「ねぇ、ミステリートレインって、知っている?行先は九州か北海道か、どこに行くのか謎なんだ」
SAO帰還者の学校。
その食堂でスネ夫がジャイアンとしずか、出木杉に話をしていた。
「とても人気が高くて、チケットを手に入れるのが大変なんだけど……じゃーん、ここにチケットが四枚あるんだ!」
「お、俺、行きたいぜ!」
「僕も行ってみたいね」
「私も……それに、のび太さんも行きたがるわね」
しずかの言葉にスネ夫はがくっとしながら顔を上げる。
「しずかちゃん!あんな奴は放っておこうぜ!」
「おいおい、まーた、のけ者かよ。お前、本当にやめてやれよなぁ」
「剛田君の言うとおりだよ」
「仕方ないでしょ!チケットが手に入らなかったんだから」
「あら?のび太さん達は?」
「屋上じゃないの?」
「さっき、桐ヶ谷君達と一緒にいたよ」
出木杉の言葉にスネ夫たちは首を傾げた。
そのころ、野比のび太と桐ヶ谷和人の二人は仲間との待ち合わせのため近くのファミレスへ足を運んでいた。
「遅いわよ!アンタ達!」
二人の姿を見て、里香、珪子、詩乃、琴音が待っていた。
「明日奈は?」
「用事だって、今日はアタシ達で打ち合わせ」
「夏休みの旅行だよな」
和人達は夏休み、みんなでどこか旅行へ出ようと計画していた。
クラインも夏季休暇に入っており、運転手役を名乗っていた。
VR世界でゲーム攻略もいいが、現実世界で思い出をつくろうという話になっている。
SAO攻略メンバーで出かけるつもりなのだが、場所が決まっていない。
「そういえば、キリト、リーファは?」
「スグなら部活で少し遅れるってさ」
「行先についてなんですけれど」
「あ、その件なんだけどね、皆に提案があるんだ」
「提案?」
「ドラえもんが未来のミステリー列車のチケットを手に入れたんだ」
「未来の?」
「ミステリー列車?」
首を傾げる琴音と珪子にのび太は説明する。
「うん」
「未来へ行くってこと?」
「ううん。宇宙」
「う、宇宙!?じ、冗談じゃないわよね」
詩乃が疑うように問いかける。
「本当だよ。ドラえもんがみんなで行けるようにってチケットを買ってくれたんだ。宇宙だけど、どこでもドアで好きな時に帰れるんだ」
「便利だね」
「まぁ、旅行だし。いいかもしれないわね。何より、費用がただみたいなもんだし!」
里香の言葉にみんなががくっと項垂れる。
「もう、リズさぁん」
「俺達は学生だからな。そういうところで費用がうくのはまぁ、助かっているけど」
「それで、出発はいつなのよ?」
「明後日だよ。ドラえもんの話だと、裏山に来るんだって」
「終業式が終わった日か……それなら、俺とスグは参加できるな」
「アタシは、なんとかいけるわ」
「ごめんなさい。私は無理です」
「私もバイトがあるわね」
「連絡は取りあえるからどこでもドアで迎えに行くことができるよ」
のび太の言葉で今回、参加できないメンバーは後日合流という形になった。
「じゃあ、明後日の裏山に俺とのび太、直葉、リズの四人で参加するんだな。のび太、何か持ってくるものはあるか?」
「うーん、特にいらないと思うけれど、娯楽くらいかな」
「後は今日の夜、ALO、俺達の家で打ち合わせだな」
「はい!」
「そうね!」
和人の言葉で全員が一時解散となる。
「それにしても、銀河超特急か……未来ってのはすごいな」
「うん。最初は不安だったけれど……安全なんだって」
「でも、列車か」
「ドラえもんの話だと、もともとは宇宙の運行とかで使われていたんだけど、どこでもドアの開発で遊覧用に利用されているんだって」
「どこでもドアのおかげで廃れるかと思ったが、そうならなかったのか」
「うん。それより、明日奈さんは参加できないのかな」
「どうだろうな。家の用事だからな、どこかで参加してほしいとは思うんだけど」
結城明日奈、和人の恋人でSAO、ALOにおいて夫婦のような関係。
少し前に明日奈は家族、特に母親と話し合いをして学校に通うことやVR世界に関して理解を示してもらったらしい。
「ドラえもん様様だな」
「そうだね」
「ふと、思ったんだが、しずか達は誘わなくていいのか?」
「何か予定があるみたい」
「そっか」
二人はそういうと互いの家へ向かう。
終業式を終えたその日の夜。
「じゃあ、ママ、行ってくるね」
「気を付けてね。ドラちゃん、のび太のことよろしくね」
「お任せください!」
玉子へすでに旅行することは伝えてある。
参加メンバーについても話してあり、了承を得ていた。
二人はタケコプターを使って桐ヶ谷家に向かう。
既に和人と直葉は家の外にいた。
「あ、ドラちゃーん!」
背中にリュックサックを背負っている直葉がドラえもんを見つけて手を振る。
「やぁ」
「それじゃあ、行こうか。はい、タケコプター」
その途中で里香と合流して全員が裏山へ到着する。
「アタシ、思ったんだけどさ。この裏山で列車がどうやって止まるのよ?」
「あ、そういえば」
「大丈夫。未来の技術で安全だから」
「……アンタ達は当たり前のように納得しているけれど、アタシは不安だわ」
平然としている和人達をみて里香は少し不安を覚えた。
「あぁ、眠たくなってきたよ」
「あ、寝るなよ」
ドラえもんが横になったのび太へ注意する。
「それより、直葉、アンタ、その背にあるのって」
「はい!竹刀です!素振りとかしたかったので」
「……ねぇ、いつからアンタの妹は筋肉バカみたいなことになってんの?」
「あはははは」
嬉しそうに素振りしている直葉の姿を見て和人とのび太は苦笑する。
「あ、あれみたいだよ!」
ドラえもんが夜空を指さす。
彼らも視線を向けると暗闇の空、光を灯して列車がやって来る。
「ウソ、本当にきたわ」
信じられないという顔で里香は目の前の列車を見る。
赤い列車の後ろに八つの車両がついていた。
「僕達はどの車両?」
「七両目だよ」
「じゃあ、あれだな」
和人が指さした車両の前に立つとドアが自動的に開く。
「さ、行くよ!」
ドラえもんに促されて四人が乗り込む。
「えっ、これが列車の中なの!?」
「広い!ホテルみたいだよ!」
車内は外見と異なりとても広かった。
「圧縮空間なんだ。個室が五つ、ミーティングルーム付きだよ!あと、もう一枚あるけれど、大体、同じ感じだよ」
「ふーん」
「とにかく、個室で荷物を下ろしましょうか……」
「おい、スグ、リズも外を見てみろよ」
和人に促されて二人は外を見る。
「ウソ、あれって、地球!?」
「本当に地球って青くて丸いんだね」
里香と直葉は車両の窓から覗く外の景色に感嘆していた。
ドラえもんに促されてそれぞれが個室に入る。
和人が荷物を下ろしてベッドの上へ腰かけた。
「柔らかいなぁ」
ベッドの感触に驚いているとシャボン玉のようなものが目の前にやって来る。
パチンとはじけるとその中にあったドリンクが和人の前に落ちた。
『ご乗車ありがとうございます。この宇宙ドリンクを飲みますと、真空、低温、高温、どこでも快適に生活できます』
アナウンスに和人はドリンクを飲み干す。
「これで宇宙へ出ても大丈夫か……果たして俺達の時代が、これに追いつくまでどのくらいかかるんだろうな」
「おーい、キリト!」
ドアの向こうから里香が呼ぶ。
「リズ、どうしたんだ?」
「ドラえもんが展望車に行かないかって、一緒に行かない?」
「そうだな、列車の中は興味があるな」
「決まりね!」
里香と共に外に出ると直葉、のび太、ドラえもんが待っていた。
「じゃ、行こうか」
ドラえもんと共に列車の中を歩く。
歩くが。
「ね、ねぇ、この車両、外見だと七両編成よね。なんで、こんな長いのよ」
「そ、そうだよな……なんか、疲れたよ」
「もう、お兄ちゃん……!?」
疲れた様子を見せる和人と里香、のび太の姿を見て直葉が呆れて窓を見た時。
車両の窓の外。忍者がはりついていた。
「えっ!?」
直葉の声にのび太達が視線を向けるが何もない。
「スグ、どうしたんだよ?」
「い、今、外に忍者がいたの!」
「え!?」
驚いてのび太が車両の外を見る。
しかし、何もない。
「誰もいないよ?」
「そんなぁ、確かに」
直葉はもう一度、外を見るが忍者の姿はなかった。
「とにかく、展望車へ行こうか。はい、タケコプター」
ドラえもんがみんなにタケコプターを渡す。
「列車の中をタケコプターで飛ぶなんて変な感じだな」
「僕もそう思うよ」
「ねぇ、ドラちゃん。どうして、こんなに長いの?」
「さっきも話したけれど、この列車は凝縮空間なんだ。外見は八両だけど、実際は百二十両つながっているんだ」
「ひ、百二十両!?」
「うへぇ、走っていたらいつまで経っても到着できないじゃないの」
「だから、タケコプターが必要だったんだろうな」
和人は頭に装着しているタケコプターをみて呟いた。
しばらくタケコプターで飛行して彼らは展望車へ到着する。
展望車ということだけあって。周囲はガラス張りになっており、宇宙空間が見えていた。
「ね、ねぇ、今のって、土星かな!?」
「でっかいわねぇ、てか、アタシ達が宇宙にいることが信じられないわ」
宇宙を見て直葉と里香が感心していると向かい側から車掌服を着たロボットがやって来る。
「やーやー、ようこそ、いらっしゃいました」
「車掌さんですか?今までどこに」
「本社に呼び出されておりまして、帰りが遅くなりまして、いやはや、あ、チケットを拝見します」
「はい」
ドラえもんがポケットからチケットを取り出す。
車掌は持っている道具で確認をすました。
展望車にあるシートへ腰かけている車掌がオレンジジュースを持ってくる。
「あ、ありがとうございます!」
「宇宙を見ながらドリンクって、自慢しても信じられないわねぇ……明日奈や珪子たちがみたら羨ましがるわよ~」
「はは、そうだな。って、なんだ?」
外を見ていると周囲が光り、黄色い空間に包まれた。
「土星を過ぎましたのでワープに入りますので、この景色が続きます。お望みでしたらバーチャル映像を映しますが?」
「ふぁわぁ、見てみたいけれど、寝たいね」
「よくよく考えたら今は夜なんだよな。今日は寝るとしよう」
「そうだね、バーチャル映像はまた今度にするよ」
タケコプターでそれぞれの個室へ戻る。
「明日にはクライン達も参加できるだろうな」
「そうだね、じゃ、おやすみ」
それぞれが個室に入る。
翌日。
直葉が部活のため一旦、地球へ戻り、入れ替わる形でクライン、詩乃、珪子、琴音、明日奈がやってくる。
「おいおい、これが本当に列車の中かょぉ!」
「外が黄色いんですけれど」
「……ほんと、驚くわ」
「SAOでキリト君達の冒険を聞いたけれど、本当に驚かされるわね」
四人がそれぞれの感想を漏らし、八両目の部屋へ案内する。
「外が黄色いせいで娯楽が少ないわね」
「ところがそうでもないぜ?」
和人の言葉に詩乃は首を傾げる。
「個室の中に3Dシューティングゲームがあったんだ。勝負しないか?」
「いいわね、負けたら銀座のケーキおごってもらうわ」
「よし、決まりだな。のび太、お前もやるか?」
「え、僕は、えっと」
「のび太」
断ろうとしたら詩乃がギロリ、とメガネ越しにこちらをみる。
「参加しなさい」
「あ、はい」
「もう、キリト君!」
「シノンさんもノリノリですね」
「あははは、私達はどうしょうっか?」
「それならよぉ、ドラの字が教えてくれたんだが展望車にいかないか?今だとバーチャル映像ってのがあるらしいぜ?」
「バーチャル映像か、いいかもね。行きましょう」
里香がタケコプターを取り出す。
「ん?おい、そりゃなんだ?」
クラインが里香の取り出したタケコプターについて尋ねる。
「あ、アンタは知らなかったわね。ドラえもんの道具よ。これを頭につけると空を飛べるの」
「おいおいおい、そんな便利なもんあるのかよ!ドラの字、俺にも貸してくれよ!」
「いいよ、はい」
ドラえもんがポケットからタケコプターを受け取り、クラインが装着した。
瞬間、彼は天井に頭を打ち付ける。
「だ、大丈夫ですか!?クラインさん!」
「な、なんとか」
「これは操作に時間がかかりそうだ」
ドラえもんの手助けを借りながらクラインはなんとかタケコプターの操作をマスターする。
和人、のび太、詩乃の三人を置いて、明日奈達は展望車を目指す。
「外が黄色いからわからないが、本当に宇宙空間なんだよな?」
「そうだよ」
「アンタ達も最初からきていればねぇ、土星とか、地球もみれたのに」
「そうなんですか!?残念です」
「でも、これからずっとワープしているわけじゃないから、色々とみられるかもしれないよ!」
「そうだね、キリト君と二人で」
明日奈は宇宙を恋人のキリトと眺めている姿を想像して小さく笑う。
その姿を見て里香はからかう。
「明日奈ぁ、キリトと二人っきりになりたいのはわかるけれど、ずぅっと一緒はいられないんだからねぇ」
「わ、わかっているわよ!」
全員が展望車の中へ入ると。
爆発が二人を出迎えた。
「うぉおおお!?」
「きゃっ!?」
「ば、爆発!?」
「な、なんなの!」
「きゅうぅ」
「ちょっと、シリカ!?」
「どうしたんだい?」
倒れた珪子に全員が慌てていると暗闇の中から紫色の服を着た青年がやって来る。
失礼と声をかけてから青年は珪子の脈を測った。
「どうやら気絶しただけのようだ。ここで休ませるといい」
青年は空いているシートへ珪子を寝かせる。
「一体、今の?」
「バーチャル映像、大銀河のはじまりがスタートしたのさ。今の爆発はそのはじまりなのさ」
「銀河の始まりって、これがか?」
頭上から流れる音声にクラインが驚きの声を漏らす。
珪子を休ませて各々が映像を見ている。
しかし、クラインは眠くなり舟をこぎはじめていた。
「クラインってば」
「無理もないかな?」
呆れる里香に、琴音は苦笑する。
明日奈はよほど興味を持ったのか、隣の青年、ボームに色々と聞いていた。
夜の時刻となり、それぞれの部屋で休むこととなる。
部屋はそれなりに数があるので困ることはない。
のび太はドラえもんと寝ることにした。
同じころ、明日奈も着替えを終えて就寝準備のために歯を磨いていた。
母からの許可をもらい、銀河超特急へこれたが色々と経験ができた。これものび太君やドラえもんのおかげだなぁと思いながら鏡を見る。
ふと、明日奈は目の前の鏡に変なものが映っていることに気付いた。
黒いマントにシルクハット、青い肌に。口元から覗く牙。
吸血鬼。
そう呼ばれるような存在と明日奈は目が合う。
「ハァアアアアアロォォォォォォォォォ!」
素敵な笑顔を浮かべて吸血鬼が挨拶する。
「い、いやぁあああああああああああああああああああああああああ!」
その姿に明日奈の顔が真っ青になり悲鳴を上げた。
部屋を飛び出し、彼女は和人の部屋へ突撃する。
「へ?」
驚いた顔をしている和人の姿を見つけると迷わずに明日奈は抱き着いた。
「おい!?明日奈!?どうしたんだよ」
「お、お化け!お化けがでたの!」
「お化け?そんなものいるわけ」
「本当なの!鏡に現れて、私にハーローって、挨拶してきたの!」
「こんばんはじゃないんだ」
「怖くて!キリト君。一緒に来て!」
「あぁ、わかった」
和人は明日奈の手を引いて彼女の部屋に向かう。
警戒しながら和人は中に入り、おそるおそる化粧室を覗き込む。
そこには誰もいなかった。
明日奈の話すようなお化けの姿はない。
「アスナ、誰もいないぞ?」
「ウソ……?」
おそるおそる明日奈も覗き込むがそこには誰もいなかった。
「でも!私、見たのよ!」
「わかった、明日、ドラえもんに相談しよう……それで、どうするんだ?」
「どうするって?」
「いや、この部屋で寝るかどうか、無理なら……リズに話をして寝かせてもらえば」
「ねぇ」
もじもじと手を動かしながら明日奈は和人を見る。
「キリト君の部屋で寝ちゃ駄目かな?」
「へ?」
ぽかんとした表情で和人は明日奈をみる。
彼女は顔を真っ赤にしていた。
「え、え、でも、いいのか?」
「うん……今日だけでいいから」
このままの明日奈を放置するわけにはいかないと和人は考えて了承する。
SAOやALOにおいて、一緒に寝ていたこともあるのだ。別に問題ない。
うん、現実で初めてだけど、大丈夫だ。大丈夫なのだ。
自分に言い聞かせて、明日奈を連れて和人は部屋に戻る。
互いにドキドキはしたが自然と眠りについた。
翌日、和人はドラえもんに相談を持ち掛ける。
「えぇ、お化け!?」
「うん。私の部屋に現れたの」
「うーん……」
「前に直葉が忍者を見たといっただろ?それと関係があるんじゃないか」
和人の言葉にドラえもんは少し考えて。
「車掌さんのところに行こう」
ドラえもん、和人、明日奈の三人がいなくなってから。
クラインが慌てて部屋から飛び出す。
「あれ、クライン、どうしたの?」
青ざめた顔をしている彼の姿を見つけて琴音が尋ねる。
「海賊」
「え?」
「海賊が出たんだよ!」
「えぇ!?海賊ぅ!」
「そうなんだよ!俺が部屋でくつろいでいたら窓を突き破って現れたんだよ!!」
「見間違い、とかじゃ」
「「「うわぁあああああ!」」」
すぐそばの個室から詩乃、のび太、珪子の三人が飛び出してきた。
「三人ともどうしたの!?」
「な、なんなのよ。あれ!」
「へ?」
「き、恐竜!恐竜が出たんです!」
「窓を突き破ってきたんだ!」
三人の話に琴音とクラインはおそるおそる中を覗き込む。
しかし、そこに恐竜の姿はない。
「見間違いか?」
「でも、三人がみたんだよね?偶然でもありえないよ」
「どうしましょう?」
「ドラえもんを探そう。何かわかるかも!」
のび太の言葉で彼らは展望室へ向かうことにした。
展望室へ向かうとドラえもんの姿はなく、ワープの景色を眺めている直葉と里香の姿があった。
「あれ、のび太君、どうしたの?」
「全員、何慌てているの」
「里香さん!ドラえもんさん、知りませんか?」
「ドラちゃん?それなら――」
直葉が話そうとした時、列車が大きな汽笛を鳴らす。
突然のことに驚いていると向かい側の通路から和人、明日奈、車掌、ドラえもんがやってくる。
彼らの顔はどこか緊張している。
「みんな!」
「ドラえもん、どうしたの?」
「アンタ達、何をそんな険しい顔をしているのよ」
「大変なことが起こったんだ。話はミーティングルームで!」
ドラえもんに言われて全員がミーティングルームへ向かう。
彼らの騒動を見ていた客が車掌へ尋ねる。
「何かあったのかい?」
「実は本社から緊急の連絡がありまして」
「盗賊団?」
「そう!ダーク・ブラック・シャドー団、無人の小惑星群を根城に、快速艇で暴れまわっているんだ」
「小惑星を根城って、列車は回避できないの!?」
「ワープを抜けてすぐだから、どうしようもできないんだ」
里香の叫びにドラえもんは首を振る。
「そんな、じゃあ、私達はどうするんですか!?」
「車内で大人しくすることしかできない……」
「おいおい、何だよそれ!安全なんじゃねぇのか!?」
クラインが我慢できず叫ぶ。
「ごめん、僕がこんなところに誘わなければ」
「待って!」
明日奈が思いついたように言う。
「だったら、帰ればいいのよ!どこでもドアで!」
「あ、そっかぁ!」
ドラえもんは喜びの表情を浮かべる。
「シャドー団が攻めてきても乗客が居なければ、何の問題もないじゃない!」
「流石です!アスナさん!」
「じゃあ、シャドー団がいる小惑星を通過するまで帰ろう!」
ドラえもんがどこでもドアを出して全員がドアを通り抜けようとした時。
壁にぶつかったように全員が弾き飛ばされる。
「あぁ!?バリアを張られた!シャドー団の仕業だぁ!」
ドラえもんはドアを叩く。
ドアの側面は黒い壁のようなものに阻まれていた。
その頃、銀河超特急はワープを抜けて小惑星群の中に来ていた。
「小惑星を抜けるためフルスピードで回避運動を取ります。激しい揺れが起こりますのでご注意を!」
車掌のアナウンスと共に列車が派手に揺れる。
ミーティングルームにいたドラえもん達は派手に揺れる車内の中で椅子にしがみついていた。
激しい揺れの中、我慢できないという表情でクラインが立ち上がる。
「くそぉ、このままでいられるか!おい、ドラえもん!奴らとやりあおうぜ!」
「ちょ、ちょっと、クライン!?」
「俺達はあのSAOをクリアするまで戦い続けたんだぜ!?たかだか強盗団なんかに臆してたまるかよ!俺達で戦おうぜ!」
「クライン、アンタ、今日はかっこいいじゃない」
「そうね。私達はSAOをクリアしたんだから、この程度で怯えているわけにはいかないわ」
クラインの言葉に里香と詩乃が賛同する。
「そうだな、クラインの言葉通り、俺達はいろいろな冒険もしてきたんだ。こんなことくらい、乗り越えてやろうぜ」
「うん!悪者たちと戦おう!」
彼らは拳をぶつけ合い決意する。
急遽、リアルにおいて、SAO攻略組が結成された。
「通りぬけフープ!」
ドラえもんが天井に通りぬけフープを取り出す。
「僕とのび太君、詩乃ちゃんの三人で外の様子を見てくる。和人君や遼太郎さん達は中にシャドー団が攻め込んでこないようにしておいて」
「わかったぜ!」
「のび太、気を付けてね!」
「のび太さん……気を付けてね」
外へ出たはいいが、急にタケコプターが機能しなくなる。
「わ、た、タケコプターが!?」
「危ない!」
続いて出た詩乃がのび太の足を掴む。
「宇宙空間じゃタケコプターは使えないよ」
最後に出てきたドラえもんがのび太に伝える。
「そうなの?わわ!」
バランスを崩したのび太をドラえもんが掴む。
「もう、仕方ないな。ペタリ手ぶくろとペタリぐつ!」
ドラえもんはポケットからカエルの手足のようなものを取り出す。
「何か、カエルみたいだね」
「私は絶対につけないわよ!」
「まぁ、詩乃ちゃんは大丈夫だろうから、とにかく、機関車の方へ向かおう」
ドラえもんに言われて彼らは走り出す。
「待って!誰かいる!」
身構えている三人だが、近づくにつれて人影が明らかになった。
「車掌さん!?」
「お客さん!危ないですよ!」
「なんで、外に?列車の運転は大丈夫なの?」
詩乃の問いに車掌は頷く。列車は自動操縦にしており、シャドー団が来ないか見張っているという。
話をしていると小さな大砲が現れる。
「あ、大砲があるんだ?」
「信号弾です。ないよりましかと」
「おや、君たちは」
振り返ると客車から一人の青年がやって来る。
小太りの彼は先ほど、展望車で出会った人だ。
「さっき、展望室にいた」
「僕はコスモタイムスという新聞記者をしているボームという」
「のび太です。こっちは詩乃ちゃん」
「ちゃん付けするな。朝田詩乃よ」
「僕はドラえもん。ネコ型ロボットです」
「新聞記者がいたのね」
「休暇を取っていたんだがね……まさか、とんでもない特ダネに当たるとはね」
「あら、何か光っているわ」
「あの岩陰にシャドー団が隠れているんです。もう、まもなく襲い掛かって来るでしょう」
車掌の言葉通り、岩陰から快速艇に乗ったシャドー団がゆっくりと列車へ向かってくる。
「うわ、やってくるぞ!?」
驚きながら車掌が大砲を撃つ。
しかし、快速艇は華麗に躱して攻撃を仕掛けてくる。
列車が激しく揺れる中で車掌が大砲を撃つも、躱されてしまう。
「見ていられないわ。代わりなさい!」
詩乃が車掌を押しのけて大砲を構える。
「あ、こ、子供のおもちゃじゃありませんよ!」
「大丈夫だよ。詩乃ちゃんの射撃の腕はすごいから!」
「アンタにいわれても嫌味にしか聞こえないけれど……」
意識を集中させて詩乃は大砲を撃つ。
一発で快速艇に直撃した。
「やったー!」
「やりましたぁ!」
ドラえもんと車掌が喜びを上げる。しかし、次々と快速艇がやってくる。
「数が多いわね」
驚きながらも詩乃は次々と快速艇を撃ち落とす。
しかし、多勢に無勢で列車を包囲するように快速艇が攻撃を仕掛けていく。
やがて、列車がバランスを崩して落ちる。
「落ちるぅぅぅぅぅ!」
「操縦不能!」
「コントロールが効かないのか!?」
「あの星に吸い寄せられるぅぅぅぅぅぅう!」
派手な音を立てて列車は銀色の光に包まれた。
銀河超特急は深い霧の中に停車していた。
どこかの惑星に不時着したようなのだが、列車に傷一つない。
「ここは……」
車外、気絶していたメンバーの中で最初に目を覚ましたのは詩乃だ。
「ちょっと、起きて」
詩乃は傍にいたのび太を揺らす。
続いてドラえもんに声をかける。
しばらくして全員が起きた。
「あれ、シャドー団は?」
「目を覚ました時から姿を見せていないわ」
「どこいったんだろ?」
「おーい!ノビ坊!」
「あ、クラインさん!こっちだよ!」
霧の中、客車の上を遼太郎達がやってくる。
「シャドー団とかいう連中はどこいったんだ!?」
「それが消えたみたいなんだ」
「消えたって……どっかに隠れているかもしれないってことよね!?」
「ドラえもんさん、どうなっているのかな?」
「わからない」
「とにかく、車掌さんに相談して警備隊に連絡を」
パンパーン!
その時、何か音が響きだす。
全員が身構える。
「なんだ!?」
「シャドー団とかの襲撃か!」
「待って、これ、花火だよ?」
耳を澄ませていた琴音が音の正体は花火だと気付く。
「花火!?」
「あ、霧が晴れてきたみたいですよ」
あたりを包み込んでいた霧がなくなる。
列車の先。そこには巨大な建物が存在していた。
建物の方から音声が流れてくる。
『皆様、皆様、ようこそいらっしゃいました。宇宙最大、最新、最高の夢の楽園、ドリーマーズランドへ』
「ドリーマーズランド?」
首を傾げるのび太にボームが手を叩く。
「銀河の果て、ハテノハテにアトラクションを作っているといっていたがまさか、ここだったのか」
『最初のアトラクション、列車強盗団はいかがだったでしょうか?』
「え、あれはアトラクションだったの!?」
「おいおい、スリリングがありすぎるだろ」
放送に明日奈は目を見開き、和人は呆れた声を出す。
その間もドリーマーズランドの説明が続く。
『ドリーマーズランドでは周辺の小惑星一つ一つに西部の星、忍者の星、恐竜の星など冒険コースを用意しております』
解説が終わると車内からたくさんの人が出てくる。
誰もがドリーマーズランドの存在に驚いている様子だ。
「うわぁ、こんなに人が乗っていたんだね」
「六百人はいたはずだよ?」
驚く琴音にドラえもんが話す。
彼らが客車の上にいる姿をある三人が見つける。
「あ、ねぇ、みて、あの人たち、面白格好しているわ」
「随分と古い格好だな」
「昔モンじゃねぇの!」
「やぁ」
彼らの前にのび太が降り立つ。
「僕達は二十世紀からきたんだ」
のび太としては挨拶をするつもりでいたのだが、三人は二十世紀から来たと聞くと驚き、笑い出す。
「二十世紀!?テレビでみたことがあるわ」
「まだ洞窟で暮らしているんだろ?石の槍とか弓で」
「まさかぁ、そろそろ鉄とか使ってんでしょ?」
三人、アストン、ドン、ジェーンの言葉に客車の上にいた里香が怒る。
「失礼な!アタシ達を原始人扱いするんじゃないわよ!」
「里香さん、落ち着いてください」
「初対面であそこまでいうなんて、度胸あるわね」
詩乃は彼らの態度に半ば感心していた。
「でもよぉ、流石に原始人扱いはねぇだろ」
「そうですよ。ひどすぎます」
彼らに文句を言おうとした時、車掌が乗り物に乗ってやってきた。
「皆さん!これよりドリーマーズランドに入場しますので列車にお戻りください。お戻りくださーい!」
車掌の言葉に全員が客車へ戻っていく。