聖姫絶唱セイントシンフォギア   作:BREAKERZ

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失ったモノ・・・

ー調・切歌・マニゴルド・カルディアsideー

 

マリア達がスカイタワーで戦っている間のマニゴルド達は。

 

「あっ、マニゴルド! それあたしの焼売デェスっ! 盗るなデェスっ!」

 

「オメェこそ、俺の分の餃子一個多く食ったろうがっ!」

 

切歌とマニゴルドが焼売を合わせ箸に持って引っ張り合いをしていた。

 

「二人共、合わせ箸はお行儀が悪いよ・・・」

 

「「ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ!!!」」

 

調の注意を気にせず焼売の引っ張り合いをしていたが、焼売が二つに千切れ、マニゴルドが空かさず奪って口に頬張る。

 

「いただき♪」

 

「あ、酷い! じゃマニゴルドのチャーシューもうらいデェス!」

 

「俺のチャーシュー!!!」

 

「いいじゃないデスか! こちとら食べ盛りで育ち盛りの成長期なんデスよ!」

 

「なにぃ!? 切歌、お前“食べ盛り”とか“育ち盛り”とか“成長期”って単語知ってたんだな!?」

 

「ふっふ~ん♪・・・・・・ん? って、それどういう意味デスかーーーーーッ!!!」

 

ギャーギャーギャーギャー!!

 

「ハァ、マムとマリアがいないといつもこうなんだから・・・」

 

「ま、あれがあの二人の平常運転って事で良いんじゃね?」

 

「カルディアは参加しないの? いつもなら参戦するのに・・・?」

 

「・・・・・・今日は気分じゃねぇや。調、俺の分の焼売と餃子やる」

 

気だるそうにカルディアは調に手を付けてない焼売と餃子を渡す。

 

「私、あんまり食べられないよ・・・」

 

「お前も育ち盛り何だから食っとけ、じゃないと切歌だけ成長しちまうぞ」

 

「成長・・・・・・(チラッ)」

 

調は絶讚マニゴルドと喧嘩中の切歌の“ある一部分”を見る、自分と切歌は同い歳で幼馴染な間柄、背丈は切歌の方が少し高いがどちらかと言うと小柄な体型、だが、その小柄な体型に不釣り合いな程に瑞々しく実った“二つの果実”が見ていると、ライブ襲撃で響に抱いた時と同等の“怒り”が静かに沸き上がり。

 

「食べる・・・・・・!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「(お、おぉ、すげェオーラ・・・!)」

 

少食な自分の胃袋に食べ物を詰め込むべく、餃子と焼売を口に入れる調をカルディアは弱冠引きながら見ていた。

 

「「(いつまでも続いて欲しいな(デスな)、こんな一時が・・・)」」

 

騒がしくも楽しいこの仲間達とのこの一時がいつまでも続いて欲しいと、切歌と調は願っていた。

 

 

 

 

ー響sideー

 

響は茫然自失していた。さっきまでこの手に握っていた親友の手の温もり、さっきまで笑い合っていた親友の笑顔、さっきまで一緒にいた親友、小日向未来がいた区画が爆発したのをその目にしたからだ。

 

「未来・・・・・・」

 

共に笑い、泣き、喧嘩して仲直りして、ずっと一緒にいた親友が死んだ。響は膝から崩れ落ちる。

 

「・・・・・・なんでこんな事に・・・!」

 

戦う意思が無くなった響の感情に呼応するかのように、その身に纏うガングニールが消えた。

 

「うっ、ううっ、うう・・・・・・」

 

泣きじゃくる響に向かってノイズが襲いかかるがーーーーー

 

「『ライトニング・プラズマ』!!」

 

響に襲いかかるノイズを黄金の閃光が粉砕する。

 

「響、しっかりしろ!」

 

「立花!」

 

「戦場で何を呆けている・・・!」

 

獅子座の黄金聖衣を纏うレグルスと天羽々斬を纏う翼と山羊座の黄金聖衣を纏ったエルシドが現れた。

 

「ソイツは任せた!」

 

イチイバルを纏うクリスはノイズを向かって駆ける。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!」

 

フォニックゲインを高める為に歌を歌うクリスに向かってノイズに襲いかかるが腰パーツを展開して追尾式小型ミサイルを発射する。

 

「目障りだーーーーーッッッ!!!!」

 

『MEGA DETH PARTY』

 

小型ミサイルを浴びたノイズだが、何体かが回避したのかクリスに襲いくる、クリスはノイズの突撃を回避する。

 

「(少しずつ何かが狂って壊れていきやがる、私の居場所を蝕んでいきやがる!)」

 

『BILLION MAIDEN』

 

今度は三連ガトリング砲を4門展開し空中のノイズに向けて掃射する。

 

「(やってくれるのは何処のどいつだ!)」

 

地面を滑空して襲いかかるノイズを飛び上がって回避するクリス。

 

「(お前か・・・!)」

 

空中でガトリング砲をノイズに向けて発泡しノイズを破壊する。

 

「(お前らか・・・!!)」

 

怒りをぶつけるように乱射するクリスを見ていた翼達は。

 

「雪音・・・」

 

「遮二無二に射ちまくっているな・・・」

 

「ああなるとデジェルじゃないと、止められないよ・・・」

 

「・・・く・・・」

 

「響、一体何があったの?」

 

「未来が・・・未来が・・・」

 

「「「っ!?」」」

 

翼達は響の発した言葉から響が呆けている理由を理解し、響が見つめる先を見る。

 

「レグルス、翼、ここは任せた・・・!」

 

響をレグルスと翼に任せ、エルシドはスカイタワーの燃えている区画に向かう。

 

「まさか・・・小日向が・・・!」

 

「(・・・・・・未来の“気配”がしない・・・無事でいてくれよ・・・!)」

 

レグルスと翼が不安そうに燃えている区画を見据えていると、クリスもまた、ノイズを見据えて言い様の無い怒りが込み上がる。

 

「(ノイズ・・・あたしが“ソロモンの杖”を起動させてしまったばっかりに! 何だ、悪いのはいつもあたしのせいじゃねぇか・・・あたしは・・・)もう逃げなーーーーーいッ!!」

 

フィーネに唆されたとは言え“ソロモンの杖”を起動させてしまった自責の念と怒りをノイズにぶつけるように、背中から大型ミサイルを二つ展開させる。

 

『MEGA DETH FUGA』

 

大型ミサイルは空中を浮遊する大型ノイズ2体に向けて発射してノイズを粉砕する。

 

「ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、(ポン) えっ? あ、お兄ちゃん・・・」

 

息切れするクリスの頭を撫でるのは、水瓶座<アクエリアス>の黄金聖衣を纏い穏やかに微笑むデジェルであった。

 

「クリス、君のせいじゃない。“ソロモンの杖”を起動させてしまったのは、確かに君だが、今現在“ソロモンの杖”を使ってノイズを操っている者の“責”を君が背負う事は無いんだ・・・」

 

「でも・・・あたし・・・!」

 

「君がそれでも“責”を感じるならば、“ソロモンの杖”を何としてでも取り戻す事だ。それこそが、起動させてしまった君がやらねばならない“償い”だ」

 

「お兄ちゃん・・・・・・」

 

クリスとデジェルはお互いに見つめ合う。だが、デジェルの頭脳は別の事に思考を巡らせていた。

 

「(そう、真に“罪”を背負わなければならないのは、現在の“ソロモンの杖”の所持者・・・!)」

 

デジェルの脳裏には、歪みきった下劣な笑みを浮かべ、不快なほどに甲高い耳障りな笑い声を上げる灰色の髪をした科学者が浮かんだ。

 

「(貴様に償って貰うぞ、ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスッ!!)」

 

デジェルはドクターウェルに怒りを燃やしていた。

 

そしてーーーーーーーーーー

 

「あの二人は、いつもあんな感じなのか? 見てるこっちが恥ずかしくなるぞ・・・///////」

 

「て言うか、デジェル予備校は?」

 

戦場であるにも関わらずに、『二人の世界』を繰り広げるデジェルとクリスに翼は僅かに顔を赤らめ、レグルスは呆れ気味に見ていた。

 

余談であるが、デジェルが模試を受けていた予備校はスカイタワーに近い位置<歩いて500mの距離>にあり、ノイズが現れた事で模試が途中中止になったので現場に駆けつけた。

 

更に余談だが、模試は後日に再開し、デジェルはトップの成績を出して志望校への評価はオールAを叩き出した。

 

 

* * *

 

 

それからノイズを殲滅し、日が傾き始めたスカイタワーには、二課と警察が来ており、そこに弦十郎の姿があった。本部と連絡を取っていた弦十郎に、同じくスカイタワーに来ていた緒川とエルシドとデジェルが近づき。

 

「米国政府が・・・?」

 

「間違いありません、FISと接触し、交渉を試みたそうです」

 

「その結果がこの惨状とは、交渉は決裂したと見るのが妥当だが・・・!」

 

「ただどちらが何を企てようと、人目につくことは極力避けるはず・・・」

 

「FISと米国が結び付くのを良しとしない、“第三の思惑”が横上を入れやがったか・・・」

 

「(現状ノイズを操る事が出来るのは“あの男”、まさかヤツがこの惨状を・・・?)」

 

「どうした、デジェル?」

 

「嫌、それよりもエルシド、小日向君は・・・?」

 

「・・・・・・」

 

デジェルの質問に難しい顔を浮かべるエルシドは口を開く。

 

ー響sideー

 

響は諜報部の車の中で、茫然としていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

その脳裏に浮かぶのは、最後に見た“未来の泣き顔”だった。

 

「(絶対に離しちゃいけなかったんだ・・・! 未来と繋いだこの手だけは・・・!)」

 

「響・・・」

 

レグルスの声に、顔を向ける響は暖かい飲み物が入った紙コップを渡される。

 

「あおいから貰ってきた、暖かいモノでも飲んで少し落ち着こう・・・」

 

レグルスから紙コップを受け取る響。

 

「(レグルス君達なら、きっと離す事は無かった・・・きっと助けられた・・・私は離しちゃた・・・未来の手を・・・)うっ、ううっ・・・」

 

「響・・・?」

 

「・・・私にとって“一番暖かいモノ”は・・・もう・・・! ううっ、ううっ!」

 

涙を流す響にレグルスは背を向けながら話す。

 

「(エルシドが捜索した結果、未来の“遺体”らしきモノは見つからなかったらしいけど、下手に希望を抱かせる訳には、いかないよな・・・)」

 

 

 

ーFISsideー

 

その頃、飛行艇に戻ったマリアとナスターシャ教授とアルバフィカ。マリアは窓を殴る。

 

「この手は血に汚れて・・・! セレナ、私はもう・・・!うっ、ううっ、ウワアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

泣き始めたマリアを辛そうに見る切歌と調、調はナスターシャ教授に話しかける。

 

「教えてマム、一体何が・・・?」

 

「・・・・・・」

 

「それだったら、僕からお話しましょう・・・!」

 

「「「・・・・・・」」」

 

言い淀むナスターシャに変わって、“ソロモンの杖”を持ったドクターウェルが部屋に入ってきた。マニゴルドとカルディアとアルバフィカは汚物でも見るように目を細める。

 

「ナスターシャは十年を待たずに訪れる月の落下より、一つでも多くの命を救いたいと言う私達の崇高な理念を米国政府に売ろうとしたのですよ!」

 

「マム・・・!」

 

「本当なのデスか!?」

 

「・・・・・・」

 

何も言わないナスターシャに変わってウェルは更に慇懃無礼な態度で喋る。

 

「それだけではありません。マリアを器にフィーネの魂が宿ったと言うのもとんだ出鱈目! ナスターシャとマリアが仕組んだ狂言芝居!」

 

「「っ!?」」

 

ウェルの言葉に切歌と調はマリアを見る。

 

「・・・・・・ゴメン・・・皆・・・ゴメン・・・!」

 

泣きそうな声で謝罪するマリアの背を見て、マニゴルドが口を開く。

 

「ふ~ん、マリアがフィーネの器じゃないか・・・で?」

 

マニゴルドがウェルに向かって問う。

 

「で? とは?」

 

「だからそれで?」

 

「だから、マリアはフィーネではないと・・・!」

 

「知ったこっちゃねぇな・・・!」

 

ウェルが更に何か言おうとするのをカルディアが遮る。

 

「知ったこっちゃ無いとは・・・?」

 

意味が分からないと言わんばかりのウェルにアルバフィカが言う。

 

「マリアがフィーネではないと言うことは、マリアがフィーネに食い潰される心配が無くなったと言うだけだ。何も問題は無い」

 

「な?! あ、あなた達聖闘士は、マリアがフィーネであるからかつての同士と戦う事を選んだのではないのですか!?」

 

「「「関係無い(ねぇよ)(ねぇんだよ)」」」

 

「っ!?」

 

「っ!」

 

フィーネの力を見込んでかつての仲間と対立する事を選んだと高をくくっていたウェルは目を見開き驚く、それはマリアも同じだった。マニゴルドとカルディアはニヤリと笑みを浮かべ。

 

「俺は“報酬”♪」

 

「俺は俺の“目的”♪」

 

「「俺らは俺らの目論みでここにいんだよ!」」

 

「(チッ、この単細胞の俗物共が・・・・ッッ!!)」

 

マニゴルドとカルディアの小馬鹿にした笑みにウェルは内心舌打ちをする。

 

「では、アルバフィカさん! 貴方は何故!? まさか貴方も“報酬”や何かの“目論み”でここに入るのですか!?」

 

「・・・・・・君に教える“義理”も無ければ、教える“価値”もないな」

 

「なっ!?」

 

アルバフィカは目を細め、ウェルを見据える。

 

「知りたければ自ら考えて見ることだな。君は優秀な頭脳を持っているつもりなのだろう? そんな君でも分からないのかな?」

 

「ぐ、ぐぐ、ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!!」

 

アルバフィカの鼻笑い混じりの問いにウェルは忌々しいと言わんばかりに歯ぎしりをする。

 

「・・・・・・(私がフィーネでない事を知って何故、力を貸してくれるの?)」

 

マリアが窓に映るアルバフィカを見る。カルディアは調の頭を撫でる。

 

「んで? 調、お前はどうなん? つまりはマリアがフィーネに消される心配が無くなったって訳だぜ?」

 

「・・・・・・それは、それで良かったかも・・・」

 

「だろ♪」

 

調の答えにカルディアは満足気に頷き、マニゴルドは切歌に問う。

 

「んで、切歌、お前はどうなのよ?」

 

「えっ!? そりゃ、マリアがフィーネに食い潰される心配が無くなって良かったと思うデスが・・・でも! マリアがフィーネで無いだとしたら、じゃぁ・・・!」

 

切歌の言葉を遮るようにウェルがいけしゃあしゃあと口を開く。

 

「僕を計画に荷担させる為とは言え、貴女<調と切歌>まで巻き込んだこの“裏切り”は、あんまりだと思いませんか? せっかく手に入れた“ネフェリムの心臓”も、無駄になるところでしたよ・・・!(“骨董品共”との関係を拗れさせる事は出来なかったが、小娘共との関係には僅かな“亀裂”を生めた。後はどうするかですねぇ・・・!)」

 

 

 

ー緒川sideー

 

その頃緒川は、スカイタワー近くの河川で“通信端末”を発見し、弦十郎に連絡を取るように指示を出していた。

 

 

ー翼・クリスsideー

 

その晩、『ファミリーレストラン イルズベイル』にて、翼とクリスは夕食を取っていた。

 

「ムグムグムグムグ、ふぁにかたのふぇよ(何か頼めよ)、ふぉすぐにぃふぁちもくるひふぁ(もうすぐ兄ぃ達も来るしさ)」

 

口の中に食べ物を頬張りながら、口の周りを汚しながら翼に話しかけるが、翼は憮然とし。

 

「夜の9時以降は食事を控えている・・・」

 

クリスは翼の“慎ましい胸元”を見てボソッと呟く。

 

「そんなんだからそんな(胸)なんだよ・・・」

 

「何が言いたい! 用が無いなら帰るぞ!」

 

思わず立ち上がり怒鳴る翼。

 

「・・・・・・怒っているのか?」

 

「愉快でいられる道理が無い! FISの事、立花の事、そして・・・仲間を守れない私自身の不甲斐なさを思えば・・・!」

 

席に座り直す翼にクリスが話す。

 

「呼び出したのは、一度一緒にメシを食ってみたかっただけさ。腹を割って色々話すのも悪く無いと思ってな。あたしら何時からこうなんだ? 目的は同じ筈なのに、てんでバラバラになっちなってる。兄ぃ達みたいな戦闘力が無い分、あたしらは連携して「雪音・・・」?」

 

「腹を割って話すなら、いい加減名前位呼んで貰いたいモノだ・・・」

 

「はああっ!?/////」

 

翼の反撃に顔を赤らめる。

 

「そ、そりゃぁ・・・オメェ・・・/////」

 

翼は席を立ち、去っていった。

 

「ち、ちょっと・・・・・・ハ~ァ、結局話せず仕舞いか・・・でもそれで良かったかもな・・・」

 

「本当に良かったと思うのか?」

 

「あ、お兄ちゃん・・・」

 

デジェルがやって来た(翼達がいる所では「兄ぃ」と呼んでいるが、二人っきりの時は「お兄ちゃん」と呼ぶ事にしている)。

 

「なんだよ、盗み見なんて趣味悪いよ・・・山羊座の野郎は?」

 

「フラれてしまってね、丁度翼君が名前を呼べの所で来たので静観してみたが、どうにもままならないな・・・」

 

やれやれと肩を竦めながら翼の座っていた席に座るデジェルに頷きながら、クリスはコーヒーを啜る。

 

「・・・苦ぇ・・・」

 

「それはそうとクリス、少しテーブルマナーを身に付けた方が良いな・・・」

 

「うへぇ・・・」

 

クリスの食べ散らかしたテーブルの惨状を見たデジェルの言葉にクリスはげんなりとした表情を浮かべた。

 

 

 

ーFISsideー

 

夜になり、部屋の中が暗くなる中、切歌が口を開く。

 

「マム、マリア、ドクターの言ってる事は本当なんデスか?」

 

「本当よ、私がフィーネで無い事も、人類救済の計画を一時棚上げにしようとした事もね・・・」

 

「そんな・・・」

 

「マムはフロンティアに関する情報を米国政府に共用して、協力を仰ごうとしたの」

 

「だって、米国政府とその経営者達は、自分達だけが助かろうとしているって・・・」

 

「それに! 切り捨てられる人達を少しでも救おうとして世界に敵対してきた筈デェス!」

 

「米国がこちらと大人しく講和をしようとは思えねぇな・・・!」

 

「・・・あのまま講和が結ばれてしまえば、私達の優位性は失われてしまう。だから貴方は、あの場にノイズを召喚し、会議の場を踏みにじって見せた、こちらにはアルバフィカがいたからノイズの必要性など無かったにも関わらず・・・!」

 

ナスターシャの責める物言いにウェルはニヤリと笑みを浮かべわざとらしい態度を取る。

 

「嫌だなぁ、悪辣な米国の連中から貴女を守って見せたと言うのに!」

 

ウェルは“ソロモンの杖”をナスターシャに向けて、調と切歌がナスターシャを守るように立ち、マニゴルドとカルディアがウェルの後ろで構える。

 

「この“ソロモンの杖”で・・・!」

 

「「・・・ッッ」」

 

調と切歌の前に、マリアが立ち塞がった。

 

「マリア・・・?」

 

「どうしてデスか!?」

 

「フハハハハハハハハハハハハハ、そうでなくっちゃ♪」

 

下卑た笑いを上げるウェルを無視し、マリアが言う。

 

「偽りの気持ちでは世界を守れない! “セレナの想い”を継ぐ事なんて出来やしない! 全ては力、力を持って貫かなくては、正義を成すことなんて出来やしない! 世界を変えていけるのはドクターの“やり方”だけ! ならば私はドクターに賛同する!!」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

「ウヒヒ、ウヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」

 

マリアの言葉に調と切歌が黙りマニゴルドが呟く。

 

「“力こそ正義”ってか、まぁ間違っちゃいねぇな。力の無いヤツが何かをほざいた所で、所詮“弱い犬ほど良く吠える”だからな・・・」

 

「そんなのヤダよ・・・だってそれじゃ、力で弱い人達を抑え込むって事だよ・・・!」

 

マリアとマニゴルドの言葉に納得できない調、沈黙がその場に広がるが。

 

「・・・・・・分かりました」

 

ナスターシャが沈黙を破った。ウェル以外の全員がナスターシャを見る。

 

「それが“偽りのフィーネ”ではなく、“マリア・カデンツァヴナ・イヴ”の選択なのですね?」

 

「・・・・・・」

 

沈黙は肯定と言わんばかりにマリアはナスターシャを見据える。

 

「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ・・・」

 

「大丈夫デスか!?」

 

咳き込むナスターシャにマリアは近づこうとするが立ち止まり、ウェルは部屋を退出しようとする。

 

「後の事は僕に任せて、ナスターシャはゆっくり静養して下さい。さて、計画の軌道修正に忙しくなりそうだ! 来客の対応もありますからね♪」

 

わざとらしく話すウェルが退出したのを確認したマニゴルド達は目線で会話する。

 

「(来客ってマリアが連れてきたあの娘か・・・?)」

 

「(アルバフィカ、あの娘っ一体何なんだよ?)」

 

「(・・・・・・アスミタから預かった少女だ)」

 

「「(・・・・・・はぁ!? アスミタが!?)」」

 

「(スカイタワーで出くわしてな、急に彼女を我等に託して姿を消したのだ・・・)」

 

「(は~、あのアスミタがね・・・)」

 

「(何か言ってたか・・・?)」

 

「(さぁな、そう言えば去って行く際に・・・)」

 

『「自分が手離した存在が、どれ程大切なのか、あの“中途半端な愚か者”には良い薬になる・・・」』

 

「(と言って消えたが、あれは一体・・・)」

 

 

ーFIS飛行艇・格納庫ー

 

薄暗い格納庫に光る柵で出来た檻の中で、スカイタワーで行方不明になった『小日向未来』が座り込んでいた。

 

「・・・・・・響・・・ッッ」

 

親友に会いたい気持ちとこれからの不安に、未来は顔を埋めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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