聖姫絶唱セイントシンフォギア   作:BREAKERZ

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プライベートが忙しくて短くなっちゃいました。


憧れの存在

そこは遥か彼方に、無限に広がる宇宙空間。フィーネはその星の光しかない永遠の星の海を漂っていた。

 

「(あぁ、この感覚・・・あの頃に何度も感じた、“小宇宙<コスモ>”の感覚・・・私はこの感覚に・・・“彼等”に“可能性”を感じた・・・)」

 

朦朧とする意識のフィーネに一つの大きな“光”が近づいた。

 

「ッ!!・・・貴様・・・」

 

フィーネはその光に敵意と殺気を籠めて睨んだ。“光”はフィーネの近くに止まる。

 

「フン、私を笑いにきたのか?“魂”だけの存在になってもなお」

 

“光”は何も答えない。だがフィーネは吐き捨てるようにその“光”に向かって侮蔑の言葉を吐く。

 

「貴様はいつもいつも“綺麗事”ばかり並べ、彼等を信じる等とほざいておきながら、肝心な事は自分一人で勝手にやろうとする。“崇高な自己犠牲”の積もりだろうが、私から言わせれば“身勝手な自己満足”だ。その結果が今の地上だ。今の地上は貴様の愚行で“バラルの呪詛”のみ残され人々は同じ過ちを何度も繰り広げていき、“あの御方”が創造された地上を汚している!」

 

何も答えない“光”にフィーネは言葉を続ける。

 

「私は良い。元々私が使えていたのは“あの御方”だ。貴様なんかに忠誠など持っていなかったのだからな。だが彼等を裏切った事は許せない。貴様を信じ、貴様を守るために戦ってきた彼等を裏切った事は断じて許せない!」

 

“光”はその輝きを少し曇らせる、まるで悲しんでいるかのように。

 

「私は貴様の“言葉”など信じない!貴様の“綺麗事”なんかを理解しようとも思わない!・・・・・・だが、“彼等”は信じてみようと思う。私に、人は人の身で人の限界を越えられる事ができると証明してくれた“彼等”なら、人の可能性を見せてくれた“彼等”なら信じるに値する」

 

フィーネはその“光”に背を向ける。

 

「忘れるな、私は貴様を信じる訳ではない、“彼等”を・・・聖闘士達を信じるのだ」

 

“光”はフィーネの言葉に満足そうに輝くと何処かに去っていった。だが、フィーネは“小宇宙<コスモ>”を感じた。

 

「!この“小宇宙<コスモ>”は、まさか?!彼は?!」

 

するとフィーネの目の前に宇宙が光に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れの世界。フィーネを瓦礫に寄りかかった姿勢で座らせたレグルス(マスクを解除し顔を露にしている)は射手座<サジタリアス>の黄金聖衣に向き合うと弓矢を構えた雄々しくも美しい人馬のオブジェに語りかける。

 

 

「・・・・・・シジフォス・・・」

 

するとなんと。オブジェから黄金聖衣を纏ったシジフォスの幻影が現れた。

 

《・・・・・・・・・・・・》

 

レグルスが大人になったような面影があり一見すると親子か兄弟と勘違いしそうな程にレグルスと良く似た顔立ちの精悍で偉丈夫な男性。シジフォスの幻影は何も答えずレグルスに微笑んでいた。

 

「シジフォス・・・?!」

 

「あれが射手座<サジタリアス>の黄金聖闘士?」

 

「レグルス君の叔父さん?」

 

「あぁそうだ。だが何故シジフォスが?」

 

「我等が纏う聖衣には、聖闘士の意識が宿る事がある。恐らく射手座<サジタリアス>に宿ったシジフォスの残留思念だろう」

 

シジフォスの幻影に驚く奏者達や弦十郎にアスミタが解説する。

シジフォスの幻影は微笑みを浮かべたまま消えていったすると射手座<サジタリアス>のオブジェは光輝き、聖衣レリーフの姿になった。翼とエルシドは聖衣レリーフに近づき。

 

「お帰り、シジフォス・・・」

 

やっと見つけた、やっと戻ってきてくれた戦友の形見を、翼は射手座<サジタリアス>の聖衣レリーフを抱き締め、涙を流しながら微笑んだ。エルシドも翼の肩に手を置いて微笑んだ。

奏者達や未来達と弦十郎達はアスミタと共にレグルスとフィーネを少し離れた所で見守る。デジェルは“デュランダル”の方に向かう。するとフィーネが目を覚ます。

 

「そうか、私は敗けたのか・・・所詮盗んだ聖衣で黄金聖闘士にはなれないと言うわけか」

 

「了子」

 

「まだ私をその名で呼ぶか獅子座<レオ>よ・・・私はフィーネだ」

 

「了子だろうがフィーネだろうが俺にとってはどっちでも良いさ。なぁ、どうして俺達<黄金聖闘士>と戦う事に拘ったんだ?黄金聖衣が欲しいなら幾らでも機会はあっただろう?」

 

フィーネはどこか自嘲気味に微笑みながら呟く。

 

「下らん理由だ・・・貴様らに拘ったのも、貴様らの黄金聖衣を手に入れようとしたのも、幼稚で下らん理由だ(聖闘士として目覚めたばかりの私は人間の限界を悟った気になり人間に失望していた。伝説の聖闘士でも所詮人間の“枠”から少し逸脱したに過ぎないとタカを括っていた。そう黄金聖闘士に出会うまでは)」

 

フィーネはどこか恍惚とした表情で眩しそうにレグルスをいや、黄金聖闘士を見つめる。フィーネにとって黄金聖闘士は“憧れの存在<ヒーロー>”だった。人の身でありながら人を越え“神の領域”にまで到達できる可能性を持った存在。自分は道具や策略・策謀でしか近づけなかった“境地”に人の身で到達できる事を証明した存在、それが黄金聖闘士だった。

だからこそフィーネは戦女神<アテナ>を許せなかった。以前クリスが『黄金聖闘士を倒す』と宣った時も腹が立った。戦女神<アテナ>は自分の“憧れ”を“裏切り”、“汚した”。クリスは自分の“憧れ”を“侮辱”したと感じたからだ。

 

「だが、所詮聖闘士の行いも無駄に終わった、何も変えられなかった。世界も、運命も、何も変えられなかったのだ」

 

「嫌フィーネよ。無駄と断ずるにはまだ早い」

 

「乙女座<ヴァルゴ>?」

 

「フィーネよ、君が聖闘士として生きた時代は冥王ハーデスによって滅ぼされた“絶望の時代”を変えようと“時を渡り過去へ向かった黄金聖闘士”がいただろう?」

 

「そうだが、それがどうし「アヴニール」!!??乙女座<ヴァルゴ>!貴様今なんと?!」

 

フィーネはアスミタが呟いた名前に驚愕の表情を浮かべた。未来がアスミタに聞く。

 

「あの、アスミタさん。“アヴニール”って誰なんですか?」

 

「我等が生きた時代の更に二百数十年前に起こった冥王ハーデスとの聖戦の最中、我等が教皇セージ様、教皇補佐であった祭壇座<アルター>の白銀聖闘士ハクレイ様が現役の聖闘士だった頃。突然“未来からやって来たと言う黄金聖闘士”が現れた。その聖闘士の名を“牡羊座<アリエス>のアヴニール”!」

 

「!」

 

フィーネはアスミタの出した名に目を見開く。

 

「アヴニールが・・・貴様らの生きた時代の過去に現れただと?」

 

「そうだ、アヴニールの生きた“絶望の未来”がこの世界の“過去”だったのだ」

 

「ど、どうゆうこと?」

 

響達が?と首を傾げる。アスミタが詳しく話す。

 

「“フィーネが聖闘士として生きた時代”にいた“牡羊座<アリエス>のアヴニール”は“絶望の時代”を変えようと時を渡り“過去へ向かった”。その過去が“シジフォスにエルシド、デジェルとレグルス、そして私が生きた時代”の“過去の時代”だったのだ」

 

「“俺達の生きた時代”と“響達の世界”は繋がっていたのか?」

 

「じゃあ“フィーネが生きた時代”にデジェル兄ぃ達の名前が存在しなかったのは」

 

「アヴニールが過去に現れた事により“歴史の流れ”が変わり、フィーネの時代と異なった歴史が生まれた。それが我等が生きた時代だ。この世界<シンフォギア世界>は我々の世界<LC世界>と“近くて遠い平行世界”だったのだ」

 

響達は驚いたがフィーネはそれ以上だった。だがフィーネの頬に涙が流れた。

 

「そうか・・・アヴニールの行いは無駄ではなかったのだな・・・」

 

それは“喜びの涙”であった。

 

「なぁ了子、お前も聖闘士だったんだよな?」

 

「あぁ」

 

「その時の名前、教えてくれないか?」

 

「何故知りたいのだ?」

 

「何て言うかさ。お前も当時の聖闘士と共に戦った“仲間”だからさ。俺、その名前を知りたいって思ったんだ。時代は違うけど“地上を守りたい”って想いを持って共に戦った“姉弟”の名前をさ」

 

「・・・・・・こんな私をまだ姉弟と言うのか・・・全くアヴニールといいお前といい・・・・スペラリ・・・蛇使い座の白銀聖闘士 オピュクスのスペラリ」

 

「“スペラリ”・・・“希望”か・・・」

 

「笑えるだろ?“破滅”の名を持つ私が“希望”の名を持つなど・・・」

 

「嫌、スペラリは俺に“戦う理由”と“生きる理由”を教えてくれた。俺を“希望”へと導いてくれた。感謝してるよスペラリ!」

 

レグルスの太陽のような笑顔をフィーネは眩しそうに見つめる。

 

「(あぁ、全く・・・敵わないな・・・)」

 

憑き物が取れたような顔でフィーネは微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで。

捕捉しますと。“スペラリ”はイタリア語で“希望”です。フィーネはイタリア語で“終わり”でしたので。

次回こそ無印編ラストまで持っていきたいです。

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