撃が走って手から思い出の何かが転がり落ちる。

 

 叩き落したのは。

 

「フフッ」

 

「和人!?」

 

 不敵な笑みを浮かべながら鍵を拾い上げる和人。

 

「何を……お前、和人君じゃないな!」

 

「ガリバーがおかしくなったのもお前の仕業だな!」

 

 カイトとドラえもんの言葉に怪しい笑みを浮かべながら和人?は顔へ手を伸ばす。

 

 直後、ワームホールが開かれてそこから煙幕が投擲される。

 

 煙幕は瞬く間に周囲へ広がった。

 

「ゲホ!ゲホ!」

 

 カイトはせき込みながら周囲を見る。

 

 煙が晴れる中、思い出の鍵があった場所に抜け殻のような和人の変装道具が転がっていた。

 

「くそっ、逃げられたか」

 

「霊夫も簡単には終わらせてくれないようですねぇ」

 

 杉下の視線は思い出の鍵が落ちていた場所へ向けられていた。

 

 そこにあったはずの鍵がなくなっている。

 

「あそこ!」

 

 ドラえもんがこの遊園地のシンボルともいえるファンタジー城へ駈け込んでいく影を見つけた。

 

 追いかける彼らを城の前で高らかに笑うルパンが出迎える。

 

「諸君、いよいよラストゲームだ!」

 

「どういう意味だ!?」

 

 ファンタジー城の高い塔の上、ルパンは足元の時計をこつこつと叩く。

 

「十二時、この時計が十二時になる時、取り戻せなかった思い出は永遠に消える」

 

「思い出が消える……和人との!?」

 

「思い出の鍵をどこにやった!」

 

 カイトがルパンへ叫ぶ。

 

「このファンタジー城のどこかに思い出の鍵は霊夫が持っている」

 

「くそっ、そもそも霊夫は何者なんだよ!」

 

「“人には見えているが自分には見えない!”それが霊夫の正体だ!」

 

「か、和人は無事なの!?」

 

「ゲームに勝つことができれば会えるだろう。さぁ、ゲーム開始だ!」

 

 ルパンの姿が消える。

 

「とにかく、時間がありません!急いでファンタジー城の中へ!」

 

 杉下が先陣を切ってファンタジー城の中に入る。

 

 途中でカイトが追い抜いて分厚いドアをタックルするようにして開けた。

 

「なぁ!」

 

 中を見たカイトは絶句する。

 

 ファンタジー城の中には溢れかえるほどのおとぎ話にでてくる住人で一杯だった。

 

 シンデレラ、白雪姫、アラジンなど、様々なおとぎ話の住人達でホールは溢れかえっている。

 

「どうなってんだ、これ!?」

 

「おそらく、霊夫たちがたましいステッキで命を吹き込んだんだ!」

 

「くそっ!」

 

 カイトが人形の一体の首を掴む。

 

 すぽんと首が取れるも中身は空っぽだ。

 

「はずれか!」

 

「これは……」

 

「とにかく、手あたり次第、探すしかないよ!」

 

 各々、ショックガンを手に人形を狙う。

 

 しかし、数が多くルパンはおろか霊夫の姿も見つけられない。

 

「くそっ、きりがないぞ!」

 

「このままでは、和人君の記憶が」

 

「嫌だ……」

 

 ぽとりとのび太の瞳から涙がこぼれる。

 

「嫌だよ!記憶がないけれど、大事な記憶の筈なんだ、そんなの失いたくなんて、ないよ!」

 

 涙を零しながら叫ぶのび太。

 

 その姿にドラえもんやカイトは何も言えない。

 

 杉下はのび太をまっすぐに見ていた。

 

 その時、室内に鐘の音が鳴り出す。

 

「十二時の鐘だ!」

 

「そんな!」

 

 泣き崩れるのび太。

 

 その時、階段の上から笑う声が聞こえる。

 

「どうやら、僕の勝ちみたいだね!」

 

 シンデレラの格好をしているが声は明らかに男のものだ。

 

 その手に握られているものはスコップ。

 

「霊夫、お前が霊夫だな!」

 

 一番、近くにいたのび太が階段を上がって霊夫に近づく。

 

 階段を上がった先は左右が鏡になっている。

 

 そのまま鏡の迷路という構造だった。

 

「そうですか!」

 

 鏡に映るのび太、そして霊夫を見た杉下は気づいた。

 

「思い出も和人もいただいていくよ!」

 

「待て!」

 

 追いかけようとしたのび太だが、段差に躓いてしまう。

 

「のび太君!」

 

 泣きながら追いかけようとしたのび太へ杉下が叫ぶ。

 

「霊夫の正体は鏡の中にあります!」

 

「鏡?」

 

 のび太は鏡を見る。

 

 そこに映る自分の姿。

 

 パチンと誰かがのび太の頭の中の電球のスイッチを入れたように閃く。

 

「待て!」

 

 のび太は自分の足へショックガンを突き付ける。

 

「おい!何やってんだ!」

 

「のび太君!」

 

 突然の行動に戸惑うカイトとドラえもん。

 

 のび太は覚悟を決めた表情でショックガンを自分へ撃った。

 

 足の痛みに涙を零しながら堪える。

 

 数秒後。

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 悲鳴を上げて地面に倒れていったのは霊夫だった。

 

「え?」

 

「どういうことだ……」

 

「やはり!」

 

 杉下が階段を上がっていく。

 

 のび太の傍に霊夫が握り締めていたスコップがあった。

 

「これは……そうだ、あの日の、あの日のスコップだ」

 

 野比のび太と桐ヶ谷和人がはじめて出会ったあの日。

 

 スネ夫達に本物の化石を見つけると宣言したのび太が、地層を直感に頼って見つけた場所を掘っていた時に誤って落としたスコップ。

 

 拾い上げてこちらへやってきた彼に熱心に話して、それから。

 

「そうだ、これのおかげで僕と和人は出会えたんだ」

 

 ぽろぽろと涙を零しながらのび太は微笑む。

 

「のび太君、記憶を取り戻したようですね」

 

「杉下さん、はい!」

 

「のび太、大丈夫か?」

 

「のび太君!」

 

 動けないのび太をカイトが抱えた。

 

「全ての答えはルパンが伝えた言葉にありました。人には見えているが自分は見えないもの、それはたった一つだけ、自分自身です。どうやっても自分のことを見ることは出来ません。鏡などを使わない限り」

 

「でも、それだけでのび太はどうして?」

 

「おそらくですが」

 

 杉下は倒れている霊夫の頭を抜き取る。

 

 その中から出てきたのは。

 

 野比のび太の顔だった。

 

「のび太の顔!?」

 

「変装じゃ!?」

 

「いいや、違うんだ。そこののび太はのび太なんだ。でも、少し先の未来ののび太だ」

 

 階段からルパンと共に和人が降りてくる。

 

 和人を見てのび太は泣きながら抱き着いた。

 

「和人!無事でよかった!」

 

「のび太!よかった」

 

 再会を喜ぶ二人だが、カイトは疑問をぶつける。

 

「でも、彼が未来ののび太だというのなら、どうしてこんなことを」

 

「おそらくですが、未来の彼が過去の彼に干渉するという理由については一つ考えられます。それは未来の彼が体験したことを過去の彼に行わせないためではないでしょうか?」

 

「え?」

 

「SFなどで過去を変えるという事はその先の未来を酷く不安定にさせることになります。場合によっては自分の存在を消し去るほどの危険があるという。それだけの危険をしてまで変えたい何かが未来ののび太君にあったのではないでしょうか?」

 

「杉下さんのおっしゃる通りです」

 

 ゆっくりと未来ののび太が立ち上がる。

 

 ルパンの手助けを借りながら未来ののび太は話し始めた。

 

「三日前のあの日、僕はパパとママたちと喧嘩して家出をしたんだ。ドラえもんのスペアポケットを使って無人島へいったものの、猿にスペアポケットを奪われて一週間、無人島でさ迷うことになってしまった……」

 

 腹を空かせながら猿を追いかけていたのび太は、偶然にも猿がポケットから落とした架空人物たまごを使ってスペアポケットを取り戻して家に帰宅。

 

 そこで自分の身を案じていたパパ、ママ、ドラえもん、そして和人が出迎えてくれた。

 

「僕は大事な人たちにあれほどの心配をかけさせてしまった。だから、過去の僕に家出をどうしてもやめさせたかったんだ」

 

「そのために、キミは家族の思い出を盗んだのですね?大事な人たちだということを理解させるために」

 

「はい……その、杉下さん達も巻き込んでしまってごめんなさい!」

 

「確かに、これだけのことをやってしまえば警察としては何もせずに終わらせるということは出来ません」

 

「杉下さん!?」

 

「なので」

 

 指を伸ばしながら。

 

「きちんと親孝行をすること、約束です」

 

「はい!」

 

 未来ののび太と過去ののび太は頷いた。

 

 ルパンはその光景を見て笑みを浮かべる。

 

「どうやら私の役目は終わったようだな。杉下右京といったな」

 

 杉下とルパンの目が合う。

 

「またの機会があれば、キミと本気で勝負をしたいよ」

 

「世紀の大怪盗に言われるとは光栄ですね。僕も柄にもなく興奮しました。もし、貴方が現代で盗みを働いていれば僕が必ず捕まえていたでしょう」

 

「さらばだ」

 

 互いに握手を交わした後、ルパンは姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、とんでもない三日間でしたね」

 

 特命係のオフィスに戻ったカイトは珈琲を飲みながら思う。

 

「そうですか?」

 

「えぇ、未来の人間やら秘密道具とやら……その結果が未来の自分が犯人なんて」

 

「まぁ、大きな犯罪でなくてよかったではありませんか」

 

「そうですけど、あ、そうだ。杉下さん!いつ、霊夫がのび太だって気付いたんですか?」

 

 カイトは疑問だった。

 

 どこで霊夫の正体が未来ののび太だと気付いたのだろうかと。

 

「あぁ、そのことですか」

 

 紅茶を淹れながら杉下は言う。

 

「実はのび太君と出会った時から疑ってはいました」

 

「そうなんですか!?」

 

「えぇ、まさか犯人が未来ののび太君だと最初は思っていませんでした。そもそも、答えは最初からあったのですよ」

 

「えぇ!?」

 

 杉下右京は紙に文字を書いていく。

 

 

――たびのれお。

 

 

 平仮名で書いた文字をくるりと反転させる。

 

「あぁ!?」

 

――おれのびた。

 

 その文字を見たカイトは椅子に座り込む。

 

「これ、わかっていたらもっと楽に済んだんじゃないですか?」

 

「どうでしょうねぇ」

 

 この時、カイトに告げなかったが一つの疑問が杉下の中にあった。

 

 なぜ、特命係が関わることになったのか。

 

 犯人がのび太というのなら身内だけを巻き込んだ最低限のことにすればよかったはず。

 

 どうして、未来ののび太が特命係を巻き込んだのか。

 

 この時、杉下は知る由もなかった。

 

 今よりも先の未来。

 

 再び、特命係は彼らと出会う。

 

 仮想世界で起こる殺人事件という出来事において。

 

 この時、誰も知るよしのないことだった。

 

 


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