「貴女と私、戦いましょうか?」
「え?そういう意味じゃありません。私は翼さんと力を会わせて・・・」
「分かっているわ。そんな事」
響の言葉を翼が遮る。
「だったらどうして?」
戸惑う響に翼はにべもなく言う。
「私が貴女と戦いたいからよ」
「え?」
「(翼・・・)」
「(結構過激だな~)」
エルシドは鋭い目を翼に向け。レグルスはいつでも響を守れるように響の後ろに控えていた。
「私は貴女を受け入れられない。力を会わせ貴女と共に戦うなど、風鳴翼が許せる筈がない!」
「・・・・・・」
「(あ)」
レグルスはエルシドの雰囲気に気付く。響に刀を突きつけた翼は響に言う。
「貴女も『アームド・ギア』を構えなさい。それは常在戦場の意思の体現。いや、貴女が『何者をも貫く無双の一振り ガングニール』を纏うのであれば胸の覚悟を構えてみなさい!」
「(昨日今日ガングニールを纏った響にいきなり対人戦闘なんて、無茶だと思うけどなぁ・・・)」
チラリとエルシドを見るレグルス。
「・・・・・・」
「(そろそろヤバいかも)」
無言のエルシドを見てレグルスは思う。翼の言葉に響は『驚き』と『畏れ』と『戸惑い』が混じった顔をする。
「か、覚悟とかそんな・・・私、『アームド・ギア』なんて分かりません。分かってないのに『構えろ』なんて!そんなの全然分かりません!」
響の言葉に翼は刀を降ろして背を向けながら言う。
「覚悟を持たずにのこのこと遊び半分で戦場に立つ貴女は、奏の・・・奏の何を受け継いでいると言うの!?」
振り向いたその目には明らかな『敵意』が宿っていた。絶句する響を無視して翼は行動を起こそうとするがその肩を誰がが掴む。
「ッ!エルシド・・・!」
「・・・・・・何をしている翼」
エルシドの顔を見上げた翼に戦慄が走る。エルシドの目には『怒気』が宿っていたからだ。
「離してくれエルシド!私は認めない!こんな・・・こんな覚悟もない者が奏のガングニールを纏うなど!」
響を睨み付ける翼。翼に睨まれ萎縮する響をレグルスは背中に庇う。そしてエルシドは。
「そうか。この・・・バカ者が」
ドガっ!!
「ガハッッ!!??」
「翼さん!!」
「うわ~、容赦ないな」
翼の腹部に膝蹴り(かなり手加減した)をお見舞いするエルシド。
「な、何をするエルシド・・・」
蹴られたときに数メートル吹き飛ばされ腹部を押さえながらよろよろと立ち上がる翼。そんなのお構い無しに翼に近付くエルシド。
「翼。言ったはずだ。『盲信』に捕らわれるなとな。お前は戦場にた立って間もないひよっ子に何をしようとした?」
静かに。だが確実に怒っているエルシドに翼はそれでも食い下がる。
「エルシド・・・お前なら・・・お前だけはわかってくれると思っていたのに・・・奏を『シジフォス』を失った気持ちを」
「お前は奏の『影』に捕らわれているだけだ」
エルシドの言葉に翼は激昂する。
「奏を『過去』にするな!いくらエルシドでもそれだけは許さない!!」
「許さないならどうする?言っておくが立花と戦うと言うなら俺が相手になる。レグルス、立花を連れて離れていろ」
「了~解。響ここは少し離れるぞ」
「え?」
レグルスに引っ張られ後退する響。
「何故だエルシド。何故彼女を庇う!何故あんな!」
「ひよっ子を守るのは年長者の務めだ」
「エルシド。そこを・・・どけぇぇぇぇぇ!!」
エルシドに『蒼の一閃』を放つ翼。だがエルシドはかわす。エルシドに肉薄した翼は刀を振り下ろす!
「翼さん!エルシドさん!レグルス君こんなのダメだよ!翼さん達が戦うなんて!」
慌てる響だがレグルスは冷静だった。
「安心しなよ響。エルシドは全然本気なんて出してないから」
え?とレグルスの言葉に首を傾げる響。
「見てみなよ響。エルシドの奴『手刀』を使ってないだろ?」
レグルスに言われエルシドを見る響。確かにエルシドはノイズを切り裂く右手の『手刀』を使っていない。ただ翼の攻撃をかわしているだけであった。
「ホントだ」
「エルシドの右手はな、『この世の万物を切り裂く聖剣』とまで言われるほどの切れ味を誇っているんだ。その右手を使わないってことはエルシドが『本気じゃない』って意味なんだ」
「じゃどうして翼さんと戦っているの?」
「さぁ?何かあの二人にしか分からない『何か』があるんじゃないの?(人の心はどんなに『目を凝らしても』分かる者じゃないな)」
『人の心の機敏』に疎いのがレグルスの弱点なのだ。さて翼とエルシドの戦い(喧嘩?)は一見翼が押しているように見えるが翼は解っていたエルシドが『本気』ではないことに。
「エルシド!何故『手刀』を使わない!私を侮っているのか!?」
「逆上せるな。『大義』なき剣を相手に振るう程、俺の『手刀』は安くない!」
「くっ!」
翼にとってエルシドは奏とシジフォスがいなくなった後、お互いの背中を守りながらノイズと戦ってきた『戦友』であり『相棒』だった。共に『双刃』とまで言われるほどの。だからこそ解ってくれると思っていた。解ってくれると思っていたのに。
「エルシドの・・・エルシドの・・・バカ野郎ォォォォォォォォォォォォォォ!!」
『千の落涙』を放つ翼!だがエルシドは迫る無数の剣をかわす。だがエルシドの注意が一瞬それるのを見切った翼は上空に飛び、歌を歌い『最大の技』を放つ!持っていた刀を巨大化させ柄の部分を蹴り相手に突き刺す技。
『天ノ逆鱗』
巨大化した大剣はエルシドに向かう!エルシドは避ける動作も迎撃もしようとせずジッとしていた。
「エルシドさん!」
「(ん?成る程)」
なにもしないエルシドに響は悲鳴を上げレグルスはエルシドの魂胆を察知した。大剣の切っ先がエルシドに近付く次の瞬間!
「コラッ!」
突然弦十朗がエルシドの前に現れ翼の大剣を拳(!?)で止めた!辺りに拳と大剣のぶつかりで衝撃波がおきる!そして翼の大剣が蒼い粒子を上げて消滅する。
「叔父様!?」
「フッ流石だ。弦十朗殿」
「(ヒュ~♪弦十朗ってこんなに凄いんだ!白銀聖闘士位はあるかも♪)」
叔父である弦十朗の登場に翼は驚き、(最強の)黄金聖闘士は称賛した。
「オオオオォォォォォォォォォォォォォォ!!トオッッ!!」
弦十朗が気合いを入れるとアスファルトが陥没し辺りの地面が吹き飛んだ!吹き飛んだ地面の上に翼が落ちてきた。スプリンクラーも機動し雨が降っているようだった。翼と響はシンフォギアを解除され制服姿に戻っていた。
「あ~あ、こんなにしちまって、なにやってんだお前達は?この靴、高かったんだぞ」
「ごめんなさい・・・」
「一体何本の映画を借りられると思ってんだよ」
「失礼ながら弦十朗殿。被害の大半は貴方のせいです」
「てか弦十朗。『映画』って何だ?今度教えてよ」
呆れ顔で言う弦十朗に響は謝罪するがエルシドは元の鉄面皮で冷静に突っ込みレグルスは的はずれの質問をする。だが翼は顔を伏せ目元は暗い影が指していた。弦十朗はそんな翼に近付き。
「らしくないな翼。エルシドを相手にロクに狙いも付けず動きも封じずぶっぱなしたのか?それとも・・・!」
弦十朗は翼の様子から察する。エルシドも戦ってる最中に気付いていた。
「お前泣いて」
「泣いて何かいません!涙なんて流していません。風鳴翼はその身を剣と鍛えた戦士です。だから・・・」
「翼さん・・・」
何処か悲痛の翼の言葉にその場が静かになる。エルシドが何かを決意したかのように口を開く。
「弦十朗殿、頼みがある」
「エルシド?」
「何だ?エルシド」
チラリと顔を伏せたままの翼を一瞥した後に弦十朗に向き直り。
「翼とのコンビを『解消』させてほしい」
「「「!?」」」
「!?(そう来たか)訳を聞いて良いかエルシド?」
「・・・私情に捕らわれ大義を見失い剣を向ける相手を履き違えるような者に背中を任せられん」
「(!?)」
エルシドの言葉に翼は頭を鈍器で殴られたような衝撃が走った。
「エルシドさん!そんな言い方・・・」
抗議しようとする響を弦十朗が制し。
「翼、お前は?」
「構いません。もう私は、エルシドの助けなど必要ありません!」
顔を伏せたまま翼は叫ぶ。エルシドは翼に背を向け弦十朗は翼を起こし響は翼を励まそうとする。
「私、自分が全然ダメダメなのは分かってます。だからこれから一生懸命頑張って。『奏さんの代わり』になって見せます!」
「(ん~?)」
響の言葉にレグルスは首を傾げるが翼は。
「!!」
響の頬をひっぱたこうとするが。
「!」
「レグルス君!」
「ここまで。だろう翼?お~いて」
レグルスが響を庇って受ける。だが響とレグルスは見た。翼が『泣いて』いた事に。そのまま翼は弦十朗に連れていかれ、その場には響とレグルスとエルシドが残ったがエルシドは本部に戻らず去ろうとするが立ち止まり。
「立花。一つだけ言っておく」
「エルシドさん・・・」
「『奏の代わり』になろうとするな」
「え?」
そう言ってエルシドは去っていった。
「なぁ響」
「ん?」
「響は響だよ。『奏の代わり』じゃない響は響だ」
「え?それってどうゆう?」
「ごめん。俺もよく解んないけど。ただ何となくそう思っただけ」
スプリンクラーの雨が降る中、響とレグルスも本部に戻った。翼との間に亀裂を残したまま。
それから数日が経ち。翼と響はノイズ退治をしていたが連携も何もせず。バラバラに戦っていた。エルシドは翼にレグルスは響に各々付いていたが戦闘に参加せず響と翼の戦いを見てるだけだった。
翼はエルシドに見せ付けるような戦いをしていたがエルシドは興味なしの態度であった。
響はやはり素人なのでまともに戦う事ができず途中でレグルスがそっと手助けしていた。
ーリディアン女子寮ー
ノイズ退治と学校の二重生活で貯めていた課題を片付けようとしていたが翼の事とエルシドとレグルスに言われた『奏の代わりになるな』・『響は響』の意味を考えていたが答えが出なかった。
「(レグルス君にエルシドさんの言ってた『奏さんの代わりになるな』ってどうゆう事なんだろう)私、このままじゃ駄目だ・・・」
一緒に課題を片付けていた未来は響の弱音を聞き、不安そうに見つめていた。
ー風鳴邸ー
そして翼も胴着を着て真剣の前で瞑想に耽っていた。思い出すはは二年前の天羽奏の死んだ日。『最後の手段』を使ってノイズ達を全滅させた奏。だがその代償は『奏の死』という余りにも残酷な結果だった。
「奏!」
悲痛な声を出し奏を抱き起こす翼。弱々しい声で奏は言う。
「どこだ・・・翼」
目を開けているのに、目の前にいるのに奏の目には翼は映らない。
「真っ暗で・・・お前の顔も見えやしない」
「奏!」
必死に呼び掛ける翼、
「悪いな・・・もう一緒に歌えないみたいだ・・・シジフォスにも伝えといてくれ・・・もう一緒に・・・風を感じられそうにないってさ・・・」
奏の命は無慈悲に消えようとしていた。
「どうして?どうしてそんな事言うの。奏は意地悪だ」
「だったら翼は・・・泣き虫で弱虫だ」
「それでも構わない!だから!ずっと一緒に歌ってほしい!シジフォスだって!エルシドだって!奏が死んだらきっと悲しむんだよ!」
必死に奏の命を繋げようとするが。
「・・・知ってるか翼?・・・思いっきり歌うとな・・・すっげぇ腹減るみたいだぞ・・・それになシジフォスが言ってたんだ・・・例え死んだとしても・・・私は近くにいるから・・・この風の中に・・・私はいるから・・・」
ゆっくりと目を閉じる奏。
「奏ーーーーーーーーーーッッ!!」
抱きしめた奏の身体は灰となって消滅し、翼の叫びが夕焼けの世界に響き渡った。
瞑想から目を開けた翼は真剣を抜き目の前の蝋燭立ての火に切りつけようするが火は消えなかった。
「(全ては、私の弱さが引き起こしたことだ)」
刀を納刀しその場を去る翼。その心はまだ暗い世界に閉ざされたまま。
ー公園ー
エルシドは公園のベンチでコーヒーを飲みながらシジフォスの事を思い出していた。
二年前、ツヴァイ・ウィングのライブが始まった直後。太平洋側と日本海側から現れた巨大飛行型ノイズを討伐するために二手に別れ太平洋側をエルシドが、日本海側をシジフォスが担当した。だが日本海側のノイズは某国が日本ヘの嫌がらせに放った弾道ミサイルを数発取り込み都市部に向かっていった。シジフォスはそれを止めるために立ち向かったが・・・。
太平洋側に現れたノイズは数が多く殲滅に時間を取られたが何とか殲滅しシジフォスの元へ向かったがエルシドが向かった時にはシジフォスのいる地点で巨大な爆発が起き、そこにはノイズの死骸だけでシジフォスの姿はなくなっていた。
シジフォスの遺体や聖衣すら見つからなかったのだ。一課と二課が総力を上げて捜索したが結局見つからず、『MIA<消息不明or任務中死亡>』という扱いになった。
そして奏の死とそれによる翼の消沈。エルシドは翼を戦闘面で支えた。
「(だが今回の事で思い知らされる。俺は『シジフォスの代わり』は勤まらない事がな・・・)」
元々堅物で不器用な自分が誰かの代わりができるとは思えなかった。結局『自分は自分でしかない』。誰かになることなどできないのだ。
「(立花。奏の代わりになる必要はない。お前はお前だ。そして翼。己の中の弱さと過去に芯に向き合え)」
ゴミ箱に飲み終えたコーヒー缶を捨てエルシドは二人の少女の成長を信じる。自分にはそれしかできないからだ。
だがエルシドは知らないその『信じる心』が人を育てる人間に最も必要なことであると。
ーレグルスとエルシドのアパートー
エルシドの部屋の隣に部屋をもったレグルスは屋根の上で瞑想をして・・・。
「ZZZzzz、ZZZzzz、ZZZzzz」
いや寝ていた。
各々の夜を過ごすが彼等は知らない。まるで引き寄せ会うかのように新たな『戦姫』と『黄金』が彼等に近づいていることに。
前回考えたレグルスのCVは『宮野真守 (聖闘士星矢Ω白鳥座の氷河)』にしました。