ドラえもん のび太と仮想世界   作:断空我

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38:銀河超特急(中編)

「まさか、客車がそのままロッジになるなんて」

 

 ドラえもんやのび太、和人達が生活する客車、七号車と八号車はロッジになっていた。

 

「ドラえもん、僕達もそろそろ行こうよ。みんな、既に行っちゃったんだよ!?」

 

「まぁまぁ、よし、読み終わったっと」

 

 用意されたパンフレットを読み終えたドラえもんが立ち上がる。

 

「じゃあ、レンタルロケット場に行こうか」

 

「あら、アンタ達」

 

 外に出た二人の前に詩乃が立っていた。

 

 丁度、二人の部屋をノックしようとしていたのだろう。驚いた顔をした彼女の姿がそこにある。

 

「みんな、それぞれで出て行っちゃったわ。のび太は西部の惑星に行くでしょ?」

 

「うん、もしかして、詩乃ちゃんも?」

 

「ちゃん付けするな。当然。GGOの時の雪辱を晴らしてやる」

 

 ギロリと詩乃がのび太を睨む。

 

 ヒッと小さな悲鳴をのび太は漏らしそうになった。

 

「まぁまぁ、それじゃ、一緒にレンタルロケットのところへ行こうか」

 

「あ、詩乃ちゃ……詩乃、和人達はどこへいったのかな?」

 

「キリトとアスナはドリーマーズランドを見て回っているはずよ。クラインとフィリアは忍者の星、リズベットとシリカは怪奇となんとかの星へ肝試しにいっているはずよ」

 

「あれ、メルヘンは?」

 

「明日、行くことになっているわ」

 

「あ、そうなんだ」

 

「とにかく、西部の星へ行きましょ」

 

 詩乃がそういうとのび太の手を掴んで歩き出す。

 

「あ、待ってよぉ~」

 

 残されたドラえもんが慌てて後を追いかける。

 

 三人は銀色の道路を歩いていた。

 

「レンタルロケットの場所までどのくらいのあるかな?」

 

 ふらふらと歩いていたのび太に止まり木にいた鳥のロボットが答える。

 

『ここから二キロの先にあります。ピコ!』

 

「「二キロ!?」」

 

 二人は驚きながらも歩いていく。

 

「い、いくらなんでも無理があるんじゃないの?」

 

「そうだよね?なんで、二キロなんて」

 

「おーい、昔モン、何やってんだぁ?」

 

「もしかして、ベアリングロード知らないんじゃないのぉ?」

 

「うそぉ、遅れているうぅ~」

 

 あの三人が道路をすべるようにして追い越していく。

 

「あ、そうか、ベアリングロード!」

 

「何それ?」

 

「足元を見て、びっしりと銀色の玉がついているでしょ?速く走ろうと思えるほど、速く進めま~す」

 

「成程~~」

 

「そういうことは早く言うべきでしょ」

 

 三人はあっという間に二キロあったレンタルロケット場まで到着する。

 

 レンタルロケット場では様々な時代に存在した車や飛行機が置かれていた。

 

 担当女性の話では中身は重力推進ロケットというものが使われて、音声入力システムによって場所を言うだけで到着できるしっかりとした安全性がある。

 

 のび太とドラえもんは白いプロペラ式の飛行機。

 

 詩乃は青色の車をチョイスした。

 

 二台は西部の星へ向かう。

 

「そういえば、ドラえもん、さっきの人が言っていた禁断の星ってなに?」

 

「昔、メズラシウムっていう鉱石が取れたんだけど、今は無人の穴だらけの廃墟になっていて危険だから立ち入っちゃダメになっているんだ」

 

「そんな惑星があるのね」

 

 しばらくして、西部の惑星へ到着する。

 

 レンタルロケットを預けて、彼らは西部の星の首都といえるガンスモーク・シティへやってきた。

 

「ようこそ、いらっしゃいました。私は市長のクリント・イースト・ウードです」

 

 市長のいる部屋に大勢の人が集まっていた。

 

 西部の惑星に元からいる人とのび太達のようにレンタルロケットでやってきた人たちだ。

 

「早速ですが、ぜひとも皆様の中からわが町の保安官を決めさせてもらいます。これから射撃大会を開かせていただき、保安官助手を決めさせていただき、名誉保安官を決めさせてもらいます」

 

「それでは、皆様、着替えて広場に集まってください」

 

 解散となりガンスモーク・ホテルへ向かうことになる。

 

「なんだ、昔モンも来ていたのかよ」

 

「銃よりも弓の方がいいんじゃねぇの」

 

「むっ」

 

「問題ないわ。どっちでも命中させるから」

 

 三人組の一人、アストンのバカにするような物言いに詩乃が答える。

 

 それから各自、ホテルで着替えた。

 

「この銃、弾が入っているけれど、大丈夫なの?」

 

「問題ないよ。悪役ロボットに当たれば機能停止、人に当たっても体が膨らんでしばらく宙に浮く程度だから」

 

「GGOと比べたら安全ね。できれば、狙撃銃があればよかったのに、みんなと同じリボルバー式なんですもの」

 

「まぁまぁ」

 

 のび太と詩乃、ドラえもんは広場へ向かう。

 

 審判が試験の説明をする。

 

 六発の空き缶空き瓶を審判の合図と共に狙う、二発命中すれば合格となる。

 

 最初の一人は外れ。

 

 次の人は二発で合格。

 

 三人組のドンは全弾はずれ、ジェーンは審判に命中して失格。アストンは五発命中して合格。

 

 今までの最高記録をたたき出した。

 

 膨らんだ審判を見て「私は絶対にあの弾に当たらないわ」と真顔で詩乃は呟く。

 

 ドラえもんは三発命中合格となる。

 

 そして、のび太の番となる。

 

「今度は昔モンだぜ!」

 

「みんな、隠れようぜ。弾がどこに飛んでくるかわからねぇぜ」

 

 アストン達が野次を飛ばすがのび太は気にせず構える。

 

 ジッ、と詩乃はのび太の動きを注視した。

 

 笛の音と共に銃を構える。

 

 放たれた弾丸によって空き缶が一個、地面へ落ちた。

 

「命中、一発!失格!!」

 

「だはは、失格だってよぉ!」

 

「やっぱり、昔モンだぜ!」

 

「よく見てください!」

 

 みんながバカにする中、のび太は空き缶を手に取って審判へ見せる。

 

 空き缶には同じ側面に穴が開いていた。

 

「穴が六つ?」

 

「弾はこの中です」

 

 ジャラジャラと六発の弾丸が出てくる。

 

「全弾命中!合格!」

 

「やったね!のび太君!」

 

「次の方!」

 

 呼ばれたのは詩乃だ。

 

「頑張って」

 

「大丈夫よ」

 

 詩乃は笛の合図で同じように空き缶に六発の穴をあけて合格をたたき出す。

 

「この程度できなきゃね」

 

 試験が終わり、のび太、詩乃、ドラえもんの三人は保安官助手となる。

 

 法と秩序を守り、犯罪者と戦い、ガンスモーク・シティを平和な街へして下さいという市長の言葉で解散となる。

 

「のび太君も詩乃ちゃんも似合っているよ?」

 

「ドラえもんだって」

 

「とにかく、これで第一歩ね。次はどうするのかしら?」

 

「多分、どこかで悪役ロボットが騒ぎを起こすんだろうね」

 

 ドラえもんの言葉と共に向こうの角から慌てた様子の人がやって来る。

 

「大変だ!ビリオン銀行に強盗団だ!」

 

「あ、のび太君。詩乃ちゃん、出番だぞ」

 

「ちょ、ちょっと、背中を押さないで」

 

「そ、そうよ!危ない!」

 

 詩乃の言葉で左右に分かれる。

 

 直後、弾丸が飛んできて、強盗団が乗る馬が通過した。

 

 のび太が発砲するも届かない。

 

「駄目だ、後を追いかけよう」

 

「待って、タケコプターは使用禁止でしょ」

 

 ポケットからドラえもんがタケコプターを出そうとするのを詩乃が止める。

 

「あ、そうだった」

 

「邪魔だ!どけどけぇ!」

 

「うわわあ」

 

 続いて保安官助手達が乗る馬がやって来る。

 

「昔モン!もたもたするな!」

 

 馬上からアストンが叫ぶ。

 

「馬を借りた方がよさそうね」

 

「確か、OK牧場があったはず!」

 

「オーケー!」

 

「ドラえもん、笑えないわ」

 

 

 

 OK牧場で馬を二頭借りた。

 

 しかし、

 

「乗馬用のポニーより、これ?」

 

「僕達が乗れるような馬はこれしかないんだから、仕方ないよ。ま、のんびり行くしかないかな?」

 

「呑気ね。先に強盗団を捕縛されているかもしれないわよ」

 

「ガイドによると、西にあるデスバレーに強盗団がいるらしい」

 

 ドラえもん達が峡谷のような場所へ到着すると浮遊している丸い人の姿があった。

 

「あ、やられたんだ」

 

「おーい、やられちゃったよ!相手は六人だ。でも、腕利きのガンマンだ」

 

「大丈夫ですかぁ?」

 

「一時間経てば、自然と降りられるってさぁ、わぁ~」

 

「どうやら、全滅したみたいね」

 

 先を見た詩乃の言葉通り、撃たれた保安官助手たちの姿があった。

 

 そこにはアストンの姿もある。

 

「のび太君、詩乃ちゃん。ここからは慎重に行こう」

 

「うん!」

 

「そうね」

 

 二人は銃を抜いて先に進む。

 

 しばらくして、小さな建物を見つける。

 

「あれが強盗団のアジトね」

 

「待って。このまま進んだら見つかるから、これを使おう」

 

 ドラえもんはドンブラ粉を取り出す。

 

「何よ、それ?」

 

「確か、地面にかけたら潜れるんだよね?」

 

「そうそう、これで行こう」

 

 ドラえもんの言葉に従って詩乃、のび太はともに。ドラえもんと二手に別れて進む。

 

 建物に近づいたのび太はゆっくりと地面から出る。

 

「窓から様子を見よう」

 

「待って、誰か出てくるわ!」

 

 詩乃に言われて慌てて二人は土の中に潜る。

 

 しかし、帽子までは潜り切れず、そこに残ってしまう。

 

 ドアが開いて悪人面のガンマンが出てくる。

 

「追手はもうこねぇのか。張り合いのない奴らだぜ」

 

 ガンマンは周りを見て、地面に落ちている帽子を見つけた。

 

「何だ、あの帽子?」

 

「あ、のび太君にシノンちゃん、見つかったか?」

 

「チュウ」

 

 背後から地面に体の半分を出したドラえもんだったが、傍にやってきた鼠を見て悲鳴を上げてしまう。

 

「ぎゃあああああああああああああああああああ!」

 

 悲鳴を上げて気絶したドラえもん。

 

 その音に六人のガンマンたちがそろう。

 

「タヌキ型ロボットとは珍しい」

 

「生意気にバッジつけてやがるぜ!」

 

「他に仲間がいないか吐かせようぜ」

 

「よし、俺がやる!」

 

 一人のガンマンが拳銃を抜く。

 

「待て!」

 

 のび太の声に全員が振り返る。

 

「私達が相手よ!」

 

 二人同時に銃を抜いて発砲した。

 

 弾丸は悪役ロボットたちに当たり、全員を機能停止させる。

 

「やったわね!」

 

「うん!」

 

 二人は銃をホルスターにしまってハイタッチした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノビ・ノビータ氏とアサダシノン氏を名誉保安官に任命します」

 

 

 

 

 ガンスモーク・シティでのび太と詩乃は保安官助手から名誉保安官となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、忍者の星ではクライン=遼太郎とフィリア=琴音の二人が崖をロープで這い上がっていた。

 

「クライン、早くしてよ~」

 

「わかってるって、よし、これで!」

 

 遼太郎が這い上がり、続いて琴音が崖の上へ到着する。

 

「よくぞ、試練をクリアした!」

 

 二人の前に雲に乗ったおじいさんが現れる。

 

「おじいさん!これで仮免許もらえるんですよね!」

 

「さよう!」

 

「うっしゃああ!」

 

 遼太郎と琴音は忍び装束を纏っている。

 

 クラインは赤、琴音は青だ。

 

 雲に乗ってやってきた仙人の言葉に二人は喜ぶ。

 

「これにて仮免許を与えるぞ」

 

 忍者の星。

 

 そこでは修業を積み、師匠に認められれば巻物を与えられる。

 

 今回、二人がお試しで受けてみたのは仮免許皆伝。

 

 最初に受け取る巻物をチャレンジすることにしたのだ。

 

 成功した二人に仙人風の老人は小さな巻物を差し出す。

 

「随分と小さな巻物だな」

 

「これで忍術が使えるんですよね?」

 

「さよう、忍法バッタの術。忍法壁抜けの術。忍法鼠変身の術が使える」

 

「すくな!?」

 

「仮免許ならこの程度じゃ……そうじゃ、おぬしらの実力なら本免許を受けてみてはどうじゃ?」

 

 仙人に案内されてやってくるのは巨大な城。

 

「なぁ、爺さん、本免許だと、どんな術が使えるんだ?」

 

「ありとあらゆる術がインプットされておる」

 

「うし!やる気が出てきたぜ」

 

「洋風の城ばっかりだったけれど、こういう城もハントし甲斐があるよ!」

 

 やる気を見せるクラインとフィリア。

 

 二人は巻物を口にくわえるとバッタの術を使う。

 

 ぴょんぴょんと飛びながら正門へ向かわず裏手へ回る。

 

 バッタの術という変な名前だが、本物のバッタ並みに飛べることからかなり便利だった。

 

 城の壁に張り付いて、二人は壁抜けの術を使う。

 

「巻物のおかげであっさりと入れたね」

 

「小さな巻物だけど、バカにできねぇな」

 

 二人はあまり音を立てずに廊下を歩く。

 

「密書を取ってこいということだけど、どこだろうな?」

 

「うーん、情報が少ないから――」

 

 フィリアが最後までいう前にすぐそばの扉が開く。

 

「「……」」

 

 絶句する二人の前に現れたのは侍だ。

 

 彼は二人を見ると「曲者!」と叫んで刀を抜く。

 

「うぉおおおい!?一人に見つかったらここまでくるのか!?」

 

「走って、どんどん増えているよ!」

 

 フィリアの言葉通り、後ろから侍の集団が追いかけてきていた。

 

「くそう、ALOやSAOだったら刀で応戦するっていうのによぉ!」

 

「武器がないんだから仕方ないよ~」

 

「そうだ、あの術、使おう!」

 

「あの術かぁ」

 

 二人は巻物を口にくわえて叫ぶ。

 

「鼠変身の術!」

 

 ドドドドド!と侍集団が去っていく中、床に二匹の小さな鼠が転がっていた。

 

 赤と青の鼠はむくりと起き上がる。

 

「術が使えてよかったね!」

 

「でもよぉ、足腰いてえぇぜ」

 

 鼠の二人はしばらく移動する。

 

 しばらくして、密書の間という場所に到着する。

 

「もしかしたら、ここにあるかもしれねぇな」

 

「入ってみよう」

 

 顔をのぞかせてフィリアは中を覗く。

 

「誰もいない」

 

「お、あれが密書だな!」

 

 クラインは中央に置かれている朱塗りの箱を開ける。

 

 パカッと中を開けると一枚の紙が入っていた。

 

「おぉ」

 

「これで完了だね」

 

「随分と簡単に――」

 

 二人が最後まで言い終える前に頭上から檻が降ってきた。

 

「なぁあああああああああああああ!?」

 

「新米忍者ども!まんまと罠に引っかかったわ!」

 

「忍び込むなど十年速いわぁ!」

 

 ぞろぞろと現れる侍たち。

 

 包囲網から抜け出せず二人は檻の中に放り込まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

 ロッジで彼らはそれぞれの出来事について話をしていた。

 

「みんなはそれぞれの惑星へいっていたみたいだけど、どうだったの?」

 

「私とのび太は西部の星で名誉保安官として色々な悪役ロボットと戦ったわ」

 

 明日奈の質問に詩乃が答える。

 

「詩乃ちゃんが無双していたよ」

 

「リボルバーを0.6秒で六発フルバーストしたアンタにいわれたくない」

 

「西部の星はシノンやのび太にぴったりだったってことだな」

 

「俺やフィリアは忍者の星にいったんだがよう」

 

「密書を手に入れるのに失敗して牢屋に放り込まれちゃったの……なんとか壁抜けの術で脱出したけれど、時間切れ」

 

 クラインとフィリアは残念そうに言う。

 

「まぁ、二人にとってはおあつらえ向きってことだったんだな」

 

「本当だよ~」

 

「アタシとシリカは怪奇と伝説の星へ行ったんだけど」

 

「もう二度と行きたくないですよ!怪奇を体験できるということで、人食い鬼や死神とかに追いかけられたんですから!」

 

「シリカがありえないくらい追いかけられたもんね」

 

 あの時のことを思い出しながら里香は苦笑する。

 

「和人と明日奈さんはどうだったの?周辺をみてまわったんでしょ?」

 

「あぁ、二人で遊園地を回ったんだが」

 

「凄かったよ!私たちの時代の遊園地よりも楽しかった!」

 

「アスナがここまで目を輝かせるなんて相当ね」

 

「明日はどうする?恐竜の星でも」

 

「アタシ達で話したんだけどぉ」

 

 和人が尋ねようとした時、里香がにやりと笑みを浮かべる。

 

 続いて、詩乃、珪子、琴音もほほ笑む。

 

 のび太と和人は同時にいやな予感を覚える。

 

 クラインは二人を試すように微笑んでいた。

 

「明日はメルヘンの星へいくわよ!」

 

「「えぇ~~~」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直葉も参加してのび太と和人は半ば強制的にメルヘンの星へ連れてこられた。

 

「ねぇ、詩乃ちゃん」

 

「ちゃん付けするな」

 

「僕を縛る必要あったの!?」

 

「当然でしょ。アンタだけ、懲りずに逃げようとしたんだから、これぐらいは当然」

 

 詩乃が操縦する飛行機型レンタルロケット。

 

 その後ろの座席にロープで縛られたのび太の姿があった。

 

 和人は大人しく参加する意思を見せたのに対してのび太だけはこっそりと抜け出そうとした結果だ。

 

「でも、詩乃ちゃんがメルヘンへ行こうなんて驚いたよ」

 

「なに?私が少女趣味を持っていたら問題あるかしら?」

 

「そういう意味じゃなくて」

 

「……別に、小さい頃はそういうものにあこがれていたわ。体験できるなら、してみたいと思うのは当然でしょ?………好きな人とならなおさら」

 

「え?」

 

 後半の部分は聞き取れなかった。

 

 のび太は目の前にやってくるペガサスの群れをみて驚きの声を上げる。

 

「降りるわよ」

 

 詩乃に引きずられる形でのび太は管理事務所へ向かう。

 

「のび太君、大丈夫?」

 

「えっと、まぁ」

 

「往生際が悪すぎるのよ。キリトを見習いなさい」

 

 里香の言葉でのび太は和人を見る。

 

 和人は苦笑しながらのび太と目を合わせた。

 

「(諦めが肝心だぞ)」

 

「(和人ォ)」

 

 管理事務所で詩乃達は様々なコースの説明を受けた。

 

「白雪姫コースが一番の人気なんですか?」

 

「はい、今のところ八回待ちです」

 

「うへぇ~~~」

 

「白雪姫が人気って、驚きです」

 

「他のコースはどうなんですか?」

 

「今なら、シンデレラ、人魚姫、マッチ売りの少女や、眠り姫などができます」

 

 和人、クライン、のび太を置いて女性陣が話し合う。

 

 何をやるか決めようとしているのだ。

 

「クラインが騒がないなんて珍しいな」

 

「そういえば」

 

「ふっ、俺は学習したのさ」

 

「学習?」

 

 首を傾げるのび太にクラインは力説する。

 

「こういう手の場合において反論せず、おとなしくしておく!俺が学んだ事さ」

 

「「……」」

 

 クラインの告白に二人は何故か、悲しさを覚えた。

 

「さ、行くわよ」

 

「え、あ、ちょっと!?」

 

「キリト君も」

 

 のび太は詩乃に手を引かれていく。

 

 明日奈は和人を連れて、その場を離れた。

 

 この後、のび太は詩乃、珪子とシンデレラを。

 

 和人は、明日奈、里香、琴音、直葉と“眠れぬ森の美女”を行った。

 

 顔真っ赤にしてのび太王子と踊る珪子。

 

 微笑みながら最後までリードし続けた詩乃。

 

 寝ている彼女を助けるために奮闘した和人。王子の助けを待つ明日奈、里香、琴音、直葉。

 

 それらの様子をドラえもんは管理事務所でみて。

 

「あ、録画をお願いします~」

 

 係員にディスクの録画を頼んでいた。

 

 録画されていることを知ったのび太と和人は愕然してしまうのは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそぉ!やっぱり、納得できねぇ!!」

 

 ミーティングルームでジュースを飲んでクラインは叫んでいた。

 

「メルヘンの星の時とえらい違いだな」

 

「やっぱり、不満だったみたいだよ」

 

 のび太と和人は怒れるクラインを見てひそひそと話す。

 

「そうだ!明日は恐竜の星に行こうよ!」

 

「恐竜かぁ、男として一度はみてみたいな!」

 

「何言ってんだよ。SAOで恐竜型モンスターと何度か戦っているじゃないか」

 

「それとこれとは別でしょ?ロボットだけど昔の恐竜なんだから、楽しみだよ」

 

「じゃあ、明日は恐竜の星だね」

 

 のび太の言葉で全員が頷く。

 

 明日も楽しみだといって彼らはそれぞれの部屋へ戻る。

 

 この時、ある騒動が起こり始めていたことに誰も気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 寝ていたドラえもんは明日奈に起こされる。

 

「どうしたの?明日奈さん」

 

「どこでもドアを出してほしいの」

 

「ドアを?何か用事?」

 

「お風呂……その、昨日、入っていなかったから」

 

「あぁ、それなら、奥の部屋を使えばいいよ」

 

「奥の部屋?」

 

「奥の部屋がお風呂になっているんだ」

 

 首を傾げる明日奈にドラえもんが説明する。

 

「そうだったの?ありがとう」

 

 明日奈は感謝して風呂場へ向かう。

 

 ドラえもんはあくびをして部屋で休むことにする。

 

「あれ?風呂場のこと、里香ちゃんに伝えていたと思うんだけどなぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十分後、風呂を覗いたUFOがいたと明日奈が出てきた。

 

「アスナさんの風呂を覗くなど許せん!」

 

「まず、和人が怒るよね」

 

「当然だ。でも、こんなおもちゃが侵入してくるとは」

 

 和人は明日奈の手の中にある紫色のUFOをみて驚きの声を漏らす。

 

「UFOは置いといて、そろそろいかねぇか?」

 

 クラインの言葉にのび太達はレンタルロケットで恐竜の星へ向かうことにした。

 

 ベアリングロードで向かう途中、ボームと出会う。

 

「ボームさん」

 

「やぁ、みんな。これからお出かけかい?」

 

「はい、俺達は恐竜の星へ行くんだ」

 

「そうだ!ボームさんも一緒にどうです?」

 

「あぁ、すまない。私は予定があってね。キミ達だけで楽しんでくれ」

 

「あ、そうなんだ」

 

 みんなは残念がりながらレンタルロケットに乗って恐竜の星へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恐竜の星の管理事務所で和人達は説明を受けていた。

 

 この星では様々な時代の恐竜ロボットが生活しているという。

 

 一日目は恐竜たちと友達となり、二日目は仲良くなった恐竜と共にレースに参加する。優勝者は好きな恐竜を一匹もらえる。

 

「俺はぁ、もらえるならでかいのがいいかもな!」

 

「あのぉ、でかい恐竜をどこに置くんですか?」

 

「あ、そっか」

 

 珪子の指摘にクラインが声を漏らす。

 

「あのぉ、恐竜って、肉食獣もいますよね?」

 

「います」

 

 直葉の質問に職員は頷く。

 

「襲ってきたり」

 

「襲われます」

 

『え!?』

 

「襲われたらどうなるんですか?」

 

「食べられます。その後は化石になって吐き出されます。つまり、ゲームオーバーです」

 

「それは、怖いなぁ」

 

 ドラえもんが感想を漏らす。

 

「安心してください。係員が責任をもってもとに戻します」

 

「……ま、まぁ、気を付けないといけないってことね」

 

 里香の言葉に全員が頷く。

 

 そういって、全員は管理事務所を出てタケコプターを使う。

 

「この星じゃ、タケコプターが使える!」

 

「とにかく、でかい恐竜を探すぜ!」

 

「キリト君、頑張ろうね!」

 

「あ、あぁ」

 

「ナビゲーターによるとこの近くにステゴサウルスがいるみたいだよ」

 

 ドラえもんが先導して向かうと、ステゴサウルスがいた。

 

「うぉ、やっぱ、リアルでみるとでけぇなぁ!」

 

「皮膚が温かい、まるで生きているみたいだね」

 

「でかいです~」

 

 それぞれが感想を漏らす中、和人はステゴサウルスに乗ってみる。しかし、ステゴサウルスは反応しない。

 

「……ドラえもん、ステゴサウルスはレース向きじゃないな」

 

「そうみたいだね」

 

 のび太がステゴサウルスの顔に触れるとくしゃみした。

 

「ぶっ!?」

 

 まともに受けたのび太は地面に倒れる。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「うん、なんとか……」

 

「みんなで固まっているより、別々に探してみた方がいいかもしれないわね」

 

 詩乃の言葉に全員が頷く。

 

「何かあれば、ナビゲーターで連絡を取り合おう!」

 

 全員が別方向へ飛んでいく。

 

 和人は明日奈。

 

 里香と珪子。

 

 琴音とクライン。

 

 直葉と詩乃。

 

 のび太とドラえもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リズさん!トリケラトプスですよ!」

 

 珪子は目の前を進むトリケラトプスをみる。

 

「いかつい顔しているわねぇ」

 

「恐竜なんですから……ピナも成長したらこんなになるのかな?」

 

 思い出すのはVR世界にいるフェザーリドラの赤ん坊。

 

 ここは現実世界なのでピナは存在しないが仮にあの子が成長したら目の前のトリケラトプスのようになるのだろうか?

 

「この速度はレース向きじゃないかもね。妨害アリならいけるかもしれないけど」

 

「他の恐竜を探しましょうか」

 

 成長した姿を見たいようなみたくないような不思議な気持ちになりながら珪子と里香は次の恐竜を探すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 琴音とクラインは深い森の中を進んでいた。

 

「恐竜の姿。まったくねぇなぁ」

 

 水を飲みながらクラインはため息をこぼす。

 

「そうだね、この森の中じゃ」

 

 先を歩いていた琴音は近くの茂みへ隠れる。

 

「ん、どうし?」

 

 琴音に尋ねようとしたところでクラインは引っ張られて茂みへ隠れる。

 

「さっき、ナビゲーションをいじっていた時に見つけたの」

 

 彼女の視線は茂みの向こう側。

 

 数体の恐竜へ向けられていた。

 

「ヴェロキラプトル。すばしっこくて頭がいいの」

 

「みるからに凶悪そうな面だな」

 

 細長く凶悪そうな顔を見てクラインは感想を漏らす。

 

「集団で狩りをする恐竜で、獲物を引き寄せるために一体が囮になって、残りが後ろへ回り込んだり」

 

「後ろねぇ……っぁ!?」

 

 ふと、後ろを見たクラインは目を見開いて、前を見ている琴音を揺らす。

 

「ふぃ、ふぃ、フィリア!フィリア!」

 

「え、なに?って!?」

 

 振り返った琴音も目を見開いた。

 

 後ろから二匹のヴェロキラプトルが近づいている。

 

 二人は慌ててタケコプターを使って空へ飛ぶ。

 

 捕まえようとヴェロキラプトルが鋭い爪を振るう。

 

「ぎゃあああ?!」

 

 鋭い爪がクラインのズボンの尻部分を切り裂いた。

 

「く、クライン!?大丈夫!」

 

「うぉぉおう、あぶねぇ、ズボンが切り裂かれちまっただけだ」

 

 中のパンツが丸見えだが、命が助かっただけ儲けものだった。

 

 琴音はクラインの後ろへ立たないようにしながらドラえもんと合流することを考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 和人と明日奈は恐竜になかなか巡り合えずにいた。

 

 明日奈が巨大な恐竜に少しばかり怯えていたということが理由でもあった。和人は休憩がてらチューイングピザを食べることにした。

 

「これ一つで腹いっぱいになるんだから、まぁいいよな」

 

「お弁当、作ってくればよかったかなぁ?」

 

「明日奈のお弁当か、そうだな。この場だったら独り占めできたなぁ」

 

「もう、食い意地が張っているんだから」

 

 和人の言葉に明日奈は苦笑する。

 

 その時、向こう側から薄桃色の小さな恐竜がやってきた。

 

「きゃっ!?」

 

「アスナ!」

 

 驚いた様子で和人が明日奈を守ろうとしたが小さな恐竜に敵意がないことを気付く。

 

「大丈夫だ。この子に敵意はない」

 

 和人は目の前の薄桃色の恐竜を見る。

 

 恐竜は和人の手の中にあるチューイングピザをみていた。

 

「どうやら、これが欲しいみたいだな」

 

 チューイングピザを地面へ落とすと恐竜はクンクンと匂いをかぐ。

 

 しばらくして、ぱくぱくと食べ始める。

 

 えさを与えたことで和人や明日奈に警戒心を緩めたのだろう。近づいてくる。

 

「え、ちょ、ちょっと」

 

「大丈夫だ。明日奈、撫でてみろよ」

 

 和人にいわれて明日奈は目の前の小さな恐竜へ手を伸ばす。

 

 首を傾げながら彼女に恐竜はなでられる。

 

 やがて、明日奈は小さな恐竜を抱きかかえた。

 

「どうやら、明日奈のことを気に入ったようだな」

 

「私も!この子可愛い!」

 

 微笑み、小さな恐竜を地面へ降ろす。

 

 すると走り出し、

 

「え!?」

 

「おいおい……」

 

 沢山の仲間を連れてきた。

 

 小さな薄桃色の他に、成長した桃色の恐竜までいる。

 

「危険な恐竜、じゃない、よね?」

 

「えっと」

 

 和人は慌ててナビゲーターを起動する。

 

 表示された恐竜の情報はオルニトミムス。

 

 草食で大人しいという。

 

 二人は仲間にチューイングピザを与える。

 

 餌付けだが、親しくなるには一番の方法だろう。

 

 しばらくして、草原をオルニトミムスに乗って走る和人と明日奈の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、見つからないね。恐竜」

 

 のび太とドラえもんの二人は海岸沿いで寝そべっていた。

 

「みんなは恐竜と親しくなったかな?」

 

「どうだろう~」

 

 ふと、のび太は空を見る。

 

 どこまでも続く青空を羽ばたく翼竜の姿があった。

 

「ねぇ、ドラえもん!プテラノドンっていいんじゃない?」

 

「うん!空を飛べるし、レース向けかもね!」

 

 二人はプテラノドンがいる海岸までやって来る。

 

 そこでは羽休めなのかのんびりしているプテラノドンがいた。

 

「さて、どうしょうか?」

 

「僕に考えがあるよ!」

 

 のび太はタケコプターをしまって、ゆっくりとプテラノドンの後ろへ回り込む。

 

 そして、プテラノドンの足を掴んだ。

 

 驚いたプテラノドンは空を舞う。

 

 足に抱き着いているのび太に驚いていたが敵意がないと知るとそのまま羽ばたく。

 

「やるなぁ、のび太君!」

 

 ドラえもんは驚きながらも同じような手法で空へ舞い上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中々に良い恐竜が見つからないわね」

 

「そうですね~」

 

 タケコプターで草原を飛んでいる直葉と詩乃。

 

 二人も未だに恐竜と出会えていなかった。

 

「あ、詩乃さん!あそこ、でかい足跡ですよ!」

 

 直葉は地面にぽっかりと空いている巨大な足跡に気付く。

 

「これはかなりでかいわね……案外、すぐ近くにいるんじゃないかしら?」

 

「うわ、し、詩乃さん!詩乃さん!あそこに、すぐそこにいます!!」

 

 詩乃は肩を揺らされて上を見る。

 

 そこにはとてつもなく巨大な恐竜がいた。

 

「ブラキオサウルス……草食の中で巨大なサイズね」

 

 ナビゲーターで恐竜の情報をみた詩乃が呟く。

 

「スピードなどからして、レース向けじゃないわね……他の恐竜を探すべきかも」

 

「詩乃さんって、負けず嫌いですね」

 

「当然でしょ……アイツに負けるつもりはないわ」

 

「アイツって、のび太さん?」

 

「えぇ」

 

 詩乃は負けず嫌いだと知っている直葉だが、少しのび太に対しては様子が違うような気がした。

 

「詩乃さん、のび太さんのこと、好きなんですよね?」

 

「!?」

 

 直葉の指摘に詩乃の顔は真っ赤に染まる。

 

「にあ、なにを!?」

 

「だって、詩乃さんをみているとそんな気がするんだもん」

 

「…………そうね、私はアイツのことが好きよ」

 

 GGOの死銃事件、それ以前から彼のことを好きだっただろう。

 

 だが、詩乃は認められなかった。

 

 自分のことが許せなかったから、嫌いだったから。

 

 そんな詩乃が変わるきっかけがあったのは。

 

「だから、私はアイツと肩を並べられるようになりたい。今の私じゃ、届かないから」

 

「負けず嫌いじゃなくて、意地っ張りだと思うなぁ」

 

 直葉が苦笑していると傍のブラキオサウルスが悲鳴を上げて走り出す。

 

「え、な」

 

「なに!?」

 

 二人が驚いて去っていくブラキオサウルスをみていると、後ろから大きな鳴き声が聞こえてくる。

 

 振り返ると赤い体皮、するどい牙が並ぶ肉食恐竜。

 

 ティラノサウルスが二人の姿を捉える。

 

「直葉、逃げて!」

 

「え、詩乃さんも!」

 

「アイツの速度じゃ、すぐに追いつくわ。私が囮になる」

 

 

「詩乃さん!そんなこと」

 

 距離が詰まっていた時、急にティラノサウルスが動きを止めた。

 

 

 それを皮切りに各地の恐竜たちが機能停止を起こした。

 

 文句を言うために管理事務所へ集まったのび太達。

 

「それが、全ての恐竜ロボットは中央惑星が管理しているんです」

 

「だったら、連絡してなんとかしてください」

 

「それがぁ」

 

 係員の話によると中央惑星へ連絡しているのだがうんともすんともいわないという。

 

「あれ?」

 

 明日奈は外を見る。

 

 何か騒がしい。

 

 そのことをみんなへ伝えようとした時、係員が大きな声を上げる。

 

「何だ、これは!?恐竜たちが勝手に動き出したぞ!?中央コントロール!中央コントロール!応答してください!」

 

 係員が慌てる中、ドラえもんがみんなへ呼びかける。

 

「みんな、中央惑星に何か起こったのかもしれない。一旦、戻ろう!」

 

「うし!」

 

「わかった」

 

「は、はい!」

 

「そうね」

 

 全員がレンタルロケットの置かれている駐車エリアへ向かう。

 

「あれは何かな!?」

 

 琴音が空を指す。

 

 全員が振り返るとプテラノドンの群れがこちらへ向かってきていた。

 

「プテラノドンの群れが襲ってくるよ!?」

 

「急ごう!」

 

 一台の飛行機と二台の車が走り出す。

 

 それを追跡するようにプテラノドンが追いかけてくる。

 

「ぶつかるよ!?」

 

「相手はロボットだ!気にせずに突っ走るんだ!宇宙空間へ出れば、追ってこないはずだ!」

 

「おし、速度を上げるぞ」

 

「任せな!みんなは掴まっているんだぞ!」

 

 のび太、和人、クラインの三人は速度を上げる。

 

 プテラノドンの一体がのび太とドラえもんの乗る飛行機に迫った。

 

 衝撃にのび太が目をつむる。

 

 飛行機の翼にプテラノドンがぶつかる、しかし、その皮膚が剥がれて中の機械がむき出しとなって地面へ落ちていく。

 

 宇宙空間に出るとプテラノドン達は追いかけてこなかった。

 

 彼らはそのまま中央惑星へ向ける。

 

「ねぇ、キリト君。あれ!」

 

 車を運転している和人の隣、助手席にいる明日奈は中央惑星を指す。

 

 惑星からはもくもくと黒い煙が噴き出していた。

 

「なんだろう、あの煙?」

 

「コントロールタワーの方だわ!」

 

 詩乃の言葉通り中央惑星のすべてのロボットやシステムを管理するコントロールタワーから煙が噴き出していた。

 

「どうする?」

 

 レンタルロケット場からベアリングロードでコントロールタワーへやってきたドラえもんは周りへ指示を出す。

 

「各自でタワーの中を調べよう。何かあればナビゲーターで連絡して!」

 

「はい!」

 

「わかった」

 

「シリカ、私達はあっちに行くわよ!」

 

「はい!」

 

 里香と珪子の二人はコントロールタワーの奥、タキシオン通信センターへ向かうことにした。

 

「あっちこっち破壊されているわね!」

 

「リズさん、煙が!危ないかもしれません!」

 

 珪子はここを探ることを反対するが里香は奥へ向かってしまった。

 

「あぁ、もう!待ってください。私も」

 

 後に続こうとした珪子は背後を振り返る。

 

 吹きあがっている煙の中に何かがいた。

 

「……だ、誰かいるんですか?」

 

 怯えながら珪子は尋ねる。

 

 逃げ遅れた職員かもしれない。

 

 そう思いながら声をかける。

 

 しかし、煙の中から現れたのは黒いローブを身にまとい、シルクハットをのせている吸血鬼だった。

 

 

 

 

 

「い、いゃああああああああああああああああああああ!」

 

 

 

 

 

 珪子の悲鳴に里香は驚いて来た道を戻る。

 

「シリカ!?どうしたの!シリカぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、コントロールセンターではのび太達がそれぞれに調査を行っていた。

 

「そっちはどう?」

 

 明日奈が階下にいる琴音とクラインへ声をかける。

 

「駄目だ、人っ子一人いねぇ」

 

「みんな、避難したのかな?」

 

「キリト君!のび太君はどう?」

 

「システムを見ようと思ったんだが、完全に壊れている」

 

「うんともすんともいわないよ」

 

 のび太と和人がシステムの履歴を調べようとしたが完全に画面はブラックアウトしていた。

 

「ドラえもんさん、シノのん、直葉ちゃん、そっちは?」

 

「駄目、何もいない」

 

「ゴキブリ一匹いないや」

 

「みんな、避難してここを放棄したとか、そんなところかな?」

 

 直葉の言葉が有力だろう。

 

 しかし、こちらに全く連絡がないのはどういうことだろうか?

 

 全員が考えているとき、ドラえもんのナビゲーターに反応があった。

 

「はい、こちらドラえもん」

 

『大変なの!』

 

 連絡の相手は里香だった。

 

『シリカがいなくなったの!!』

 

 里香の話によるとちょっと目を離したすきに珪子が行方不明になったという。

 

 合流するために通信タワーの方へドラえもん達は走る。

 

「あ、待って!」

 

 先を走っていたドラえもんが立ち止まる。

 急に停まったことで、ドラえもんの頭にのび太が、続いて和人、明日奈、直葉、詩乃、琴音、クラインがぶつかった。

 

 

「な、何?」

 

「シッ、何かが近づいてくる」

 

 近くの茂みに彼らは隠れる。

 

 少し遅れて、彼らの傍、遊園地の扉を壊して巨大な芋虫のような乗り物が現れた。

 

「なにあれ!?」

 

「あ、キリト君と一緒に乗った乗り物だね」

 

「……そう、だな。自動で動いているのか?」

 

 彼らが首を傾げている中、直葉が空を見た。

 

「みんな、みて!」

 

 見上げると、空一杯に不気味な怪物たちが飛んでいた。

 

「怪物がうようよいるぞ!?」

 

「怪奇と伝説の星、その他に存在する惑星のロボットたちがやってきているんだ」

 

「何か、怖い」

 

 幽霊系が苦手な明日奈は和人の手を強く握りしめていた。

 

 その姿を見た詩乃はこっそりとのび太の手を握る。

 

 ロボットたちが去って行ったあと、彼らは通信タワーへ到着した。

 

「ドラえもん、キリト、こっちよ!」

 

 隠れていた里香の誘導に従って彼らは合流する。

 

「ごめん、アタシが目を離したばっかりにシリカが」

 

「リズのせいじゃないよ。それにしても、シリカちゃん、どこにいっちゃったのかな?」

 

 項垂れている里香を明日奈が励ましていた時、里香のポケットから音が鳴る。

 

 ナビゲーターを取り出すとそこに映っていたのは珪子だ。

 

『リズさん、どうしたんですか?』

 

「シリカ!?アンタ、どこにいるのよ!?」

 

『とっても安全な場所を見つけたんです。皆さんも来て下さい』

 

 シリカの話によるとロッジの方にはお化けやロボットの類はいないという。

 

 お化けの類が大の苦手な明日奈はそのことにひどく安心していた。

 

 空のロボットを見てから震えていて、恋人の和人の手を掴んで離さない。

 

「あの、詩乃ちゃん?」

 

「なに?」

 

「う、ううん。なんでもないよ」

 

 のび太は自分の腕を掴んでいる詩乃へ尋ねようとしたが、彼女の眼力に臆して追及できなかった。

 

 ロッジへやって来ると立っている珪子の姿がある。

 

「あ、いたぞ!」

 

 クラインの声に彼らが珪子へ近づく。

 

 小さく微笑んでいる珪子は周りを見た。

 

「シリカ!急にいなくなるんじゃないわよ!」

 

「みんな、いるみたいですね」

 

 近づいてくる里香、皆の姿をみてからにやりとほほ笑む。

 

 明らかに珪子が浮かべる笑みじゃないことに気付いたのび太が叫ぼうとした時。

 

「出番です!」

 

 ロッジに隠れていたキューピッド達が矢を放つ。

 

 放たれた矢が地面にぶつかると大量の煙が包み込む。回避運動も間に合わず彼らは意識を失う。

 

 倒れた彼らの姿を見て珪子は微笑む。

 

「よくやった、ヤドリ0009号」

 

 頭を下げる珪子の傍にやって来るのはのび太達を昔者と罵倒していた一人、アストンだ。

 

 彼は不気味な笑みを浮かべて倒れている彼らを見ている。

 

「まもなく、天帝様をはじめとする八百万がやってくる。ここにある肉体だけでは足りなくなるぞ。いずれやってくる全銀河支配のために」

 

 不気味に笑うアストン。

 

 不穏な空気が星を包み始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロッジ。

 

 その室内につながる出口へクラインがタックルする。

 

 しかし、ドアに弾き飛ばされてしまう。

 

「くそっ!おい、シリカちゃん!今すぐここから出せよ!」

 

「そうよ!なにバカなことしてんのよ!」

 

 クラインの言葉に里香が叫ぶ。

 

 ロッジの出口、そこで立っている珪子は二人を睨む。

 

「うるさい!大人しくしていろ!」

 

「シリカちゃんがそんな野郎みたいな口調で話すなよ」

 

「シリカぁ?俺様はヤドリ、0009号だ!」

 

「ヤドカリ0009号だって」

 

「ヤドカリ?」

 

 里香の言葉にドラえもんは考える。

 

「ヤ、ド、リ!!宇宙で最高の存在なんだ。いいか、お前たちはこれからやってくるヤドリの仲間に乗り移られるのだ。これほど名誉なことはないんだぞ!」

 

「なんか、ヤドリに乗り移られるとかいってんだけど」

 

「乗り移られる……寄生生物かな?」

 

「寄生生物?」

 

 里香の質問にドラえもんは頷く。

 

「肉体を持たない脳みそだけの存在。体を求めてよその生き物に寄生するんだ」

 

「ちょっと待てよ!それってつまり、宇宙人だろ!?そんなものがいるのかよ!」

 

「キミ達の時代じゃ、確かに確認はできないけれど、ここは地球じゃないんだ。他所から別の生き物がいてもおかしくはない」

 

「ドラえもん、このままじゃ、銀河系の危機だよ!すぐに助けを呼ぼう」

 

「そうだね、すぐに」

 

 のび太に頷いてドラえもんが四次元ポケットへ手を入れる。

 

 直後、雷撃がドラえもんに起こった。

 

「ドラちゃん!?」

 

 倒れたドラえもんに直葉が駆け寄る。

 

「四次元空間を閉鎖された」

 

「えぇ!?」

 

「つまり、道具が使えないってことなのか?」

 

「そう」

 

 和人の質問にドラえもんは項垂れる。

 

 そのことをわかっていたのか珪子が外で笑う。

 

「あ、お前は!?」

 

 気配を感じて珪子が振り返った時、手刀を受けて彼女は気絶する。

 

「悪いが、少し眠っていてもらうよ」

 

 車掌と共にやってきたボームはそういってロッジのドアを開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が気付いたとき、周りは既にヤドリ人間だらけだった。車掌君に途中で出会っていなければ、私も仲間入りをしていただろう」

 

「マジかよ。じゃあ、残っているのは」

 

「私達だけってことだよね」

 

 クラインと明日奈が暗い表情で答える。

 

「気落ちしていたところでどうしょうもないわ。それよりも、救援を求めないと、脱出する方法はないのかしら」

 

「なくはありません」

 

 詩乃の言葉に答えたのは車掌だ。

 

「かなり危ない賭けになりますけれど」

 

「手段がないより、マシだ。その方法って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

 ヤドリが寄生した魔女は空を飛行していた。

 

 何者かが中央惑星から逃げ出さないようにするためだ。

 

 レンタルロケット場所は抑えてある。

 

 魔女は通信機片手に報告する。

 

「こちら、監視係、ものすごい煙です」

 

 通信機に応答するのはアストンの声だ。

 

『火事など、どこでも起こっておる!それよりも人間達が逃げ出さないよう見張りを続けるのだ!』

 

「わかりましたぁ~」

 

 魔女が周囲を警戒していくその遥か上空。

 

 もくもくと空へあがっていく煙の中から銀河超特急が姿を現す。

 

 ヤドリ達が火事と誤認した煙は煙幕であり、それを利用して彼らは中央惑星から脱走することに成功した。

 

 

 

 

 


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