「ふぅ、ようやくALOにログインできるよ」
「仕方ないよ。ママのお使いが終わってからでないとログインできないんだからさ」
のび太とドラえもんは愚痴を言いながら自室へ入る。
置かれているアミュスフィアを二人は装着した。
「「リンク・スタート!」」
二人が同時に叫ぶとともに意識がALOの“スヴァルト・アールヴヘルム”の空都ラインの転移門に白銀のコートに肩まで伸びている髪を後ろに束ねたインプ族のアバター“ノビタニアン”と茶色を基調とした服に青い耳を生やしたケットシー族のアバター“ドラモン”が現れる。
「キリト達はエギルさんのお店かな?」
「ノビタニアン君。店へ行く前にアイテムを補充しておいた方がいいんじゃないかな」
「それなら、問題ないよ。事前にまとめてあるから」
「あれ、いつの間に?」
驚くドラモンにノビタニアンは苦笑する。
「こういうことはSAOで重要になって来るんだよ?ドラモン君」
「おみそれしました~」
二人でふざけあいながら歩いていると遠くで人だかりができていることに気付く。
「なんだろう?」
「他種族が入り乱れているね」
ドラモンの言葉通り、ウンディーネ、サラマンダー、ケットシー、シルフといった他種族が集まって騒いでいる。
ノビタニアンは知らないがアップデートされる前のALOでは他種族同士が交流をすることは少なく、PKするなどのいざこざを起こしていたらしい。
ノビタニアンは近づいて一人のプレイヤーへ尋ねようとした時だ。
「あ、ノビタニアン君!」
「やぁ、ヒデヴィル」
やってくるのは出木杉英才ことウンディーネ種族のヒデヴィルだ。
「この騒ぎはなんなの?」
「セブンが来るんだよ」
「セブン?知っている?」
「さぁ?」
二人が首を傾げているとヒデヴィルが驚いていた。
「本当に知らないのかい?」
「「うん」」
「セブンはALOでアイドルとして騒がれているプーカの少女でシャムロックを率いているんだ」
「シャムロック?」
「クローバーの一種だね」
そこでノビタニアンは思い出す。
ALOを初めて少し経過したころ、総務省の菊岡にキリト共々呼び出されて、相談を持ち掛けられた時に話題となった少女。
「確か、リアルでも科学者として有名な天才少女だっけ?」
「ハーフでMITを飛び級かつ首席で卒業しているそうなんだ。今は仮想ネットワーク社会やVR技術を中心と研究しているらしいよ」
唐突にキリトが言っていたことを思い出す。
「茅場晶彦がVR技術の闇なら、七色・アルシャービン博士は光にたとえられている」
「ノビタニアン君?」
「ううん、あ、もしかして、あの子?」
ノビタニアンは人ごみの中心で微笑んでいる銀髪のような長い髪を持つ、可愛い女の子。
周囲には独特な髪飾りをつけているプレイヤー達が身を固めていた。
その中、ノビタニアンは長身のウンディーネプレイヤーをみている。
細身ながらも鋭い目つきで周囲を警戒している男はただならぬ気配を放っていた。
武器を持てば、圧倒的な力で叩き潰すほど気迫を持っていそうだとSAOにおいて戦闘経験を積んできたノビタニアンは思う。
「あれ、ヒデヴィルはどうしてここに?」
「あそこ」
ノビタニアンの記憶が確かならヒデヴィルはアイドルとかに興味が薄かったはずだ。
どうしてと尋ねたヒデヴィルはある場所を指す。
「セブンちゃあああああん!」
「こっち向いてぇえええええええ!」
ある二人のプレイヤーが他のプレイヤー達と騒いでいた。
「……あの二人」
「すでにセブンの大ファンなんだ」
肩をすくめるヒデヴィル。
サラマンダーのジャイトスとシルフのスネミス。
「あの二人、クラスタになっているんだよねぇ」
「へぇ~、クラスタ?」
「セブンの追っかけさ」
「ふぅん~」
「あれ、しずか……シズカールは?」
周りを見てシズカールの姿がないことにドラモンは気づく。
「彼女はリアルの用事で参加できないみたいなんだ……それより、そっちは大丈夫なの」
「あ、ヤバイ」
「急ごう!」
「またね!」
ノビタニアンはヒデヴィルに手を振って走り出す。
そんな二人を遠くから見ているプレイヤーがいた。
「あれは……」
「なぁにぃ!?セブンちゃんに会っただとぉぉおお!」
エギルの店へ到着したノビタニアンとドラモン。
遅れたことを謝罪して、セブンを目撃したということを伝えるとクラインが激怒する。
「え、え、どうしてクラインさん、激怒しているの?」
「アンタ、何にも知らないのね?セブンは今やALO、リアルを問わず人気なのよ。そこのクラインはともかく、滅多に会えないことでファンの間でもうるさいそうよ」
「シノのん、詳しいね」
戸惑っているノビタニアンの前でシノンが説明し、アスナが苦笑している。
エギルの店でキリトをはじめとするメンバーが集まっており、今後の攻略について話をするはずだ。
「ノビタニアンさんも、まさかセブンのファンに?」
「えぇ~、ノビタニアンって小さい子が好きなのぉ~」
シリカの言葉にストレアが反応して立ち上がる。
ドラえもんは身の危険を感じてその場を離れた。
「ぶべっ!?」
直後、ストレアがノビタニアンを抱きしめる。
「変な性癖は駄目だよ~、アタシがなんとかしてみせる~」
豊満な胸に顔を押し付けられて喋られなくなり、手足をばたばたさせていた。
「あー、また始まったわ」
リズベットが呆れたようにため息をこぼす。
「ノビタニアン君、中々解放されないんだよね~」
「……ま、まぁ、今日はアイツがいないから救い」
リーファの言葉にキリトが苦笑していた時、お店のドアが開く。
「アーメン」
ドアの向こうの人物を見てカウンターにいたエギルが小さく十字を切る。
「やっほー、遅くなって……」
やってきた人物、ユウキの姿を見てそれぞれが動く。
キリトはアスナの傍に向かい。
シリカはピナを連れてエギルの傍に。
クラインとフィリアは安全圏へ。
リズベットはストレアを引きはがす。
リーファはドラモンの視界を自らの手で隠す。
「ねぇ、ノビタニアン」
ゆらりと近づいてくるユウキ。
その姿にノビタニアンは全力で逃走しようとする。
しかし、彼の俊敏を上回るのが彼女、ユウキだ。
「逃がさないよ!!」
「いやだぁ!僕は悪くない!」
エギルの店のドアをふさぐユウキだが、それを予想していたノビタニアンは窓から店を出ていく。
ユウキは鞘から剣を抜いて追いかける。
「待てぇええええええええ!」
「……ねぇ、キリト君」
「言うな、ドラモン。少なくともノビタニアンは死なないさ。このゲームはHP0=現実の死と無関係だからな」
「それで安心したよ」
逃げたノビタニアンの安否を気にしながらキリト達は攻略の話を始めることにする。
あのユウキを止めることはさすがのキリトも不可能だった。
「こ、ここまでくれば、大丈夫かな?」
ユウキから逃げるためフィールドへ出たノビタニアン。
「紫の剣士のころよりも早くなっているもんなぁ」
ALOを始めたころ、ユウキはキリトやノビタニアン達と少し別行動をとっていた。
その間に何をしていたのか、彼女は“絶剣”という二つ名を持ち、様々な種族とデュエルをしていたらしい。
これは情報屋アルゴからの情報なので確かなものだ。
「まぁ、ユウキにもいろいろあるってことだよね」
彼女の過去をノビタニアンは追及しない。
相手から話してもらうのを待つ。
無理に聞くことをしない性格だからこそ、キリトと親友といえる間柄になれたのかもしれない。
「そうだなぁ、適度にモンスターを狩って、素晴らしい昼寝スポットでも探そうかな」
装備である剣を構えながらノビタニアンは背中に羽を広げて、空を飛ぶ。
それから空や地上に存在していたモンスターを狩りつくしたノビタニアンは崖の近くにある草原のフィールドに寝転がる。
本来ならモンスターが現れるかもしれないエリアのため、誰かが近づいてきたらアラームはなるようにセットして眠りについた。
「あれ?」
寝ているノビタニアンは滅多なことがない限り起きることがない。
そんな彼にそろりそろりと近づく影が。
流れるような紅い髪、種族はレプラコーン。
整った顔立ちの少女はどこか緊張したような様子でそろりそろりと近づいていく。
ピクッ、とノビタニアンが身じろぎする度に身構えてしまうが起きる気配がないことに安心する。
やがて、彼の顔をちゃんと見える場所まできて少女は立ち止まる。
「やっぱり似ているなぁ」
「何か、僕に用事?」
パチリと目を開けたノビタニアンに少女は慌てて逃げようとする。
「落ち着いてよ、別に何かするとかはないから」
起き上がったノビタニアンは攻撃する意思はないよ~と両手を上げてアピールする。
少女は少し警戒していることに気付いてノビタニアンは置いてあった片手剣を遠ざけた。
「とにかく、座って話をしない?」
ノビタニアンの言葉に少女は少しの距離を開けて草原へ腰かける。
「まずは自己紹介から、僕はノビタニアン、見てのとおり、インプの剣士だよ」
「…………私は、レイン」
ぽつりと名乗った少女、レイン。
種族はレプラコーンと彼女は言う。
「僕に何か用事でもあった?」
「……」
「えっと」
半眼でこちらをみているレインにノビタニアンはなんて返そうかと考えてしまう。
「キミはあの白銀の剣士なの?」
「え?」
驚いた顔でノビタニアンはレインを見る。
「どうして、その名前を」
「……本物なんだ?偽物とかじゃないんだね」
「う、うん、てか、偽物なんているの?」
「有名だもん。あの三剣士は」
「へぇ」
「まぁいいや、それだけわかれば大収穫だ」
「え?」
「じゃあね、また会おうね」
ひらひらと手を振ってレインは去っていく。
残されたノビタニアンは茫然とするしかできなかった。
「え?なんだったの」
すっかり姿の見えなくなったレインに困惑しながらノビタニアンはラインへ戻ることにした。
「お帰り」
「!?」
ラインへ戻ったノビタニアンを待ち構えていたユウキの存在をすっかり忘れていた。
「ご慈悲を」
「……今度、街に出るからケーキをたくさん」
「そ、それで許してもらえるなら」
「……うん、許さない」
「いじわる!!」
「ノビタニアンが悪いんだ!」
「理不尽すぎるよぉ!!ドラえもん~~~~!」
空都ラインにノビタニアンの絶叫がこだました。
次回、大長編行きます。