寝物語に思い出を   作:こふきいも

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風は怒りの夢を見るか?

パチュリー様、今日は風が強いです。

恐くて眠れません。

 

あら、そう。

そういえば、昔のあなたもそうだったわね。

 

あなたがこの館に来たばかりの頃は、

よく図書館で寝ていたのだけど。

ある日、昔の癖が抜けなくて、

床で寝ようとするあなたを

無理やり大きさだけが取り柄の

ベッドに寝かそうとしたの。

当時はまだ抱き上げられたから良かったけど、

これが数年後だったらと思うとぞっとするわ。

 

ともかく、

子守唄を歌ってやって、

やっとうとうとしたときに、

夜風が騒ぎ始めて、あなたが

目を覚ましてしまったの。

 

それからあなたの怯えようったらなかったわ。

なだめても、すかしても、

ただ瞳を潤ませるだけで、

いっこう寝ようとしなくてね。

 

仕方なく、布団を頭まで被せて、

耳を塞いでやって、

ようやく瞳に色が戻ってきたわ。

本当に大変だったんだから。

 

「ぱちゅりー様、どうして

風は怒ってるんですか?

私が今日、お嬢様に

紅茶を出し忘れたからですか?」

……あなたが

これを本気で聞いてこなくなったのは、

いつからかしらね。

まあ、それはいいとして。

 

そんな疑問を私は抱いたことがなかったから、

返答に詰まったわ。

 

そもそも風は怒るのか、とか。

紅茶を忘れたくらいで怒るのは

我が儘な親友くらいだ、とか。

いろいろ返答は思いついたけれど、

どれもどうもしっくりこないのよね。

今でも悩んでいるのよ。

だから、答えを急かさないで頂戴。

あなたがいる間に、なんとか捻り出すわ。

 

当時の私は、

「さあ、どうしてかしらね。」

とはぐらかしてしまって、あなた拗ねたのよ。

懐かしいわ。

「ぱちゅりー様が答えてくださるまで、

咲夜寝ませんよ」

って。

まあ、あの頃のあなたは生意気だったから。

あら、いいのよ、謝らなくて。

当時は面食らったものだけど、

今さらどうこう言うことじゃないわ。

 

「……仕方ないわね、じゃあ、聞いてくるから

ちょっと待ってなさい。」

そう言って、

あなたの耳に添えていた手を離すと、

やおら強い風が吹いてしまったの。

「ぱちゅりー様、行かないでくださぁい……」

生意気言ってた気がしたけど、

もう完全に泣いてしまって、

私の服を掴んで離さないものだから、

仕方なく、頭を撫でてやったのよ。

 

え?今も撫でてほしい?

じゃあ、ここに座りなさい。

……小さな頃と、変わらないのね。

いいのよ。無理して変わらなくて。

 

そうしてあなたは眠ってしまってね……

って、あら、こんなところで寝たら風邪を

引くわよ。

人間は脆いんだから。

 

……分かったわ。今日は図書館で寝なさい。

ただし、ベッドまでは自分で行くのよ。

ソファで寝る必要はないわ。

二人くらいなら入るでしょ。

 


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