次回はちょっと、あるタグの回収のため、特別話に行きます。
どこまでも澄み切った空。
風で揺れる草原、周囲には壊れたレンガの残骸などが並んでいる。
そんな草原フィールドの崖。
崖の上からフィールドを見下ろす一人のプレイヤーがいる。
黒髪、黒いコートを羽織った少年。
プレイヤー名をキリト、種族はスプリンガン。
彼がいる場所は現実世界ではない。VRMMORPGの世界の一つ、アルヴヘイム・オンラインの世界だ。
「キリト君!」
呼ばれたキリトが振り返ると緑の衣装に金髪の少女が背中に羽を生やして飛んでいた。
「リーファ」
「何をしているの?みんな、待っているよ?」
リーファと呼ばれた少女はキリトへ手を伸ばす。
「悪い、悪い、すぐ行くよ」
地面を蹴って、キリトは崖から空へ飛ぶ。
彼の背中に黒い羽が生えている。
この世界“アルヴヘイム・オンライン”はかつてキリト達がプレイしていたソードアート・オンラインと異なりいくつかの種族を選び、羽で空を飛べるようになるのだ。
もともと、キリトの妹、直葉がプレイしていたのだが、SAOから現実世界へ生還したことで、仲間と共にこのゲームを始めることにした。
尤も、ALOを始める経緯に少しややこしいものがあったのだが、それは割愛しておくとしよう。
「早くしないと、みんな、集まっているよ!」
隣を浮遊しているリーファに苦笑しながらキリトは目的地、新生ALO内の浮遊大陸“スヴァルト・アールヴヘイム”へやってくる。
新生ALO内に新しく登場した浮遊大陸。
そこでキリトは仲間たちと待ち合わせしているのだ。
「それにしても、本当に飛ぶんだな」
「でしょ!?前と違って飛行制限がなくなったからどこまでもいけそうだよ」
嬉しそうに話すリーファと共に二人はスヴァルト・アールヴヘイムの街へ降り立つ。
空都ラインへ降り立つ。
「おお!これがスヴァルト・アールヴヘイムの街か!」
「やっぱり新しい街へやってくるとわくわくするね!」
「宿屋や商店などの基本的な施設はもちろん、酒場や闘技場などもあるようですね」
ぴょことキリトの服の胸元から飛び出したのは小人の妖精、ユイ。
SAOでキリトとアスナの娘として活動していたMHCPのユイだったが、SAO崩壊後はキリトのナーヴギアデータに保管されており、ALOにおいてはナビゲーションピクシーとしてキリトのサポートをしている。
「あ、パパ、システムの一部がアップテートされているようです。従来のALOの町中と違って、この街では飛行ができないようです」
「そうか、新エリアの街はALO本土とシステムの仕組みが違うみたいだな」
「はい、ですが、今回のバージョンアップではシステムのアップデートはもちろん、新しいダンジョンやクエストも多数追加されています。高難度クエストもあるみたいですよ」
「それだけ遊びごたえがある、攻略し甲斐があるってことだな。ははっ」
「相変わらずだね。キリトは」
キリトが顔を上げると二人のプレイヤーがやってくる。
「や、キリト」
「キリト君、リーファちゃん、こんにちは」
一人はインプの少年、白銀のコートを羽織っている。
もう一人はそもそも人といえる形をしておらず丸いネコ、頭に星がついたとんがり帽子をかぶり、茶色を模した服を纏っている。種族はケットシー。
プレイヤー名はノビタニアン、もう一人はドラモンとなっていた。
「ノビタニアンはインプか」
「まぁね、ユウキに一緒の種族にしようって念を押されちゃってね……」
「ドラちゃんはやっぱりケットシーなんだ?」
「当然!僕はネコだもん!」
「タヌキってバカにされるかもしれないよ?」
「失礼な!」
怒るドラモン。
ノビタニアンが苦笑しているともこもこと服が動いてそこから妖精が現れる。
ユイの妹、ストレアだ。
「キリト!リーファ!久しぶり~!」
「ストレア、元気そうだな。その姿で行くのか?」
「ううん!みんなと遊びたいもん。普段はこっちでいくよ!」
ストレアが輝くとナビゲーションピクシーからノームアバターへ切り替わる。
「ほらね!こっちのほうがいいかな?」
「だからって、俺とノビタニアンを抱きしめる必要はぁ」
「もう!ストレア!パパとノビおじちゃんが困っています!」
三人の周りをユイがぷんぷんと怒る。
「もう~、ユイは怒りっぽいなぁ」
「パパやおじちゃんを困らせるのは許しません!何よりストレアのお姉さんなんですから!」
「はーい」
ユイに言われてストレアは離れる。
「キリトくーん!」
「おお、アスナ達が到着したな」
キリトの言葉通り、やってきたのは四人のプレイヤー。
「やっぱりあんた達、待ち合わせ時間より先に来ている!」
「仕方ないですよ、リズさん。キリトさんとノビタニアンさんが待ち切れるわけないじゃないですかぁ」
「ホント、アンタって、欲望に忠実というか、団体行動を乱すわよね……ノビタニアンはバカだけど」
レプラコーン種族のリズベット、ケットシーのシリカとシノン。
「ふふ、ここ数日キリト君。ずっとそわそわしていたもんね」
「やっほー、キリト!相変わらず元気そうだね!」
キリトの恋人、ウンディーネのアスナ。キリトと同じスプリガンのフィリア。
「ははは、すまんすまん」
「おいおい!さっきから俺達のこと、忘れていないか!?」
「クライン、エギルも来てくれたんだな?」
「ネットでも話題になっていた。前代未聞の大型アップデートだろ?ゲーマーならまちきれねぇよ」
クラインとエギル。
SAOにおいて攻略組として戦ってきた仲間たちが集まった。
「しかし、俺達も酔狂なもんだよなぁ。あれだけの目に遭っておきながら、こうしてまた、この世界に来ちまっている」
「そうだね、アインクラッドで二年間、戦い続けて、またこうして集まれるなんて、なんだか不思議な気分」
「ちょっとぉ!ボクのこと、忘れていない!?」
プンプンと紫の長い髪を揺らしてインプ種族のユウキがやってくる。
「あ、ごめんごめん、ユウキ」
「もう!ノビタニアンもキリトも先にログインしているなんて、ずるいよぉ」
頬を膨らませて抗議するユウキにノビタニアンとキリトはごめん、ごめんと謝罪する。
他愛のない会話をしているが彼らはSAOで二年間戦い続けて百層あるアインクラッドを攻略した。
その時の絆があるからこそ、こうして集まれることができたのだとキリトは思っている。
「さて、そろそろ新しいフィールドに出ようとしようぜ!」
「腕が鳴るわね」
「ふふふ、どんな新しいお宝が眠っているのかな?楽しみだよ」
「さぁ、新しい素材を見つけるわよ」
「俺も新商品をどんどん仕入れるぜ」
「ピナ、がんばろうね!」
「きゅるる」
「おうよ!俺もカッコイイとこ、みせてやるぜ!」
「データの分析は任せてください」
「アタシも頑張っちゃうよぉ」
「おお!みんな気合入っている。あたしも負けられないね」
「ボクも頑張るよ!」
「行こう!キリト君!」
「ドラモン、行くよ」
「うん!」
「あぁ!」
「そういえば、ALOにOSSが実装されたけれど、ノビタニアンはどうするの?」
隣で飛行しているユウキがノビタニアンへ尋ねる。
「OSS?」
ドラモンが尋ねる。
「そういえば、知らなかったっけ?アインクラッドで使っていたソードスキルがALOに実装されたでしょ?」
「そうみたいだね」
ALOはもともと、SAOのデータをベースとして作られており、一度、閉鎖の危機に陥ったが運営側の尽力により様々な手を加えられながらも再びALOは再稼働した。
その際にSAOで使われていたソードスキルが実装された。
「それとは別、システムアシストなし、自分だけのソードスキル、オリジナルソードスキルをOSSっていうんだよ」
「ノビタニアンはOSSどうするの?ボクは手に入れたけど」
「うーん、今はいいかなぁ?それよりかはこの初期装備を強化したいよ」
ノビタニアンは背中にぶら下げている片手剣をみる。
「SAOの時と同じ感覚だと、この剣、軽いんだよねぇ」
「俺も同じだ。だから、ここで色々と新しいアイテムとか手に入れようぜ。お先!」
「あ、キリト、待ってよ!」
「ボクもいくよぉ!」
キリトが先行したことで後を追いかけるノビタニアンとユウキ。
少し遅れてアスナやリーファも追尾する。
キリトは背中の剣を抜いて速度を上げて目の前で浮遊する竜型モンスターと接敵した。
剣を振るおうとした時、それよりも早く放たれた矢がモンスターへ直撃する。
「狙撃なら私に任せなさい」
離れたところで弓を構えているケットシーのシノンがいた。
SAOの時と同様にALOでも弓を使うことができる。
「一番槍はシノンがとっちゃったけど!」
ユウキの片手剣が煌めく。
ソードスキル“シャープネイル”による三連撃がモンスターを切り裂く。
「よし、僕もぉ!」
繰り出されるソードスキル“レイジスパイク”によってモンスターが倒される。
「よし!」
「……くそっ、初モンスター取られちまった」
「先に行ったのに、何やってんのよ」
キリトへリズベットがため息をこぼす。
「くそう、三人に先を越されちまったぜ」
「キリトこそ、何をしているのさ~」
「ユウキの言うとおりだよ」
「でも、驚いたなぁ。VRの中とはいえ、ノビタニアン君があそこまで活発に動けるなんてぇ」
ドラモンが驚きの声を上げる。
「そりゃそうよ、こいつらはSAOじゃ、三剣士っていわれるほどの最強剣士たちだったのよ?」
「キリトさんが黒の剣士、ユウキが紫の剣士、ノビタニアンさんは白銀の剣士と言われるほどです」
シリカの説明にドラモンは驚くばかりだ。
「それにしても、相変わらず、あの三人は突撃してばかりね」
「……三人とも前衛だったから仕方ないわよ」
「それにしても、サラマンダーのクラインはともかく、スプリガン、インプの三人が暴れているなんて、少し変な感じがするね」
スプリガンのフィリアが目の前で暴れている三人をみて感嘆の声を漏らす。
ALOには複数の種族が存在しており、それぞれに特徴がある。
スプリガン、黒色を基調としたトレジャーハントが得意な種族。属性の上級魔法を使うことはできないが特殊な攻撃魔法やダンジョン探索を得意とする魔法が使える。
ウンディーネ、見た目は水色を基調とした細身、長身で水属性の魔法が使えるほか、全種類の回復魔法が使える。
シルフ、見た目は緑色を基調とした風属性が得意な種族で風属性の上級魔法が唯一使えることや有用性が高い。
ケットシー、見た目はネコのような耳と尻尾を持っており、使い魔の使役ができる種族である。
ノーム、見た目は大柄でがっちりとした体格が多く、土属性の魔法が使える。
持久戦においてその力を発揮しやすい。
サラマンダー、見た目は赤色を基調とした大柄な体格。旧ALOにおいて、多くのユーザーがチョイスしていたというほど、攻撃特化の種族だ。
インプ、見た目は紫色を基調として、闇属性の魔法を得意とする。
レプラコーン、見た目は茶色や赤色を基調としており武器の生産や鍛錬に特化している。全種族の中でデバフ系統のスキルが豊富だ。
プーカ、音楽を奏でるのに秀でた種族であり、プーカだけが使える特殊能力“歌”がある。
キリト達はそれぞれ気に入った種族を選び、このALOへやってきた。
「粗方、狩りつくしたな」
「アタシたちも暴れたけれど、アンタ達も大概よね」
「でも、さすがはノビタニアンさん達です!」
リズベットやシリカが三人の戦いに感嘆している中で三人はそれぞれの感想を言う。
「やっぱり、僕は盾を持った方がいいかな?」
「うーん。ノビタニアンがタンクをやってもらっていたから、攻撃を防いでくれる人がいた方が効率いいかもねぇ」
「ノビタニアンが攻撃を防いで、俺とユウキが攻め込む……三人だけだったらいいかもしれないけど、他の皆もいるんだ。ある程度、固定しないほうがいいんじゃないか?」
「そうだねぇ」
「あの三人、頭がゲーム脳になっているわね。そもそも、狙撃がいるんだから、それくらい考慮しなさないよ」
シノンが呆れた声を漏らす。
「シノのんも、大差ないよ」
アスナが苦笑する。
一旦、街へ戻るということで一同はフィールドを後にする。
こうして、新生ALOの一日は騒がしくも終わりを迎えた。
ドラえもんがいるから、SAOの死者も生き返らせれるのではないかという意見がありますが、それは実行しません。
確かに、それをすれば、完全なハッピーエンドですけれど、キリトらの今までの人生をなかったことにするように感じますので、死人が生き返るというのはなしにします。
これから死ぬかもという人が生きるかもしれないですけれど、