寝物語に思い出を   作:こふきいも

2 / 2
怪物よりも

パチュリー様、怖い夢を見てしまいました。

今夜は眠れそうもありませんわ。

 

仕方がないわね、

悪夢の対処法を教えてあげるわ。

 

あなたの身長が私の胸の辺りにまでなった頃、

あなたは自分の部屋で

寝るようになってしまったわね。

今日から毎日ここに来るって?

やめなさい、あなたはまだたったの10数年しか

生きていないのだから。

そんなに話すことがないわ。

 

とにかく、ある日久しぶりに夜中に

あなたが図書館に枕を持ってやってきて、

ものも言わずベッドに潜り込んできたの。

 

そのまま私に抱きついて、何度も

私の名前を呼ぶの。

パチュリー様、パチュリー様、って。

うとうとしかけて少し惚けている

私は、とりあえず事情を聞くことにしたわ。

そりゃあ、驚くでしょう。

急に泣きながら自分の名前を呼ばれたら。

 

「どうしたの?咲夜。」

そのあと、あなた何度しゃくりあげたかしら。

えっく、ひっく、で、最初は何を

言っているのかと思ったわ。

 

「怖い……ひっく、夢を見ました……えっく」

そんなことか、と思ったけど、

状況から察するに、"そんなこと"

じゃないのよね。あなたにとっては。

 

私は、どんな夢かを聞き出すことにしたわ。

そうすれば、そんなことはありえないって、

諭すことができると思って。

 

お化けの夢?

いいえ、違います。

蛇の夢?

もっと、怖いものです。

それじゃあ、レミィに怒られる夢?

いいえ、それはほんとのことです。

 

私の思いつく限りの悪夢ではなくて、

一体なんなのだろう。

そう思って、私はあなたに聞いたの。

 

「じゃあ、どんな夢?」

あなたは、生々しく思い出したのか、

もうほとんど聞き取れないけれど、

たぶんこう言っていたわ。

 

「ぱちゅりー様が、いなくなる夢です……」

 

私は驚いて、自分の耳を疑ったものよ。

何より、あなたは落ち着いて話す、

ということができなかったから。

何より、そんな、人が一人いなくなるくらいで、

そんなに騒ぐことかと、私は思ったの。

私がいなくなることが、果たして

怪物や蛇より怖いかしら、と。

 

「……そう。

私はいなくならないわ。

だから、もうお眠りなさい。」

常套句を唱えて、あなたの涙を、

眼が腫れない程度に拭って。

 

ぱちゅりー様、

今日はここで寝てもいいでしょうか?

 

という問いにイエスと答えて。

 

あなたは、馬鹿正直にその言葉を信じて、

眠りに落ちたの。

 

あら、私はいなくなるかって?

いいえ、たぶん、ずっとここで厄介になるわ。

 

……ところで、あなたは、どんな夢を見たの?

私に嫌われる夢?

……そう。

一番、非現実的ね。

そんなに嬉しそうな顔するんじゃないわよ。

で?眠れそう?

 

何よそれ。

本当に眠れるの?

夢の中の私と反対のことを言えなんて……

 

「あなたの顔はもう見たくないわ」

……あなたの顔を、ずっと見つめていたい

「どこかへ行って頂戴」

どこにも行かないで、咲夜

「大嫌いよ、駄犬」

大好きよ、咲夜

 

……いい加減にしなさい。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。