聖姫絶唱セイントシンフォギア   作:BREAKERZ

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動き出す欲望と癖者の蟹座

ー『FRONTIER』・ブリッジー

 

ドクターウェル、マリア、アルバフィカはまるで石造りに紫の水晶が合わさった玉座の間のような場所に来ていた。

 

「ンフゥ♪」

 

中心にある丸い装置に付くとウェルが注射銃を取りだす。

 

「それは・・・・?」

 

「“LiNKER”ですよ・・・! 聖遺物を取り込む、“ネフェリム”の細胞サンプルから採取した“LiNKER”です。あの神様気取りの盲目野郎に折られた腕にはちょうど良い!」

 

ウェルはアスミタにへし折られた左腕に“LiNKER”入りの注射銃を押し付け注入した。すると、折られた腕がぐちゃぐちゃと音を立てて変異する。

 

「へへへ・・・!」

 

「っ!」

 

「・・・」

 

不気味ににやけるウェルは変異した腕を装置に付けると装置に一瞬赤い管が張り巡り起動した。起動した装置の近くにある結晶からまるでコンピューターのような羅列が現れる。

 

「フヘヘヘヘ、早く動かしたいなぁ。ちょっとくらい動かしても良いんじゃないですかぁ? ねぇ、マリア」

 

「あ・・・」

 

「これは玩具ではないぞドクター・・・!」

 

まるでおもちゃを手にいれて遊びたがる幼稚な子供のようでいて悪意に満ちた邪悪な笑みを浮かべるウェルにマリアはおののくが、アルバフィカがマリアを後ろに下げてウェルを睨む。

 

「わかっていますよぉ、でもね、ほら・・・」

 

結晶体の一つがモニターになりそこから米国艦艇の第2陣が映し出された。

 

「フヘェ♪ おあつらえ向き♪」

 

歪んだ笑みを浮かべるウェル、それはまさに獲物を見つけた獣<ケダモノ>のように。

 

 

ー『FRONTIER』・制御室ー

 

ナスターシャ教授は制御室で『FRONTIER』を調べていた。

 

「(『FRONTIER』が先史文明記に飛来したカストロリアンの遺産ならば、それは異端技術の集積体。月の落下に対抗する手段もきっと・・・・)あっ、これは・・・!」

 

ナスターシャが“何か”を発見すると、ウェルから米国艦艇の映像が送られた。

 

 

ーマリアsideー

 

「どうやらのっぴきならない状況のようですよ? 一つに繋がることで、『FRONTIER』のエネルギー状態が伝わってくる・・・! これだけあれば、十分にいきり立つ♪」

 

《早すぎます、ドクター!》

 

ナスターシャの制止通信に耳を貸さず、ウェルは『FRONTIER』を動かす。

 

「さあ! 行けっ!!!」

 

 

ー『FRONTIER』外部ー

 

『FRONTIER』の石造りの輪っかのような遺跡から膨大なエネルギーが流れ、鳴動する。

 

 

 

ーレグルスsideー

 

「っ!!」

 

「ムッ!!」

 

「レグルスくん・・・?」

 

「アスミタさん・・・?」

 

「いけない!」

 

「来るぞ! “悪意の光”がっ!!」

 

レグルスとアスミタは『FRONTIER』から流れる“悪意の波動”を感知した。

 

 

『FRONTIER』の遺跡から三つの光が上空に伸びていき、螺旋状に絡み付き、宇宙空間へと昇る! その光は人の手のような形になり、落下する月を掴んだ!

 

 

 

ーウェルsideー

 

「どっ、こいしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」

 

ウェルが吠えると月を掴んだ光が霧散し、『FRONTIER』に異常が起こった! なんと、『FRONTIER』が浮上を始めたのだ!

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

 

 

ーナスターシャsideー

 

「加速する、ドクターの“欲望”・・・! 手遅れになる前に、私の信じた異端技術で阻止して見せる!」

 

以前から危険性を感じていたウェルの“欲望”が動き出したと感じたナスターシャはパネルを操作する。

 

 

 

ーレグルスsideー

 

『FRONTIER』の異常が二課仮設本部の潜水艇がいる海中にも影響を及ぼし、船体を大きく揺さぶる!

 

「一体、何が・・・!」

 

「始まったんだ! ウェルの“悪意に満ちた欲望”が!」

 

悲鳴をあげてよろめく響と未来をレグルスとアスミタが支える。

 

「広範囲に渡って海底が隆起! 我々の直下からも迫ってます!」

 

藤尭です報告と同時に、本部の直下から海底の地面が迫り本部は海底地面の上に収まる。衝撃が本部を激しく揺らす。

 

『うわあああああああああああああっっ!!』

 

『FRONTIER』は徐々に高度を上げ、その全貌を露にした! まるで遺跡の形をした戦艦のようなその姿を!

 

 

 

ー米国艦艇ー

 

「作戦本部より入電です! 制圧せよ、と・・・・」

 

「あんなのとは聞いてないぞ!」

 

米国艦艇の軍人達も愕然と浮上した『FRONTIER』を見ていた。

 

 

ー『FRONTIER』・ブリッジー

 

モニターから米国艦隊からの砲撃が映し出された。

 

「楽しすぎて眼鏡がずり落ちてしまいそうだ・・・・!!」

 

危険なほどに恍惚の表情を浮かべたウェルは『FRONTIER』を操作する。

 

 

ー『FRONTIER』・下部ー

 

『FRONTIER』の下部にあるシャンデリアのような形をした遺跡が光り輝くと放電を起こし、周囲に波動を広げると、米国艦隊が宙に浮かんだ!浮かんだ艦隊は外から圧力をかけられたかのように圧縮して爆散した!

 

 

ー『FRONTIER』・ブリッジー

 

その光景をウェルは狂った笑みを浮かべて眼鏡を投げ捨て眺める。

 

「フン~♪ 制御できる重力はこれくらいが限度のようですね♪ ンハハハハハハハハハハ! フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

「(果たしてこれが、人類を救済する力なのか・・・・?)」

 

「・・・・・・・・」

 

下劣な高笑いをあげるウェルをマリアは不安そうに、アルバフィカは汚物を見るような目で睨む。

 

「手に入れたぞ! 蹂躙する力! これで僕も、“英雄”になれる! あの“男”を越えた! この星のラストアクションヒーローだあああっ!!! ヒヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘッ!! やったああああああああああああああっっ!!!!」

 

歪みきった高笑いを上げながらウェルは仰々しくのけ反った。

 

 

 

ー米国艦隊残骸の海面ー

 

米国艦隊は『FRONTIER』からの攻撃で無残な姿を海面に映し、その光景をTV局の報道ヘリが録り世界中に放送していた。

 

「ご覧下さい! 大規模な地殻変動と発表された海域にて、軍事衝突です! 米国所属の艦艇が一瞬で・・・・」

 

ボゴッ!

 

「う、うわああああああああっっ!!」

 

攻撃は報道ヘリを襲いヘリは爆散した!

 

 

 

ー日本ー

 

その光景を映され、『緊急警報放送 テスト放送』と映されたビルの液晶テレビを騒然となる市民の中にいた安藤創世、寺島詩織、板場弓美が見ていた。

 

「テラジ<詩織>、こういう事件って・・・」

 

「まさか立花さんも・・・」

 

「関係してたりして・・・」

 

友人の安否を心配する三人。

 

 

ーレグルスsideー

 

偶然にも『FRONTIER』に上陸してしまった仮設本部のブリッジでレグルス達は現状確認していた。

 

「やれやれ、空飛ぶ帆船は見たことあるけど、凄い事になったなぁ・・・・」

 

「下から良いのを貰ったみたいだ・・・!」

 

「計測結果が出ました!」

 

「直下からの地殻上昇は、奴等が月にアンカーを打ち込んだことで・・・」

 

「『FRONTIER』を引き上げた!?」

 

「それだけでなく!」

 

友里と藤尭からの報告に緒川も驚くが、更に驚愕する事態が判明した。

 

 

ーマリアsideー

 

「行き掛けの駄賃に、月を引き寄せちゃいましたよ♪」

 

「月を!? 落下を早めたのか!?」

 

悪びれ無く言うウェルにマリアは意義を唱え、装置からどかす。

 

「っ! 救済の準備は何もできていない! これでは本当に、人類が絶命していまう!!」

 

装置を操作しようとするマリアだが、装置は停止状態になった。

 

「どうして・・・? どうして私の操作を受け付けないの!?」

 

下劣な笑みを浮かべたウェルはのたまう。

 

「ウェヘヘヘヘ、“LiNKER”が作用している限り、“制御権”は僕にあるのです! 人類は絶命なんてしませんよ。僕が“生きている限り”はね!」

 

「どういう意味だ・・・?」

 

「分かりませんかぁ? これが僕が提唱する。一番確実な人類救済方法です!」

 

「そんな事の為に! 私は悪を背負ってきたわけではない!」

 

ウェルに掴みかかろうとするマリアの顔ををウェルは叩く!

 

「たあぁっ!!」

 

「うっ!」

 

「マリア・・・!」

 

倒れるマリアにアルバフィカが駆け寄る。そんな二人をウェルは下劣に見下す。

 

「ここで僕に手を駆けても、地球の余命が後僅かなのに変わらない事実なのだろう? ダメな女だなぁ!!」

 

「う、うぅ・・・」

 

「フィーネを気取ってた頃を思い出して、そこで恥ずかしさに(グサッ)はぇ・・・・?」

 

 

 

 

ウェルが下劣に吠えようとすると“視覚の半分が暗転”した。ウェルの目に“何か”を投げたようなポーズのアルバフィカが映り顔に触れると。

 

「ウギヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっっ!!!!!」

 

ウェルの片目に“黒い薔薇”が突き刺さり片目から血と涙が混ざった血涙が床に滴り落ちる。

 

「いぃ、痛いっ!!! 痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛っっったああああああああああああああいいいいっ!!!」

 

「これ以上何かほざくなら・・・もう片方も潰すぞ、ウェルっ!!!!」

 

「ひぎっ! ひぎぃぃっ!! ひぎひぃぃいいいいいいいぃぃぃいいいいいいいいいっ!!!!」

 

ウェルは本気で放たれたアルバフィカの“殺気”から逃げるように制御室から惨めに去っていく。

 

「うぅ、セレナ・・・セレナァ・・・私は・・・!」

 

嗚咽を漏らしながら咽び泣くマリアをアルバフィカは静かに見つめた。

 

 

ー翼sideー

 

翼とエルシド、デジェルはライダースーツを着て出撃準備を開始する。

 

「行けるか、皆・・・?」

 

「無論です・・・!」

 

「レグルス。マニゴルドが妙な行動をしないように見張っておいてくれ」

 

「アスミタ、お前もここで待機しておけ・・・」

 

「OK♪」

 

「フン・・・・」

 

ブリッジから出ようとする翼達に響が声をかける。

 

「翼さん・・・・」

 

「案ずるな、私とエルシドのコンビとデジェルの頭脳があれば臆することはない」

 

そう言って、翼達はブリッジを出たが、響の顔には不安の色があった。

 

本部のハッチが開き、バイクに乗った三人が飛び出す!そして翼は歌う『戦いの歌』を、エルシドとデジェルは呼ぶ『星座の鎧』をーーーーーーーーーーー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

「山羊座<カプリコーン>っ!!」

 

「水瓶座<アクエリアス>っ!!」

 

バイクに乗った翼のスーツとヘルメットが弾け、その身に纏うは『絶剣 天羽々斬』!

 

エルシドの身体を包むは、山羊の角のようなヘッドギアを被り、重厚な黄金の鎧、山羊座の黄金聖衣!

 

デジェルの身体を包むは、腕に瓶のようなパーツを装備し、エルシドと形の違う黄金の鎧、水瓶座の黄金聖衣!

 

バイクに乗り『FRONTIER』の大地を駆ける三人の前にノイズの団体が迫る!

 

翼の足のパーツが変形し、バイクの前輪に巨大な刃を作り、ノイズに向かってアクセルを吹かせ突進しノイズを凪ぎ払う『騎刃ノ一閃』を放つ!

 

エルシドが手刀を構え、巧みにバイクを操り、迫り来るノイズを『乱斬』で切り伏せる!

 

デジェルは凍技を振るい、ノイズ達を『グランカリツォー』で凍てつかせ砕いて行く!

 

 

ー二課・ブリッジー

 

「流石の三人ですね!」

 

「聖闘士達はともかく、シンフォギア奏者は翼さんただ一人・・・・」

 

「いえ、シンフォギア奏者は“一人”じゃありません!」

 

不安を感じる緒川に響が言うが弦十郎は戦場に行くつもりの響に釘を刺す。

 

「ギアの無い響君を戦わせる訳には行かないからな・・・!」

 

「いえ! 戦うのは“私”じゃありません!」

 

「響・・・・?」

 

「此方も、聖闘士を増やすか・・・・」

 

「動くかなぁ? アイツ・・・・」

 

 

ー数分後ー

 

少しして、緒川とレグルスは月読調と蟹座<キャンサー>のマニゴルドを連れてきた。緒川は調の手枷を外す。

 

「オイコラ! 調は外して俺は無視か!」

 

「何言ってんの。マニゴルドならそんな手枷簡単に外せるだろ?」

 

「・・・・・・へっ! まぁ、なっ!!」

 

ガシャン!

 

マニゴルドが力を込めると重厚な手枷は飴細工のように粉々に砕けた。マニゴルドの自由を確認した調は冷淡に響に聞く。

 

「捕虜に出撃要請って、どこまで本気なの?」

 

「勿論全部!」

 

「・・・貴女のそう言う所、好きじゃない。聖闘士達のように自分の正しさを貫く意志が無く、ただ正しさを振りかざすだけの偽善者の貴女が・・・!」

 

調の言葉に響は自嘲気味に答える。

 

「私、正しいだなんて思ってないよ・・・以前、大きな怪我をした時、家族が喜んでくれると思ってリハビリを頑張ったんだけどね・・・アタシが家に帰ってからお母さんもおばあちゃんもずっと暗い顔ばかりしていた・・・」

 

世間からの理不尽な中傷と人の悪意、それらが響と家族の心と日常を壊していった。

 

「それでも私は、自分の気持ちだけは偽りたくない。偽ってしまったら、誰とも手を繋げなくなる・・・」

 

「手を繋ぐ・・・! そんな事本気で?」

 

「だから調ちゃんにも、やりたい事をやり遂げて欲しい!」

 

響は調の手を取る。

 

「あっ・・・」

 

「もしもそれが私達と同じ目的なら! 少しだけ力を貸して欲しいんだ・・・!」

 

「私の・・・やりたい事・・・!」

 

「やりたい事は、暴走する仲間達を止め、蠍座<スコーピオン>の命を救う事、でしたよね・・・」

 

「(カルディア・・・!)」

 

調は手を軽く払って響に背を向ける。

 

「カルディアを、皆を助ける為なら、手伝っても良い・・・!」

 

「「あぁっ・・・!」」

 

響と未来に笑みが浮かぶ。

 

「だけど信じるの? 敵だったのよ・・・」

 

「敵とか味方とか言う前に、子供のやりたい事を支えてやれない大人なんて、カッコ悪くて叶わないんだよ!」

 

「しぃしょうおおおおぉぉ~!」

 

弦十郎は調にシュルシャガナのシンフォギアペンダントを渡す。

 

「コイツは可能性だ・・・」

 

「・・・相変わらずなのね・・・」

 

「甘いのは分かっている。アスミタにも散々ぱら言われたが、これが性分だ・・・!」

 

「マニゴルドも一緒に・・・」

 

「あのな調、盛り上がっているところわりぃけどよ、俺は行かねぇぞ」

 

『えええぇぇぇっ!?』

 

もう完全に協力して行こうと言う雰囲気だったが、マニゴルドの拒みの一言にブリッジにいた全員(レグルスとアスミタ除く)が唖然となった。

 

「ど、どうしてですかマニゴルドさん!?」

 

「あのな、お前ら俺に“ただ働きしろ”って言うのか?」

 

戸惑う響にマニゴルドは面倒くさそうに小指で耳をほじりながら言った。

 

「“ただ働き”って、仲間の皆が大変なのに何言ってんですか!?」

 

「俺の好きな言葉は『ギブ&テイク』。こっちに何かして欲しいってンなら、こっちにも何か“対価”を支払って貰わねぇとな♪」

 

「ハァ、また悪いのが出た・・・」

 

頭を抑えながらも、マニゴルドの態度に慣れている調と、こういうヤツである事を知っているレグルスとアスミタは兎も角、響達はマニゴルドの態度に少なからずの嫌悪感を抱く。

 

「何ですかソレ・・・マニゴルドさんはそれでも黄金聖闘士なんですか!?」

 

「黄金聖闘士だからって、慈善家のようにただ働きで働く訳ねぇだろ? 俺をレグルス達みたいな、ただ働きを喜ぶドM集団と一緒にされたかねぇな・・・!」

 

悪びれ無しで言うマニゴルドに響は掴みかかりそうになるが、弦十郎が押さえた。

 

「『ギブ&テイク』が好きだと言うなら、お前は俺達に何を望む・・・!」

 

フッと悪い笑みを浮かべたマニゴルドは指を三本立てる。

 

「三つ、俺の要求を聞き入れるなら、働いてやっても良い」

 

「三つの要求?」

 

「まず一つ、“ドクターウェルを除いた俺達FISのメンバーの身の安全と行動の自由”」

 

「ウェル博士を除いたメンバーの安全と自由?」

 

「この騒動が無事に終わったとしても、米国政府は俺らを生かしておかねえよ、秘匿にしていた聖遺物の研究データを盗み、月の落下を暴露しちまったんだ。それこそ高慢で野蛮な米国は俺らに責任転嫁しまくって謀殺しようとしてくる。ソレから俺らの身の安全と自由を約束しな・・・!」

 

「(成る程、彼女<調>と違って、この男は政治と言うモノを良くも悪くも理解している)良いだろう。他には?」

 

弦十郎の問いに、マニゴルドは調の頭に手を置く。

 

「二つ目、コイツを・・・嫌、調と切歌を学校に通わせて欲しい」

 

『っ!?』

 

「マニゴルド・・・?」

 

「調と切歌、そしてマリアは、フィーネ<櫻井了子>が自分の“魂の器”の予備として米国政府に用意させた“レセプターチルドレン”だ・・・!」

 

「何だって!?」

 

「えっ? つまりどういう事?」

 

「“フィーネの刻印”が宿った子供達の観測対象の総称だ。フィーネは米国に、今生の自分が消えた時の“保険”をかけていたと言う事か・・・」

 

アスミタの言葉にマニゴルドは頷く。

 

「何しろこのご時世だ、“戦争孤児”から“災害孤児”、“ストリートチルドレン”なんて世界中探せば嫌と言うほどいやがる。そのガキ共が“レセプターチルドレン”としてかき集められたんだ・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

マニゴルドの言葉からソレがどれ程辛かったのか、俯いた調の顔から全員が理解した。

 

「調と切歌を普通の学校に通わせて、普通のガキの生活を約束しろ。それと、マリアがアーティスト活動を再開する気になったら全面的にバックアップする事と、他のメンバーの生活の保証も条件の内だ・・・」

 

「・・・・・分かった、なるべく「なるべくではダメだ、確実に約束しろ!」 容赦無いな・・・了解した、二人の生活とマリアと他のメンバーの生活の保証を約束する」

 

ピッ

 

弦十郎の言葉を聞き終わると、機械のスイッチ音が聞こえると、マニゴルドは懐から小型ボイスレコーダーを取りだし、リピート再生する。

 

「おし言質は取った、これで条件2つは大丈夫だな♪」

 

「わざわざボイスレコーダーを使って言質まで録るとは・・・」

 

「お前、俺達の事を信用してないな・・・」

 

用意周到なマニゴルドに緒川と弦十郎がなんとも言えない顔になる。

 

「生憎と俺は、善意優先で人を信じるほど、心清らかな人間じゃないンでね♪ 性善説なんざ、頭ン中がお花畑な人間が唱える妄想に過ぎねぇよ♪」

 

「マニゴルドならこれくらいやる・・・」

 

「調ちゃんはマニゴルドさんの言ってる事が正しいと思うの?」

 

「・・・状況にもよるけど、まぁマニゴルドのこの“抜け目無さ”が助けになってくれてるのは事実だし」

 

以外と割りきりが出来てる調に響達もなんとも言えない顔をした。

 

「そんじゃ最後の三つ目の要求だ」

 

「そう言えばまだあったけ?」

 

「最後の“要求”は、“ーーーーーーーーーーー”」

 

『っ!!』

 

マニゴルドの最後の“要求”に響も未来も弦十郎達も息を呑む! それはある意味、二課の“大義名分”を否定するモノだったからだ・・・・・。

 

 

 

 

ー二課・ブリッジー

 

マニゴルドとの交渉も“一応”解決し、ハッチまで案内すると言って響とレグルスが調とマニゴルドをハッチまで案内していった。

 

「司令、よろしいのですか? 蟹座<キャンサー>の要求を“一応”ですが、呑んでしまって・・・・」

 

「ああでも言わなければ、ヤツは調君と自分だけで行動を起こしていただろう。場合よっちゃ、この場所でレグルス君と殺り合うつもりだった」

 

「ですが、こっちにはアスミタさんもいることですし・・・・・・」

 

「と、ウチのオペレーターは言ってるが?」

 

「私はお前達の同志になったつもりは無い、ここでレグルスとマニゴルドが戦おうが、私にとってはどうでもいいことだ・・・」

 

「アスミタさん・・・・」

 

全く協力する気無しのアスミタの言葉に未来や二課の面々はため息混じりに肩を落とすと、モニターに『非常Σ式 禁月輪』を展開してハッチから飛び出る調と調の後ろで調の肩を掴んでいるマニゴルドと、“獅子座の黄金聖衣を纏うレグルスとレグルスに背負われる響”が映った。

 

「あっ、響にレグルス君!」

 

「何をやっている!? 響君を戦わせる気は無いと言ったはずだ!!」

 

 

 

ー響sideー

 

レグルスに背負われた響は通信機から聴こえる弦十郎からの通信を勿論聞いていた。

 

「戦いに行くんじゃありません! “人助け”です!」

 

《減らず口の上手い映画など、見せた覚えはないぞ! レグルス君! 響君を連れ戻せ!!》

 

「ゴメンお断り」

 

《レグルス君!!》

 

「弦十郎、この際はっきり言うけどさ・・・」

 

《何だ!?》

 

コホンと一度咳払いをしたレグルスは息を大きく吸って。

 

「俺は“日本政府の木っ端役人”になったつもりも! “二課の犬”になったつもりも無い! 俺は“弦十郎の部下”でも無ければ“弟子”でも無いんだ!! 弦十郎の命令を聞く“義務”だって無いだろうがッ!! 以上ッッ!!!」

 

《なっ・・・・!!》

 

「ヒュゥ~~~♪」

 

レグルスの言葉に弦十郎は僅かに絶句し、マニゴルドは感嘆したように口笛を鳴らす。

 

 

ー未来sideー

 

「しかしだな・・・・!」

 

「行かせてあげてください!」

 

「未来君・・・・」

 

「“人助け”は一番、響らしい事ですから!」

 

「レグルスもそれを理解しているから連れていったのだ」

 

未来とアスミタの援護に弦十郎も仕方ないと言わんばかりに笑みを浮かべ。

 

「フゥ、こういう無茶無謀は、本来俺の役目だった筈なんだがな・・・」

 

「弦十郎さんの・・・?」

 

「帰ったら二人揃ってお灸ですか?」

 

「特大のをくれてやる! だから俺達は!」

 

弦十郎の言葉を藤尭と友里が繋ぐ。

 

「バックアップは任せてください!」

 

「私達のやれる事でサポートします!」

 

「子供ばかりに良い格好させてたまるかい・・・!」

 

指を鳴らしながら弦十郎は不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

ーマニゴルドsideー

 

「ダァハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!! 立花響! お前中々クレイジーでおもしれぇじゃねぇか、気に入ったぜ!! レグルス、お前も見直したぜ! こっちで再会した時から、お前もエルシドもデジェルも、“政府の犬”である特務二課に振られる“シッポ”に成り下がったと思ってたからな!!」

 

「そんな風に思ってたのか?」

 

「レグルス君、あんな風に言って大丈夫なの?」

 

「まぁ大丈夫でしょ♪ それよりも響、一気に敵陣に殴り込むよ!」

 

「うん!」

 

「響は俺が守る! だから響も俺を信じてしっかり捕まっててくれよ!!」

 

「勿論! レグルス君、行っけーーーーーーーーーーーッ!!」

 

「応さっ!!」

 

更にスピードを上げるレグルス。

 

「オイ調、置いていかれるぞ、スピード上げろや」

 

「マニゴルドが振り落とされるよ?」

 

「確かにな、せめて調に切歌くらいの凸があればな・・・」

 

「(ブチッ!###)スピードを上げる・・・!」

 

ギュインっ!とスピードを上げる調は更にジグザグ走行する。

 

「オイ運転手さん! ちょっと運転が荒っぽくねぇか!?」

 

「いいえ別に~~!」

 

振り落とされ無いように踏ん張るマニゴルドと更にスピード上げてジグザグ走行する調は、これから仲間達と戦う筈なのにギャーギャー騒がしくも、“いつものペース”に戻りつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




マニゴルドならこれくらいやるかな? と思って表現しました。

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