ドラえもん のび太と仮想世界   作:断空我

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50:鉄人兵団 その5

 鉄人兵団が迫っている。

 

 これからどうするかとドラえもん達は話し合い、鉄人兵団を鏡の世界へ誘導することにした。

 

 問題はここが鏡世界であることがばれないようにすること、そのため、ドラえもん達は町中にいる獣型ロボット達を無力化させていく。

 

 ドラえもんが用意した瞬間接着銃で動きを止めて、そのまま、用意した場所に閉じ込める。

 

 

 そうすることで町中にいたロボット達がすべて、消える。

 

 

その夜。

 

「一度でいいからハムを丸ごと食べてみたかったんだ!」

 

「高級ステーキちゃん!」

 

「おいしいもの沢山!」

 

「あらあら」

 

「おいおい……まあ、俺も好きなもの、食べるけどさ」

 

「お兄ちゃん~、届かないよぉ」

 

 ドラえもんが用意したBBQセットの上で様々なものを焼いて食べる。

 

 ジャイアンはハムを丸かじりしていた。

 

 直葉は身長差のために鉄板に届かず、和人が肉をとってあげるということをしている。

 

 その中でピッポにのび太が色々な食べ物をあげていた。

 

 元々、ロボットなので食事をしたことがないピッポ、半ば生物になったことで目の前の食事をおいしそうに食べている。

 

 団欒の時間というべき光景をみて、ピッポは考えていた。

 

――人間って変な奴だ。

 

 食べて、ロボットの襲撃がない中、それぞれの家で休むことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

「のび太、ピッポ、どうしたんだ?」

 

 和人はのび太の頭上、正確に言えば、頭の上に居座っている青い被り物をしていないピッポへ尋ねる。

 

 どういうわけかのび太がピッポの被り物を装着していた。

 

 ドラえもんの話によると道具の影響で二人は離れられないらしい。

 

「これからのことを話すにして……ピッポは僕達の敵?それとも味方?」

 

「……僕はどちらでもない。リルルの味方だ」

 

「リルルは……味方ではないようだから、ミミバン!貼り付けるとどんな音も通さない。リルルに作戦がばれたらまずいからね」

 

 しずかと直葉の態度からリルルの状況を理解したドラえもんがピッポの耳の部分へミミバンを当てる。

 

 ジャイアンやスネ夫がからかうもミミバンのおかげで声が届くことはない。

 

「作戦は?」

 

「この間、行った大きな湖、そこに逆世界入り込みオイルを使って鉄人兵団をこの世界へ誘い込むんだ」

 

「成程、連中に独り相撲をさせるのか」

 

 ドラえもんの作戦に和人は納得する。

 

「でもさ、どうやって誘い込むのさ」

 

「それはピッポがこの世界へ部品を送り込むために使っていた信号を利用するのさ」

 

「僕はちんちくりんじゃない!」

 

 ドラえもん達の会話が聞こえていないピッポは勝手な解釈をしてのび太の頭上で怒っていた。

 

「あの信号を湖から発信する……ただ、リルルに邪魔されるとまずい。リルルの様態は?」

 

「どんどん良くなっているわ」

 

「作戦を邪魔されるとまずいから、これを飲ませるんだ、ただ眠らせるだけだから」

 

「でも……」

 

「そんなことしてだいじょうぶなの?」

 

 ドラえもんの提案に渋る様子を見せたしずかと直葉。

 

「眠るだけだから問題ないよ」

 

 スネ夫の言葉にしずかは納得して瓶を受け取る。

 

「ジャイアンとスネ夫君は街の見張りを頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

源家。

 

 しずかと直葉はリルルの包帯を外す。

 

 少し前まで配線や基盤がみえていたのだが、今は普通の女の子として謙遜なかった。

 

「私の服を貸すわ。どれがいい?」

 

「どれでもいいわ」

 

「えー、もったいない!」

 

「……興味ないもの」

 

 どうでもいいというリルルの言葉にしずかと直葉が反論する。

 

「ねえ、これ着てみて、ばんざーい」

 

「一人で着られるわ!」

 

「わー、可愛い!」

 

「うん!」

 

「でも、すぐに動いちゃダメよ。今日は安静にして」

 

「人間のすることってわからない。どうして敵を助けるの?」

 

「理屈で説明できないことをするのが人間なのよ。さ、これを飲んで、ゆっくり休めば治るわ」

 

「あんせいにしてね?」

 

 しずかと直葉の視線から逃れるようにリルルは背を向ける。

 

「もう、寝ちゃったの?」

 

 反応がないリルルの姿を見ながらしずかは首元に星のペンダントをつける。

 

 しずかと直葉は部屋から出ていく。

 

 寝たふりをしていたリルルは口の中から薬を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドラえもん、和人、のび太、そしておまけのピッポは湖にオイルを流していく。

 

 瞬く間に湖は鏡の世界を繋ぐためのゲートへ変わる。

 

 ドラえもんはピッポが使用していた電波を用意した受信機で送信する。

 

「凄いな、さすがはドラえもん」

 

「後は連中がやって来るのを待つだけ……僕と和人君は街で仕掛けをしてくるからここで待っていて」

 

「のび太、ピッポ、頼んだぞ」

 

「うん」

 

「…………うん」

 

 タケコプターで離れていくドラえもんと和人。

 

 残されたピッポとのび太は森の中を歩いていく。

 

 鏡の世界で生き物のいない森の中。

 

 しばらくして、道具の効果が切れて、二人は離れていた。

 

 その中を二人で歩いているとのび太は呟く。

 

「まるで僕達だけしかいないみたいだ」

 

「のび太は怖がりだ!」

 

 ピッポがのび太へ言う。

 

「違うよ!」

 

「違わないね!」

 

「違うって!」

 

「違わない!のび太は怖がりだ。やーい!」

 

 のび太をからかっていたピッポの頭の上に花びらが落ちる。

 

 突然のことにピッポは驚いて飛び回った。

 

「なーんだ、僕よりピッポが怖がりじゃないか!」

 

「違う!驚いただけだ!怖がりじゃない!僕は怖がりじゃない!」

 

「違わない!違わないったら違わない~」

 

 顔を真っ赤にして否定するピッポをのび太がからかう。

 

「わ、笑っていられるのも今のうちだぞ!鉄人兵団が来たら、お前達はあっという間にけちょんけちょんだぞ!僕だって元の体に戻ればあっという間だぞ!あとで謝ったって許してやらないぞ!」

 

「僕は……ピッポと戦うのは嫌だなぁ」

 

 のび太の心からの言葉にピッポは言葉を詰まらせ、やがて、泣きながらのび太へ近づいていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕はのび太と戦うのは嫌だ……リルルにもこの気持ちを伝えたいのに答えてくれない」

 

「離れていても会話ができるの?」

 

 のび太はピッポと近くにある木に腰かけながら話をしていた。

 

「僕にはリルルの体の一部があるから……でも、今は心を閉ざしてしまっている。僕の感じたものをリルルに感じてほしいから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たぞ!」

 

 夜。

 

 湖畔の傍で待機していたドラえもん、和人、のび太、ピッポ。

 

 湖が光り輝くとともに大量の人型ロボット、そして、巨大なクモを模したような戦艦が現れる。

 

「す、すごい数だ」

 

「これが鉄人兵団」

 

 驚く和人達の前で鉄人兵団は都心部へ向かっていく。

 

 その姿を確認したドラえもんはどこでもドアを出してのび太の家へ向かう。

 

 家の中にはスネ夫とバットを持ったジャイアンが待っている。

 

「鉄人兵団は都心部へ向かったよ」

 

「そうか、にしししし」

 

 笑いあうドラえもんと和人。

 

「すっげぇ」

 

 スパイカメラで映像を見ていた彼らは驚きを隠せない。

 

 鉄人兵団の攻撃を受けてビルから反撃があった。

 

 驚きながらも鉄人兵団は反撃していく。

 

「一体、兵団と戦っているのは誰?」

 

 驚く彼らにドラえもん達は種明かしをする。

 

 ドラえもんの道具で彼らは人がいると思いながら自分達が放った攻撃を躱していく。

 

 そんな話をしていた時、タケコプターをつけたしずかと直葉がやってきた。

 

「大変よ!」

 

「リルルがいなくなったの!」

 

「リルル!!」

 

 ピッポが窓から飛びだす。

 

 少し遅れてドラえもん達も行方を捜すために外へ出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 傘を差しながら街を歩いていたのび太と直葉。

 

 やがて、地下鉄の階段のところで座り込んでいるリルルを見つける。

 

「リルル!」

 

「こんなところにいた!」

 

 驚くのび太と笑顔を浮かべる直葉。

 

「さぁ、一緒に帰ろう」

 

「そうはいかない。アンタ達のインチキを総司令へ報告するの!」

 

 リルルの言葉にのび太は目を見開く。

 

「そ、そんなことしたら」

 

「そうよ。本当の世界を総攻撃して、人間を捕獲するの」

 

 この世界に鉄人兵団を縛り付けられているのは鏡の世界の秘密を知らないからだ。

 

 もし、ばれてしまえば、この世界から鉄人兵団は本当の世界へ向かってしまう。

 

「そんなこと、させないぞ!」

 

「撃ちなさいよ!」

 

 のび太は懐から武器を取り出す。

 

 挑発するリルルの前でのび太は手を止める。

 

「駄目!」

 

「撃たないで!」

 

 両手を広げてのび太の前に立つ直葉。そして、リルルの前に立つピッポ。

 

「駄目!リルルを撃っちゃだめ!」

 

 直葉がのび太へ叫ぶ。

 

「お前は、ジュド?どうして、そんな姿に!?」

 

「リルル、人間を捕まえるなんて言うの、やめて……」

 

「お前は祖国を裏切るつもり!?」

 

「……心を閉ざさないで、僕の心を聞いて、ううん。本当はもう君だってわかっているはずだよ」

 

「やめて!私はメカトピアに尽くす義務があるの」

 

「本当に撃つぞ!本当だぞ!」

 

「撃ちなさいよ!撃たないと私は止められないわよ!撃って!」

 

 懇願するように叫ぶリルル。

 

 銃を向けているのび太とピッポの目が合う。

 

 ピッポは首を横に振る。

 

「……」

 

「のび太君!」

 

 のび太は銃口を下へ下ろす。

 

「意気地なし!」

 

 リルルの指先から光線が放たれる。

 

 のび太へ当たる直前、ピッポが割り込む。

 

 光線を受けた倒れこんだピッポに直葉とのび太が駆け寄る。

 

 リルルは涙を零しながら空へ飛び出す。

 

 頭上へ巨大な鉄人兵団の戦艦が現れる。

 

 

「リルル、なぜ、応答しなかった?」

 

「不測の事態により連絡ができない状態にありました。申し訳ありません」

 

「リルル、地球人はどこにいる?」

 

「答えろ。リルル」

 

「……答えたくありません」

 

「今、なんといった?」

 

 リルルの言葉に総司令官が杖を振るう。

 

 殴られたリルルは水たまりの上に倒れこむ。

 

「人間など、ゴミだ」

 

「……ゴミなんじゃありません!私達と同じ、いえ、それ以上に複雑な心を持っています!」

 

 電撃がリルルを襲う。

 

 連行されたリルルは処刑されようとしていた。

 

「処刑準備整いました」

 

「リルル、何か言い残すことはあるか?」

 

「奴隷狩りを中止して引き返してください」

 

「塵も残さず焼き尽くせ!」

 

 兵団から攻撃が始まるという瞬間。

 

 近くの建物が爆発を起こす。

 

「リルル!助けに来たよ!」

 

 太陽の光を受けながら飛来するザンダクロス。

 

 その肩にひらりマントを構える和人、ショックガンを握り締めているのび太。

 

「かっさらえ!」

 

 胸部の操縦席の中にいるジャイアンの指示でスネ夫が操縦桿を操る。

 

 しずかがピッポを抱きしめて、直葉は正面のスクリーンを見ていた。

 

 拘束されているリルルを助け出すのび太達。

 

 彼と鉄人兵団総司令の視線が交差する。

 

 ザンダクロスはそのまま空へ飛び去っていく。

 


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