ドラえもん のび太と仮想世界   作:断空我

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活動報告にあるこの話の設定を一部載せました。

SAO編も残りわずかです。


22:アルベルヒの企み

「これで!!」

 

 キリトの一撃を受けて九十八層のボスモンスターは倒される。

 

「やったね!」

 

 ノビタニアンとキリトがハイタッチをした時。

 

「いいや、まだ終わりではないよ」

 

「っ!?誰だ!!」

 

「やあ、キリト君、ごきげんよう」

 

「あ、あなたは!?」

 

「アルベルヒ!?」

 

 フロアボスへつながる扉の前に姿を現したのはアルベルヒ。

 

「キリト君、よくも僕の研究を邪魔してくれたね。キミが荒らしてくれた実験結果……キリト君はあの研究の偉大さがわかっているのかい?」

 

 アルベルヒのいう実験とは前にキリトが見つけた人の感情などをトレースするというもの。

 

「プレイヤーをさらって、人体実験を繰り返す、それのどこが偉大なんだ」

 

「やれやれ、僕の世界的快挙がこんな低能に妨害されていたとは、まったく腹立たしい限りだ」

 

 ため息をこぼしてアルベルヒは言う。

 

「僕の研究がどれほどに偉大か、君にもわかるように説明してあげよう。人は楽しいと思ったり、辛いと思ったり、色々な感情があるだろう?たとえば、戦争、戦争は怖いよね?どんなに訓練をした兵士も、死を前にすると、恐怖で思考が鈍ったり、動けなくなってしまう……では、恐怖で塗りつぶされた兵士の感情を喜びで満たしてやると、どうなると思う?飛び交う銃弾の中に身を置くことを何よりの喜びと感じ、進んで危険な任務を果たそうとするようになる。軍にとって、これほど使える兵士はないだろう?」

 

「僕……ほとんどわかんないんだけど」

 

「お前の言っている研究というのは、人間の感情を操作するということか?」

 

「そ、そんな!」

 

「どうかな?僕の研究の偉大さに気付いたかな?実際にそういった実用に向けて接触してきている国が複数あるんだ」

 

 アルベルヒの話は続く。

 

「しかし、向こう側では人体実験なんて、そうそう行えるはずもなくてね。研究が思うように進まず、やきもきしているときによい場所を見つけたのさ」

 

「SAOの中か……確かに、ここで起きていることは外の人間、警察や国の人間には知りえないだろうな……知ったところでこの世界の中で起きた不幸はすべて茅場晶彦の責任となる」

 

「そんなの!ひどすぎる!」

 

 ノビタニアンが憤慨する。

 

 彼の行ったことは許せないが、他人のしでかしたことまで茅場の責任にされるなどノビタニアンは許せなかった。

 

「全員が脳を操作するための電子パルスを発生させるナーヴギアをかぶっているんだ。つまり、この世界は僕の研究にとって最高の実験場なんだよ。だが、実のところ、この世界に来てしまったのは事故でね?」

 

「事故?」

 

「このゲームと他のシステムをネットワークで接続させるテストを行っていたら急に知らない場所へ転送させられてね。そこがニュースで騒がれているSAOの中と知った時はさすがに焦ったよ。事故でもなければ、こんなわけのわからないデスゲームに誰が好き好んで入ってくるものか!」

 

「ネットワーク接続、感情操作の実験やら明らかに普通のプレイヤーじゃないな……お前はいったい、何者なんだ!!」

 

 キリトはアルベルヒの会話から普通のゲーマーではないことを見抜いていた。

 

「僕かい?僕はこのSAOの統括者だよ」

 

「何を言っているんだ?それは茅場のことだろう」

 

「んっふふふ、茅場なんて、この事件が始まってから失踪中だよ。そしてSAOを開発したアーガスは既に解散……現在は我々レクト社のフルダイブ技術研究部門がこの世界の維持を請け負っている」

 

「レクト!?」

 

「そう、君のお父さんが経営している会社だよ。明日奈」

 

 アルベルヒは嬉しそうにアスナへ話しかける。

 

 アスナは信じられないものを見たような顔をしていた。

 

「ひょっとして……あなたは、須郷、伸之!?」

 

「ようやく気が付いたのかい?」

 

「アスナ、知っている奴なのか!?」

 

「ええ、何回かあったことがある……フルダイブ技術の権威ある研究者の一人で、茅場晶彦に次ぐ実力を持っているとか……」

 

「全く……茅場晶彦に次ぐか……」

 

 アスナの話にアルベルヒは顔を歪める。

 

「確かに、今までに幾度も茅場と僕は技術研究において比べられることがあった。そのたびにヤツは僕の一歩先を行っていた……だけど、それももう終わりだ」

 

「茅場は失踪して、現在は生きているかどうかもわからない。築き上げた名誉もすべて失った。今やフルダイブ技術研究者で僕の右に出るものはいないんだよ。さらに僕は茅場の作った世界を支配し、名実ともに奴の上に立つんだ!」

 

「この世界を支配するって、いったい、どういうこと!?」

 

「こいつが開発側の人間であること、そして、いままで起きていた不可解な出来事、それらのことから考えられるのは……普通のプレイヤーはもたない、特殊な力を持っているんだ」

 

「ふふふ、その通りだよ。キリト君。スーパーアカウントといってね。開発者のみが使用できるアカウントだよ。事故でこの世界に引きずり込まれたものの、スーパーアカウントが継続されたのは幸運だった」

 

「犯罪防止コードが発生しなかったことや、人を強制的に転移させるアイテムを持っていたっていうのも……」

 

「スーパーアカウントができたことだろう」

 

「そんなの……ズルじゃないか!」

 

「上級の装備も、妙に数値の高いステータスもこれで納得がいった」

 

「これだけのステータスがあれば、このゲームを終わらせることは余裕だろ?この世界にいるプレイヤー達で一通り実験を済ませたら僕自身がゲームを終わらせる。そうすれば、自らをデスゲームに飛び込み、人々を救った英雄としてさらに僕は注目されるだろう」

 

「攻略組に近づいたのも、自分が活躍できるようにするためなんだね!?」

 

「そうとも、その中に明日奈がいるのを知った時は驚いたけどね」

 

「お前が英雄になることはない。向こうへ戻ったら警察にすべてを話す」

 

「それは無理な話だよ。なぜなら、君たちはここで死んでしまうのだからね」

 

「ステータスが高いくらいで俺達、攻略組に勝てると思っているのか?」

 

 アルベルヒが操作したと同時に全員の動きが鈍くなる。

 

「か、体が痺れる……」

 

「アハハハハハハハ!!やぁ、気に入ってくれたかな?スーパーアカウントを使って、ここにいる全員に麻痺属性を付与したんだ。キミ達は一定時間、まともに体を動かすことはできないよ。どうだい、これがこの世界の支配者の力だよ!」

 

「く、そ!」

 

「キリト君!」

 

「あぁ、そうそう、明日奈、君は殺したりしないから安心してくれ」

 

 キリトへ手を伸ばそうとしているアスナをみてアルベルヒはいやらしい笑みを浮かべる。

 

「現実の世界では、君が眠り続けている間に、僕と君が結婚するように話が進んでいる」

 

「な、何を言っているの!?」

 

「結婚が成立すれば、君のお父さんの会社であるレクトは僕のものになる。勿論、そんなことになったら、君は拒絶するだろう?でも、僕の研究が完成してキミの感情を操ることができれば、拒絶どころか、よろこんで僕を受け入れてくれるだろう」

 

「っ!?」

 

 アルベルヒを受け入れる自分を想像したのだろう。

 

 アスナは体を震わせる。

 

「ヒッヒッ!心も体も僕のものというわけだよ」

 

「貴様……!」

 

「違う……よ!」

 

 アルベルヒの言葉に叫んだのはノビタニアンだ。

 

「心も、体も、その人のものだ。アンタのものなんかじゃない」

 

 起き上がろうとするノビタニアンだが、麻痺が発動していてうまく動けない。

 

「さて、長話も終わりだ。キミ達の最後はこいつにやってもらうとしよう」

 

 アルベルヒが操作すると目の前にアバターが現れる。

 

「こいつは!?」

 

「あ……あの時、このゲームが始まった時に……わたしたちの前に……現れた」

 

 はじまりの街で茅場がチュートリアルを行うために姿を見せたアバター。

 

「どうも、このゲームのラストのボスとして用意されていたものらしいんだが……まぁ、君たちにとっては本当にこれがラストバトルなわけだし、ちょうどいいんじゃないかな?」

 

 ローブの中で怪しい輝きが起こる。

 

「さぁ、何もすることのできない中で、にじり寄る死の恐怖に怯えながらゆっくりと、おやすみ……アハハハハハッ!」

 

 

 アルベルヒの言葉でキリトが憤りを感じる中、ノビタニアンも激しい怒りを抑えられずにいた。

 

 アルベルヒ、須郷は自分勝手にこの世界を作り替えていく。

 

 自分の都合のいいものに、いらないものは勝手に消し去って。

 

 そんなことがあっていいわけがない。

 

 許されるわけがない。

 

「助けるんだ……」

 

 動けない体に鞭打つようにノビタニアンはメニューからリベリオンクラレントを取り出す。

 

 アバターに攻撃されている親友を。

 

 自分の力で守るんだ。

 

「うぉおおおおおおおおお!」

 

 ノビタニアンは叫ぶ。

 

 バリバリとまとわりつく何かが剥がれていく。

 

「ば、バカな!?麻痺を解除しただと!?」

 

 アルベルヒの驚く声が響く中、ノビタニアンはリベリオンクラレントを振り下ろす。

 

 衝撃を受けて吹き飛ぶアバター。

 

 キリトもふらふらと立ち上がる。

 

「ノビタニアン?」

 

「キリト、大丈夫?」

 

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノビタニアン達の前にはホロウアバターと表示されるボスモンスターが立っていた。

 

 第一層、はじまりの街でキリト達へゲームのチュートリアルをしたアバターが現れたのだ。

 

 驚きながらもキリトやノビタニアン達は目の前のホロウアバターへ攻撃を仕掛ける。

 

「バ、バカな!!」

 

「そろそろ観念するんだな」

 

 驚愕を隠せないアルベルヒへキリトがいう。

 

「くっ!観念しろだと?ふざけるな!さっきはなぜ麻痺の効果がきれたのかわからんが、今度はそうはいかないからな!」

 

「また何かする気か!くそっ、させるか!」

 

「キリト!」

 

 キリトとノビタニアンが同時に駆け出す。

 

「一度、ここにいる連中の状態をリセット……それから再度、状態を麻痺に設定。これでどうだ!?」

 

「くっ!?」

 

「わっ!」

 

 二人の動きが封じられる。

 

「ふはははっ!残念だったね。キリト君、やはりスーパーアカウントには敵うはずがないんだよ」

 

「須郷!」

 

「さて、せっかく用意したボスのアバターが倒されてしまったな。やはり大事なことは自分でやらなくてはダメか。あんなものに任せた僕が悪かった」

 

 アルベルヒは懐から不気味なデザインの短剣を取り出す。

 

「これはね、スーパーアカウントのみが扱える特殊武器の中でもとりわけ面白い一品なんだよ……なんと一刺しでどんなにHPがある相手だろうが確実にHPをゼロにする」

 

 キリトは目を見開く。

 

「しかも一瞬ではなく、徐々に、ジワジワとだ。素晴らしいだろ?自分のHPが徐々にゼロになるというのはどんな気分なんだろうね?」

 

 笑いながらアルベルヒはキリトへ近づいていく。

 

「ぜひ、教えてほしいな。キリト君。その体と魂が砕け散る寸前に、僕にだけでいいから」

 

「やめろ!」

 

「性懲りもなく……汚い手を」

 

「どうとでも言え!!これでお前も、おしまいだ!!」

 

 アルベルヒが短剣を突き立てようとした時。

 

「だめぇ!」

 

 ある影が間へ割り込む。

 

 ズブリと音を立てて刃がその人物へ突き刺さる。

 

「ストレア!!」

 

 ノビタニアンが叫ぶ。

 

「なっ、貴様!」

 

「これで終わり、だね」

 

「なっ、出ない!?」

 

 ストレアから刃を引き抜こうとするアルベルヒだが、びくともしない。

 

「もらっちゃった」

 

 ストレアは冷や汗を流しながらもアルベルヒへ不敵な表情を浮かべる。

 

「キリト、ノビタニアン……大丈夫だよ……こんな奴、大したことない……アタシがいるから」

 

 起き上がろうとするノビタニアンとキリトだが、麻痺で動くことができない。

 

 いや、違う。

 

 ノビタニアン達はいつの間にか麻痺が解けていた。

 

 二人は起き上がる。

 

「なっ、貴様ら寄るんじゃない!!」

 

「なにが寄るんじゃねぇだ」

 

「麻痺させられた礼をしないとな、このゲームが終わるまでお前には大人しくしててもらうぞ」

 

 クラインとエギルをはじめとする屈強な大人プレイヤー達がアルベルヒを拘束する。

 

「こ、この低能どもがぁ!放せ!放せぇ!」

 

 アルベルヒが叫んでいる横でノビタニアンとキリトがストレアへ駆け寄る。

 

「キリト!どう!?」

 

「くそっ!回復アイテムを使っているのになんでHPの減少が止まらないんだ!ノビタニアン、解毒のアイテムは!?」

 

 ストレアへ回復アイテムを使っているのにHPが減らない。

 

「駄目!解毒も効かない、あの武器についていた状態異常がわからない……どうしよう、どうしたらいいんだよ!」

 

「うぅ……うぅ……キリト、アイツ……やっつけた?」

 

「あぁ、捕まえた、ストレアのおかげだ!」

 

「そうだよ!凄いよ!ストレア!」

 

「やったね……アイツが持っていたアカウントの権限、奪ってやったんだ」

 

「権限を奪った?」

 

「うん、でも、そんなことしなくても、キリト達なら勝てたかな?ねぇ、アタシ、キリト達に言っていないことがあるの、聞いてくれる?」

 

「あぁ」

 

「うん、聞くよ」

 

「アタシね、アタシ……」

 

――人間じゃないんだ。

 

 

「!?」

 

「え、それは……」

 

「アタシはメンタルヘルスカウンセリングプログラム……この世界に組み込まれたプログラムの一つなんだ」

 

「それって、ユイと同じ」

 

「うん、もともと、アタシもこの世界を見ていることしかできないよう制限をかけられたプログラムなの、その間、色々な人を見てきたよ。絶望で泣き叫ぶ人、恐怖に怯える人、怒りで震える人キリト達が七十五層で戦っているときもずっとモニタリングしていたんだ」

 

 ストレアの告白にキリトは口をはさめない。

 

「だけど、その時、急に目の前が真っ暗になって、気が付いたらこの世界に立っていたの。それからしばらくは記憶もおかしくて、アタシの本来の目的も忘れてしまっていて、でも、唯一、キリトとノビタニアンのことは覚えていて、アタシは二人のことを探していたんだ。そのあと、次第に記憶が戻ってきて、アタシはこの世界のプログラムとしての役割を思い出したの」

 

「役割?」

 

「この世界の崩壊を阻止しないといけないということ」

 

「世界の崩壊というのは……俺達がSAOをクリアするということか?」

 

「そう……でも、アタシには阻止することができなかった。でもね、できなくてよかった」

 

 ストレアは小さく微笑む。

 

「キリト……みんな……今までありがとうね」

 

「おい!ストレア!変なこと言うな!!」

 

「そうだよ!これからも、もっといろいろなものを見て回るんだ!そうでしょ!?」

 

 ノビタニアンがストレアの手を握り締める。

 

「待って!キリト君!ストレアさんの全身に何か黒いオーラみたいなものが!」

 

 アスナが叫ぶ。

 

 ストレアの周りからどす黒いものが噴き出していた。

 

「な、なんだ、これは!?くっ、離れろ!」

 

「だ、ダメ!キリト君まで包まれちゃう!」

 

「ノビタニアン!離れて!」

 

 アスナやユウキが叫ぶ。

 

 しかし、キリトは抱きしめたまま離れず、ノビタニアンもストレアの手を離そうとしなかった。

 

「くっ、放すものか!!」

 

「いやだ!」

 

 直後、ストレアから衝撃波のようなものが放たれ、二人は吹き飛ばされてしまった。

 

 ストレアは黒いオーラのようなものに包まれ、宙へ浮き上がる。

 

「うう!……」

 

「キリト!あれ!」

 

「どうなっているんだ!?たった今、倒したばかりなのに!?」

 

「ストレアさん、ストレアさんは!?」

 

「こいつに……取り込まれた?」

 

 音を立ててラストアバターは姿を消す。

 

「き、消えた!?」

 

「ま、待て!ストレアを返せ!」

 

 キリトが手を伸ばすも届かなかった。

 

 

 


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