聖姫絶唱セイントシンフォギア   作:BREAKERZ

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双刃、絶唱発動

ー二課本部・格納庫ー

 

風鳴弦十郎と緒川慎司はジープに乗り込み、出撃しようとする。

 

「世話の焼ける弟子と聖闘士のお陰でこれだ・・・」

 

「きっかけを作ってくれたと、素直に喜んでは?」

 

「フン・・・」

 

ぼやく弦十郎を緒川が茶化す。すると、藤尭からの通信が入る。

 

《司令!》

 

「何だ?」

 

《出撃の前に、これをご覧下さい!》

 

緒川が持っていたタブレットにマリア・カデンツァヴナ・イヴが映っていた。画面に映るマリアは口を開く。

 

《私は、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。月の落下がもたらす災厄を最小限に抑えるため、フィーネの名を語った者だ・・・》

 

マリアが話を続けるのを見ながら弦十郎は友里からの報告を聞く。

 

《『FRONTIER』から発信されている映像情報です。世界の各地に中継されています》

 

「この期にFISは、何を狙って・・・?」

 

「・・・・・」

 

既にFISはドクターウェルが指揮を取っていることをマニゴルドから聞いていた弦十郎と緒川はマリアを不審そうに見つめる。

 

《事態の真相は、財界、政界の一角を占領する。彼等特権階級にとって、極めて不都合であり、不利益を・・・・・》

 

そのマリアの映像は世界中に、勿論日本にいる弓美達も見ていた。

 

 

 

ー数分前・ナスターシャsideー

 

《月を、私の歌で・・・!》

 

「(コクン) 月は地球人類より相互理解を剥奪する為、カストディアンが設置し、ギリシャ神話の『月の女神アルテミス』が管理していた監視装置。『ルナアタック』で一部不全となった月軌道を再起動できれは、公転軌道上に修正可能です、うぅっ! ゲホッ!」

 

説明の途中でナスターシャ教授が血を吐き出す!

 

《マム? マムッ!!》

 

「ハア、ハア、貴女の歌で・・・世界を救いなさい・・・!」

 

吐血した口元を抑え息も絶え絶えのナスターシャ教授はマリアに言う。

 

 

ー現在・マリアsideー

 

「全てを偽ってきた私の言葉が、どれ程届くか自信は無い。だが、歌が力になると言うこの事実だけは、信じてほしい!」

 

マリアは一端言葉を止めて、歌を歌う、“戦いの歌”をーーーーーーーーーー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

その姿を世界が見た!

 

マリアの着ていた服が弾け飛び、黒のインナーが全身を包み、その上に鎧が装着された!

 

「はっ!」

 

響と同じとギアだがオレンジ色の響と違い、漆黒のカラーリングに漆黒のマントを靡かせた、北欧神話の撃槍ガングニール!

 

マリアは世界の人々に呼び掛ける。

 

「私一人の力では、落下する月を受け止めきれない! だから貸して欲しい! 皆の歌を届けて欲しい!!」

 

そしてマリアは歌う!

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

マリアは歌いながら想いを馳せる。

 

「(セレナが助けてくれた私の命で、誰かの命を救って見せる! ソレだけが、セレナの死に報いられる!!)」

 

マリアの纏うガングニールが紅く発光する。

 

「(マリア・・・セレナは、お前の命が担保になることを望んではいないのだぞ!)」

 

マリアの好きにさせるために控えるアルバフィカは厳しい目でマリアを見据える。

 

 

ー弦十郎sideー

 

ハッチが開き、弦十郎と緒川はジープを走らせる。

 

「緒川!」

 

「分かっています! この映像の発信源を辿ります!」

 

二課の“大人”の二人が戦地に赴いた。

 

 

 

ー響sideー

 

その頃、『FRONTIER』の遺跡を目指す響とレグルスは。

 

「(誰かが頑張っている。私も負けられない!)」

 

「(感じる、マリアとアルバフィカは、あの遺跡の中だ・・・!)」

 

遺跡を目指し走るレグルスと背負われる響の近くで爆発が起きた。

 

「(その事以外、答えなんて有るわけが無い!)」

 

 

ー翼sideー

 

翼はクリスの拳銃から放たれる弾丸は弾く。

 

「フンっ!」

 

「ちっ!」

 

二人の戦闘を“ソロモンの杖”を弄りながら眺めていたウェルはクリスの“首に巻かれた首輪”から通信を送る。

 

《さっさも仕留めないと、“約束のオモチャ”はお預けですよ~♪》

 

ウェルの下卑た声にクリスは顔をしかめる。

 

「(“ソロモンの杖”! 人の手を殺せる力なんて、人が持ってちゃイケないんだ・・・!)」

 

「(“アレ”が雪音を従わせているのか・・・?)」

 

翼は点滅する首輪を睨み刀を構え直す!

 

「犬の首輪を嵌められてまで、何を成そうとしているのか!?」

 

「“汚れ仕事”は、“居場所の無いヤツ”がやるのが相場だ! 違うか?」

 

「その言葉、自身の想い人<デジェル>の前でも言えるのか?」

 

「ムグッ・・・!」

 

「ストイックなエルシドと違ってデジェルは優しいからな、この場に居れば甘えたくなってしまうから、わざわざ分断等と回りくどい真似をしたのだろう?」

 

「ウググググ・・・!」

 

言い淀むクリスを見て、翼はフッと微笑み。

 

「首に縄を括り付けてでも連れ帰る。お前の“居場所”、“帰る場所”に・・・」

 

「えっ・・・っ!」

 

翼の言葉にキョトンとするクリスだが、直ぐに顔を背ける。

 

「お前がどんなに拒絶しようと、私はお前のやりたい事に手を貸してやる。それは、“片翼”では飛べぬ事を知る私の、“先輩”と風を吹かせる者の使命だ! (そうだったよね? 奏・・・!)」

 

【そうさ! だから翼の“やりたい事”は、アタシが、周りの皆が助けてやる!】

 

翼の脳裏に、今は亡き片翼<天羽奏>の姿が浮かび声が響いた。

 

「・・・っ! その仕上がりで偉そうな事を!」

 

《何をしてるのですかぁ? 素っ首のギアスが爆ぜるまで、もう間も無くですよ?》

 

ドドドドドドドドドドドっ!

 

「ん・・・?」

 

「何だ? この地響き・・・?」

 

突然の地響きに翼とクリスが戦闘を止める。

 

「あ~ん? なんだぁ~?」

 

翼とクリスの戦いを見世物にして嘲笑していたウェルも立ち上がり辺りを見ると。

 

ドドドドドドドドドドドっ!

 

「んん? んなぁっ???!!!」

 

ウェルが後ろを振り返ると“巨大な土煙”がウェルに向かってきた!

 

「な、ななな、ななななななななななななななななななななぁっ!!」

 

戸惑うウェルの目の前に土煙の中にいる二人の姿が映った。

 

「す、蠍座<スコーピオン>?! 水瓶座<アクエリアス>っ??!!」

 

「「邪魔だっ!!!!」」

 

バキッ! ベキッ!

 

「ギャブラァァッ!!」

 

ノイズかと思ったのか、デジェルの肘打ちが鼻柱に、カルディアの裏拳が横面に当たり、ウェルは二人に殴り飛ばされた!

 

「蠍座<スコーピオン>!?」

 

「お、お兄ちゃんっ?!」

 

地響きの音を辿った翼とクリスは、絶賛交戦中のデジェルとカルディアが目に入り、戸惑いの声をあげる。

すると、別方向からバイク音が二人に近づき、音の方向を見るとバイクに乗ったエルシドがやって来た。

 

「エルシド?!」

 

戸惑う翼を余所に、エルシドはバイクから飛び降りて、カルディアの方へ向かう!

 

 

 

 

因みにウェルは・・・・・。

 

「いぃ、一体何が・・・?」

 

ヨロヨロと立ち上がるウェルだが。

 

ドカンッ!

 

「ブギャンっ!!(ガクン)」

 

エルシドの乗り捨てられ、走りながら倒れるバイクに巻き込まれ、潰れたカエルのような悲鳴を上げて気絶した。

 

 

閑話休題

 

 

エルシドはデジェルと交戦するカルディアの両脇に脚を引っ掻ける。

 

「何だぁ・・・?」

 

「済まないがカルディア、少し間退場してもらう! 『ジャンピングストーン・柔』!!」

 

「ドゥワアアアアアアアアアアアっ!!!」

 

エルシドが今まで使ってきたドロップキックの『ジャンピングストーン』を、『ジャンピングストーン・剛』とするならば、カルディアの技を掛けようとする力を利用して、相手を投げ飛ばすこの技をエルシドは、『ジャンピングストーン・柔』と名付けている。

 

『ジャンピングストーン・柔』を放たれたカルディアは、天高く投げ飛ばされる。

 

「エルシド、何を?」

 

「雪音、動くな・・・!」

 

「っ!?」

 

エルシドは手刀を構えクリスの首目掛けて振るうと、雪音を首に掛けられた首輪を断ち切られる!

 

「あっ・・・・・」

 

「雪音の首輪が・・・!」

 

「この首輪はどうやら、遠隔操作によって爆発する仕掛けになっているようだな・・・」

 

デジェルが近づき、首輪を拾いながら説明する。

 

「さて、クリス・・・」

 

「(ビクッ!)」

 

静かに穏やかにだが、底冷えする声と全身から暴風雪のオーラを放つデジェルの顔は笑っているが、目が全く笑っていなかった。それを見てクリスは直立不動し全身が小刻みに震える。

 

「お、おおおお兄ちゃん、えっと、その、これはあの・・・!」ガクガクガクガクガクガクガクガク

 

「私に何の相談も無しの独断専行、まぁ君の考えは分からなくもないが・・・・・・私はそんなに頼りないか・・・?」

 

「(何か既視感を感じるな・・・)」

 

デジェルに睨まれ、さっきまで翼に攻撃的だった雰囲気が消え、借りてきた猫のように大人しくなったクリス。その姿に翼は、マジ切れした時のエルシドと向き合った時の自分と重ね、同情の目線をクリスに向ける。

 

「その・・・あの・・・!」

 

「・・・・・」

 

「えっと・・・・・!」

 

無言で自分に近づくデジェルにしどろもどろになるクリス。

 

「(スッ)・・・・・」

 

「(ビクンッ!)」

 

デジェルが手を上げ、殴られると思ったクリスは目を閉じて身構えるが。優しい感触と暖かさが全身を包んだ。

 

「あ・・・」

 

目を開けるとデジェルが自分を優しく抱き締めていてくれていた。

 

「余り心配をかけさせないでくれ、君にもしもの事が起きたら私は、自分を許せない・・・!」

 

「で、でも・・・」

 

「言った筈だ、君一人が背負うことはない。何の為に私や仲間達がいると思っているんだ?」

 

「・・・・・」

 

「クリス、私は君の“居場所”に、“帰る場所”になれないのかい?」

 

「!・・・・・(ふるふる)」

 

デジェルの言葉にクリスは無言で首を横に振った。するとデジェルはフッと微笑み。

 

「無事で良かった・・・」

 

「・・・・・・ゴメン」

 

お互いを優しく抱擁するデジェルとクリス。

 

「エルシド・・・」

 

「何だ・・・?」

 

「今なら私は2リットルのブラックコーヒーを砂糖やミルク無しでイッキ飲みできる自信があるぞ・・・!」

 

「そうか・・・」

 

戦地で、しかも現在気絶中(クリス達は知らない)であるが、ウェルの目がどこにあるか分からない場所で相も変わらずイチャイチャする二人に、翼とエルシドは半目で呆れ、翼は口から砂糖が出る程の胸焼けを感じていたが。

 

「エルシドは、もしも私が雪音のような事をしたら、お前はどうする・・・?」

 

「そうだな、取り敢えず独断専行の仕置きとして“鉄拳制裁”と“お説教”位は覚悟しておけ」

 

「(ズ~~~ン)そうか・・・そうだな・・・・(ボソッ)雪音が羨ましい・・・!」

 

「???」

 

【アハハハハハハハハ!! なんだ、翼! こっち<恋愛>の方は全然全く進展してないなぁ!! アハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!】

 

肩を落としていじける翼にエルシドは首を傾げ、奏の爆笑する声が翼の頭に鮮明に浮かんだ・・・。

 

「所で、これからどうする?」

 

「うむ、私に考えがある・・・」

 

肩を落とす翼とラブな雰囲気を出すクリスを一端無視し、エルシドとデジェルは打ち合わせをした。

 

 

ーマニゴルドsideー

 

マニゴルドが見つめる先には、調と切歌がそれぞれの技をぶつけていた!

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

「うああああああああああああっっ!!」

 

調が『緊急Φ式 双月カルマ』のプロペラを切歌に向けると、切歌は翡翠色の大鎌で受け止め、調が引くと切歌は『封伐・PィNo奇ぉ』の補助アームから伸びた鎌で追撃する!

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

調が『非常Σ式 禁月輪』に切り替えて切歌に迫ると切歌は持っていた大鎌を巨大な太枝切りバサミにする!

 

『双斬・死nデRぇラ』

 

迫り来る調を肩のワイヤーを射出して動きを抑えると『双斬・死nデRぇラ』で挟み持ち上げる!

 

「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」」

 

二人の歌が重なる! 脱出した調は空中でツインテールのパーツから丸鋸を射出し、切歌はハサミを二振りの大鎌に切り替えて防ぐ!

 

「・・・・・・・・・」

 

その二人の戦いをマニゴルドは見守っていた。まるで喧嘩する妹達を見守る兄貴のような瞳で。

 

「「♪~♪~♪~♪~♪!!」」

 

調が地上に下りるとローラーを回転させて迫り、切歌は大鎌をバトンのように振り回すして構え、迫る調にワイヤーを伸ばす! 調は踊るように回避し『γ式 卍火車』を展開すると、襲いかかる切歌とぶつかる!

 

「「っ!!」」

 

二人は技のぶつかりでお互いに距離が空いた。

 

「切ちゃん・・・どうしても引けないの?」

 

「引かせたいのら、力づくでヤってみると良いデスよ・・・!」

 

切歌は調に向かって“注射銃”を投げ捨てる。

 

「(あれは、“LiNKER”・・・!? ウェルの野郎、あんなものまで・・・!)」

 

「“LiNKER”・・・!?」

 

驚くマニゴルドと調が切歌を見ると、切歌は自分の首元に“LiNKER”入りの注射銃を押し当てていた。

 

「儘ならない想いは、力づくで押し通すしか無いじゃ無いデスか・・・!」

 

カチッ!プシュ~~

 

切歌が注射銃を捨てると、調をまた同じように注射銃を自らに注入する。そして二人は歌を歌う『禁断の歌』、『絶唱』をーーーーーーーーーー。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

二人の歌が重なると、二人のギアが変形した!

 

「“絶唱”にて繰り出される“イガリマ”は、相手の魂を刈り取る刃!! 分からず屋の調には、少し負けん気を削れば!!」

 

切歌が大鎌の刃を地面に突き刺すと、柄の部分が伸び、刃が巨大になり、刃の反対側にエンジンのブーストが付加され火を吹き空を飛び、魔女の箒のように跨がる切歌!

 

「分からず屋はどっち・・・?! 私の望む世界には、切ちゃんもカルディアも、皆がいなくちゃダメ・・・! 寂しさを押し付ける世界なんて、欲しくないよ・・・!!」

 

調の頭のツインテールが鋏のように展開され、両手が巨大なアーム付きの丸鋸に変形し、両足が巨大なチェーンソーの武器に変形し、手足が全てを切り刻む鋸へと変形した!

 

「グゥッ!」

 

「クッ!」

 

巨大大鎌に跨がった切歌が調に迫るが、調に振り払われるも、空中で体勢を整えて、大鎌を両手に持つ!

 

「アタシが、調を、皆を守るンデス! 例えフィーネの魂にアタシが塗り潰される事になっても!!」

 

大鎌のブーストエンジンが更に火を吹き、切歌ごと大回転を起こし、緑の円型の刃になる!

 

「ドクターのやり方で助かる人達が、私と同じように、“大切な人達”を失ってしまうんだよ!!」

 

「ダアアッ!!」

 

回転する切歌が迎撃する調の左腕の丸鋸を破壊した!

 

「そんな世界で生き残ったって、私は二度と歌えない・・・!」

 

「でも、それしか無いデス! そうするしか無いデス! 例え・・・アタシが調に嫌われてもーーーーーーーーーー!!」

 

切歌が調のもう片方の腕を破壊する。

 

「切ちゃん、もう戦わないで・・・私から大好きな切ちゃんを奪わないで!!」

 

涙混じりに叫ぶ調に構わず、切歌は調に襲いかかる!

 

 

 

 

次の瞬間!!

 

 

 

調が手を掲げると、“障壁”が展開され、マニゴルドと切歌は調の姿が“ある人物”と重なる、“破滅の巫女 フィーネ”にーーーーーーーーーー

 

「はっ!?」

 

「あれは!?」

 

切歌は調の張った障壁に阻まれ、弾き飛ばされ、大鎌が地面に突き刺さる!

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

唖然となる切歌とマニゴルド、障壁を張った調自身も愕然となった。

 

「・・・何これ・・・!?」

 

「フィーネの、障壁か・・・?」

 

「まさか、調デスか・・・? フィーネの器になったのは・・・調なのに、アタシは調を・・・!」

 

勘違いから親友を殺そうとした自分自身に愕然する切歌。

 

「切ちゃん・・・」

 

「調に悲しい想いをしてほしく無かったのに・・・出来たのは調を泣かすことだけデス・・・!」

 

涙混じりの切歌が手をかざすと地面に刺さった大鎌が回転しながら宙に昇る。

 

「あっ・・・・・」

 

「切歌・・・・・」

 

「アタシ、ホントに嫌な子だね・・・消えて無くなりたいデス・・・!!」

 

涙を流しながら笑顔を見せる切歌に回転する大鎌が襲いかかる!

 

「ダメ・・・! 切ちゃんッ!!」

 

「あの、アホ娘ッ!!!」

 

グサッ・・・・・!

 

調とマニゴルドが切歌を守るように抱き寄せるが、調の身体に大鎌が刺さった!

 

「調・・・調ーーーーーーーーーー!!」

 

切歌の悲鳴が空しく響いた・・・・・。

 

「クッ! 『積尸気冥界波』っ!!」

 

マニゴルドが指を翳すと、頭上に“黒い渦”が開いた!

 

 

 

ークリスsideー

 

「グベラッ! ガッハ!」

 

気絶していたウェルは咳き込みながら起き上がる。

 

「人に戦わせておいてこんな所で間抜け面を晒して爆睡とは、良いご身分だな・・・!」

 

「ウィッ!?」

 

侮蔑の声に目を向けると、イチイバルを纏い“黒い首輪”を付けたクリスがゴミを見るような目でウェルを見下ろしていた。

 

「な、なにやってるのですか? 風鳴翼は!?」

 

「見てわからねぇのか?」

 

クリスが指差すと、激しい爆発が起こったであろう場所があった。それを見たウェルは下劣な笑みを浮かべる。

 

「ほぉ~♪ どうやら始末したようですね」

 

「そうだよ、ご要望に答えたんだ、“ソロモンの杖”を渡しな・・・!」

 

「・・・・・・・・・・ンフフフフ♪ プププ♪ クヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ♪ ヒャアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! だぁれが渡すかよこのバァカっ!!」

 

あからさまに嘲笑な笑みを浮かべたウェルは手にスイッチが付いた装置を掲げた。

 

「それがお前の本性かよ。つくづく汚ねぇな!」

 

「ナンとでも言え小娘がっ!! お前のような裏切り者には“惨めな最後”がお似合いなんだよっ!! 仲間も愛する者からも看取られること無く! 無様に! 哀れに! 咽び泣きながらくたばるんだなっ!!!」

 

カチッ・・・・・。

 

「・・・・・・・・・・で?」

 

「・・・・・はぁっ??」

 

カチッ!カチッ!カチッ! カチカチカチカチカチカチカチカチ!

 

いくらスイッチを押しても爆発が起こらない首輪を見て、段々ウェルの顔から焦燥の色が濃く出始めた。

 

「ど、どうなってンだよ!!??」

 

「お前みたいな“チンケな悪党”の考える事なんて、こちとらお見通しなんだよ・・・!」

 

クリスはウェルに嵌められた首輪を引きちぎる!

 

「な、なななななななななななななななななななななななななななななななななななっっ!!!??」

 

「とっくに壊れてんだよ、この爆弾!」

 

エルシドに切られた箇所をデジェルが氷でくっ付けただけで、機能は完全に死んだ首輪をウェルに向けて投げ捨てる!

 

「さて、ウェル博士。分かってるよな~?」ゴキ!ゴキ!

 

「ひっ! ひ、ひ、ひ、ヒギヒィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイっ!!!」

 

クリスが握り拳を鳴らしながら近づくとウェルは無様に尻餅を付いて後ずさるが、背中に“何か”が当たった。

 

「ヒイィ!?」

 

「何処に逃げる積もりだ? ウェル博士?」

 

そこには、天羽々斬を纏う翼が、刀を肩に担いで冷たく見下ろしていた。

 

「か、風鳴翼!? お、おおおおお前は!?」

 

「あのような三文芝居に騙され馬脚を表すとは、御里が知れるな・・・!」

 

「そう言うな翼、この男は所詮その程度と言うことだ・・・」

 

「か、山羊座<カプリコーン>!?」

 

「自分は前線に立たず、戦いはノイズや奏者達にヤらせ、自分は比較的に安全な場所で下劣に笑うしかしない、そんな男が勝負師を気取るなど滑稽だな・・・!」

 

「ア、アアアアアアアア、水瓶座<アクエリアス>っ!!??」

 

自分の左右に現れたエルシドとデジェルに、いよいよ余裕が無くなったウェルは惨めに震える!

 

「さて、ドクターウェル。このまま“ソロモンの杖”を大人しく渡すならば良し、渡さなければ、実力行使をさせてもらう・・・!」

 

「ヒギッ! ヒギッ! ヒギッ! ヒギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!!!」

 

顔を恐怖で歪に歪めるウェルは“ソロモンの杖”を使おうとするが・・・・・。

 

ーーーーおいウェル、余計な真似するなよ・・・・・!

 

『っ!!』

 

突然上空からの声に一斉に後ろに飛ぶクリス達! ウェルの近くに“黄金の流星”が降り立った!

 

「カルディア・・・・・!」

 

「・・・・・・・・・・」

 

現れたのは、重厚な黄金の聖衣を纏い、頭から蠍の尻尾のパーツをおさげのように垂れ流した無造作に伸びた群青色の長髪に整っている顔立ちを不機嫌そうにしかめた蠍座の黄金聖闘士、スコーピオンのカルディアが立っていた。

 

「オイ! スコーピオン! 何をぐずぐずしてやがった!? この愚図なノロマが! さっさとコイツらを「ガキンッ!」・・・えっ・・・?」

 

ヒステリックに喚き始めたウェルは、“ソロモンの杖”を握っていた手に“違和感”を感じ見てみると、自分の手から“ソロモンの杖”が無くなっていた。

 

ヒュンヒュンヒュン・・・パシッ!

 

いつの間にか空中を飛んでいた“ソロモンの杖”をカルディアが掴んだ。

 

「(見えたか、エルシド?)」

 

「(あぁ、カルディアが頭を一瞬振って尻尾のヘッドギアで“ソロモンの杖”を弾いた・・・!)」

 

あまりに一瞬の出来事をこの場で目視できたのは、エルシドとデジェルだげであろう、翼もクリスも何が起こったか分からず、唖然としていたからだ。

 

「な、なにをしやがるスコーピオン! “ソロモンの杖”を! 僕のオモチャを返「ドグゥッ!!」グゲブゥッ!!」

 

喚きそうになるウェルの腹部にカルディアの足が深くめり込む。

 

「うるせぇんだよ、今俺は機嫌が悪いんだ・・・・!」

 

「グゲッ!グビビィッ!」

 

腹から押し上がってくるモノを堪えようとするウェルをカルディアが冷たく、矮小なゴミを見るように見下す!

 

「俺の前から失せろ! 下衆がっ!!」

 

ドンッ!!!!

 

「ゲブベエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェっ!!??」

 

サッカーボールのように蹴り飛ばされたウェルは口から汚物を吐き散らせながら荒野の彼方に転がっていった。

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

「・・・・・デジェル」

 

「ヤツとは、私が決着を付ける・・・・・!」

 

唖然とする翼とクリス、エルシドはカルディアに向かおうとするも、デジェルが制し前に出る。

 

「ハアァ、ハアァ、ハアァ、ハアァ・・・・・!」

 

“ソロモンの杖”を握るカルディアは息を荒くし、胸を押さえ、身体から汗が蒸発し、蒸気のような煙を出していた。“心臓”の限界が近いと察したデジェルはカルディアに忠告する。

 

「カルディア、このままではお前は本当に死ぬぞ?」

 

「へ、ヘヘヘヘ、デジェルよ、俺達は“一度は死んだ身”だぜ? 今更この命を惜しいだなんて欠片も思っちゃいねぇよ・・・!」

 

「彼女の、月読調の状態に、気付いていない等と言わせんぞ・・・!」

 

「・・・・・言った筈だ、関係無いってな・・・! さぁ! “ソロモンの杖”は俺の手中だ! 欲しけりゃ、掛かってこいやっ!!!」

 

「・・・良いだろう!」

 

お互いに構え、小宇宙<コスモ>を高めるカルディアとデジェル。

 

「エルシド、我々はどうする?」

 

「俺は、この戦いを見届けるつもりだ・・・」

 

「アタシは、野郎<カルディア>が持っている“ソロモンの杖”を破壊したい・・・!」

 

「ならば、我々のヤることは・・・」

 

「見届ける事、だな・・・」

 

「エルシド、なんで蠍座<スコーピオン>はあそこまでデジェル兄ぃと戦う事に拘ってんだ?」

 

「ヤツとデジェルは我々の世界で同じ任務に付いて命を落とした。それに、カルディアとデジェルは、一応とは言え“友人”であったからな・・・・・」

 

「しかし、蠍座<スコーピオン>は、“死”を望んでいるようにも見えるが・・・・・」

 

「昔、カルディアがこんな事を言っていたな・・・」

 

[生命にゃ元々それぞれリミッターがあるんだよ、人間皆 同じように未来<あした>があるとは限らないのさ、だから俺は現在<いま> 命を燃やすんだ。いつリミットが来ようが関係ないさ・・・!]

 

「「同じように未来<あした>があるとは限らない・・・」」

 

カルディアの言葉から、翼は何時までも共に飛び続けると思っていた『片翼』を、クリスは理不尽に生命を落とした『両親』が脳裏に浮かんだ。

 

「そろそろ始まるな・・・」

 

エルシドと翼とクリスは、これから始まるであろう、最強の黄金聖闘士の死力を持った戦いを固唾を飲んで見ていた。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

お互いに睨み合いを続けるカルディアとデジェル。二人を見守るエルシド達。ふと、クリスの顔に一筋の汗が雫となって、地面に落ちたーーーーーーーーーー。

 

ピチョン・・・・・・・・。

 

「「っ!」」

 

静寂していた時間が動く!

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!」

 

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

飛び上がったカルディアのショルダータックルが! デジェルの回転肘打ちが空中でぶつかる!

 

「「ぐうううううううううううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」」

 

二人のぶつかり合いで大気が、『FRONTIER』の大地が震えた!!!

 

 

 

 

そして、ウェルは、二人のぶつかり合いで生まれた衝撃波を遥か後方で浴びていた。

 

「ひ、ひ、ひぎひぃいいいいいいいいっ!!!」

 

吹き飛ばされないように地面から僅かに伸びた岩にしがみつき、衝撃波の風圧で頬を波打たせ、歯を剥き出ししたウェルは惨めな悲鳴を上げていた。

 

「つ、付き合っていられるか、あの化け物共めっ!! まだだ、まだボクには“これ”があるんだ・・・・・!」

 

首に下げた“黒い玉”を『ネフィリム』の細胞を注入した腕で掴んで起動させると、ウェルの周りに黒い光がウェルを包む。

 

「こ、これは逃げる訳では無いぞ・・・・! あ、あんな化け物共の刹那主義に付き合うだなんてバカげている! ぼ、ボクは、“勇気ある撤退”をするだけなんだからなっ!!」

 

誰も何も言っていないのに、情けなく言い訳をしながらウェルは、逃げるようにカルディアとデジェルの決戦の場から姿を消した・・・・。

 




『ジャンピングストーン・柔』:原作の山羊座<カプリコーン>のシュラが使った技。

『ジャンピングストーン・剛』:エルシドが使用する技。

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