聖姫絶唱セイントシンフォギア   作:BREAKERZ

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今回、時系列とかいい加減に造ったと思いますのでご了承くださいm(__)m


絶唱しないシリーズ3 古の恋バナ 宝瓶編

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「(何故こんな事に・・・?)」

 

水瓶座<アクエリアス>のデジェル。黄金聖闘士の頭脳担当にして参謀役、沈着冷静な聖闘士は、今現在自分と最愛の少女、雪音クリスが同棲するマンションの部屋にある“クリスの部屋”のドアの前で立ち往生していた。

 

「クリス・・・・・・?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

廊下で扉越しにクリスに呼びかけるが、おそらくドアの内側から自分に背を向けているであろう少女は沈黙していた。

 

「(一体何故こんな事に・・・・・・イヤ、ずっと先送りにしていた“ツケ”が来たと言うべきか・・・しかしカルディアめ・・・! クリスに“セラフィナ”様の事を話すとは・・・!!)」

 

 

~数時間前~

 

話は年が開け、『フロンティア事変』を起こしたFISのシンフォギア奏者、マリア・カデンツァヴナ・イヴと月読 調と暁 切歌がようやく収容所から一時的に釈放され、特異災害機動部二課に所属する聖遺物『絶剣 天羽々斬』のシンフォギア奏者、風鳴 翼と聖遺物『撃槍 ガングニール』奏者 立花響に連れられ、聖遺物『魔穹 イチイバル』奏者 雪音クリス、響の親友にして二課の民間協力者兼『琴座<ライラ>の白銀聖闘少女<セインティア>候補』小日向未来と再会した。

「マリアさん! 調ちゃん! 切歌ちゃん!」

 

「よぉ・・・!」

 

「久しぶり・・・・」

 

「(ペコッ)・・・・」

 

「デ~~ス・・・・」

 

元気良く挨拶するクリスと未来と対処的に、マリア達はまるで御通夜のような雰囲気だった。訝しんだクリスと未来は翼と響に近づく。

 

「翼さん、マリアさん達どうしたんですか?」(ヒソヒソ)

 

「わからん。一体どうしたのか・・・・」(ヒソヒソ)

 

「響、何かあったの?」(ヒソヒソ)

 

「え~~とね・・・・」(ヒソヒソ)

 

「釈放されたアイツらとなんか話したか?」(ヒソヒソ)

 

「実はね・・・」(ヒソヒソ)

 

「どうしたの・・・?」(ヒソヒソ)

 

「ウム、マリア達が釈放されて再会した時にな」(ヒソヒソ)

 

「「フムフム」」(ヒソヒソ)

 

「見ての通りマリアも暁も月読も、我々と敵対していた時の“刺々しさ”が無くなっているだろう・・・?」(ヒソヒソ)

 

「「(チラッ)確かに・・・」」(ヒソヒソ)

 

すっかり御通夜全快のマリア達には、敵対した時にあった刺々した敵意とトンガッタ雰囲気が無くなっていた。

 

「それで再会した時に、“丸くなったな”と言ったのだが、そしたらあのようになったのだ・・・」(ヒソヒソ)

 

「つまりね、そういう事・・・」

 

「なるほど・・・」

 

「分かったのかよ・・・?」

 

「マリアさんも調ちゃんも切歌ちゃんも、“自分の体型が丸くなった”と思っちゃったんじゃないかな・・・?」

 

翼の言う“丸くなった”と言うのは纏う雰囲気や目付きや表情の事であったのだが、言われた当人達は“体つき”が丸くなった、つまり“太った”と言われたと勘ぐったのだ。

 

「そんなつもりで言った訳では無いのだが・・・」

 

勿論、翼本人もそんなつもりは全く無いのだが、そこは年頃の女の子である調と切歌や、成人しているとは言えマリアも女性、プロポーションの事を気にするのが“女心”と言える。『フロンティア事変』の後から年明けまでずっと収容所で生活し、運動も録に出来ない食っちゃ寝の日々に、不安を抱いていた。

 

「このままじゃ駄目だよね・・・」

 

「響・・・?」

 

意を決して響がマリア達に近づくが、未来と翼とクリスは“嫌な予感”を感じた。

 

「大丈夫だよマリアさん! 調ちゃん! 切歌ちゃん!」

 

「「「えっ・・・?」」」

 

「これから運動して! 太った身体を元に戻せば良いんだよ!!」

 

「「「ふ、太ったっ!!??」」」(ガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンンっ!!!)

 

響は精一杯のフォローのつもりが追い討ちイヤ、止めを刺してしまった。

 

「「「(ズ~~~~~~~~~~ン・・・・)」」」

 

潜在的に太ったと心配していたそんな心境なのに、翼の悪意は無いがデリカシーゼロ発言に打ちのめされ、更にそこに響のKY発言で完全にノックアウトされてしまっていた。完全に落ち込んだマリア達を見て、響は失言したとようやく悟った。

 

「ど、どどどどどどどどどうしよう、未来・・・!」

 

「どうしようって言われても・・・」

 

「雪音! フォローしてくれ・・・!」

 

「無茶振りすんなぁ!」

 

どうフォローすべきかアワアワとなる二課奏者達。すると・・・・。

 

ブロロロロロロロ・・・・キィ。

 

そんな一同に、迷彩カラーで中型のジープ・ラングラーが近づき、後部座席のドアが開くと。

 

「アレ? なにしてンの響達?」

 

「何でマリア・カデンツァヴナ・イヴ達は落ち込んでいるんだ・・・?」

 

『レグルス(君)っ!!! デジェル兄ぃ/デジェル(さん)っ!!!』

 

車から降りたきたのは、“地上最強の神話の闘士”、アテナの聖闘士の中でも黄道十二星座の一角、獅子座<レオ>の黄金聖闘士 レグルス(戸籍上ではレグルス・L・獅子堂)と水瓶座<アクエリアス>の黄金聖闘士 デジェル(デジェル・A・水瓶<ミヘイ>)の登場に、響達は救世主!と云わんばかり喜んだ。

 

「「本当に何事・・・・??」」

 

レグルスとデジェルは首を傾げる事しか出来なかった。

 

 

~事情説明中~

 

 

「なるほど、そういう事か・・・」

 

「体型なんてそんなに気にする事じゃないと思うけどな~」

 

「そりゃレグルス君達のような男の人達はそうだろうけどね・・・」

 

「女の子はそういうのを気にしちゃうんだよ・・・」

 

「ハァ、まぁ丁度良いか。オ~イ、そろそろ降りて来なよ!」

 

事情を聞いて呆れるレグルスとデジェル。レグルスはジープ・ラングラーに顔を向け声をかけると、運転席と助手席のドアが開き、そこから降りて来たのは。

 

「たくっ、なにやってんだか・・・」

 

「待ちくたびれたぜ・・・」

 

運転席から降りて来たのは、青い髪を横にツンツンと伸びる短髪をした男性と、群青色の腰にまで届く癖っ毛の長髪をした男性、二人とも顔つきは整って要るもののそのガラの悪さから、ギャングかヤクザと言われても差し支えない格好をしていた。

 

「あっ・・・・!」

 

「あぁ・・・・!」

 

切歌と調はその二人の姿を見て落ち込んでいた顔つきが喜色に染まる。

 

「マニゴルド・・・!」

 

「カルディア・・・!」

 

青い髪をした男性は、レグルスとデジェルと同じ黄金聖闘士、蟹座<キャンサー>のマニゴルド。群青色の癖っ毛の長髪男子は、蠍座<スコーピオン>のカルディア(因みにマニゴルドは戸籍上の名前は“マニゴルド・C・蟹山”、カルディアは“カルディア・S・蠍岡”と名乗っている)。

 

「マニゴルドーーーーーーーーーーーーっ!!!」

 

「カルディアーーーーーーーーーーーーっ!!!」

 

切歌はマニゴルドに、調はカルディアに抱きつこうとし、マニゴルドとカルディアは少し腕を広げて受け止めようとする。

 

「感動の再会だね・・・!」

 

「何か泣けてくるね・・・!」

 

「暁も月読も、口では“面会に来なくて冷たい奴等だ”と愚痴っていたがな・・・」

 

「本心は違ってたんだな」

 

奏者達は四人の再会を眺め。マリアは魚座<ピスケス>のアルバフィカが居ない事に肩を落とす、心無しか暗いオーラを出して。

 

「やっぱりアルバフィカは居ないのね・・・」(ズ~~~~~~ン)

 

「アルバフィカも出来る事なら来たかったのだが・・・」

 

「何か南米の方で聖衣の反応が合ったからソッチの方へ行ったみたいだよ・・・」

 

「私より聖衣の方が大切なのね・・・」(ズ~~~~~~~~~ン)

 

暗いオーラが更に強くなり、その場に蹲って地面に指で“の”の字を書きながらいじけるマリアのフォローをするレグルスとデジェル。

 

ムギュッッ×2

 

「フギュッ!?」

 

「あうっ!」

 

『えっ・・・?』

 

切歌と調の声と響達の間の抜けた声にレグルス達が目を向けると。

 

切歌の両頬を摘まんだマニゴルドと。

 

調の両頬を掌で押さえてブニブニしているカルディアだった。

 

「イダダダダダダダダダダダダダっ! ひゃひゃ、ひゃにふるレェスくぁ!ファニコルブォ!!(なな、何するデスか! マニゴルド!!)」

 

「ン~~? お前らが本当に太ったのか確かめてやってンだろうが♪」

 

ギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ~~。

 

ちゃっかりレグルス達の会話に聞き耳立てていたのか、切歌の頬を摘まみ上げ、身体を宙ぶらりん状態にさせながらニヤニヤ笑みを浮かべるマニゴルドと、ぶら下がった状態で手はマニゴルドの腕を掴み、宙に浮いた足をジタバタさせる切歌。

 

「ンン~~~~この肌のプニプニ感と引っ張り具合からすると、FISの時と違ってそれなりに栄養が取れる日々を送っていたようだなぁ・・・?」

 

「ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・!」

 

「アァ、こうやって切歌を虐めていると切歌が帰ってきたって実感が湧くわぁ・・・!」

 

「いひめるっふぇふぁんレフくぁっ!?(虐めるって何デスかっ!?)」

 

懐かしむようにしみじみした感じているマニゴルドにほぼ涙目で精一杯のツッコミをする切歌。

 

「う~~~~~~~~~~む・・・・・・」(プニプニプニプニプニプニプニプニプニプニ・・・・・・)

 

「カ、カルディア・・・・・・」

 

「この肌の張り具合と柔らかさからすると、あんま太った感じはねぇな・・・・」

 

「本当・・・!?」(パァ・・・!)

 

「しかし、もう少し調べてみっか・・・・」(プニプニプニプニプニプニプニプニプニプニ・・・・・・)

 

「うぅ~~~~~~!!」

 

マニゴルドと違っておふざけ大半だが、調が太ったか検査しているカルディアの言葉に、調は絶賛頬をカルディアに弄られながら喜色の表情になるが、すぐにまた弄られ唸り声を上げる。

 

『(ポカ~~~~~~~~ン・・・・)』

 

「アルバフィカから一応は聴いてはいたけど・・・」

 

「いつもあんな感じなのか? あの四人は・・・・?」

 

「・・・・あんな感じよ。ご飯のオカズを取り合ったり、口喧嘩の延長戦であぁなったりとね、まぁただジャレ合っているだけだから気にする事ないわ」

 

奏者達は突然繰り広げられる漫才に唖然となり、レグルスとデジェルは事前にアルバフィカに聞いてはいたが呆れ、漸く立ち直ったマリアが解説する。すると、調を弄くり回しているカルディアがデジェルの方を向く。

 

「所でよデジェル・・・」

 

「何だカルディア?」

 

「お前、“セラフィナ様”の事、イチイバル<クリス>に話したのか?」

 

「(ギクッ!!!)」

 

「デジェル兄ぃ・・・・??」

 

デジェルの態度と首を傾げるクリスを見て、ニヤリと笑みを浮かべて次の言葉を並べる。

 

「何だよ話して無かったのか? お前の“初恋の人”!!の事をよ♪」

 

『えっ・・・!?』

 

「デジェルの初恋??」

 

「ほぉほぉ・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁっ?」

 

“初恋の人”の部分を強調したカルディアの言葉に奏者達驚き、レグルスは首を傾げ、マニゴルドはニヤ付き、クリスの瞳はハイライトが消え失せカルディアに詰め寄る。

 

「オイ、スコーピオン、今の話詳しく教えろ・・・!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「クリス待て・・・・!!」

 

「お前が待てデジェル♪」

 

「私達も詳しく知りたいです!!」

 

クリスを止めようとするデジェルを切歌を離したマニゴルドが羽交い締めし、響達も聞こうとデジェルを押さえる。

 

ガブッ!

 

「ん? ギャアアアアアアアアアアアアアアっ!! 何しやがる切歌!!!」

 

頬を離された切歌はマニゴルドの頭に噛み付く。

 

「うるさいデス! 乙女の頬を引っ張り回す奴には噛み付きの刑デス! 蟹ミソぶちまけるデェスッッ!!!」ガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジ!!!

 

「いでででででででででででででででっ!!!」

 

ギャーギャー騒ぐ切歌とマニゴルドなど眼中に無いと云わんばかりにクリスはカルディアから“セラフィナ”と言う女性の事を聞いた。

 

セラフィナと呼ばれる女性は、デジェルが候補生だった頃の修行の地であったブルーグラードの領主の娘で、極寒の過酷な地方であったブルーグラードに各国に援助を求めて伴走する女性で、まるで“太陽のような女性”で、多くの民から慕われ、デジェルも恋慕の感情を抱いていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

カルディアの話が終わるとクリスは俯き先程のマリアと以上の暗いオーラを放ちながら、目は前髪に隠れゆっくりとデジェルの方へ歩み寄る。

 

『うわ~~~~~~~~』

 

響達もレグルスもクリスのオーラにさっきまでジャレ合っていたマニゴルドと切歌も引く。

 

「ク、クリス・・・・」

 

デジェルも冷や汗を流しながらクリスに話し掛けると。

 

「お兄ちゃんの・・・・お兄ちゃんの・・・・!!」

 

顔を上げたクリスの目には涙が溢れ。

 

「バカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」

 

ドグォンッッ!!

 

「ぐおっ!!」

 

クリスの正拳突きがデジェルの鳩尾にクリティカルヒットした!

 

「おぉ! 見事な正拳突き!!」

 

「腰が入った良いパンチだわ・・・・!」

 

「切歌! いい加減離れやがれ!!」

 

レグルスとカルディアはクリスの攻撃に感心し、マニゴルドは未だ自分の頭に噛み付く切歌を引き剥がそうとする。

 

「ッッ!!!」

 

クリスはそのまま走り去って行った。

 

「クリスちゃん!!」

 

「雪音!!」

 

「デジェルさん! 急いで追いかけないと!!」

 

「わ、分かってはいるのだが・・・!」

 

「鳩尾に本腰入れた正拳突き、下手すると呼吸困難で死ぬ威力だね」

 

「思った以上に面白い事になったな♪」

 

「カルディア、何でアクエリアスの初恋の人の事なんて話したの?」

 

「交際中の女の子に隠し事なんてやってる奴にちょっとお仕置きをな・・・」

 

「本心は・・・?」

 

「『フロンティア事変』の時に、俺とのタイマン勝負を手加減しやがった腹いせ」

 

「だと思った・・・」

 

マリアと調は、デジェルとカルディアの一対一の戦いの時にデジェルが手加減した事を根に持っていた事に呆れ。

 

「オイコラお前ら! それよりも俺を助けろや!!」

 

「ガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジ!!!」

 

マニゴルドと切歌はまだジャレ合っていた。

 

 

 

~現在~

 

マンションに戻ったデジェルは部屋に引きこもったクリスに呼び掛けるが、応答しなかった。

 

「う~~む、これは中々面白い、もとい大変な事になったなぁ♪」

 

「見てる分にはニヤニヤが止まらねぇけどよ♪」

 

「二人とも、悪趣味よ・・・・」

 

ニヤニヤ笑みを浮かべながらドアの隙間から中の様子を伺うマニゴルド(頭に歯形を付けていた)とカルディアにマリアが諌める。

 

「やっぱり、私達もクリスちゃんを説得しよう・・・」

 

「バカたれ」

 

ガン!

 

「あだっ!」

 

「向こうから“助けて”と言われた訳じゃねぇのに、男と女の問題に、お前らが口出しするんじゃねぇよ」

 

中に突撃しようとする響にマニゴルドが拳骨で大人しくさせる。

 

「しかし、このままと言う訳には・・・」

 

「大丈夫だろ、デジェルも何れは言わなきゃいけなかった事を先送りにしていた事だからな・・・・」

 

 

 

ーデジェルsideー

 

「クリス、少しだけ私の話を聴いてくれ・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

何も言わないがクリスがドアに居る事を気配で察していた。

 

「少し昔の話をさせてほしい・・・・」

 

デジェルは静かに、静かに語った。

 

自分は確かにセラフィナに憧れていた、恋慕の感情すら抱いていた事。

 

過酷な環境のブルーグラードの領主の娘で故郷とその民を幸せにしようと奔走する太陽のような女性だった。

 

デジェルはブルーグラードを良くしようと親友であり、セラフィナの実弟であった“ユニティ”といつかブルーグラードの架け橋を掛けようと“夢”を誓った事。

 

しかし、現実はかくも残酷に二人の少年の“夢”を無惨に引き裂いた。

 

セラフィナが、死んだ。

 

ただの風邪だった。しかし過酷な極寒の環境のブルーグラードの民にとってただの風邪ですら恐ろしい病であり、セラフィナは風邪を拗らせそのまま帰らぬ人となった。

 

デジェルがそれを知ったのは、地上を滅ぼさんとする冥界の神 ハーデスが率いる冥王軍と、地上の平和を守るためにアテナと聖闘士達の聖戦の真っ只中であり、任務でブルーグラードに赴いた時初めて知ったのだ。

 

そしてセラフィナの実弟ユニティは、故郷ブルーグラードの為に奔走してきた姉の不遇な死により世に絶望し、ブルーグラードが監視していたアテナのもう一人の宿敵、海皇ポセイドンの封印を一時的に解き、ポセイドンに使える海闘士<マリーナ>の頂点、七海を守護する七人の海将軍<ジェネラル>の一人、海龍<シードラゴン>の海闘士へとなりデジェルと戦い敗北した。

 

だが、何と死んだセラフィナの遺体はポセイドンの依り代とされ、暴走を始めたポセイドンの力を防ぐ為にデジェルは依り代にされたセラフィナの遺体とポセイドンの居城 海底神殿アトランティスのある海底ごと自分を『オーロラエクスキューション』で氷で凍てつかせ封印し、命を燃やし尽くした。

 

「・・・・うっ・・・・・・うぅッ・・・・・」

 

「私は、セラフィナ様の死にも、それによるユニティの暴走すら見抜けなかった。私が気付いていれば、違う結果になっていたかもしれないと何度も考えた事も有ったよ・・・・」

 

セラフィナとユニティとデジェルの間に起こった悲劇に、クリスは何も答えなかったが、ドア越しから嗚咽が僅かに漏れていた。

 

 

ーマニゴルドsideー

 

「うぅっ・・・・!」

 

「あぁっ・・・・!」

 

「「・・・・・・・・」」

 

「「(ズビーーーー・・・・)」」

 

響と未来も嗚咽を漏らし、翼とマリアも一筋の涙を流し、切歌と調はマニゴルドから貰ったホケットティッシュを涙を拭いたり鼻をかんだりして使いきっていた。

 

「(デジェルにそんな事が有ったのか・・・・)」

 

「(ついでに言うとその場所には俺も居てな、俺らの任務を妨害しようと“魔女パンドラ”も海底神殿に来ていたんだよ・・・)」

 

「(ハーデスの腹心のあの魔女か、今気付いたが天羽々斬<翼>って、パンドラと声が似てんな?)」

 

「(そう言えば、でも何で今まで気付かなかった・・・・)」

 

「「(・・・・・・・・・・・・)」」

 

マニゴルドとカルディアはデジェル達の様子を伺っていた翼の髪の色と“ある一部分”をチラッと見ると。

 

「「(あぁっ、“あれ”か・・・・)」」

 

「(???)」

 

翼とパンドラの声が似ていたのに気付かなかった“理由”を知り頷いたが、レグルスは何の事か分からず首を傾げる。

 

 

 

ーデジェルsideー

 

「お兄ちゃんはさ・・・・・・・・」

 

そこで漸くクリスが話しかけた。

 

「お兄ちゃんは、今でもセラフィナって人の事を・・・・」

 

“愛してるの?”と聞けなかった、クリスはデジェルが好きだ。“LIKE”方では無く勿論“LOVE”の方で、デジェルといつまでも一緒にいたいと心から想っている程にデジェルの事を愛していた。そのデジェルの心に未だセラフィナが居るなどと、恐くて聞けなかった。

 

「・・・・・・・・・クリス、『ルナアタック』の時に、私とエルシドとレグルスが、フィーネの策略で『夢神<モルペウス>の門』に捕らわれた事を覚えているかい・・・?」

 

「うん・・・・」

 

「あの時、我々はそれぞれ夢神の神具によって夢幻を見せられた。レグルスは父である先代獅子座<レオ>の黄金聖闘士 “イリアス様”を、エルシドはかつての盟友“峰”と“フェルサー”を、そして私は、セラフィナ様もユニティ、そして恩師である先代水瓶座<アクエリアス>の“黄金聖闘士 クレスト先生”が現れた・・・・」

 

「っ!?」

 

「当然、夢に現れたセラフィナ様達は、私に夢の中で生きようとと誘ってきた・・・・夢であり、幻だと言う事は分かっていた。それでも、私はもう一度あの日々に戻れるならと考えてしまった。だが、聴こえたんだ・・・・」

 

「何を・・・・??」

 

「・・・・君の、クリスの歌声が・・・」

 

「っ・・・・」

 

「ユニティの事も、クレスト先生の事も、勿論セラフィナ様も、私にとっては“掛け替えのない思い出”だ。だが、私にとっては今この時、この瞬間に、私の傍にいる“掛け替えのない人”と過ごすこの時の為に、私は此処にいる・・・・」

 

ドアが少し開き、そこからクリスが顔を出す。

 

「“掛け替えのない人”って・・・?」

 

「クリス、それは・・・・君だ。君が私にとっての“掛け替えのない人”だ・・・!」

 

「~~~~~~~!!」

 

クリスは顔を赤らめて、デジェルの胸に飛び込み、顔を埋め、デジェルはクリスを優しく抱き締める。

 

「お兄ちゃん・・・・!!」

 

「クリス・・・・」

 

お互いを愛おしそうに見つめ合うデジェルとクリスを食い入るように身を乗り出して見つめる響達とマニゴルドとカルディア。

 

ジ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!

 

ガタッ!

 

「あれっ!?」

 

「キャッ!」

 

「うわっ!」

 

「デェスっ!?」

 

「あっ・・・!」

 

「アララっ!?」

 

「うおっ!?」

 

「おぉっ!」

 

「倒れるよ」

 

バタンっ!!

 

「「っっ!!??」」

 

ドアからの派手な音にハッ!とデジェルとクリスはドアを向くと、響を一番下にしてドミノ倒しのように倒れる奏者達とマニゴルドとカルディア、レグルスだけは倒れず後ろいた。

 

「クソッ、後ちょっとだったのによ・・・・!」

 

「たくっ・・・・!」

 

「イタタタタタ・・・・」

 

「身を乗り出し過ぎたか・・・・」

 

「調、乗り過ぎデス・・・・!」

 

「切ちゃんだって・・・・!」

 

「いいから、早く退いてよ・・・・!」

 

「皆、大丈夫? 特に響?」

 

「つ、潰れるよ・・・・!!」

 

ドスンっ!

 

『ッッ!!?』

 

突然の足音に倒れた一同がギギギギと壊れたブリキ人形のように音がした方へ目を向けると。

 

「な~にしてんだぁ~お前ら~~!!」

 

地獄の底から響くような重い声を放ち、地獄の悪鬼達も裸足で逃げる程の迫力と威圧感を放つ雪音クリスだった。デジェルも呆れながら苦笑いを浮かべる。

 

「ク、クリスちゃん、イヤその・・・!」

 

「クリス! 落ち、落ち着いて・・・!」

 

「雪音、れ、冷静になれ・・・・!」

 

「「「アワワワワワワワワワ・・・・!!」」」

 

響と未来と翼は何とかクリスを宥めようとし、調&切歌はマリアに抱き付き、マリアも二人を抱いてガタガタと振るえる。

 

「イヤ~~惜しかったなぁ!」

 

「後少しでチュウまでは行けると思ったのに・・・!」

 

「デジェルとクリスは本当に仲良しだなぁ♪」

 

出歯亀根性丸出しのマニゴルドとカルディア、暢気に二人を祝福するレグルス。

 

「・・・・・・・・さっさと、出ていけーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」

 

『はいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッッ!!!』

 

「「「はいはーい」」」

 

奏者達は仰天しながら、聖闘士達はマイペースに出ていったのを確認すると、クリスはドアを乱暴に閉めて、鍵を掛けた。

 

「アイツら・・・・!!」

 

「全く、仕方ないな・・・」

 

「お、お兄ちゃん・・・その・・・///////」

 

「クリス・・・」

 

「あっ・・・」

 

デジェルとクリスはそのまま顔をゆっくり近づけ。

 

 

 

 

 

 

チュっ❤

 

 

 

 

 

二人の唇が重なった。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん・・・・//////」

 

「そろそろ“お兄ちゃん”ではなく、呼び捨てで呼んで欲しいな?」

 

「もう少し、“お兄ちゃん”って呼ばせて・・・その、ちょっとまだ照れくさいから・・・//////」

 

「分かった」

 

二人はお互いを優しく抱き締め合った。

 

 

 




さて、これで『絶唱しないシリーズ』は一時終わり、次回で『GX編』に突入します。多分12月の中頃に出ると思います。

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