「・・・・・・・・・」
新たな聖衣、レジェンド聖衣を纏ったレグルスは無言に佇みフィーネを見据える。
「・・・・・・・・・」
フィーネもまた、響達奏者に見せていた余裕顔は完全に消えて目の前の“若獅子”を睨む。
『・・・・・・・・・』
エルシド達黄金聖闘士達や響達奏者、弦十郎達二課や未来達もこれから起こる戦いを緊張しながら見守る。
両者の無言の睨み合いが続くがふとレグルスが一瞬だけ瞬きをする。
「ッ!」
一瞬の瞬きの隙を逃さずフィーネがレグルスに四本の鞭を振り回す!
「・・・・・・・・・」
光の速さ光速に“近い速度”で繰り出される鞭をレグルスは紙一重に避ける、フィーネの鞭が地面に当たりその衝撃で大地が揺れ砂煙が舞い、何百何千何万もの攻防が繰り広げられていた。聖闘士達を除いた人々には光速の動き目がまるで追い付かず時間的に言えばまだ一分も経っていないのに体感時間は一時間以上は経ったと錯覚してしまっていた。
「緒川、戦闘が始まってから何分経った?」
「・・・まだ一分しか経っていません」
「全く、レグルス君もフィーネも人間の出せる速度ではないぞ」
聖闘士がいなければ人類最強とさえ言われる風鳴弦十郎でさえ、レグルスとフィーネの動きを目で追うことは出来なかった。不意にエルシドが呟く。
「やれやれ、やっとレグルス本来の動きに戻ってきたな」
『?』
エルシドの言葉に響達はえっ?となる。
「どうもこの世界に来てから動きに以前の“キレ”がないと思っていたのだが」
「レグルスは思いっきり身体を動かすタイプだ。これまでずっと雑魚<ノイズ>の相手ばかりしていてフラストレーションを貯めていたのだろう」
「そして今目の前には“本気で戦える相手”が現れたのだ。レグルスも闘志を燃やしている所だろう」
デジェルとアスミタの言葉に弦十郎達と弓美達の目に希望の色が浮かんだ。だが。
「(レグルス君、本当に強いんだ・・・あの人なら響の助けになってくれる・・・でも、私は響に対して何もできないのかな?)」
未来はどこか寂しそうに目を伏せていた。そして翼とクリスも。
「(“エルシドの背中は私が守る”か)」
「(“あたしとデジェル兄ぃのコンビは最強”か)」
「(何が“守る”だ)」
「(何が“最強”だ)」
翼とクリスは光速の戦いを繰り広げるレグルスとフィーネを見る。
「(私は・・・)」
「(あたしは・・・)」
「「(“あの場所”に全く届いていない!)」」
自分達とまるで次元の違う戦い、まるで届いていない遥か“高み”に立つ者達、それが黄金聖闘士。翼はエルシドを、クリスはデジェルを、自分達の目の前にいる黄金聖闘士の後ろ姿見る。
「(分かってはいた。いや分かっていた積もりになっていたんだ。遥か遠い“高み”にいる存在であることを)」
「(あたしとお兄ちゃんの間には、余りにも大きな差があるって、分かっていた積もりだったけどここまでなのかよ)」
思わず翼とクリスはエルシドとデジェルの背中に手を伸ばす。
「(そこにいるのに・・・)」
「(ちょっと手を伸ばせば届くのに・・・)」
「「(何で・・・こんなに遠くに感じるの?)」」
近くにいるのに余りにも遠い所にいる存在の相方達の背中を翼とクリスは悲しそうに見つめるのであったが。
「貰ったぞ!獅子座<レオ>!!」
「「!?」」
フィーネの叫びに現実に戻った二人が見ると。四本の鞭がレグルスの手足を縛り上げ動きを封じた!
「受けよ獅子座<レオ>!射手座<サジタリアス>の技を!無限の弓矢が貴様を貫く!『インフィニティ・ブレイク』!!」
無数の光の矢の形をした拳がレグルスを襲う!土煙が巻き起こりレグルスの姿を消すがフィーネは更に技を繰り出す!
「貫け稲妻!『アトミックサンダーボルト』!!」
今度は『インフィニティ・ブレイク』を一転集中させた稲妻の矢がレグルスに放つ。更に土煙が上がりレグルスの姿が完全に見えなくなっていた。
「レグルス君・・・」
『・・・・・・・・・』
響達が不安そうに見つめるなか一陣の風が吹き土煙を吹き飛ばすとそこには。
「・・・・・・・・・」
無傷のレグルスが佇んでいた。レグルスは自分の手足を縛り上げていた鞭を破壊する。
「バ・・・バカな・・・」
最強の黄金聖闘士の技を食らったにも関わらず悠然と佇むレグルスにフィーネは信じられないと云わんばかりに狼狽えた。
「フィーネ、お前の技はここまでか?それじゃ次のこっちの番だ!」
そう言うとレグルスの頭にマスクが展開されるとレグルスは一瞬でフィーネの目の前に近づく!
「ッ!!う、うわああああああぁぁぁぁ!!!」
突然現れたレグルスに驚きフィーネは拳を放とうとするがそれよりも早くレグルスが技を放つ!
「『電光放電<ライトニングプラズマ>』!!」
無数の閃光がフィーネを襲う!
「グワアアアアアアアアアアア!!!」
空かさず更に技を放つ!
「受けろ!百獣の牙!『電光雷撃<ライトニングボルト>』!!」
『ライトニングプラズマ』の一転集中の拳をフィーネに放つ!
「がああああああああああぁぁぁぁぁぁ!」
技の威力に吹き飛んだフィーネは顔面から地上に落下する。
「ガハッ!・・・こ、こんなことが・・・同じ黄金聖闘士の・・・力を持っているのに・・・何故ここまで・・・これがレジェンド聖衣を纏った黄金聖闘士の・・・力だと言うのか・・・!」
「違うなフィーネ」
起き上がろうとするフィーネにレグルスは言う。
「お前は“黄金聖闘士になった”のではない。“黄金聖闘士に近い力”を得たにすぎない」
「何・・・だと?」
「お前の技を間近で見て分かった。お前の放つ射手座<サジタリアス>の技は“偽物”だ!」
それを聞いた響達は首を傾げるがレグルスは続ける。
「技事態は本物の射手座<サジタリアス>の技だろうが、お前の放つ技には、“魂”が宿っていない!」
「た、“魂”だと?」
「良く目を凝らして見れば分かった。お前は射手座<サジタリアス>の聖衣を取り込みその聖衣に宿るエネルギーを利用し、自身が見てきた射手座<サジタリアス>の技を“猿真似している”に過ぎない!」
「くっ!」
フィーネは図星のように舌打ちをする。
「お前の放った技はこの地上の愛と平和と正義を守るために大いなる歴代の射手座<サジタリアス>の聖闘士達が生み出し、次代に受け継がれ、磨かれてきた技だ!お前に簡単に猿真似できる技じゃない!“劣化コピー”の技で俺達と戦い、勝てると思ったか?」
レグルスは“戦士の目”で告げる。
「黄金聖闘士をナメるな!」
フィーネは起き上がりながらブツブツと呟く。
「黙れ・・・黙れ・・・黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れぇぇぇぇぇぇッッ!!!!」
フィーネはその顔を憤怒に歪めながらレグルスを睨む。
「貴様に!貴様らに分かってたまるか!“高み”に立っている貴様に!“下から眺める事”しかできない者の苦しみが!!“手を伸ばす事”しかできない者の惨めが!!貴様に分かってたまるか!!!」
フィーネはレグルスに向かって構えを取り、フィーネの動きと連動して背中の翼が動く!それを見て奏者達フィーネが放つ技を察した!
「あの構えは!?」
「『ケイロンズライトインパルス』!?」
「レグルス君避けて!!」
先程アスミタに助けられたが直に見た奏者達から避けろと言われたがレグルスは構えを取る!
「・・・・・・・・・」
「真っ向勝負か!?だが!これは貴様の師にして叔父の最大の拳!貴様に打ち破れるはずがないわ!!!」
それでもレグルスは無言で構える。そして双方の技がぶつかる!
「『ケイロンズライトインパルス』!!」
「『電光放電<ライトニングプラズマ>』!!」
黄金の暴風と無数の閃光がぶつかる!両者の技は拮抗し、衝撃波が響達を襲うが。
「・・・・・・・・・」
アスミタが結界を張り被害を防いだ。そしてレグルスとフィーネは。
「ぐぐぐぐぐぐぐぐぐ!!!」
「・・・・・・ハアアアアアアアアアアアアア!!!」
拮抗していたのは最初の数秒間だけであとはレグルスの『ライトニングプラズマ』がフィーネの暴風を貫いた!
「な、何故だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!?」
レグルスの『ライトニングプラズマ』がフィーネの『ケイロンズライトインパルス』を打ち破った!
「ぐぐぐ・・・」
倒れたフィーネにレグルスは告げる。
「破滅の巫女フィーネ。俺達聖闘士は一対一の戦いの際、己の全感覚と全神経を研ぎ澄ませ、相手の一挙手一投足から放たれる技を見切ってしまう。一度見れば身体中の全細胞が相手の技を勝手に攻略してしまう。『ケイロンズライトインパルス』は俺の叔父でもあり師でもあるシジフォスの技、修行時代に何度も見せてくれた技だ。ましてや劣化コピーなんかに遅れを取りはしない。お前も一時期は88の星座の闘士の一角を担っていたのに忘れたか?」
レグルスは堂々と言う。
「聖闘士に同じ技は二度と通じない!!!」
その堂々とした“勇者の姿”に未来達や弦十郎達は圧倒されるが。奏者達主に響はレグルスの勇姿に羨望の眼差しを向けながら以前翼に言った言葉を思い出した。
《“最速で”!“最短で”!“真っ直ぐに”!“一直線に駆けつけたい”!》
自分が目指す。自分が望む力を持ったレグルスに見惚れていた響の心中に僅かな曇りが生まれる。
「(レグルス君はいっぱい持ってる・・・私の望む“力や強さ”・・・尊敬できる“お父さん”・・・私にはない“圧倒的な才能”・・・・・・良いな・・・どうしてレグルス君にはあって私にはないんだろう?)」
響の心に嫌、奏者達に本人達も気付かない僅かに生まれた、小さく本当に小さく生まれた“黒い感情”を“約一名”以外誰も気付かなかった。
フィーネはレグルスに叩きのめされてもなお立ち上がろうとする。レグルスも構える。
「(ここまでか・・・だが)獅子座<レオ>よ。これが最後の勝負だ!私が聖闘士として編み出した技で貴様を葬る!来い!!」
「応ッ!!」
フィーネは爪を立て、レグルスは手刀を構える!
「「・・・・・・・・・・・・」」
お互いに睨み合う二人。一同はそれを固唾を飲んで見守る。
「二人とも隙がねぇ・・・」
「勝負は一瞬で決まるな・・・」
「大丈夫、きっとレグルス君なら・・・」
頬に一筋の汗を流しながら未来達や弦十郎達と共に奏者達も見守る。
「「「・・・・・・・・・」」」
聖闘士達はレグルスの構えからレグルスの放つ技を悟る。
「獅子座<レオ>よ!思い知らせてやる!この私の想いの強さを!!教えてやる!人と人を結ぶ“絆”は“痛み”だと言うことをな!!」
「フィーネ。確かに“同じ痛みを知り痛みを分かち合える者達”には“絆”が生まれるだろう。だがお前の“痛み”で繋がる絆は一方的に与えているものだ。相手に“痛み”しか与えない“絆”はとてつもなく脆くて、憎しみの連鎖しか生み出さないんだ。その悲しい連鎖は、俺が断ち切る!!」
両者が突き進みぶつかる!
「これが私の技!『雷爪<サンダークロウ>』!!!」
「『獅子の大鎌<ライトニングクラウン>』!!!」
フィーネの爪とレグルスの手刀が交差するその時閃光が走った!!
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
『・・・・・・・・・』
レグルスとフィーネはお互いに背を向けていたがレグルスの腕から血が噴出する。
「ぐ、ぐあッ!!」
『レグルス(君)!!!』
レグルスは腕の“真央点”を突き出血を抑える。そしてフィーネは。
「ッ!!!」
身体に大きな切り傷のような光が走りフィーネの身体は仰向けに倒れようとする。が突如ネフシュタンの鎧が光輝き元の姿に戻り鎧から炎のような光が自分の頭上に登り一つとなる。
「(そうか・・・今の技<ライトニングクラウン>でネフシュタンと射手座<サジタリアス>の“繋がり”を絶ったのか・・・)」
そう、『獅子の大鎌<ライトニングクラウン>』は物理的ダメージを与えるだけではない。身体の中に流れる“力の流れ”を断ち切る技なのだ。
徐々に炎の塊はその形を整えその姿を現す!黄金の翼を持ち、猛々しく弓矢を構えた黄金の人馬へと!
「(あぁやはり、眩しいな・・・・・・)」
本来の姿に戻り自分の頭上に光輝く射手座<サジタリアス>の黄金聖衣に向けてフィーネは手を伸ばすがその手は虚しく空を切るのであった。
今回はここまでです!
今月中に無印編を終わらせたいですね。