聖姫絶唱セイントシンフォギア   作:BREAKERZ

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過去の記憶と驚愕の事実

ー『黄泉比良坂』ー

 

あの世とこの世の境目の死界『黄泉比良坂』、本来生者は来られない世界に四人の男女が歩いていた。この死界への扉を開く事ができる積尸気使い蟹座<キャンサー>のマニゴルドと蠍座<スコーピオン>のカルディア、暁 切歌と月詠 調の四人である。

 

「うわ~相変わらず下手なお化け屋敷や夜のお墓より迫力あるデスなここ・・・」

 

「あの世とこの世の境目の世界だものね・・・」

 

「直ぐに出るからビクビクしなくても良いだろ?」

 

何度か来たことがあるが、『黄泉比良坂』のおどろおどろしい雰囲気に馴染めずビクビクと切歌はマニゴルドに、調はカルディアにしがみつく。

 

「・・・・・・・・・」

 

マニゴルドは小高い丘を見つけ、そこから『黄泉比良坂』で一番大きな山を見据えていた。

 

「マニゴルド、どうしたデスか?」

 

マニゴルドが憂いを帯びた瞳で見据える先を見ると、大きな山に向かって歩いていく人々、彼等は生者ではなく死者、『黄泉比良坂』を通って『あの世』へと旅立つ者達なのだ。切歌と遅れてきたカルディアと調も憂い気に見つめる。

 

「私達が日々を過ごしている間にも、あんなに大勢の人達が亡くなってるんデスね・・・」

 

「ああ、ちゃんと天寿を全うしたヤツもいれば、病気で死んだヤツ、不幸な事故で死んだヤツ、理不尽な暴力で死んだヤツ、世を儚んで自ら命を断ったヤツと十人十色だ・・・」

 

「私達が戦い続けて誰かの命を奪うことがあったら、その人もここに来るのかな・・・?」

 

「ここはあの世への通り道なモンだからな、必ず通るだろうよ・・・」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

カルディアの言葉に切歌と調は苦しそうに顔を俯かせるが、マニゴルドは切歌のカルディアは調の頭をグリグリと撫でる。

 

「な~に沈んだ顔してんだよ、お前らが人の命を奪うことをしなくても良いんだよ!」

 

「そういう“汚れ役”は、俺らがやるんだからな!」

 

「うぅ~、でも・・・」

 

「デスデス・・・」

 

“汚れ役”を買って出るマニゴルドとカルディアに二人は何か言いたげになるが。

 

「お前らがやりたくない事を無理してやらなくてもよ。元々“ロクデナシ”の俺らにはこう言う役割がお似合いなんだからな」

 

「それにな俺の名前は“マニゴルド”、『死刑執行人』なんだからよ、殺しと言った“汚れ仕事”は俺らに任せておけば良いんだよ」

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

そう言ってマニゴルドは『黄泉比良坂』の“出口”を開けるが、切歌と調は辛そうにマニゴルドとカルディアを見つめていた。

 

 

 

 

 

ー二課 指令室ー

 

そしてその頃、奏者達と聖闘士達は二課指令室でノイズの反応が合った場所から調査が行われていた。

 

「(“遺棄されたアジト”と“大量に残されたノイズ被災者の痕跡”、そして“気を失った前後の記憶が無い少年達”、これまでと異なる状況は何を意味している・・・?)」

 

「司令!」

 

「ん」

 

「電算室による、解析結果が出ました。モニターに回します!」

 

藤尭がモニターを出して、友里が解説する。

 

「アウフヴァッヘン波形照合、誤差パーツはトリニオンレベルまで確認できません・・・!」

 

モニターに映し出されたは“響のガングニール”と“マリアのガングニール”の照合検証の結果であった。

 

『・・・!』

 

「「「・・・」」」

 

弦十郎と奏者達は驚いていたが、レグルス達聖闘士は「やはり」と言わんばかりの態度であった。

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴの纏う黒いガングニールは、響くんの物と寸分たがわぬと言うことか・・・」

 

「やっぱり、マリアの纏う黒いガングニールは・・・」

 

「立花と同じく、“ガングニールの欠片”と見て間違いないだろう」

 

「クリス達が纏うのはあくまでも“欠片”だ。同じ“欠片”なら寸分たがわぬギアが生まれても不思議ではないな」

 

比較的冷静な聖闘士達と違い、奏者達取り分け響の心境は穏やかではなかった。響は胸のガングニールにソッと触れる。

 

「私と同じ・・・・・・」

 

藤尭と友里が更に話を進める。

 

「考えられるとすれば、米国政府と通じていた良子さん<フィーネ>によってガングニールの一部が持ち出されて作られたものではないでしょうか?」

 

「“櫻井理論”に基づいて作られたもう一つのガングニールのシンフォギア」

 

「だけど妙だな・・・」

 

「クリス、妙とは?」

 

「うん、米国政府の連中はフィーネの研究を狙ってたんだ・・・」

 

「成る程、FISと言う組織があり、シンフォギアをも作り出せる技術があるならば、わざわざフィーネの研究を狙う道理はないな・・・」

 

「政府の管理から離れ、暴走している現状を察するに、FISは聖遺物に関する技術や情報を独占し、独自判断で動いていると考えて間違いと思う」

 

「と言うことは、マリア・カデンツァヴナ・イヴ達のアジトらしき場所にあった“大量のノイズ被災者の痕跡”は、米国政府の工作部隊の可能性が出てくるな」

 

「米国は聖遺物の力にご執心だからな、奴等の持つ異端技術を狙うのは道理と言える」

 

「米国政府は録な事しないな・・・」

 

「・・・・・・」

 

「(響・・・?)」

 

翼の言葉から米国の動きを推察するデジェル達だが、響は心ここにあらずな態度であったのをレグルスだけが気付いた。

 

「ハア、FISは自国の政府まで敵に回して、何をしようと企んでいるのだ・・・!」

 

 

 

 

ーFIS飛行艇ー

 

その頃、マリア達の飛行艇はステルス能力をフルに使い、都心へと進路を進めていた。操縦をしていたナスターシャ教授はモニターで檻に閉じ込めている“ネフェリム”を眺めていた。

 

「(ついに本国からの追っ手にも補足されてしまった。だけど依然、“ネフェリム”の成長は途中段階、“フロンティア”起動には遠く至らない・・・)」

 

ナスターシャ教授がモニターの画面を切り替えると“ネフェリム”の檻の近くでアルバフィカに殴られた頬を痛がりながらも治療しているドクターウェルが、更に画面を切り替えるとアルバフィカと談笑しているマリアが映った。

 

「(“セレナ”の意志を継ぐために、貴女は全てを受け入れた筈ですよマリア、もう迷っている暇などないのです・・・!)」

 

 

ー飛行艇・マリアとアルバフィカがいる区画ー

 

「マリア」

 

「何、アルバフィカ?」

 

「後悔、してはいないか・・・?」

 

「・・・・・・・・・」

 

アルバフィカに気遣われ、マリアは6年前の過去の出来事を思い出す。

 

 

 

ー6年前ー

 

それはFISの研究所で、“完全聖遺物ネフェリム”の暴走から始まった。

 

「“ネフェリム”の出力は依然不安定、やはり歌を介せずの強制起動では、完全聖遺物を制御できる物ではなかったのですね!」

 

当時のナスターシャ教授はまだ子供だったマリアとマリアの“妹”であるセレナがいた。不安そうな表情を浮かべるマリアの隣にいたセレナが顔を上げる。

 

「私、歌うよ」

 

「え、でもあの歌は・・・!」

 

「私の絶唱で、ネフェリムを起動する前の状態にリセットできるかも知れないの」

 

「そんな賭けみたいな!もしそれでもネフェリムを抑えられなかったら・・・!」

 

「・・・・・・」

 

止めようとするマリアにセレナは首を横に振り。

 

「その時はマリア姉さんが何とかしてくれる。FISの人達もいる、私だけじゃない、だから何とかなる!」

 

「セレナ・・・」

 

「ギアを纏う力は私が望んだものじゃないけど、この力で皆を守りたいと望んだのは私なんだから。それに、この間この研究所に来た“あの人達”とももっとお話したいし、マリア姉さんにもちゃんと紹介したいしね!」

 

「“あの人達”って、数週間前に研究所で保護された“三人”の事?」

 

セレナの言う“三人”とは、完全聖遺物“らしき”レリーフを持って研究所近くで倒れていた少年達。三人ともマリアとセレナと同い年の少年なのだか、三人とも普通の少年では考えられないほどに肉体が鍛えられ、内二人に至っては、1人は“心臓”に、1人は“血液”に異常が見られ

何処かの国のスパイではないかと怪しまれ軟禁されていた。

だがセレナはそんな三人と隔てなく何度か会話をし、友好的な関係を結んでいた。

 

「うん!三人とも面白い人達だからマリア姉さんともきっと仲良くなれるよ。だから、行ってくるね!」

 

そう言ってセレナは“ネフェリム”の下に向かった。

 

「セレナ!」

 

後を追おうとしたマリアをナスターシャ教授が抑えた。そして、セレナはギアを纏いネフェリムと対峙する。

 

「(キッ)」

 

燃え上がる区画に大口を開けた骨組みの野獣“ネフェリム”にセレナは歌う。絶唱をーーーーーー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

セレナの歌が響く中、ナスターシャ教授達はネフェリムを制御しようと操作を続けた。マリアは不安そうにセレナを見つめる。

 

 

ー研究所・別区画ー

 

そして、件の少年達が軟禁された区画でもセレナの歌が響いていた。

 

「おい、さっきからドッカンドッカンうるせぇんだけどよ・・・?」

 

「つか、この歌声ってアイツか・・・?」

 

「ああ、セレナの歌声だ・・・」

 

 

ーネフェリムのいる区画ー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

歌い続けるセレナの口元に“血”が流れ、そして光が溢れれナスターシャ教授達も、姉のマリアも、全てを凪ぎ払ったーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

マリアが意識を取り戻すと、瞳に映ったのは。

 

“燃え上がり崩れた区画”

 

“活動停止したネフェリム”

 

“炎の中に佇み歌を歌う妹セレナ”

 

マリアは崩れた瓦礫の山を乗り越えてセレナの下に向かった。

 

「セレナッ!・・・セレナッ!!」

 

セレナに向けて手を伸ばすも炎に邪魔される。

 

「誰か!私の妹が!!」

 

助けを求めるマリアの耳に残酷な言葉が聞こえた。

 

「貴重な“実験サンプル”が自滅したか!?」

 

「実験はただじゃないんだぞ!」

 

「無能共が!!」

 

安全な解析室で実験を見ていた大人達の理不尽な罵詈雑言がマリアの耳に毒を入れる。

 

「どうしてそんな風に言うの!?貴方達を守るために血を流したのは私の妹なのよ!・・・っ!?」

 

理不尽な大人達に怒りを訴えるマリアの後ろで爆発音が響く。振り向いたマリアが見た光景は。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

目から血の涙を流し、壊れた笑みを浮かべながら歌を歌うセレナの姿だった。

 

「ッ!!」

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪(よかった・・・マリア姉さん・・・)」

 

「セレナ!セレナ!!あっ!」

 

セレナの下に行こうとするマリアの頭上から瓦礫が落下するが、ナスターシャ教授がマリアを覆いかぶさり瓦礫の下敷きになった。

 

そして、倒れたマリアの瞳に映るのは崩れた瓦礫と炎に呑まれていく最愛の妹の姿・・・。

 

「セレナアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

マリアの慟哭が崩れた区画に空しく響いた。

 

 

 

 

 

 

そしてーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだこりゃあ!?」

 

「爆発が聞こえたから急いで牢屋から出てみたらどうなってんだよこいつはぁ!?」

 

「っ!?マニゴルド!カルディア!あそこにナスターシャ教授が!」

 

軟禁されていた監獄を力技で脱出した三人、マニゴルドとカルディアとアルバフィカ。マニゴルドとカルディアは急いでマリアとナスターシャ教授の元に向かい、アルバフィカは解析室に向かった。

 

「何だ、あの小僧共は!?」

 

「そんな事どうでも良い!実験サンプルが消えたのならこんな所に用は無い!」

 

「全く、我々が援助した金をドブに捨ておって!!」

 

解析室にいた大人達は、セレナやマリアの事等どうでもいいと考え、ただ自分達への利益の事しか頭に無い俗物共の目の前にアルバフィカが現れた。

 

「・・・・・・・・・」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

突然自分たちの目の前に現れた“美少年”に俗物共は好色の色が浮かんだ。

 

「・・・美しい・・・」

 

「男なのか・・・女なのか・・・?」

 

「嫌、この際どっちでも構わん・・・!」

 

「(・・・ギリッ)・・・この屑共がっ・・・!!」

 

下劣な笑みを浮かべ、中には舌舐めずりをしながら自分に近づく俗物共にアルバフィカは不快そうに歯軋りをしてーーーーーー。

 

 

そしてマリアとナスターシャ教授の元に付いたマニゴルドとカルディア。マニゴルドはナスターシャ教授を担ぎ、カルディアはマリアを起こす。

 

「おい婆さん!生きてるか!?」

 

「・・・うっ!・・・うぅ・・・!」

 

「良しまだ生きてるな、直ぐに避難しねぇとな。カルディア!ソイツはどうだ!?」

 

カルディアは放心したマリアの胸元を掴み揺する。

 

「オイコラテメェ!しっかりしやがれ!死にてぇのか!?」

 

「セレナが、セレナが、セレナが・・・」

 

「セレナ?まさかお前がセレナの・・・セレナはどうした!?」

 

「っ!?」

 

マニゴルドとカルディアはマリアの見つめる方に目を向けるとそこには炎に包まれた瓦礫の山しかなかった。だが、二人は察した。

 

「おい・・・まさかセレナは・・・!?」

 

「クソッタレ・・・!」

 

悔しそうに毒づく二人は更に崩れそうになる建物からマリアとナスターシャ教授を連れて避難しようとする。

 

「マニゴルド!カルディア!こっちだ!」

 

「アルバフィカ!」

 

「オメェどこ行ってたんだよ!」

 

「・・・・・・ただの“ゴミ掃除”だ」

 

アルバフィカが解析室に目を向け、二人もそこに目を向けると先程までにセレナに罵詈雑言を浴びせていた俗物共が顔を腫らして気絶している姿が見えた。

 

「「(あぁ成る程、確かに“ゴミ掃除”だわ)」」

 

自分達を救ってくれたセレナに対し、何の感慨を持たない屑共に対してマニゴルド達が抱いた感想はそれだけだった。三人はマリアとナスターシャ教授を連れて避難したが、アルバフィカはセレナのいた場所を見つめ。

 

「(すまない・・・・セレナ・・・っ!・・・)」

 

アルバフィカの頬に一筋の涙が流れた。

 

 

 

 

ー現在ー

 

「あの日、私達がもっと早くあの場所に行っていれば、別の研究所に運ばれた聖衣レリーフを持っていればセレナは・・・・・・」

 

「アルバフィカ・・・・・・」

 

辛いのは自分だけでは無い、アルバフィカも、表面には出さないがマニゴルドもカルディアも、セレナを助けられなかった事に後悔を抱いている事をマリアもナスターシャ教授も知っている。彼等にとってセレナは“この世界”に来て初めて出来た“友人”だったのだから。

マリアはシンフォギアのペンダントを見つめながらあの日に失った妹に、セレナに想いを馳せていた。

 

「(セレナ・・・貴女と違って、私の歌では誰も守る事は出来ないかもしれない・・・)」

 

物思いに耽る二人にナスターシャ教授からの連絡が入る。

 

「《間も無くランデブーポイントに到着します。良いですね》」

 

「OKマム・・・」

 

「・・・・・・(あれが、“カ・ディンギル”か・・・)」

 

窓の外を見たアルバフィカの目に映ったのは3ヶ月前までリディアン音楽院の校舎であり、二課の本部、“ルナアタック事変”の際に月を破壊するために“破滅の巫女フィーネ”が起動させた異端技術“カ・ディンギル”であった。現在は“立ち入り禁止区域”にされたこの場所こそ、マリア達の目的地であった。

マリア達の乗る飛行艇が着陸するのと同時に、黒い渦が現れ、その中からマニゴルドと切歌、カルディアと調が出てきた。

 

「お♪ドンピシャだったみたいだな」

 

「やれやれ、もう夕方か・・・」

 

マリアとアルバフィカが降りてきたのを見えた切歌と調はマリアの元に向かう。

 

「マリア!大丈夫デスか!?」

 

「えぇ、大丈夫よ」

 

「「・・・ホッ」」

 

セレナの事を思い出し少々ブルーになったが、無関係な少年達が犠牲にならずに済んだ事を思い出してにこやかに答える。それを見た切歌と調もホッとした笑みを浮かべ、調がマリアに抱きつく。

 

「よかった、マリアの中のフィーネが覚醒したら、もう会えなくなってしまうから・・・!」

 

「フィーネの器になったとしても、私は私よ。心配しないで・・・」

 

「ッ!・・・」

 

調を安心させるように言うマリアに今度は切歌が抱きつく、二人をマリアは優しく抱き締めた。アルバフィカ達は姉妹のように仲睦まじいマリア達を微笑ましく見つめた。

飛行艇から車椅子に乗ったナスターシャ教授と顔をガーゼで覆ったドクターウェルが歩いてきた。顔の半分をガーゼで覆ったウェルにマニゴルドとカルディアはニタニタとしたら笑みを浮かべ。

 

「何だ何だドクター、ちょっと見ない間に随分と男前になったな♪」

 

「いつもの顔<ツラ>よりそっちの方が断然マシな面構えだぜ、もういっその事ずっとそのままでいたらどうだ♪」

 

「「「プッ!」」」

 

「(ピクピク!)」

 

マリア達にも笑われ一瞬不快そうに眉を動かしたウェルはアルバフィカに睨みながらも無理に笑みを浮かべ口を開く。

 

「あぁこの顔は、“野蛮人!”の怒りに触れてしまったせいでできたのですよ。全く災難です」

 

「そうか?私は力を無闇やたらと振り回していた“幼稚な子供”を諫めただけに見えたがな・・・」

 

「(ピクピクピクピクピクピクピクピク!!)」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「「(ニヤニヤ)」」

 

「「「(・・・・・・)」」」

 

アルバフィカの言葉に眉をピクピクさせ僅かに血管を浮かせながら笑顔を引きつらせるドクターウェルと、どこ吹く風な態度のアルバフィカの間に火花が散っていた。マニゴルドとカルディアはニヤニヤと笑みを浮かべ、マリア達は内心冷や汗を流していた。話を終わらせようとナスターシャ教授が全員に告げる。

 

「何はともあれ四人共無事で何よりです、さあ追い付かれる前に出発しましょう」

 

「待ってマム!私達、ペンダントを取り損なってるデス!このまま引き下がれないデスよ!」

 

「決闘するとそう約束したから!うっ!」

 

「マム!うっ!」

 

ナスターシャ教授は切歌と調の頬を叩いた。

 

「いい加減にしなさい!マリアも貴女達二人もこの戦いは“遊び”ではないのですよ!マニゴルド、カルディア!あなた方が付いていながら!」

 

「まどろっこしいんだよ。ペンダントが必要なら決着なり奇襲なりして奪った方が手っ取り早いし、上手く行けば向こうの戦力を削ることもできるしな」

 

「俺は決闘に賛成派だ。決着を付けるまたとない好機だからな」

 

ナスターシャ教授の叱責をマニゴルドとカルディアはめんどくさそうに聞き流した。ナスターシャ教授が更に二人を叱責しようとするが、ウェルが止めに入った。

 

「そのくらいにしましょう。まだ取り返しのつかない状況ではないですし、ねえ?それに、その子達の交わしてきた約束、決闘に乗ってみたいのですが」

 

「「「(何を企んでいる、この毒蛇は・・・?)」」」

 

アルバフィカとマニゴルドとカルディアはドクターウェルを訝しそうに見つめた。

 

 

 

ー二課・本部ー

 

そして二課本部ではノイズの発生警報が鳴り響いた。

 

「ノイズの発生パターンを検知!」

 

「古風な真似を、決闘の合図に狼煙とは・・・・!」

 

「位置特定!ここは!?」

 

「どうした?」

 

「東京番外地、特別指定封鎖地域!」

 

『ッ!?』

 

「“カ・ディンギル跡地”だと!?」

 

藤尭の報告にレグルス達と響達の顔が驚愕に染まり、弦十郎は座席から立ち上がる。

 

 

ー“カ・ディンギル跡地”ー

 

奏者達と聖闘士達は指定された場所に赴く。そこは“フィーネ”との決戦の場になった、奏者達にしても聖闘士達にしても因縁深い場所であった。

 

「随分と皮肉な場所を指定してきたものだ・・・」

 

「決着を求めるのもおあつらい向きの舞台と言う訳か・・・」

 

「・・・誰かいるよ、スッゴい嫌な奴・・・!」

 

響達とレグルス達の目の前に、顔の半分をガーゼに包んだドクターウェルが“ソロモンの杖”を持って不適な笑みを浮かべていた。

 

「ッヤロウ!」

 

「中々男前になったな」

 

「(ピク!)」

 

“ソロモンの杖”を持つウェルをクリスが毒づき、デジェルがウェルの顔を皮肉るとウェルは額に血管を浮かせ、“ソロモンの杖”を構えて、ノイズを大量に射出する。

 

『ッ!!』

 

ノイズの出現したのを確認した奏者達は歌う。『戦いの歌』を。聖闘士は呼ぶ己の“鎧”を。

 

「「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」」」

 

「獅子座<レオ>ッ!!」

 

「山羊座<カプリコーン>ッ!!」

 

「水瓶座<アクエリアス>ッ!!」

 

奏者達が歌うと服が弾け、その身にギアを纏う。

 

「フッ!」

 

「ハッ!」

 

「ハアッ!」

 

聖闘士達の頭上に黄金の獅子と山羊と瓶を持ったシーマンのオブジェが現れ分解し、それぞれのパーツとなり聖闘士の身に纏い純白のマントを翻す。

 

「ッ!」

 

「ハアッ!」

 

「フッ!」

 

奏者達と聖闘士達はノイズに向かって翔る!

 

響はノイズに突っ込み拳で次々とノイズを貫く!

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!!」

 

翼は翔ながらノイズを切り捨てる!

 

「ハアアアアアアアアアア!!!」

 

クリスはガトリングを構えてノイズを凪ぎ払う!

 

「でええええええええええええい!!!」

 

聖闘士達にノイズは突っ込むも。

 

レグルスはソッと拳を突き出すとノイズの回りに光の線が次々現れ、ノイズを粉砕する!

 

エルシドは手刀を振るうとノイズ達を一刀両断し!

 

デジェルは『カリツォー』でノイズ達を次々と瞬間凍結させる!

 

ドクターウェルが次々とノイズを出現させるも、奏者達は次々と凪ぎ払い、聖闘士達は準備運動にもならないと言いたげな余裕の態度を取った。

 

「ハアッ!ハアッ!テヤァ!調ちゃんと切歌ちゃんは!?」

 

「あの子達は謹慎中です。だからこうして私が出ばってきてるのですよ、役立たずの蟹座と蠍座もね。お友達感覚で計画遂行に支障をきたされては困りますので♪」

 

響の質問にドクターウェルは嫌らしい笑みを浮かべながら仲間である筈の調達をなぶる。

 

「何を企てるFIS!」

 

「企てる?人聞きの悪い。我々が望むのは、人類の救済!」

 

芝居じみた動きでドクターウェルは月を指差す。

 

「月の落下にて損なわれる無辜の命を救い出すことだ!」

 

『ッ!!』

 

「月を・・・!」

 

「月の好転起動は、各国機関が3ヶ月前から計測中!落下など結果が出れば黙っては!」

 

「黙ってるに決まってるじゃないですか!?」

 

翼の言葉を嫌らしい笑みを更に歪ませたドクターウェルが否定する。

 

「対処方法の見つからない極大災厄など、更なる混乱を招くだけです、不都合な真実を隠蔽する理由などいくらでもあるのですよ!」

 

「まさか!アルバフィカ達がお前達に協力しているのも!」

 

「そういう事ですよ獅子座<レオ>!彼等はこの極大災厄を知ったから我々に協力してくれているのです!」

 

「(以前アルバフィカが言っていた、“世界がこの危機を知っても黙殺されるか混乱が生まれるだけ”とは、その危機とはこの事か!?)」

 

「(アルバフィカはともかく、マニゴルドとカルディアがそれだけで動くのか・・・?)」

 

「まさか!この“事実”を知る連中ってのは、自分達だけ助かるような算段をしている訳じゃ?!」

 

今度はクリスの質問に答えるドクターウェル。

 

「だとしたらどうします?貴女達なら?対する私達の答えが、“ネフェリム”!」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「ッ!!クリス!!」

 

「うわぁ!?////」

 

デジェルがすかさずクリスをお姫様抱っこし飛ぶとクリスのいた地点の下からノイズとは違う“異形の怪物”が現れた。

 

「雪音!」

 

「デジェル、無事か?」

 

「あぁ、クリス大丈夫かい?」

 

「大丈夫、ありがとうお兄ちゃん」

 

だが、クリスとデジェルの近く来た翼とエルシドはノイズが吐き出した粘着性の糸に捕まった。

 

「やべっ!」

 

「このような物で!」

 

「デジェル!」

 

「あぁ、この程度直ぐに凍結させる!」

 

が、捕まった四人の前に“異形の怪物<ネフェリム>”が立ちはだかる。

 

「人を束ね、組織を編み、国を立てて命を守護する!“ネフェリム”はその為の力!」

 

『ガアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

“ネフェリム”と呼ばれた怪物が四人に襲いかかる!

 

ドオウっ!!!

 

バキッ!!!

 

四人に襲いかかる“ネフェリム”を響とレグルスが迎撃する!だが、ドクターウェルはレグルスにだけ大型のノイズを射出する!

 

「くっ(響から引き離すつもりか!?)」

 

「ハアッ!♪~♪~♪ハアッ!~♪~♪~♪」

 

「“ルナアタックの英雄”と“黄金の英雄”よ!その拳で何を守る?!」

 

「そんなの決まっている!この拳は!皆を守るためにある!そうだろ響!!」

 

「(コクン!)♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

ドクターウェルの質問を聞き流し、レグルスの言葉に頷いた響は両腕のパーツを引き、渾身の一撃を放とうとする!

 

「ハアアアアアアアアア!!」

 

“ネフェリム”に叩きつけた拳がパイルバンカーのように追撃し、“ネフェリム”が倒れる!

 

腰のパーツが火を吹き、響が空を飛び、“ネフェリム”に向かうが、ドクターウェルが更にノイズを響とレグルスの元に射出させ響の耳に毒を入れる。

 

「そうやって君は!誰かを守る為の拳で、もっと多くの誰かをぶっ壊しに来るわけだ!」

 

「はッ!?」

 

射出されたノイズを凪ぎ払う響は、ドクターウェルの言葉から調に言われた言葉を思い出す。

 

『それこそが“偽善”!』

 

「響!手を引け!!」

 

「うあ!・・・っ!?」

 

戦いの最中に気をそらして突き出した響の左手が“ネフェリム”の口の中に入った。

 

「え?・・・」

 

ギチ・・・ギチギチ・・・ブチンッ!!!ブシャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

肉を引きちぎる音が響くと共に響の左腕から大量の血が噴射した。

 

「立花ーーーーーーーーーー!」

 

「うあああああああああああ!」

 

「っ!」

 

「なっ!?」

 

翼とクリスの悲鳴が響き、エルシドとデジェルも驚愕する。

 

「ヒヒヒヒヒ・・・!!」

 

ドクターウェルは狂気と悪意に満ちた、狂ったような笑みを浮かべる。

 

「響・・・・・・!」

 

「・・・・・・えっ?・・・」

 

唖然とする響とレグルスの前に、響の腕を噛み千切る“ネフェリム”がいた。

 

『グルルル、グアッ!グルルル・・・』

 

グチャ、グチャ、グチャ・・・

 

美味しそうに響の腕を咀嚼する“ネフェリム”を見て、響は悟った、“自分の腕が喰われた”と!

 

「あ、あぁ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

「響イイイイイイイイイイイイイィィィィィ!!!」

 

響の悲鳴とレグルスと慟哭が月が照らす夜の世界に響いたーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ブチッ!!!)」

 

 

そして・・・獅子の中で・・・何かがキレた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、プッツンした獅子が外道に牙を剥く?

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