やっぱり、凄いなドラえもん。
「おーい、のび太、行こうぜ」
桐ヶ谷和人は妹の直葉と共に野比家へ来ていた。
今日はSAO攻略を記念しての打ち上げが行われる。
集合場所であるダイシー・カフェへ向かう前にのび太と合流しようとしていた。
「あ、ごめん、すぐ行くよ」
二階の窓から身を乗り出してのび太が中へ消える。
「そういえば、お兄ちゃん」
「うん?」
「のび太君が大事なお知らせがあるって言っていたけれど、なんだろう?」
「さぁな。のび太のお知らせって…」
扉の向こうを見た和人は言葉を失う。
「お兄ちゃん?どうした……」
「やぁ、和人君、直葉ちゃん、久しぶり!」
ドアを開けて現れるのはドラえもん。
笑顔を浮かべて手を振るその姿に二人はしばらく硬直していたが。
「ドラえもん!?」
「ドラちゃん!!」
直葉が笑顔を浮かべてドラえもんを抱きしめる。
「わっ、おっとと、大きくなったね。直葉ちゃん」
「本物だ!本物のドラちゃんだぁ!」
「これは……」
「やっぱり、驚くよね。実は」
やってきたのび太が二人へ話す。
最初は半信半疑だった二人だが、ドラえもんの道具のおかげだということで納得する。
「そっか、やったな。のび太」
「うん!」
二人は拳をぶつけ合う。
「あのぉ、そろそろ」
「そうだな、おい、スグ……そろそろ明日奈も待っているから行くぞ」
「うん!ドラちゃん!行こう」
「はい!」
直葉はドラえもんの手を引いて歩き出す。
「明日奈さんも驚くだろうね」
「……そうだな」
自分の最愛の人はどんな反応をするだろうか。
それを楽しみにしながらも和人は歩き出す。
「はじめまして、僕、ドラえもんです」
「……青い狸さん?」
「タヌキじゃなーい!!」
アスナこと、結城明日奈はドラえもんの姿を見て目を丸くする。
「えっと、明日奈さん。彼はドラえもん。前に話した。僕らの友達だよ」
「え、ドラえもんさん!?この青いの!?」
「僕はネコ型ロボットなの!失礼だなぁ!」
「ご、ごめんなさい。えっと、私は結城明日奈といいます。キリト君……和人君のガールフレンドです」
「え!?和人君に彼女!?驚いたなぁ。あ、僕、ドラえもんです」
二人は挨拶を交わす。
ドラえもんと話を終えた明日奈が和人の傍にやって来る。
「驚いたよ。ドラえもんって、本当にロボットなんだね?」
「実物を見たら驚くよな……その反応は当然だ」
「でも、もう会えないんじゃ?」
「そこはいろいろあったんだよ。歩きながら話すさ」
和人と明日奈が横を歩く中、直葉は嬉しそうにドラえもんとのび太の三人で話をしている。
ドラえもんは自分が知らないことに驚く。
「やっぱり、のび太君がSAOの最前線でいたなんて、信じられないなぁ」
「まだ言っているよぉ」
「くすっ、のび太君はすごかったよ。盾でモンスターの攻撃を受け止めて、ソードスキルを繰り出して、お兄ちゃんの最高の相棒だったんだよ!」
「へぇ~、それはみてみたいね」
他愛のない話をしながらみんなはダイシー・カフェへ向かう。
「あれ、僕達、遅刻しちゃった?」
ダイシー・カフェへのび太達が中に入ると既に参加者全員がそろっていた。
「大丈夫よ。アンタ達だけ到着時間を少しずらしたのよ」
やってきたのはリズベット。
「え?それって」
「主役は遅れて到着するということよ」
シノンの言葉に隣の和人は察したようだ。
「どうやら俺達にサプライズのようだな」
「え、ど、どゆこと!?」
「のび太君。キミ達を驚かせるために彼女たちは時間をあえて少し遅く教えたんだよ」
「あ、成程」
ドラえもんの言葉でのび太は納得する。
「というか、アンタ達と一緒にいる。その、青い狸は?」
「僕はタヌキじゃなぁああああああああい!!」
ドラえもんが叫ぶ。
(のび太、和人、事情を説明中)
「それじゃあ、みんな、いいかな?」
グラスを持った明日奈が周りへ声をかける。
「コップが空の人はいませんか?いたら手を上げてください……いませんね?リズさん、OKです!」
「えー、それではみなさん、ご唱和ください。せーのぉ!」
『SAOクリア、おめでとう!!』
全員がグラスを掲げて叫ぶ。
こうして、アインクラッド攻略記念パーティーははじまった。
舞台はエギルの店、アークソフィアじゃなく、東京都大東区にある喫茶店ダイシー・カフェだ。
全国のSAOプレイヤーが一斉に覚醒した時の大混乱は当然のことだ。
それから検査やリハビリの毎日で、全員が会うことはできなかった。
ようやく“全員”が会することができたのは今日が初めてのことだった。
「僕、参加していないけど、いていいのかなぁ?」
「あははは、まぁ、みんなは初対面だけど、そこは気にするなよ。楽しもうぜ」
苦笑しているドラえもんへ和人は言う。
「それにしても、これがアンタ達のいっていたドラえもんなのね?」
リズベット、篠崎里香はドラえもんをまじまじと観察する。
「SAOでもドラえもんのことは話題になっていたけれど」
「でも、かわいいですよ」
シリカ、綾野珪子もドラえもんをみる。
「そんな見つめないでよ。照れちゃうよ~」
頬を赤らめるドラえもんを見て、珪子と里香は同時に思う。
「「(かわいいなぁ~)」」
「詩乃……ちゃん」
「ちゃん付けはいらないわ。詩乃でいいわよ」
のび太はメガネをかけた知的な印象を持つ少女、朝田詩乃の前に座る。
「えっと、リハビリの方はどう?」
「アンタ達と比べたらすぐに終わったわ……」
「よかった」
「それより、アンタはこれからどうするの?」
「SAO帰還者を集めた学校がはじまるからそこに通うつもりだよ」
「そっちじゃないわよ、VRの方……二次会の方は聞いているけれど、良かったら、私がやっているもう一つのゲームをやってみないかって」
「もう一つ?」
「えぇ、まぁ、落ち着いたら話すわ。アンタなら得意そうなものだし」
「へぇ~」
「おい!のび太!お前もこっち来いよ!」
詩乃と話をしていると横からジャイトスこと剛田武、ジャイアンがのび太の手を引いていく。
「お前に話があるんだ」
ジャイアンに言われて別のテーブルへ向かうとそこには源静香、出木杉英才と。
「スネ夫!ちゃんと言えよ!」
MPKを仕掛けたスネミスこと、骨川スネ夫がいた。
「……る」
「え?」
「SAOで助けてくれたことは感謝している!それと、四月バカの件は、悪かった!!」
「最初からそうしていればいいんだよ!」
ジャイアンがスネ夫の背中をたたく。
その勢いで置かれているピザにスネ夫は顔を突っ込む。
「こんな感じだけど、彼も後悔はしているんだ。それだけは理解してくれないか?」
「うん、わかったよ」
出木杉の言葉にのび太は頷いた。
少しずつだが、溝は埋まっていく。
そんな気がした。
「よぉし、俺がさらに場を盛り上げるために歌って」
「カラオケ機がないから今度にしてぇ!」
スネ夫の叫びがこだましてみんなが笑う。
彼らと話をしていたのび太へ珪子が話しかける。
「ノビタニアンさん」
「やぁ、シリカ……おっと、リアルじゃ、珪子ちゃんだったね」
「はい!」
にこりと笑みを浮かべる珪子。
久しぶりの再会に二人は笑顔を浮かべる。
「ドラえもんはどうだった?」
「とってもかわいいです。でも、リアルでしか会えないのは残念ですね」
「そうでもないよ?」
「え?」
「ドラえもんもアミュスフィアを持っていて、今日の二次会もログインできる」
「本当ですか!?それはすごいですね」
手をもじもじさせながら珪子は尋ねる。
「あの、ノビタニアンさん、SAOはクリアしちゃいましたけど、これからも一緒にいてくれますよね?」
「もちろんだよ。アインクラッドと現実、住む世界が変わってもそれだけは変わらないよ。これからもよろしくね、シリカ」
「はい!」
「あーあー!キリト先生はソッチ側ですよね!」
クラインの叫びが聞こえてきた。
二人で話をしていると里香が和人を連れてくる。
「キリトさん!」
「や、その様子だと連れてこられたみたいだね」
「まーな、まったく」
「あ、ノビタニアンさん、キリトさん、これ、リアルのピナの写真なんです」
嘗て、SAOの中でテイムしたフェザーリドラと異なり、リアルで彼女はネコを飼っている。それの名前がピナだという。
「おー、どこかSAOのピナと似ているな」
「そうだね、かわいいよ」
「えへへ、そうですか?」
微笑む珪子。
少し離れたところで和人は里香と話をしていた。
「ま、リアルに帰れたのは嬉しいけど、やっぱり、アインクラッドの自分のお店が恋しくなるわ。アンタに作ったダークリパルサーやリメインズハートも、もうなくなっちゃったのよね」
「どんなゲームだって終わりはある。そしたらまた新しいゲームを始めればいいさ」
「アンタは生粋のゲーマーよね。あんな事件に巻き込まれたのに、本当に変わらない」
「リズはもう、VRMMOをやらないのか?」
「ふふ、どうかな~」
にこりと里香は微笑む。
「でも、そうねぇ、新天地にリズベット武具店三号店を出店するのも悪くないかな。その時はキリトに売り子をやってもらおうかしら、そうすれば、アスナとか、リーファとか、女の子のお客さんが殺到しそうだし、大繁盛しちゃうかもね~」
「それは勘弁してくれ、どうせだからのび太を巻き込んでやってくれ」
和人は苦笑する。
「迷わずに親友を差し出したわね。アンタ」
「まぁな、それぐらいは許される関係だ」
「キリト」
歩いていた和人へフィリアが声をかける。
「あの、そのね、ありがとう」
「ん?どうしたんだ、藪から棒に?」
「えへへ、楽しいなって思ってさ。こうしてみんなで集まって、騒いで……こんな幸せ、私には二度と訪れないんだって思っていた。これもぜんぶ、キリトのおかげだなって、思ってさ、だからお礼」
フィリア、竹宮琴音はホロウエリアで自分のホロウを殺してしまったことでバグを起こし、アインクラッドへ戻ることができなかったばかりかホロウPoHに騙されてキリトを殺しそうになった。
自分を助けてくれたキリトにフィリアは感謝している。
「俺はそんな立派な人間じゃないよ。もし、俺がフィリアを助けられたのだとしたら、それは運が良かっただけだ」
「そんなことないよ!」
フィリアは否定する。
「ねぇ、キリトは、『黒の剣士』はその二本の剣でたくさんの人を救ったんだよ。アインクラッドの人はみんなそう、キリトがSAOをクリアしてくれたから、みんなリアルの世界に戻って、アインクラッドのことを少しずつ忘れるかもしれない。でも、私は忘れない。キリトも忘れないでね。黒の剣士としてたくさんの人を救ったキリトは本当にヒーローだったの、私の、ヒーロー……なの」
頬を赤らめながらフィリアは言う。
「それをずっと誇りに思ってて、キリトに助けられた女の子がいるって、ずっと、覚えててね」
「わかった、忘れないでいるよ……でも、なんだか、別れのセリフみたいだな」
「え?」
「別に俺達はこれっきりってわけじゃないだろう?こっちの世界で会えるんだし、もし、フィリアがVRMMOをいやになっていなかったら、一緒に他のゲームを遊ぶことだってできる」
「そっか、そうだよね。あれのことも忘れちゃっていたよ」
「だろ?」
「さて、のび太君に会わせたい人がいるの」
「え、僕に?」
明日奈の言葉にのび太は目を丸くする。
「誰なの?」
「それは……あ、来たみたい」
扉が開いてやってきたのは和人と。
「やっほー、ノビタニアン……あ、のび太だったね」
紫色に近い黒い髪、SAOよりもやせ細った顔。
けれど、浮かべている笑顔は太陽のように明るい。
「もしかして……ユウキ?」
「そうだよ、紺野木綿季だよ」
「え、どうして」
あの時、のび太はウソ800を使って彼女を救った。
だが、ウソで救えるといわず、ただ、傷つけるようなことを言っただけにすぎない。
だから、もう会えないと決めつけていた。
「あ、ドラえもん!」
木綿季はドラえもんを見つけると手を振る。
「え、どうして」
「僕が事情を話したんだ」
ドラえもんがほほ笑みながらやって来る。
「ドラえもん」
「もう、のび太君、ウソ800を使ったのなら、ちゃんと理由を彼女に説明しないとダメじゃないか」
「もしかして」
「そうだよ、ドラえもんがボクに話してくれた。全部」
ぷくぅと頬を膨らませて彼女は怒る。
「えっと」
何を言えばいいのかわからず、のび太は二の句を告げられない。
殴られるかもしれないと身構えようとした時。
「でも、許してあげる」
彼女は微笑む。
「のび太のおかげでボクやお姉ちゃんは生き続けることができるから」
のび太がウソ800を使ったことで彼女たちの病気は完治した。
後はリハビリをするだけらしいのだが、長い闘病生活による衰えはSAOの帰還者と比べても、それ以上のリハビリが必要だ。
「えっと、その……僕は」
「ほら、ちゃんとした再会でしょ」
「ユウキとのび太、俺の三人でパーティーを組んできたんだ。リアルでもちゃんと顔合わせしようぜ」
和人に言われて戸惑っていたのび太の手を彼女は握る。
「これからも一緒だよ。のび太」
「うん、よろしく。ユウキ」
SAOから元の世界に戻って起こった出来事で和人たちに関わることが幾つかあるが、その中で特筆することが二つ。
一つは須郷伸之。
彼がSAOで行ってきたことが総務省の役員から警察へ情報が行き、逮捕された。
裁判に対しても最初は否定的な供述ばかりだったらしいが、SAOを通しての証拠などから、今は検察側の内容に素直な供述をしているという。
そして、もう一つは須郷が管理していたSAO以降に作られたVRMMORPG『アルヴヘイムオンライン』。
管理してい須郷が逮捕されたことで一時的に閉鎖されていたのだが、レクト社の意向で再スタートされ、和人たちはALOをプレイすることになっている。
そして、この記念パーティーの二次会である場所も――。
「ねぇ、のび太」
考えていると木綿季が声をかける。
「これからもっと、色々なものをみようね」
「うん、もっといろいろなものを」
「ボク達、一緒に」
「うん」
二人は互いに手を取る。
「これからも一緒だよ」
「うん、約束!」
『リンク・スタート!』
これにてSAO編は終わりです。
次回、新しい話の導入に入ります。
少しストックためるつもりなので、不定期更新になるかもしれません。