翌日、のび太は筋斗雲で周辺に妖怪がいないか調べていた。
その途中、何かを見たような気がするが、見間違いだと判断する。
「ん、なんだぁ?」
一息つこうと見えてきたオアシスで水を飲んでいたのび太はすぐそばで燃え盛る山を見つけた。
不気味な暗雲に包まれている山の下はゴウゴウと炎が燃え盛っている。
「なんだっけ?こんな山があったような」
筋斗雲に体を預けてのび太は山へ近づこうとするが生き物のように襲い掛かって来る炎に慌てて逃げた。
「うわぁ、凄い炎……待てよ?確か、こんな炎を打ち消す力があったような?」
「その通りさ」
のび太は振り返る。
そこには羽衣を纏った女性が浮いていた。
「お前は、羅刹女!?」
「その通りさ。悟空。この芭蕉扇を使えば、こんな火などあっさり消し去れるさ」
「だったら、渡せ!」
のび太が如意棒を振り回すが、羅刹女はひらりと躱す。
阻むように天狗蝙蝠が道を阻もうとする。
しかし、如意棒の扱いに慣れてきたのび太の手によって天狗蝙蝠はあっさりと倒された。
「やるじゃないか」
「後は、その芭蕉扇を」
「なめるんじゃないよ!」
羅刹女が芭蕉扇を一仰ぎ、
それだけでのび太は抵抗する暇もないまま吹き飛ばされてしまった。
同時刻、和人とジャイアンは銀角と戦っていた。
持っている武器で応戦するも銀角の体にダメージが一つも入らない。
「くそっ、俺達じゃ、歯が立たないのか!」
「諦めて、おとなしく三蔵法師を差し出せ!」
「そんなこと!」
「ジャイアン、和人君。僕達の負けだよ」
「なっ!?」
「ドラえもん!?」
ドラえもんの発言に和人とジャイアンは動きを止めて、里香や珪子、琴音、明日奈も驚きを隠せない。
「銀角さん」
「なんだ!……しまった!」
銀角はドラえもんの呼びかけに応じてしまった。
彼の後ろにはヒーローマシンがある。
ヒーローマシンの力によって銀角が引き寄せられた。
ジャイアンと和人も一緒に。
「お、おい!」
「ま、待て、待て、待て!」
「キリト!」
「二人とも!」
機械に吸い込まれようとしていた二人を里香、琴音の二人が助け出す。
「よし、銀角の回収成功!」
「「成功じゃない!!」」
ドラえもんに二人が叫ぶ。
「せめて、一声、かけてくれよ!?危うく俺達も妖怪の仲間入りするところだったぞ!?」
「和人の言うとおりだ。俺達は妖怪じゃねぇからな!?」
「いやぁ、ごめんごめん。敵を騙すにはまず味方からって」
流石に妖怪と一緒に吸い込まれるとなったら我慢できないだろう。
文句を言っている二人を里香や珪子がなだめているとき、地面から伸びてきた腕が珪子と明日奈を捕まえた。
「あれ、アスナ!?」
「おい、珪子ちゃんもいねぇぞ!!」
「しまった、妖怪に連れ去られたのか!?」
彼らが慌てているとき、上空からものすごい速度でのび太が吹っ飛んできた。
「のび太!?」
「どうした!」
「火焔山……を見つけたよ」
のび太の話と共に火焔山へ到着する。
道中にリンレイと合流して彼らは火焔山にあった秘密通路を走っていた。
「なぁ、のび太」
隣を走っている和人は前を進むリンレイをみながら尋ねる。
「リンレイ、やけにこの道のことを詳しくないか?」
「うん、僕もそれは気になっていたんだ」
「……前にネットゲームで騙しキャラっていうのがいたんだ」
「騙しキャラ?」
「プレイヤーを騙して、トラップの巣窟へ案内したり、ラスボスの攻略を阻んだりすることだ」
「リンレイが、そうだって?僕はあまり……」
「俺も否定したい。だが、油断は禁物だ。とにかく」
「出口だ!」
ドラえもんの言葉と共に全員が長い道を抜けて入口へ突入しようとした時。
音を立てて足元が開かれる。
「のび太!」
「如意棒!」
リンレイが驚いて手を伸ばすが届かない。
落ちていく中、和人の指示でのび太は如意棒を左右に伸ばして壁に突き立てる。
のび太は和人を掴み、和人は琴音を掴んだ。
他の皆は落ちていった。
「和人、皆は?」
「落ちた……無事だとは思うけれど」
如意棒の上へよじ登って和人と琴音は周りを見る。
「普通は下まで降りるべきなんだろうけれど、多分、妖怪が待ち構えているよね」
「あぁ、だから、上へ行こうと思う」
「だったら、筋斗雲!」
のび太の呼び声でやってくる筋斗雲。
三人が乗り込むには少し小さすぎたがかろうじて上昇する。
「周りは、誰もいないみたいだね」
「あそこから行こう!」
トレジャーハンターとしてVR世界のダンジョンを探索していたフィリアこと琴音は目の前の宮殿の侵入できそうな場所を見つける。
「行こう」
三人は狭い通路を進む。
道中、妖怪に見つかりそうになるがのび太が使いこなせるようになった神通力によって回避していく。
「……この奥か」
「二人とも、先に行ってくれないかな」
「え、のび太?」」
驚く琴音だが、和人は察したのか頷いた。
「和人?」
「先に暴れるかもしれないぜ?早く来いよ」
「わかった」
頷いて、和人達を先に行かせる。
「出てきなよ。リンレイ」
「……悟空様」
柱の影から現れたのはリンレイ。
彼は罪悪感を抱えたような表情でのび太を見ている。
「キミは、妖怪なの?」
「はい、私は羅刹女と牛魔王の子供です。本当の名前は紅孩児」
牛魔王。
それは西遊記に出てくる最大の難敵。
金角、銀角も強敵だが、牛魔王は別格。
西遊記を読んでいたのび太はリンレイの正体にもしやと思っていた。だが、彼が紅孩児であることに驚きを隠せなかった。
「三蔵法師を食べるために、今まで」
「待ってください!……確かに、最初は命令でした……でも、僕は、僕は、わからなくなったんです」
「キミはゲームの中にいるキャラクターかもしれない。でも、ゲームのキャラだからってその流れ通りに従う必要はないんだよ?」
のび太はある二人の少女のことを話す。
ユイとストレア。
二人はSAOの中でシステムの命令に従うだけの存在……だった。
今は人間みたいに自分達と行動を共にしている。
「キミだって選べるんだ。自分はどうしたいか……どうありたいか」
「ぼ、僕は!」
頭を振りながら紅孩児は叫ぶ。
「今はどっち?キミは僕達の敵?それとも牛魔王の息子?」
「……僕は、こんなこと間違っていると思っている……だから、止めたいんだ」
「だったら、行こう」
のび太は紅孩児、否、リンレイへ手を差し伸べる。
「僕達は三蔵法師を助けて、牛魔王を止める。だから、手を貸して」
「……はい!」
リンレイの手を引いてのび太は走る。
和人と琴音が侵入すると巨大な玉座に腰かける牛魔王。
目の前には巨大な鍋があって宙づりにされているドラえもんの姿があった。
「ドラえもんが!」
「待つんだ。なんだ?」
宙づりにされて暴れているドラえもん。
鍋の中へ落とされようとしているとき、まばゆい光が天井から降り注ぐ。
「観世音菩薩様……」
その光をみて三蔵法師が言葉を漏らす。
「あれって……?」
「懐かしいな、ドラミちゃんだ」
上空に現れたのはチューリップ型タイムマシンに乗ったドラミ。
「お兄ちゃん!探したわ!」
「ドラミ、助かったよぉ……それにしても、派手なタイムマシンだねぇ」
「みんなを探していたのよ。無事でよかったぁ」
「おのれぇ、そいつらを」
「待て!」
正面の扉を壊して筋斗雲に乗ったのび太が現れる。
「む、悟空!?」
「牛魔王!アンタは僕が倒す!」
牛魔王へのび太が如意棒を突き付ける。
「のび太の奴……いつの間に」
「皆さん、動かないで」
近づいたリンレイがナイフでジャイアン達の縄を切る。
「お前!何を!」
「おっと、アンタの相手は俺だ」
羅刹女がリンレイを止めようとした時、天井から和人が降り立つ。
続けてナイフを構えた琴音が現れた。
「キリト君!」
「アンタ達!どこで何をしていたのよ!?」
「ごめんね!」
「遅くなったけれど、ここは任せろ。のび太!」
「オッケー!」
のび太は如意棒を振り回して牛魔王と戦う。
もし、ALOやSAOだったら牛魔王にHPバーが現れただろう。しかし、ここは現実。
どれだけダメージを与えたら倒せるかわからない。
慎重にのび太は牛魔王と戦う。
「やい!牛魔王!牛魔王さん!牛さん!牛ちゃん!!」
「お兄ちゃん!!」
足元ではヒーローマシンを取り出して、ドラえもんが牛魔王を回収しようとしていたがのび太に夢中で気づかない。
それどころか足でヒーローマシンを破壊してしまう。
和人や琴音も羅刹女と戦いながら外へ飛び出していたが天狗蝙蝠に動きを封じられてしまっていた。
「母さん!もうやめてよ!」
リンレイが涙目で羅刹女へ訴えていた。
「これで、終わりだ!」
牛魔王の大剣が直撃して、のび太は地面へ落ちた。
「悟空、死ねぇえええええ」
「如意棒!!大きくなれぇえええ!」
のび太の叫びに如意棒が巨大化しながら牛魔王の体を打つ。
牛魔王は勢いよく外へ放り出されて機能を停止する。
「あ、アンタ!」
羅刹女が驚く。
直後、彼女から妖力が失われて溶岩の中へ落ちた。
「か、母さん!!」
「まずい、宮殿が崩壊するぞ!」
和人の叫びと共に宮殿が音を立てて崩れていく。
「まずい、このままじゃ、みんな生き埋めだ!」
「お兄ちゃん、どこでもドア!」
「あ、そうだった」
ドラミに言われてドラえもんはポケットからどこでもドアを出して全員を通らせる。
直後、火焔山は音を立てて大爆発した。
「……終わったの?」
おそるおそる明日奈が呟く。
「あぁ、終わりだ」
彼女の疑問に和人が答える。
「これで、元通りになるのね」
「短いのに……とても長く感じますよぉ」
里香と珪子が安堵の声をもらした。
「やったね!」
「あぁ、俺達がやったんだ!」
琴音とジャイアンは喜ぶ。
その傍でドラえもんは三蔵法師へ謝罪していた。
自分たちのせいでとんでもないことを巻き込んでしまって申し訳ないと。
「いいえ」
三蔵法師はそんなドラえもんを許す。
そして、リンレイを弟子として引き取るということを伝えた。
「悟空様、皆さん、色々とご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「……リンレイ、僕は」
「いいや、お前は孫悟空だ!」
孫悟空じゃないといおうとしたのび太をジャイアンが遮る。
彼の目をみて、のび太は小さく頷いた。
「そうさ、僕は斉天大聖、孫悟空さ!」
こうして、妖怪たちによって歪んだ歴史は元通りになった。
家へ帰っても玉子は頭から角を出すこともなかったし、食事も普通だった。
学校でも先生は悪魔みたいな姿になることもない。
平和だった。
ちなみに西遊記は現在の配役のままやることとなり、幼稚園児から大人気だったことを記しておく。