聖姫絶唱セイントシンフォギア   作:BREAKERZ

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背負うべき覚悟と責任

ー未来sideー

 

小日向未来には、親友である立花響にも内緒にしている秘密があった。『フロンティア事変』が終わって少ししてから未来は眠りに入る前に乙女座<バルゴ>のアスミタに呼び掛けるように眠ると、夢の中でアスミタと出会うようになっていた。奇妙な事であり、アスミタ曰くーーーーーー。

 

【おそらく『フロンティア事変』で私が小宇宙<コスモ>を流す治癒術を小日向未来に掛けた事で、小日向未来に宿った小宇宙<コスモ>と私の小宇宙<コスモ>が共鳴を起こしたのだろう】

 

それから未来はアスミタと話がしたくなったらこうして夢の中で会っていた。響達やレグルス達にも教えても良い?と聞いてみたが。

 

【私は正直S.O.N.G.や国連とはあまり関わるつもりはない。レグルス達のように監視がついた日常などうっとおしいだけだ】

 

と言われ、未来もレグルス達ほどではないが監視を受けている身などで何とも言えなかった。

 

【小日向未来、私と交信出来ることは黙っていた方が良い。ただでさえ聖闘少女<セインティア>候補になってしまって監視を受けてる身で、国連の監視を受けていない黄金聖闘士と交信出来ると知られれば今よりも監視が厳しくなるやも知れん・・・・】

 

アスミタの言葉に未来は納得した。確かに国連は聖闘士の力を危惧している。とりわけ『フロンティア事変』で地球の半分を消滅させかけたアスミタの『神に最も近い黄金聖闘士』の力は、聖闘士の中でも特に国連に警戒されているからだ。

 

「フム、恐らくガングニールは己の力、聖遺物の力を恐れているのだろう」

 

「響が、ガングニールを恐れている、ですか?」

 

アスミタも夢で交信できるようになってからの経緯を思い出していた未来は、アスミタの言葉で現実(夢の中だが)に戻る。

 

「フゥゥ、アヤツは一々何かしらに悩み足踏みしなければ気が済まんのか? 全く、まるで成長していない」

 

「成長していない、ですか・・・・」

 

「不満そうだが、彼女は君に心配かけまいと空元気を出しているだろう?」

 

「はい・・・・」

 

未来の脳裏に、“へいき、へっちゃら”と無理して笑っている響の顔が浮かんだ。

 

「そこが成長していないと言っているのだ」

 

「え?」

 

「一番心配をかけまいとしている君にムリをしている事を簡単に見抜かれてしまうとは。あの者は周りの人間達の事が見えていない、自分の事で手一杯なのだ。自分の事で手が回らないその腕で他者まで救おうとするなど、思い上がりも良いところだ」

 

「でもそれが響なんです・・・・」

 

「だが、君は自分に何も言わずに1人で抱え込んでいる彼女に心を痛めている」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

響を弁護しようとするが、アスミタの正論に未来も何も言えない。

 

「いつまでも“今の自分”でいられるとは限らない、人は変わらなければならない時がある」

 

「でも、私は響に、変わって欲しくありません・・・・」

 

響は“今のままでいて欲しい”と望む未来。アスミタは未来に優しく説く。

 

「“変わる”と言うのは、“別の人間になれ”と言う訳ではない。“今の自分のままで成長しろ”と言う事だ。その点で言えば、マリア・カデンツァヴナ・イヴ達の方が努力しようとしている分、ガングニールより成長している」

 

「“今の響のままで”?」

 

「まぁ簡単に言えば・・・・“ーーーーー”と言った所だ」

 

「えっ?」

 

アスミタの最後の言葉が良く聞き取れなかった未来の目の前が真っ白になるーーーーー。

 

「あっ・・・・」

 

目を覚ますと、未来はベッドで横になり、目の前には響の暢気な寝顔があった。

 

 

 

 

ーマリアsideー

 

とある外国人墓地、其所には『フロンティア事変』で命を落としたFISの聖遺物研究者であるナスターシャ教授の墓があった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

数ヶ月前に宇宙から回収されたナスターシャ教授の遺体はそのまま手厚く埋葬され、その墓にナスターシャ教授を“マム<お母さん>”と慕っていたマリア・カデンツァヴナ・イヴに暁切歌と月詠調、彼女に世話になった魚座<ピスケス>のアルバフィカ、蟹座<キャンサー>のマニゴルド、蠍座<スコーピオン>のカルディアがいた。マリアと切歌と調は普段着だったが、アルバフィカ達は喪服スーツを着用していた。

 

「ゴメンねマム、遅くなっちゃった・・・・」

 

マリアはナスターシャ教授の墓に花束を置き、マニゴルドは牛肉の串焼き、カルディアは鳥の唐揚げ、アルバフィカは豚カツをそれぞれタッパーから紙皿に乗せて置いた。そして何故か調と切歌はお徳用サイズの醤油を置いた。

 

「マリアは兎も角、センスねぇなお前ら」

 

「せめて酒でも持ってこい」

 

「何を言うデスか、マムの大好きな日本の味デス!」

 

「私は反対したんだけど、“常識人”の切ちゃんがどうしてもって・・・・」

 

「あぁ、先ず切歌が“常識人”って所から間違っているからな」

 

「ソレどういう意味デスか!?」

 

「あの婆さんは文字通り“肉食系”だったんだからな」

 

米国の聖遺物研究機関FISの主任研究員 ナスターシャ教授は“肉しか食べない偏食家”であった。それを聞いたデジェル曰く、「ナスターシャ教授の体調の悪化は“栄養の偏り”だったのではないか?」と言われた。ちなみに『フロンティア事変』の主犯であった、ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスは“お菓子しか食べない偏食家”だった。

 

「マムと一緒に帰って来た“FRONTIERの一部”や“月遺跡に関するデータ”は、各国機関が調査している最中だって・・・・」

 

「また米国が勝手行動をしない為の措置だな」

 

「ま、“月の落下”なんて危急存亡の大事を秘匿して、自分たちだけ逃げようなんて無責任な考え巡らせていたからな、米国政府のお偉いさん方は・・・・」

 

「だから今度こそみんなで一緒に研究して、みんなの為に役立てようとしているデス!」

 

「ゆっくりだけと、ちょっとずつ世界は変わろうとしているみたい・・・・」

 

「安心しな婆さん。アンタのやって来た事は決して無駄にはさせねぇからな」

 

「(変わろうとしているのは世界だけじゃない。なのに、私だけは・・・・)」

 

マリアは少しずつ変わろうとしている切歌と調を見ながら、変わったいない自分に顔を曇らせる。

 

「(ネフェリムと対決した時の『アガートラーム』も、再び纏った『ガングニール』も、窮地を切り抜けるのはいつも、“自分のモノではない力”・・・・)」

 

セレナの形見の『アガートラーム』、響から一時的に借用した『ガングニール』、どれも自分の力ではない事をマリアは自覚していた。

 

「・・・・私も変わりたい。本当の意味で強くなりたい!」

 

「それはマリアだけじゃないよ・・・・」

 

「私達だっておんなじデス・・・・」

 

マリアの言葉に、切歌と調も表情を曇らせる。

 

「・・・・雨が振るな」

 

アルバフィカ達は傘を取り出し広げると、静かに雨が降り始める。マリアはナスターシャ教授の墓を見つめ、悲しそうに呟く。

 

「昔のように叱ってくれないのね・・・・大丈夫よマム。“答え”は自分で探すわ」

 

「ここはマムが残してくれた世界デス」

 

「“答え”は全部あるはずだもの」

 

「(婆さんよ、アンタの子供達は少しずつだが、変わろうとしているぜ・・・・)」

 

「(子供って言うのは、大人がああだこうだ言わなくても、少しずつ成長するモンなんだな・・・・)」

 

「(だから、安心して見守っていてくださいナスターシャ教授・・・・)」

 

降りしきる雨音が、六人のいる墓に静かに響いた。

 

 

ー未来sideー

 

雨が降るリディアン学園の食堂では、男子のグループや女子のグループ、男女混合グループやらが仲良く談笑しながら昼食を摂っていた。そんな中、何やら空気が外の空模様のように曇っているグループがあった。先日オートスコアラー ガリィとアルカ・ノイズに襲われた安藤創世、板場弓美、寺島詩織である、そのグループのいるテーブルに未来が来たが、響はいなかった。

 

「立花さんは食べないのでしょうか?」

 

「うん、課題やらなきゃって・・・・」

 

「お昼ご飯より課題を優先するだなんて、こりゃ相当な重症だわ」

 

普段の響なら勉学よりも目先のご飯に向かうので弓美も少し驚く。

 

「所でさ、レグっちはどうなの? 欠席していたけど・・・・」

 

「うん、今は医療ルームで治療中みたいだよ」

 

 

 

ーレグルスsideー

 

レグルスは現在、ガリィとの戦闘で負傷した右腕と左足の治療の為、S.O.N.G.の基地の医療ルームにいたのだが・・・・。

 

「2989・・・・2990・・・・2991・・・・2992・・・・2993・・・・2994・・・・」

 

レグルスは負傷していない左腕で逆立ち腕立てをしていた。現在レグルスしかいない医療ルームの扉が開き、そこから医者志望のデジェルと様子を見に来たエルシドが入ってきた。

 

「3000・・・・っと、良し後7000回!・・・・ってエルシドにデジェル、どうしたの?」

 

「どうしたの?じゃないだろ。お前こそなにをしているんだ?」

 

「レグルス、身体が鈍らないように鍛練を行うのは悪い事ではないが、少しは安静にしていろ。医療チームが不憫だ」

 

普通ならば全治数ヶ月の負傷で安静にしていなければならないにも関わらず、レグルスは暇さえあれば今のように“片手逆立ち腕立て10000回”や“右足だけ空気椅子四時間”などを行っており、最初は止めていた医療チームだが、今ではもう諦めたのか苦笑いを浮かべていた。まさに医者泣かせ。

 

「所でレグルス。立花の不調をどう見る?」

 

「さぁ? 俺に響の気持ちなんて分からないよ。“大事な人達を守れる力”があるのに、それを使おうとすらしなかった人の気持ちなんてね・・・・」

 

レグルスの顔に僅かに険しくなった。かつてレグルスは力が無かった故に大切な人を守れなかった。そんなレグルスにとって、今の響には苛立ちを覚えていた。

 

「我々や小日向君達が何か言っても、響君は気を使う、イヤ意固地になるだけかもしれんな」

 

「フン、普段は単純明快だが、こういう時はややこしいヤツだ」

 

「マニゴルドとカルディアはそんな響を、“めんどくさい女”って言ってたけどね」

 

「響君はただ、“歌う理由を忘れたから”だと思うが」

 

「“歌う理由”? 友達の命が危ないって状況だったのに?」

 

「響君は我々ほど戦いに対して割り切りができていない。その割り切れない部分が大きくなってしまい、聖詠が歌えなくなった。つまり・・・・」

 

「“歌う理由”を思い出せば、響はまた歌えるか・・・・」

 

同時刻。未来は創世から同じように響が“歌う理由”を忘れたのではないかと聞かされていたが、レグルス達が知る由もない。

 

「しかし今現在戦えるシンフォギア奏者は響君のみ、マリアと切歌君と調君には、三人用のLiNKERが無いから戦力に入れられない」

 

「エルシド、俺達の聖衣は?」

 

「一応弦十郎殿が進言しているが、望みは薄いな」

 

「今回のガリィと呼ばれるオートスコアラーの使用する『エレメントアームズ』と呼ばれる武具、我々聖闘士すら追い込む武器を持った敵だからな」

 

国連上層部は、聖衣が無ければ十全に本領を発揮できない聖闘士達を、あわよくばオートスコアラー達に倒して貰おうと画策しているのではないかと疑い始めていた。

 

「唯一の敵側の情報源と言えるエルフナインは、今司令室でオートスコアラーの事を話している。翼と雪音も同席している」

 

 

 

 

ー弦十郎sideー

 

現在司令室には、司令である風鳴弦十郎と友里に藤尭の他に、風鳴翼とマネージャーの緒川慎司、雪音クリスがエルフナインから『オートスコアラー』の情報を聞いていた。

 

「先日響さんを強襲した“ガリィ”とクリスさんと対決した“レイア”、これに翼さんがロンドンでまみえた“ファラ”と、今だ姿を見せない“ミカ”の4体が、キャロルの率いる『オートスコアラー』になります」

 

「人形遊びに付き合わされてこの体たらくかよ!」

 

「その機械人形は、お姫様を取り巻く護衛の騎士、と言った所でしょうか?」

 

クリスが悪態を付き、緒川がエルフナインに聞いた。

 

「スペックを始めとする詳細な情報は、ボクに記録されていません。ですが・・・・」

 

「シンフォギアを凌駕する戦闘力から見て、間違い無いだろう。それに、レグルスをあそこまで追い詰めた『エレメントアームズ』なる武装・・・・」

 

「『エレメントアームズ』に関しては、ボクの知る限りではまだ設計段階でした。『四大元素』の力を使うオートスコアラー達の力を底上げする錬金術による武装、しかしキャロルの知識を持っても机上の空論のままでしたが、それを実現できたのが・・・・」

 

「双子座の黄金聖闘士、ジェミニのアスプロスか?」

 

「恐らく・・・・」

 

「アスプロスの知識はデジェル兄ぃをも上回るって、聞いてはいたけどよ。何で敵側に付いたんだ? しかもわざわざデジェル兄ぃ達に自分が敵に回ったぞってメッセージまでお前に持たせて」

 

「それは分かりません。ですが、アスプロスさんは油断できない人です。キャロルもあの人には全幅の信頼を寄せており、あの人はキャロルの陣営の参謀とも言える立場にいます」

 

「エルシドから聞いた話では、アスプロスは“銀河をも粉砕する黄金聖闘士”と聞いてはいるが・・・・」

 

「“銀河を粉砕”って、相手が黄金聖闘士じゃなかったらホラ話だろうって笑ってやる所だぜ・・・・」

 

今まで黄金聖闘士達の規格外の戦闘力を見てきた奏者達とS.O.N.G.の面々だからこそ、アスプロスと言う黄金聖闘士の力を警戒していた。

 

「いずれにしても、超常驚異への対応こそ俺達<S.O.N.G.>の使命。この現状を打開するため、エルフナイン君より“計画”の立案があった」

 

『っ!?』

 

弦十郎の言葉に翼達が一斉にエルフナインを見る。とエルフナインの後ろのメインモニターにある文字が表示された。

 

【PROJECT IGNITE】

 

「『プロジェクト イグナイト』だ」

 

弦十郎が宣言するが、エルフナインはただ一つの不安を吐露した。

 

「このプロジェクトを行う前に、一つ聞いておきたい事が在ります」

 

「なんだ?」

 

「恐らく、このプロジェクトが成功すれば現状打開はできます。ですが、アスプロスさんに、双子座<ジェミニ>の黄金聖闘士に対抗しうるとは限りません」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

エルフナインの言葉に一同が黙る。エルシド達からアスプロスの実力は地上最強の黄金聖闘士でも乙女座<バルゴ>のアスミタに匹敵する程の力を持った双子座の驚異があった。

 

「国連上層部には何度も、黄金聖闘士達の聖衣の使用許可を出して貰おうとしているが、歯切れの悪い回答しか来ない・・・・」

 

「上層部は今回の大事を、奏者とS.O.N.G.だけで対応させようとしているのですね?」

 

「新しい黄金聖闘士の存在は伝えたのですか?」

 

「何度も伝えた。だが、上層部は聖闘士達を好き放題させるのに消極的だ」

 

「ケッ、自分達の思い通りに動かない上に、おっさん<弦十郎>すら上回る強者達が恐いってか? 全くそんな弱腰で良く偉そうにふんぞり返っていられるな」

 

驚異が迫っているにも関わらず、目の前の驚異よりも、黄金聖闘士達への警戒を優先している上層部にクリスは悪態を付き、翼も言葉にはしないが、呆れたため息を漏らした。

 

 

ー響sideー

 

学校が終わり、響と未来はS.O.N.G.基地へと向かって降りしきる雨の中を相合い傘で歩いていた。

 

「やっぱりまだ、歌うのが恐いの?」

 

「うん、誰かを傷つけちゃうんじゃないかって思うと、ね・・・・」

 

「・・・・響は、初めてシンフォギアを身に纏った時の事を、覚えてる?」

 

「どうだったかな? レグルス君は空の雲の形から星の数まで覚えてるけど、私は無我夢中だったから・・・・」

 

「その時の響は、“誰かを傷つけたいから歌を歌った”のかな?」

 

「えっ?・・・・」

 

響は以前、レグルスに言われた言葉が脳裏に甦った。

 

【あの時はさ、俺は“この世界”に来て間もなくて、右も左もわからなくて、ノイズと戦う事すら出来なかった。でもさ、響があの時助けようとした女の子を守ろうと頑張ってる姿を見て、あきらめるなって言ってくれたから、俺も頑張らなくちゃなって気持ちになったんだ。あの時の響の頑張る姿があったから、またこうして聖衣を纏って戦う事が出来たんだよ】

 

「(レグルス君は、私が助けようとした女の子を守ろうと頑張っていたって言ってたっけ・・・・)」

 

響の中に生まれた“レグルスに対する黒い感情”と“レグルスに対する一種の憧れ”が響の胸中でせめぎあっていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

すると響と未来の後ろに、大きく赤いロールツインテールをした少女が、大きく口に笑みを作っていた。

 

 

ーエルフナインsideー

 

レグルス達黄金聖闘士の聖衣の事は一先ず置いて、『PROJECT IGNITE』の詳細を説明した。

 

「『イグナイトモジュール』。こんな事が本当に可能なのですか?」

 

「錬金術を応用することで、理論上不可能じゃありません。“リスクを背負う事で対価を勝ち取る”。その為の、『魔剣 ダーインスレイヴ』です」

 

北欧神話に登場する、“一度鞘から抜いてしまうと、生血を浴びて完全に吸うまで鞘に収まらない”と言われた魔剣。ドヴェルグの1人であるダーインの遺産である。

 

ビー! ビー! ビー! ビー! ビー!

 

突如モニターに『Alca-NOISE』と表示され、基地の警報がけたたましく鳴り響く。

 

「アルカ・ノイズの反応を検知!」

 

「位置特定! モニターに出します!」

 

メインモニターに表示されたのは、赤い衣装を着た大きな爪をした少女と、その少女から逃げる響と未来だった。

 

「「なっ!?」」

 

「ついに“ミカ”までも・・・・!」

 

翼とクリスが驚き、エルフナインは『オートスコアラー ミカ・ジャウカーン』の登場に険しい顔色を浮かべていた。

 

 

ー響sideー

 

「「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・」」

 

響と未来は突然現れ強襲してきたオートスコアラー ミカとアルカ・ノイズから逃げながら、ノイズ災害により廃居地区へと逃げていた。

 

「逃げないで歌って欲しいゾ! あっそれとも、歌いやすい所に誘っているのカ? う~~ん・・・・おぉっ! それならそうと言って欲しいゾ! そーれ!」

 

ミカがアルカ・ノイズを先行させる!

 

ナメクジのようなアルカ・ノイズと人型のアルカ・ノイズが響と未来に迫り、二人は廃ビルへとかけ込んだ。

 

 

ーマリアsideー

 

墓地にいたマリア達も本部から襲撃の報せを受けていた。

 

「敵の襲撃・・・・!?」

 

「でもここからでは・・・・!」

 

「間に合わないデス!」

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

ドンッ!

 

「アルバフィカ!」

 

「マニゴルド!」

 

「カルディア!」

 

アルバフィカ達は傘を置いて、響と未来のいる区画へと飛んでいった。

 

 

ー響sideー

 

響と未来は廃ビルの中を上へ上へと逃げていき、先に階段を登る未来の後を響がついていき、ナメクジ型のアルカ・ノイズが一階でウロウロし、ミカも追い付いた。人型アルカ・ノイズが両腕をヨーヨーのように飛ばして、響が登る階段を破壊する。

 

「うわっ!?」

 

「響ぃっ!」

 

階段から落ちた響は床を転がり、錆び腐った手摺を巻き込んで一階へと落ちた。

 

「がはっ!・・・クゥ・・・み、未来・・・!」

 

霞みそうになる視界は上にいる未来とその未来のいる下の階から自分を眺めるアルカ・ノイズ。そしてミカが視界にひょっこり入った。

 

「いい加減戦ってくれないト、君の大切なモノ解剖しちゃうゾ? 友達バラバラでも戦わなければ、この街の人間を、犬も猫もみ~んな解剖ダゾ!! アハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

無邪気に残酷な笑い声を上げるミカに、響はガングニールのシンフォギアクリスタルを握り、聖詠を歌おうとするが。

 

「ーーーー! ーーーー! ーーーー!」

 

「あぁん? 本気にして貰えないなら、フフ♪」

 

聖詠が歌えない響にミカは未来に向けて大きく鋭い爪を向けると、アルカ・ノイズ達が未来に向かう。

 

「あぁ・・・・!」

 

未来は一瞬恐れるが、意を決して響の方を向く。

 

「あのね響! 響な歌は、“誰かを傷つける歌”じゃないよ!」

 

「・・・・?!」

 

「伸ばしたその手も! “誰かを傷つける手”じゃない事を私は知ってる! 私だから知ってる! だって私は! 響と戦って、救われたんだよ!!」

 

「あっ!」

 

「私だけじゃない! 響の歌に救われて! 響の手で今日に繋がっている人、たくさんいるよ! だから恐がらないで!!」

 

未来の必死の呼び掛けを消すように、ミカがアルカ・ノイズをけしかける!

 

「バイならーーーー!」

 

グワァァァァァァァァンッ!!

 

アルカ・ノイズが、未来のいる階を破壊した。そして、響の頭に声が響いたーーーー。

 

《また彼女の手を離すのか?》

 

「っ!・・・・うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」

 

未来の姿と響いた声に、響は雄叫びを上げて歌う、“戦いの歌”をーーーー。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!! とぁああああああああああああああっっっ!!!」

 

シンフォギアクリスタルを掲げた響の身体が目映く輝く!

 

 

ー未来sideー

 

落ちていく未来は、響の戦う姿が走馬灯のように振り返った。

 

「私の大好きな・・・・響の歌を・・・・みんなの為に、歌って・・・・」

 

ガシッ!

 

「ハッ!」

 

目を覚ますと、未来の身体はガングニールを纏った響に抱き抱えられていた。

 

 

ー響sideー

 

響は落ちる破片を飛びながら、着地する。

 

「ゴメン私、この“力と責任”から逃げ出していた。だけどもう迷わない。だから聴いて! 私の歌を!」

 

顔を上げた響のその顔には、迷いが晴れていた。

 

 

ークリスsideー

 

司令室でも、響の状況はモニタリングされていた。

 

「どうしょうもねぇバカだな・・・・」

 

クリスのその顔は、待っていたと言わんばかりの笑みを浮かべていた。

 

 

ー響sideー

 

「行ってくる!」

 

「待っている」

 

響は未来をさがらせて、ミカとアルカ・ノイズと対峙する。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

「オーラララ!!」

 

響は歌を歌い、ミカはさらにアルカ・ノイズを召喚した。

 

しかし迷いが晴れた響は最高のパフォーマンスでアルカ・ノイズ達を蹴散らしていく。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

腕のパーツを上げて、パイルバンカーパンチを地面に叩きつけて、アルカ・ノイズ達を粉砕し、ミカの方へ駆け出し拳を突き出す!

 

ミカは掌から炎の剣を出して響の拳を防ぐが、響のパワーに押し出され、激しい火花を散らしていた!

 

「コイツゥ、弄り概があるゾォ!!」

 

攻められているにも関わらず、ミカのその顔には笑みがあった。

 

 

ーエルフナインsideー

 

「これが、戦闘特化したオートスコアラーのスペック・・・・」

 

「それがどうした? 相手が戦闘特化だとしても、立花が遅れを取るなどあり得ない」

 

エルフナインはミカのスペックに驚嘆するが、翼は余裕の笑みをこぼしていた。しかし・・・・。

 

「敵を甘く見るとは、随分と思い上がりが強くなったな、翼」

 

『ッ!?』

 

司令室の入り口を一同が見ると、レグルスに肩を貸して入室してきたデジェルとエルシドがいた。

 

「レグルス君!」

 

「大丈夫、それよりも・・・・」

 

「あぁ、この程度で勝った気になるのは早すぎる」

 

レグルスとデジェルのその目にも、真剣な眼差しになっていた。百戦錬磨の黄金聖闘士達は直感していた。オートスコアラーはこの程度ではないと。

 

 

ー響sideー

 

「(ニィ!)」

 

ミカが笑みを浮かべ、頭のロールツインテールがまるでバーニアのように火を吹き、その勢いで響を弾き飛ばす!

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

しかし響も弾き飛ばされながらも再び地面を蹴り、横回転しながら拳を叩き込む!

 

「ガァア・・・・!」

 

響はさらに拳をミカに叩きつけようとするーーーー。

 

 

ー翼sideー

 

『(勝った!)』

 

翼達S.O.N.G.一同は響が勝ったと確信したが。

 

「ハッ!」

 

「ムッ!」

 

「ダメだ響ソイツは!!」

 

しかし黄金聖闘士達が叫びを上げると同時に、響の拳がミカの身体に叩き込まれるが・・・・ミカの身体が、“水へと変化した”!

 

 

ー響sideー

 

「あっ・・・・??!!」

 

驚愕する響の目線の先には柱に隠れていた、オートスコアラー ガリィがいた。

 

「氷を操るだけじゃないんだよね。と言う訳でざ~んねん、それは水に映った幻」

 

「なッ?!」

 

響の真下にミカが手を掲げて待ち構えていた。

 

「ハハハハハハハハハ!!」

 

ミカの手から炎の剣が飛び出し、響の胸のシンフォギアクリスタルを貫く!

 

「がぁ! ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!」

 

響はそのまま真上へと飛ばされ、シンフォギアクリスタルが砕けたーーーー。

 

グワシャァァァァァァァァァァァァァァンンッ!!

 

廃ビルの天井を砕いて天高く飛ばされた響のシンフォギアは音を立てて砕けたーーーー。

 

「あっ・・・・あぁっ・・・・」

 

「響ーーーーーーーーーーーー!!」

 

未来の悲鳴が廃ビルに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく復活したと思ったら、速攻でこの様かよ!?」

 

「本当に親友の小日向未来と違って頼りにならねぇな!!」

 

「まったく世話の焼ける・・・・!」

 

『っ!』

 

落下しながらガングニールが砕け、裸体を晒しそうになる響の身体を上着を被せて着地する三人を未来とモニター越しで見ていた翼達、敵対しているミカとガリィもその三人を見た。

 

蟹座<キャンサー>のマニゴルド。

 

蠍座<スコーピオン>のカルディア。

 

魚座<ピスケス>のアルバフィカ。

 

「おぉっ、ガリィ!! アイツらダナ?」

 

「えぇそうですよミカちゃん。アスプロス様から言われた事、ちゃんとやって下さいよ」

 

ガリィはミカに、“赤いグリーブ”を投げ渡し、自分は傷だらけになった“青い籠手”、『水のエレメントアームズ』を身に付けた。

 

「よぉーし! 見せてやるゾ! 初陣ダゾ!! 『火のエレメントアームズ』!!」

 

アルバフィカ達の登場にはしゃぐミカは、ガリィから渡されたグリーブ、『火のエレメントアームズ』を装備した!

 

 




次回、『火のエレメントアームズ』が文字通り火を吹く!

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