鉄人兵団編、完結です。
果たして、この作品を待っている人はどれだけいるだろう?
鉄人兵団からリルルを奪取したのび太達はこっそりと源家に戻る。
リルルはしずかのベッドに座り込んでいた。
沈んでいる表情のリルルに対してのび太達の表情は明るい。
「これで、俺達はもう仲間だよな!」
皆の気持ちを表すようにジャイアンが笑顔で言う。
今まで敵対?していたリルルは自分達のために鉄人兵団を裏切った。
そんな彼女を最早、敵としてみるものは誰もいなかった。
「お願い!」
だが、リルルは立ち上がる。
「お願い、私を閉じ込めて」
「「「えぇ!?」」」
突然のリルルの言葉に全員が困惑する。
ただ一人、わかっていたのかピッポは何も言わない。
「どうして!?」
直葉が叫ぶ。
折角、仲良くなれたのにこんなことをいうの!?と訴える様に直葉は叫ぶ。
「私は、自分がわからないの……司令官の行おうとしていることが間違っていることはわかる。でも、メカトピアを……私の故郷を見捨てるなんていうこともできないの!だから、お願い、私を閉じ込めて」
「リルル……」
悲しそうに直葉がリルルの手を握る。
握られたことに気付いた彼女は優しく、握り返す。
「これは自分で決めたことだから……ありがとう、直葉」
「リルル!」
「スグ……これ以上はリルルの気持ちを無碍にしてしまう。今は整理させてあげるんだ」
「お兄ちゃん」
ポンポンと和人に頭を撫でられて直葉は渋々、リルルから離れる。
「じゃあ、ここに入れるよ?」
ドラえもんがスモールライトでリルルを小さくして鳥かごの中に入れる。
鳥かごはしずかが飼っているカナリアのものなのだが、鏡の世界に生き物は存在しない。そのため、かごの中は空だった。
そこにリルルを入れて、ドラえもんは全員を見る。
「おそらく、敵はそろそろ仕掛けに気付くかもしれない。決戦の準備をしよう」
「うん!」
「わかった!」
「任されよ!」
「い、いよいよかぁ」
ドラえもんの言葉にのび太、和人、スネ夫、ジャイアンが頷く。
リルルの護衛として、しずかと直葉が残る。
彼らがどこでもドアで湖へ向かう。
最後に残っていたピッポがリルルをみた。
「(ジュド、行くのね)」
「(うん、のび太と一緒に居たいんだ!)」
言葉を出さずとも二人の考えていることはわかる。
「いってくるね」
だが、ピッポは最後の言葉を口に出してドアの向こうに消える。
「お兄ちゃん……」
「のび太さん、皆……」
「ジュド」
湖の近く。
そこでのび太達は簡易的な穴を複数、掘る。
穴の中には毎度おなじみショックガン、パワー手袋、ひらりマント、空気砲、瞬間接着銃が複数個用意されていた。
鉄人兵団と戦うためにドラえもんが用意したアイテム。
強力な武器はないが鉄人兵団を無力化させるために用意した。
「のび太、大丈夫か?」
和人は震えているのび太へ声をかける。
少し離れたところでジャイアンがスネ夫を励ましていた。
励ましているようなのだが、背中を叩いて穴の中へ落としている。
「大丈夫!だって、ピッポも戦おうとしているんだ。僕だけ逃げるなんて、出来ないよ」
「のび太は強いよな」
「そんなことないよ。僕だって、怖いよ」
「あぁ、悪い。そういう意味じゃないんだ」
和人はひらひらと手を振る。
「ピー助の時もそうだけどさ、のび太は心が強いんだよ。誰だって怖くて逃げだしたい。自分なんかじゃ分不相応って思うかもしれないのに、誰かのために行動できる。そんなお前が強いって俺は思う」
「お前達は仲良しだな!」
ピョコンとのび太の膝の中で隠れていたピッポが顔を出す。
「ピッポ、聞いていたのか……」
「のび太は一人だと心配だからな!僕がついてあげているんだ!」
胸を張るピッポの姿に和人は小さく微笑む。
和人とピッポが話している横でのび太は小さく呟いた。
「和人……でもね、僕はみんながいてくれるから頑張れるんだ。みんながいてくれるから、だから、頑張ろうって思えるんだ」
「これはどういうことだ!」
鉄人兵団の侵略総司令官は映像を見て叫ぶ。
地球の地図。
誘導信号から突入する前に撮影していたもの、そして、現在の地図。
「逆さまではないか!」
「そうなんです、映像を確認して調べたところ、このような事実が」
「……そうか」
総司令は杖を叩く。
怒りのあまり杖が床を砕いた。
「我々は騙されたのだ!あの地球人どもめええええええ」
総司令の電子頭脳に浮かび上がるのはジュドに乗っていた人間。
メガネをかけた子供。
その姿を思い出した途端、よくわからないものが総司令の中に浮きあがる。
「そう、総司令?」
「我々が突入したポイントへ向かう!あそこが偽の世界から本来の世界へ戻るための出口だ!」
「は、はいぃ!」
カマキリのようなデザインをしたロボットが指示を出しながら総司令のロボットは拳を強く握りしめる。
「各地に散らばっている部隊も呼び戻せぇえええええ」
湖の入り口。
穴で待機しているジャイアン、スネ夫、和人、ドラえもん。
そこから少し離れたところで鎮座しているザンダクロス。
ザンダクロスの足元にはピッポとのび太がいる。
「きた……」
スネ夫がぽつりと言葉を漏らす。
空を埋め尽くす鉄人兵団。
巨大な浮遊要塞が姿を見せる。
ガチガチとスネ夫は震えそうになる体を叩く。
「一体も湖の向こうへ通すな!」
ドラえもんの叫びに全員が一斉にショックガン、空気砲、瞬間接着銃を放つ。
空気砲を受けて吹き飛ぶ兵士、
ショックガンで機能停止する兵士、
瞬間接着銃によって動きを封じられる兵士ロボット達。
「数が多いよぉ!」
「泣き言いってんじゃねぇ!俺達が食い止めねぇと」
「ジャイアン、上だ!」
「うっとぉ!サンキューな!和人!」
「のび太君!」
ドラえもんが後方にいるのび太へ叫ぶ。
のび太は手にしているショックガンを握り締めた。
「のび太!」
走り出そうとしたのび太へピッポが声をかける。
「ピッポ?」
「僕が、僕がのび太とみんなを守るから!」
ニコリとピッポは微笑む。
彼はザンダクロスの中へ入り込む。
ピッポが入り込むとザンダクロスの瞳に光が灯る。
起動するザンダクロスの瞳から光線が放たれた。
光線は空にいた兵士たちを次々と撃ち落とす。
「あれは!」
「ジュド!」
高みの見物をしていた総司令。
彼はジュドの姿を見た時、杖を叩く。
音を立てて浮遊要塞が形を変えてクモのロボットへ姿を変える。
クモのロボットは巨大な脚を振り下ろす。
ザンダクロスは両手でその脚を受け止める。
「ピッポ!」
受け止めたザンダクロスは脚を掴んで思いっきり地面の方に向けて振り下ろす。
衝撃で足が千切れて、バランスを崩すクモのロボット。
瞳から光線を放ちながらザンダクロスは巨大な蜘蛛の要塞へ突撃する。
大爆発が起こった。
「ピッポォォォォォォオ!」
兵士にショックガンを撃ちながらのび太は叫んだ。
源家。
鳥かごの中にいるリルル。
直葉としずかの二人はベッドで腰かけていた。
リルルの護衛として二人は残っている。
しずか達はのび太のことを心配していた。
「たったの六人で何万の鉄人を相手に……」
「どうして、こうなったのかしら」
リルルはぽつりと呟く。
「メカトピアを発展させることが宇宙の正義だと信じてきたのに……それがこんなおそろしい争いの原因になるなんて」
「リルル」
呟いたリルルを直葉はみる。
「どこかで進む道を間違えたのかしら?それとも神がアムとイムをお作りになったことがそもそも間違いだったのかしら」
神が作ったという最初のロボット、アムトイム。
この二体からメカトピアの文明ははじまったとされる。
いつからか貴族制度が作られ、叛逆が起こり、奴隷を求めて地球へやってきた。
「そうだよ……神様が悪いんだよ!」
我慢できないという風に直葉が叫ぶ。
「間違ったことをしているからだよ!」
「直葉の言うとおりね……神様に会えるのなら文句を言いたいわ」
どこか自虐的な笑みを浮かべるリルルにしずかがはっとした表情を浮かべる。
「そうよ!神様に文句を言いに行けばいいんだわ!」
「え?」
しずかはリルルの入っている鳥かごへ近づいた。
「力を貸してもらえる?」
「どうすればいいの?」
「神様へ会いに行くの!大昔の世界へ」
「え、どうやって?」
戸惑う直葉とリルル。
「まず、もとの大きさに戻って」
“スモールライト”を使ってリルルを元の大きさへ戻す。
そこから“入りこみミラー”で元の世界へ、そこからどこでもドアでのび太の部屋からタイムマシンへ三人は乗り込む。
「メカトピアの建国はいつごろ?」
「つい、去年、三万年の祝典記念を迎えたわ」
リルルの手助けを借りながらしずかと直葉は三万年前のメカトピアにたどり着く。
人も何もいない、緑豊かな惑星だった。
そこにぽつんと存在する建築物。
後にメカトピアの鉄人が神様とあがめる科学者がそこにいる。
「そんなことになるとは思いもよらなかった」
しずか達から話を聞いた博士。
傍には彼が作り出したアムとイムの姿があった。
「博士にならなんとかしていただけるんじゃないかと」
「お願い!お兄ちゃんはみんなを助けたいんです!」
二人の訴えに博士は考える。
「頭脳に競争本能を植え付けたのは間違いだったか」
「競争本能?」
「他人より少しでもすぐれた者になろうという心だよ。みんなが競い合えばそれにつれて社会も発展する。しかし、ひとつ間違えると……自分の利益のために他人をおしのけ、弱いものをふみつけにして強い者だけが栄える。弱肉強食の世界になる。わしの目指した天国とは程遠いものだ」
博士は椅子から立ち上がる。
ふらふらと覚束ない足取りで彼はアムとイムをシートへ座らせて自分も作業用の椅子へ腰かける。
「何をするの?」
「頭脳を改造する」
「博士、大丈夫ですか?」
しずかが不安げに尋ねる。
「他人を思いやるあたたかい心を……なんとか改造を完成するだけの体力が私に残っていればいいが」
作業を開始する博士。
「この改造で三万年後のメカトピアはガラリとちがった国になるはずだ」
「すると、あのおそろしい鉄人兵団は?」
「存在しなくなる」
博士の言葉にしずかと直葉、リルルも笑顔になる。
「やったー!」
「よかったわ!」
「よかった……」
ハッとしずかはそこで気づく。
歴史が変わる。
それはつまり、三万年後の未来も変化しているということだ。
「でも、それじゃあ、リルルさんも!?」
「え?」
呆然とする直葉。
「わたしも、消えてしまう?……というよりはじめからこの世にいなかったことになってしまう」
「ピッポォォォォォォォォ!」
爆発が晴れた中、のび太は走る。
巨大戦闘要塞の爆心地。
そこにザンダクロスはいた。
「あぁ!」
「そんな!」
「ボロボロだ……」
ザンダクロスは爆発に巻き込まれて無残な姿になっていた。
片足は千切れ、左手はなくなり、右腕には大きな亀裂が入っている。
頭部も一部が欠如して、中にいるピッポの姿がむき出しになっていた。
「ジュドめ!ようやく動かなくなったか」
総司令官がふらふらと姿を見せる。
「あぁ、総司令!空を!」
部下の言葉に総司令は顔を上げる。
各地へ散っていた部隊が戻ってきていた。
ドラえもんは空気砲を構える。
空を覆いつくす鉄人の姿にスネ夫は武器を落とす。
ジャイアンはなんとか気持ちを奮い立たせようとする。
和人はザンダクロスの下へ向かったのび太の方を見ていた。
大きな音を立てて、しずか達の前に博士が落ちてくる。
「どうしたんですか!?博士!」
しずかが博士の体を抱き起す。
博士は自らの胸を抑えていた。
「駄目だ……体が、もう、限界だ」
「そんな!ここまできて!?」
「博士、教えてください。私に操作の方法を!」
「リルル!?」
「そんな、ダメだよ!消えちゃうんだよ!?」
直葉が泣きながらリルルの腕を掴む。
そんな直葉の手に自らの手を重ねる。
リルルは笑顔だ。
「すばらしいと思わない?」
「え?」
「ほんとうの天国づくりに役立てるなんて」
そういってリルルは作業を開始する。
――ジュド、私がなにをしようとしているかわかる?
――うん、リルル。
リルルはジュドに自身の体の一部を与えている。
そのため、お互いの気持ちが理解できた。
ジュドは大事な親友のために戦う。
リルルは祖国がよくなることを願って。
作業を終えたリルル。
その時には彼女の体がうっすらと透け始めていた。
「リルル!」
「リルル!」
しずかと直葉が作業用シートから落ちてくるリルルの両手を掴む。
「リルル!嫌だ、嫌だよう!」
「リルル……」
「天使のようなロボットになりたい……ねぇ、直葉、しずか」
ニコリと微笑みながらリルルは二人をみる。
「今度、生まれ変わったら」
鏡の世界。
突如、異変が起こる。
鉄人兵団たちが次々と消えていくのだ。
「え?」
「何が起こっているの!?」
「鉄人兵団が、消えていく!?」
「なぜか、わからないけれど」
戸惑うドラえもん達。
のび太がザンダクロスから落ちてくるピッポを受け止める。
「ピッポ!?」
鉄人兵団と同じようにピッポの体も透け始めていた。
それは消えた鉄人兵団たちと同じ現象。
理解は出来ていないがのび太は感じ取っていた。
ピッポも消えてしまう。
泣きそうになりながらのび太は堪える。
なぜなら、ピッポは泣いていないのだ。
「ねぇ、のび太」
「なに?ピッポ」
声が震えないようにしてのび太は尋ねる。
「今度、生まれ変わったら」
「「友達になってね?」」
そういって直葉としずかの前でリルルは消えた。
そういってのび太の前でピッポは消えた。
こうして、鉄人兵団をめぐる騒動は終わりを告げた。
現代。
裏山、そこにのび太達は墓を建てた。
リルルとピッポはもしかしたらメカトピアに存在しているかもしれない。
しかし、そこにいる二人はのび太達の知っているリルルとピッポではないのだ。
「直葉、そろそろ行こうか」
「うん!」
和人の言葉に直葉は頷いた。
「そういえば」
「うん?」
「前にのび太がいっていただろ?」
「あぁ」
直葉は思い出す。
鉄人兵団の戦いが終わった一週間後、ボンヤリして、身が入らずに教室で残っていたのび太は空を舞う二つの影をみたという。
天使のような翼を生やしたリルル。
鳥のような姿をしていたピッポ。
「見間違いじゃないといいな~」
そういって直葉は澄み切った空へ手を伸ばした。
今回で鉄人兵団は終わりです。
次回については投稿時期は未定ですが、現実世界の話、一応、過去編を予定しています。
ただし、大長編ではないのであしからず。