「ちょっと!いい加減にしてよ!!」
キリトが町中を散歩していると騒ぎが起こっていた。
店の中へ入ると女性プレイヤーに一人の男性プレイヤーがべたべたと触っている。
「なんだよ、これぐらい別にいいだろう?」
「ふざけないで!これ以上やるなら監獄送りにするわよ!!」
「どうぞ?別に構わないぞ」
女性プレイヤーの訴えに男性プレイヤーは慌てた様子を見せない。むしろ挑発してくる。
この行動にキリトは違和感を覚えた。
SAOにおいて異性へ接触する際、ハラスメントコードが発動する。
これを女性プレイヤーがOKすれば黒鉄宮へ転送されてしまう。
「いいのね!今は転送が滅茶苦茶になっているから外周区に飛ばれるかもよ!」
「いいさ?早くしてみなよ」
促す男性プレイヤーに少し驚きながらも女性プレイヤーはハラスメントコードを発動させようとする。
「嘘!?なんで、なんでよ!」
慌てた様子の女性プレイヤーは何度もシステムを起動させようとするがうんともすんとも言わない。
見ていられないとキリトが割って入る。
「おい、やめたらどうだ?相手が嫌がっている」
「おやぁ、これはこれは、黒の剣士様、このようなところで出会うとは攻略組も暇のようですね」
男性プレイヤーの傍に立っていたのは先日、騒動を起こしたアルベルヒだ。
「アルベルヒ」
「さ、行くぞ」
アルベルヒは不敵に笑いながら男を連れて去っていく。
「大丈夫か?」
「え、えぇ……でも、なんでハラスメントコードが」
戸惑いを残している女性プレイヤーを見てキリトは去っていったアルベルヒ達の方を見た。
「犯罪防止コードが発動しないってこと、あり得ると思うか?」
エギルの店へ戻ったキリトはアスナに尋ねる。
「唐突ね……えーと、これまでのことを考えるとそんなことは起きないと思うけど」
アスナは不思議そうな顔でキリトをみた。
「何かあったの?」
「ああ、実はあのアルベルヒを偶然見かけたんだけど、そこで奴の部下が女性プレイヤーに対して強引に迫るような事をしていてさ。それにもかかわらず犯罪防止コードが発動しなかったんだ」
「見間違いとかじゃなくて?」
「被害者の女性プレイヤーも発動しないのがおかしいって言っていたから見間違いの類じゃないと思う」
「うーん、なんなんだろう?」
考えるアスナとキリトへリズベットがやって来る。
「あれ、どうしたの辛気臭い顔して」
「リズ、ちょっと面倒なことになってそうなのよ」
アスナは事情を説明する。
「まずはそいつを攻略組に入れなかったのは大正解ね!」
「痴漢なんて最低ですよ!」
リズベットの言葉にシリカも激しく同意する。
「なんで、セクハラコードが働かなかったんだろう?ゲームシステムの異常なのかな」
「確かに七十六層へ来た時に起きたシステムの異常が関係しているのかもしれないな」
「それなら一回、試してみてはどうでしよう?」
ユイの提案へ全員の視線が集まる。
「試すって?」
「実際にパパが誰かを触ってみて、システムメッセージが出るかどうか試してみるんです」
「え?えぇ!?じゃあ、キリトさんがち、痴漢するってことですか!?」
シリカが戸惑いの声を上げる。
「痴漢?キリトぉ、それは犯罪だよぉ」
咎めるようにユウキが目を細める。
「そうです!そんなことをしてくれるなら、ノビタニアンさんの方がぁ」
「あ、あたし達兄妹だし……そういうのはいけないと思うよ!」
「誰もアンタらにやるなんて言ってないでしょうが……」
戸惑うシリカとリーファにリズベットが呆れた表情でいう。
「じゃあ、じゃんけんで誰がテストするか決めましよう」
ユイの言葉で全員が拳を構える。
「そんなの、みんなに頼めないでしょ……私で試してみて、キリト君」
「まあまま、ここはユイちゃんの提案どおりじゃんけんで決めようよ」
「ちょっとリズ!どういうことかわかっているの!?」
「どういうことってどういうこと?」
「だから、キリト君に触れられちゃうんだよ」
「ああ、そんなこと?もちろん、わかっているわよ。でも、セクハラし放題なんていう一大事かもしれないんだから、みんなで協力してちゃんと調べないとね!」
「(なんか、話が怪しい方向へ動き出したぞ)」
キリトはその場から逃げ出したかった。
しかし、この問題を無視することもできないので動けない。
「あ、あたし協力します!犯罪防止コードに異常がないか、女性代表として調べないといけません!できれば、その相手は」
「アスナさんは攻略でみんなのために活躍されています!あたしはあたしのできる事で、みんなに貢献したいんです!」
「やっぱ、私も参加なのよね。これ」
意気込むシリカとリーファに対して、シノンは呆れた表情をしていた。
「当然!体を張って、この事件を乗り越えましょう」
「乗り越えるというか、自らのっかっていっているように思えるんだけど」
「まー、みんなで楽しもうよ!」」
「(ユウキの奴!?)」
ノリノリで参加するつもりのユウキにキリトはため息を吐く。
「さぁ、じゃんけんをしますよ。ママもこっちへ来て下さい」
「もう……キリト君のバカ!」
「俺のせいなのか!?」
じゃんけんの結果。
選ばれたのはシノンだった。
「なんか、私がやることになったわ」
「そ、そうか」
「一応、信じてはいるけれど、変なところを触ったら容赦しないから」
「お、おう、それで、ユイ。どうすればいいんだ?」
「どこでもいいのでパパはシノンさんに触れてください」
「おう」
キリトはシノンの腕へ軽く触れた。
するとシノンの前に表示が現れる。
「あ、出たわね」
「ということは、システム全体がおかしくなっているってことじゃないみたいだな」
「少し安心したね」
アスナの言葉にキリトは頷く。
「ええ~!肩を触るくらいでセクハラコードが発動しちゃうの~?つまんない」
「結構、シンプルなんだね~」
「リーズー!キリト君で遊びすぎ!ユウキも!大事なことなんだからね!」
「「はーい」」
「(そうなると、アルベルヒ達に何か仕掛けがある可能性が出てくるな、いったいどうやって?)」
キリトは考えるもこれといった答えがでることもなかった。
「もう少し情報が必要だね」
「ひとまず犯罪防止コードが正常だとわかって安心だ。シノンも協力してくれてありがとう」
「どういたしまして、それで……この犯罪防止コード発動っていうウィンドウのOKボタンを押せばいいのよね?」
「うん、いいんじゃないかな?」
頷いたユウキに従って指がOKボタンへ向かっていく。
「それに触れちゃダメ!!」
「それに触れたらキリトさんが監獄行きです!」
「しかも、今は転送がおかしくなっているからちゃんと監獄に送られるか怪しいから!!」
アスナ、シリカ、キリトが慌てて止めに入る。
「そうなんだ……へぇ、よく覚えておかないとね」
「し、心臓に悪い」
「さて、キリトで遊んだところで少し真面目な話をしましようか」
「遊んだってなぁ」
リズベットに文句を言うも、彼女は無視する。
「アタシがいいたいのは、ノビタニアンのことよ!」
「……ノビタニアンか」
「アイツ、ここのところみんなと行動していないじゃない!ほとんど迷宮区へソロでこもっているみたいだし、戻ってきたとしても部屋へいっちゃって誰とも話そうとしない!明らかにおかしいでしょ!」
「そうですね。ノビタニアンさん、メッセージは返してくれるんですけれど、会うことはしてくれません」
シュンとうなだれるシリカの頭をリズベットが優しくなでる。
「そうだね……ノビタニアン君がおかしくなったのはギルドの面接に付き合ってもらったからなのよね」
「面接って。アルベルヒの奴?」
「ううん」
アスナは首を横へ振る。
「ジャイアンズっていう少数ギルドだよ」
「え!?」
驚いた声を出したのはリーファだ。
その目は信じられないという表情をしている。
「リーファ、どうしたの?」
「え、あ、ご、ごめんなさい。キリト君。もしかして」
「あぁ、リーファの思っている通り、彼らだ」
「そう……だったんだ」
瞳を揺らしながらリーファは呟く。
「その様子からしてアンタ達はジャイアンズとかいう連中のことを知っているみたいね」
リーファとキリトの様子から気付いたシノンが尋ねる。
「キリト君、教えて。彼らとノビタニアン君の間に何が起こったの?」
「キリトさん、お願いです!」
「……キリト、教えて、ボクも知りたい」
「みんな……」
「キリト君、話してあげようよ」
リーファに言われてキリトは頷いた。
「これは、リアルのころの話になるんだが、俺とリーファ、ノビタニアンはジャイアンズのメンバーと同じところに住んで遊んでいた友達だったんだ」
「だから、向こうは二人のことを知っていたんだね?」
「あぁ、特にジャイトスとスネミス、シズカールの三人とノビタニアンは幼いころからの付き合いだったんだ……そのメンバーと俺、リーファに加えて、もう一人、ドラえもんっていう奴がいた」
「ドラえもん……?人にしては変な名前ね」
「ドラちゃんは人じゃないんだ。二十二世紀からやってきたネコ型ロボットだったの」
「はぁ!?ロボット!!」
驚くリズベット達に二人は頷く。
「ドラえもんはノビタニアンの未来を少しでもより良いものにするためにやってきたんだ。ノビタニアンと最初はうまく打ち解けなかったみたいだけど、段々と仲を深めて、親友となったんだ。そして、俺達もドラえもんと接していた」
「ドラちゃんはポケットに二十二世紀で作られた秘密道具っていうものを持っていて、私たちはそれで遊んだり、色々な冒険をしてきたんです」
キリトは大冒険を少しだけ話す。
化石から蘇った恐竜、ピー助を恐竜時代へ送った時のこと。
ノビタニアンの部屋の畳の裏が遠い宇宙にある星、コーヤコーヤ星へ繋がり、悪事を働くガルタイト工業との戦い。
もしもボックスという秘密道具で魔法の世界へ向かい、地球を侵略しようとする悪魔族デマオンを倒すための冒険。
地球侵略のためにやってくる鉄人兵団を迎え撃つためザンダクロスと共に鏡の世界で迎えうったこと。
何もかもがブリキでできたおもちゃの島、ブリキン島からチャモチャ星を支配しているナポギストラーの暴走を止めるためにラビリンスといわれる大迷宮を攻略していったこと。
夢を楽しく見られる道具、気ままに夢見る機でユメミール国を支配しようとする妖帝オドロームを倒すために夢幻剣士として大魔導士ドラモンや仲間と共に挑んだ冒険。
タイムホールがマヤナ国へ繋がり、ノビタニアンと瓜二つのティオ王子と共に魔女レディナと戦いを挑んだ話。
他にもいくつか冒険はあるがとてもドキドキ、ハラハラするようなものばかりだった。
勿論、その冒険で悲しい別れもあったが今は語る必要もないだろう。
「でも、別れは唐突にやってきたんだ。ドラえもんは未来へ帰らないといけなくなった」
「どうして、ですか?」
「やり遂げプログラム……ドラちゃんを連れてきたノビタニアンの子孫のセワシさんって人が設定していて、決められたことを遂げられると未来へ帰ってこられるようにって……なっていて、ノビタニアン君は未来を変えるためにやり遂げたと判断されて、二十四時間以内に未来へ帰らないといけなくなった」
「あの時は俺達も別れを悲しんだ。なにより一番、つらかったのはノビタニアンだ」
泣きながら帰らないでといわず、頑張ると約束していたノビタニアン。
ジャイトスと決闘して見事、勝利した時もボロボロながら「大丈夫、頑張る」と言っていた。
「それからしばらく、ドラえもんが帰ってからもノビタニアンは頑張っていたよ。空元気もあっただろうけれど」
だが、その頑張っているノビタニアンにある悲劇が襲った。
「あのスネミスとジャイトスの二人がエイプリルフールでノビタニアンをからかったんだ。それも最悪なタイミングで」
――ドラえもんが帰ってきたという嘘をついた。
「そんな!!」
シリカは息をのむ。
「そんなこと」
「今なら冗談だって言えるかもしれない……でも、当時、まだ別れから抜けきっていなかったノビタニアンにとっては最悪なことだった」
ドラえもんとまた会えると信じてどら焼きまで買っていた彼の顔を思い出してキリトとリーファの表情は曇る。
「あれからだよね。ノビタニアン君が彼らと話をしなくなったの」
「許せないと思うわ。大切な思い出を土足で傷つけたんだから」
シノンの目には少しだが怒りの色がみえた。
「でも、このままにしておくことも出来ないよね。ノビタニアン君を元気にする方法ないかな?」
「元気か……」
「みんなでパーティーをするというのはどうでしよう?」
「そうだね、うん!それがいいと思うよ!」
ユウキが同意する。
「ボク達でノビタニアンを元気にするパーティーをしよう!」
「そうと決まれば、食材を集めないといけないわね」
「私も頑張ります!」
「そうね……手伝うわ」
「キリト君とユウキはノビタニアン君を連れてきてくれる?私たちが準備しておくから」
「わかった」
「うん!行こう!キリト!」
ユウキとキリトはノビタニアンがいる迷宮区へ向かう。
「くそっ、くそっ!」
主街区をスネミスは一人で歩いていた。
先日の決闘で無様な姿を見せたことで彼の機嫌は悪い。
あの後、ギルマスであるジャイトスから勝手なことをするなと怒られ、最悪、攻略組に参加できなくなるかもしれないといわれた。
――それもこれも全部、のび太が悪いんだ!
「そもそも、ジャイトスもジャイトスだよ!なんであんな奴に遠慮なんかしているのさぁ!」
あの事件から疎遠となったのび太のことをジャイトスは未だに気にしていることにスネミスは納得していなかった。
あんな愚図でノロマな奴なんか放っておけばいいのに。
「そうだよ、アイツ、なんかズルしているに決まっている!」
「おやおや、随分とあれていますねぇ」
前からやってきたプレイヤーをスネミスは見る。
アルベルヒは笑みを浮かべて尋ねた。
「しかも、先ほどから告げている名前、黒の剣士様と縁のある者の名前ですね。私もひどい目にあいましてね。もしよろしければ、力をお貸ししましよう」
それが悪魔の誘いであることにスネミスは気づかない。
気付かないまま笑みを浮かべて、彼の提案を受け入れた。
ノビタニアンは一人で迷宮区のモンスターを倒していた。
本来ならキリトやユウキ、他のメンバーと攻略を進めていたのだが、遠慮していた。
「(僕自身の問題だからね)」
ノビタニアンは先のことについて後悔していた。
いくら過去のことが許されないとはいえ、私情であそこまでやってしまうことは間違っている。
何より。
「ユウキ……怯えていたよね」
スネミスをぼこぼこにしていた時、ユウキは平然としているように見えたが自分を見て怯えていた。
自分の変貌によるものなのか、それとも別のものかはわからない。
「はぁ……はぁ、少し休もうかな」
近くに安全エリアが見えてきたのでノビタニアンはそこで休憩をとる。
「そろそろ装備も調整しないとね」
使っている盾や剣も整備に出さないといけなくなる。
アイテムやポーションも売らないといけないだろう。
「少し気まずいなぁ」
エギルは気を遣って何も言わないけれど、リズベットは胸倉をつかんで問いただそうとしてくるだろう。
「キリトも……心配しているよね」
エイプリルフール事件を知っているから余計に心配しているかもしれない。
「いい加減、みんなと話をしないといけないよね」
休憩を終えたノビタニアンは立ち上がり安全圏エリアを出ようとした時。
「おい!のび太!!」
リアルの名前を呼ばれてノビタニアンが前を見ると。
「……スネミス」
デュエルでボコボコにした相手、スネミスが不敵な笑みを浮かべてこちらをみていた。
「この前はよくもやってくれたな!僕ちゃんに恥をかかせたこと後悔させてやる!」
叫びと共にノビタニアンの周囲にモンスターが現れる。
「ここはモンスターが現れない筈なのに!!」
「ふふふ、僕ちゃんにできないことはないんだ!いけぇ!」
スネミスが叫ぶとモンスター達は襲い掛かる。
まるで彼に従うように襲い掛かってくるモンスターに驚きを隠せない。
しかし、攻略組として行動をしているノビタニアンは意識を切り替えて襲い来るモンスターを次々と倒していく。
「フン!ズルをしているだけあって、これくらいは楽勝みたいだな!でも、次は行かないぞ!」
スネミスが叫ぶと再びモンスターが現れる。
「お前が助けてぇって降参するまで出し続けてやるよ!のび太ぁ!」
襲い掛かってくるモンスターを前に盾を構える。
その時、横から影が現れた。
「やぁ!」
放たれた斬撃によってモンスター達が一掃される。
目の前に現れたのは紫の衣装をまとい、ゆらゆらと揺れる紫の長い髪。
強い意志を宿した瞳はスネミスを見据えていた。
「ユウキ……」
「邪魔するなぁ!」
スネミスがモンスターを召喚しようとした時、横からキリトが二刀流を振るった。
モンスターを巻き込んだ衝撃波を受けてスネミスはごろごろと地面を転がる。
その際、彼の手から奇妙な杖が転がりおいて消滅した。
「あ、あぁ!?」
「よぉ、ノビタニアン、こんなところにいたのか」
「キリト……」
剣を構えながらキリトは茫然としているスネミスへ声をかける。
「さて、スネミス。お前には聞きたいことが色々とある……どうして、お前はモンスターを使役できる?」
「う、うわぁあああああああああ!」
スネミスは叫ぶと一目散に逃げだした。
その光景に流石のキリトも茫然としてしまう。
「おいおい、わき目も降らずに逃走かよ」
驚きながらキリトは周囲を警戒する。
その中、ノビタニアンは剣を仕舞ってこちらへやってくるユウキをみた。
「ユウキ、その」
「バカ」
近づいたユウキはノビタニアンの頬を殴る。
殴られたノビタニアンは驚いた顔をしていた。
「ボク達は仲間でしょ!仲間なんだからもっと頼ってよ!辛いよ……」
ポカポカとユウキはノビタニアンの胸元を叩く。
「今度、勝手にいなくなったら許さないからね!怒るよ!ボクも!」
「うん、ごめん」
「ノビタニアン」
剣を仕舞ってキリトがやってくる。
「キリト、その」
「お前には助けられてばっかりだからな。こういう時くらい頼ってくれ。俺は親友なんだからさ」
「……うん」
涙を浮かべてノビタニアンは頷く。
「さ、戻ろう!」
「うん、あ、それと今までごめん」
「いいよ!キリトから教えてもらったから」
「え?」
「あー、すまん、ノビタニアン。みんなにお前のことを話した」
「え!?」
ユウキは微笑みながらノビタニアンの手を引く。
「大丈夫だよ!」
「ごめん、何が大丈夫なの!?え、もしかして」
「色々と話した。後悔はしていない。すまん」
「ちょっとぉ!!」
叫ぶノビタニアン。笑うユウキ、キリトは苦笑しながらも頭の中では別のことを考えていた。
「(それにしても、スネミスの奴……モンスター召喚なんてどうやったんだ?)」
「キリトぉ!早く行こうよ!」
「あ、あぁ、ごめん。すぐ行く」
キリトは後を追いかける。
エギルの宿へ戻るとクラッカーの音が三人を出迎える。
「おかえり!」
「あ、アスナ?」
「ほぉら!主役達は早く席へつきなさい」
「そうよ、座りなさい」
キリトをリズベットが、ユウキをアスナが、ノビタニアンをシノンが引っ張りそれぞれを席へ座らせる。
周りを見るとリーファ、シリカの他にクライン、エギルの姿があった。
「えっと、これは?」
「最初はノビタニアンさんを元気にさせようという会だったんですけれど、リズベットさんがどうせだから三人に感謝を込めての会にしましようということで」
「そうゆうこと、アンタ達に色々と面倒見てもらっていたからね。それのお礼も兼ねようということよ!」
「俺達は祝いたいから来たぜ」
胸を張るリズベットにノビタニアン達は苦笑するしかできなかった。
「さ、キリト君やみんなもそろったことだし、乾杯しよ!」
リーファに促されて全員がグラスを手に取る。
「音頭は俺が簡単に……キリト、ノビタニアン、ユウキ!いつも、ありがとう!」
本当に短くクラインが音頭を取ると全員が乾杯を取る。
それから楽しい宴がはじまった。
ノビタニアンは心の底から笑った。
「おやおやおや、どうされました?スネミスさん」
荒い息を吐きながら逃げていたスネミスの前に現れる影があった。
「ど、どうなっているんだよ!あの杖、壊れちゃったよ!」
「そうですか、耐久は弱くしていたのですが、もろすぎたかもしれませんね」
「は、はぁ!?なんだよ、それ!?あいつらのチートを暴くための道具とか言っていたのに!そんなんじゃ意味ないじゃないか!」
「えぇ、あくまで実験です」
「な、なんだよ、それぇ!」
驚くスネミスの前で彼は独特なデザインの短剣を取り出す。
「さて、貴方に協力して差し上げたので、次はこちらの番です」
スネミスが顔を上げた時、短剣を振り下ろす男の姿があった。
碌な抵抗もできないままスネミスは光に包まれて消える。